その2・・・ビギナーズラック(初面接の日)


ビギナーズラック。

今まで何回も見てきた。

競馬初体験の友達がクリーンヒットを連発する。彼女をパチンコに連れていったら、隣の台にカードを差し込もうとしておきながらサクッと確変を引く。だからぼくはその存在を信じていた。

初めてのメッセージを仕込みながら、ぼくの頭の中にはこの言葉がぼんやりと浮かんでいた。もちろん期待していた。

マニュアル通りのつまらないメッセージには3件レスがついていた。ネットで得た知識ではそのIPにはサクラがいないはずだったので

「ほらきた、チョロいもんやな。もう3人か」

今思えばばからしいが、そのときはまじめにそう思っていた。

ビギナーズラック。

ぼんやりと頭に浮かんだその言葉は、今やテレ特とホテルにいる自分の姿と言う形で確かなものになっていた。Dr.HALさんの伝言攻略法を熟読していた頭でっかちのぼくは、もちろんその3件のレスにいきなり携帯の番号を入れて返すという過ちは犯さなかった。

「折り返し携帯の番号を教えますので・・・」と入れた。

冷やかしや会う気のない人からのレスに無駄な労力とお金を使わないためだ。攻略法によればそのメッセージのレスにTEL番が入っていればゲットできる確率が高くなるはずだった。

果たして、3件とも再レスがあり、うち2件に携帯の番号が入っていた。

食える

また股間を熱くしながら2件のうち、声のかわいいほうの女の子にかけてみた。留守電だった。
少ししぼんだが、半立ち状態を保ちつつもう1件のハスキー声の女の子のほうにかけた。出た。風邪をひいてるらしかった。
そうか、だからこんなにハスキーなんだ。直ればきっとかわいいに違いない。
それから、その子の体調がよくなるまで毎日電話して3日目についに会う事になった。

ついにここまで来たんだ、長いようなあっという間の3日間だった。

前日はよく眠れず、そのせいかいくら直しても戻らない寝グセがついたが帽子をかぶればいいさ、と気にもしていなかった。
ツキを確かめるためにパチンコにも行った。初めて打つ台、2000円で確変を引いて30Kの儲けだった。

これもある意味ではビギナーズラック

そう思ったぼくはあと数時間後に迫った初面接の成功を確信した。
さらにパチンコの途中に、留守電だったかわいい声のほうの女の子からコールバックがあった。

なんとなく流れが自分にむいてると感じるときがあるが、今回はまさにそれだと思った。

なーんや、テレコミって簡単やん

完全に舞い上がっていた。

そして約束の時間、約束の場所に帽子をかぶったぼくがいた。彼女は32歳のOLだと言っていた。

来た。

牛ではない。

近づいてくる。

ガニ股だった。

少ししぼんだ。

張りつめているときには気づかなかった第1ち○ぽ汁にぬれたパンツの冷たさを感じた。

さらに近づいてきた。生まれてはじめて、女の子に上中下のランクをつける瞬間がやってきた。

彼女は下だった。

重そうにショルダーバッグを肩からかけ、そのせいでだらしなくはだけるえり首。疲れを感じさせる顔と髪型は、まるで

砂かけばばあだった

逃げよう。そう思ったが初面接のぼくにそんな勇気はない。

車に乗り込んでくる。

「よいしょっと。はぁ〜っ、疲れた」

これが彼女の第一声だった。

なんじゃこりゃ?今日の流れはいったいなんだったのだ。
ビギナーズラックはどこへ行ってしまったんだ。頭が真っ白になった。
うつろな目で車を走らせ、すぐそこのファミレスに入った。
とりあえず我慢して飯でも食えば開放されるだろうと無意識に思ったのだろう。

甘かった。先制パンチを食らった。

「五反田君、今日これから時間あるって言ってたよね」うれしそうに彼女が言った。

テレ特とホテルで過ごす時間はあったが、砂かけばばあと砂遊びしてる時間などないと言ってやりたかった。
口実をつけて帰ろうかという自分の気持ちになんとかブレーキをかけているのは
「食いたい」気持ちのみだった。
魅力を感じたわけではない。この世界には「やりぐせ」というのがあると知識として知っていたからだ。
こんな女でも食っとけばいいことがあるかもしれない。なんでも経験だ。これだけがぼくの支えだった。

砂をかむような会話が続き、いつのまにか流れは変な方向へと進んでいった。

 

 

「わたし、前の会社やめて今××の仕事してるんだ」

「やればやるほど自分の収入になるんだよ」

「オフィスは○○にあって、ここからだと結構近くなんだ」

 

 

もうこの女と話を続ける理由はなにもなくなった。

そのときだった。砂かけばばあの携帯が鳴った。

電話してる彼女に向かって、ぼくはようやくこのセリフを言えることができた。

「帰ります」

家で帽子を取ると、寝グセが直っていた。あの後ろ髪は砂かけばばあの妖気に反応していたのだろうか。


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