その1・・・邂逅(ありがちなテレコミとの出会い)
5月の連休、暇を持て余していたぼくは何気なくネットサーフしていた、わけではなくある意思を持ってネットサーフしていた。
検索する文字列は「テレクラ」。それまでもメールでネットナンパみたいなことをやってはいたが、持久力も忍耐力もないぼくはテレクラに興味を持ち始めていた。
テレクラならすぐに食えるのではないか、何ヶ月も相手の気を引くための不毛な文字のやり取りをしなくてもいいのではないか。
そう思ったからだ。
最初に見たのはどのページだったか忘れたが、そこからリンクをたどっていろんなページを見た。
「テレコミ」とゆう言葉すら知らなかったぼくは、そのページに踊る期待通りの「即アポ、即ゲット!」「テレ特キープ」などの文字にモニタの前で股間を熱くしていた。どのTCに行けばいいのか。どう会話し、アポを取り、そしてゲットするのか。東京に知り合いの少ないぼくにはその手の話をする相手もいない。テレコマーの方々の生々しい記録の一文字一文字がぼくの先生だった。
人気テレビ番組が終わる夜10時50分過ぎがコール殺到時間帯であるという言葉を胸に、その日の夜、意を決して近くのTCに行った。
でも店に入れなかった。
ぼくが行った店はピンサロやヘルスの林立する場所にあり、店のある雑居ビルの前にも呼び込みの兄ちゃんが立っていた。ピンサロに行くならなんの抵抗もなく店のドアをくぐっただろう。初めてピンサロに行ったときも別に抵抗はなかった。でもテレクラは違った。何度となく店を遠巻きにしながら勇気を振り絞ろうとした。
「この腕時計の針が11のところを指したら入ろう」
「この煙草を吸い終わったら絶対入ろう」
自分に踏ん切りをつけるためにいろんな条件をつけ、そのたびに挫折を繰り返した。コンビニで何冊もの雑誌を立ち読みした。内容なんかどうでもいいし目にも入ってこない。ただ、今は立ち読みをしてるんだ、というテレクラに行く勇気のない自分を肯定するための作業に過ぎないのだ。
2時間近くそんなことを繰り返しただろうか、結局ぼくは家に帰った。
あほくさ、なにやってんねんおれは
そんな気持ちでいっぱいだった。
もうやめよう、気の迷いだった、そう自分に言い聞かせても目に飛び込んでくる、心を揺さぶる刺激的な体験談。
もやもやした気持ちにけりをつけたのは「伝言」だった。メッセージを入れ、ただ相手からの返事を待てばいい。
簡単じゃないか
一気にもやもやが吹き飛んだ。もう女の子をゲットしたような気分だった。
それからは存在すら知らなかった伝言の知識を得るためにHPを見まくった。IPの選択からサクラの存在、メッセージの内容まで必要なものはすべて仕入れ(たつもりになって)、準備は整った。
ダイアルを回す。
自宅の電話番号を登録するときに軽い抵抗を覚えたが、そんなものはテレクラのあの厚い壁に比べれば気持ちにブレーキをかけるほどのものではなかった。確認のコールバックを受けメッセージを仕込む。
「はじめまして、ぼくは都内に住む・・・・」
こうしてぼくはテレコミの世界に足を踏み入れた。