(4)ねじれ振動 −剛性率の測定−
実験目的
上端を固定した針金に円環をつるし、ねじりを与えると、円環は“ねじり振動”(回転運動)を行なう。この振動の復元力は針金のねじれ変形にともなう力のモーメントで、その大きさは針金の剛性率に比例する。したがって、“ねじり振動”の周期を測定することによって剛性率を間接的に測定することを目的とする。
実験方法
(1)円環を
(a)図のようにきちんと乗せて、横揺れを止めて静止させる。
(2)円環をわずか
(30°以下)にねじって“ねじり振動”を与える。この時横揺れを起こしてはならない。
(3)望遠鏡を通して円環の中央
(目印をつけておく)をとらえ、5周期ごとに鉛筆で机をたたいて計時者に合図を送る。
(4)計時者はストップウォッチなどで
1/10秒以上の精度まで読み記録する。この時、
55周期まで連続してはかり、途中でストップウォッチを止めてはならない
(積算計時を行う)。(5)次に、円環を
(b)図のようにつるして(2)〜(4)の要領で測定する。
(6)
(1)〜(5)の要領でもう一本の針金について測定する。(黄色の針金は真ちゅう、灰色の針金は鋼鉄
)(7)円環の内径、外形、厚さ、質量そして針金の長さ、太さ
(外形
)をノギス、マイクロメーター、長尺、台計りなどで測定する。
※注意 針金を折り曲げたり円環を足の上に落としたりしないように注意する。
実験結果と課題
・剛性率とは
図1に示すように接線応力
(1)
と表すことができる。この比例定数Gを剛性率(または、ずれ弾性率)といい、これはそれぞれの物質に固有な量である。
(2)
である。
・ねじれ振子の周期と剛性率の関係
長さl,直径a,剛性率Gの針金をθだけねじるときの力のモーメントLを計算する。
図2の
(a)のように針金の内部に半径r,厚さdrの円筒管を考え、θだけねじることによって生じる仮想の線の傾きをφとすれば、 (3)
が歪み
(strain)である。いま、図2の
(b)のように円筒管を展開すれば、底面に平行なせん断応力は(2)式より (4)
であるから、
(1)式の剛性率Gの定義から、 (5)
となり、底面に働く力は、
(6)
となり、円筒管に作用する力のモーメントは、
(7)
と表される。直径aの針金に作用する力のモーメントは、
(8)
ここで、kは、
次に、この針金の下端に慣性モーメントIの剛体を吊して、ねじれ振動をさせると、運動は針金を固定軸とする回転運動なので、針金のねじれ変形による力のモーメントをNとすれば、その運動方程式は、
(9)
で表される単振動となる。したがって、このねじれ運動の周期Tは、
(10)
となり、
(10)式より剛性率Gは、 (11)
と求めることができる。
・実験の場合の慣性モーメント周期の関係
(11)式より剛性率Gを求めるには、針金の直径aの、周期T、慣性モーメントIを測定しなければならない。しかし、実際には、Iの評価をすることが困難であるため、以下のようにして式を導く。
図1のような円環Rは質量M,厚さd,内径b,外径cの同心円筒である。それを針金の先で吊した金具Hよりなるねじれ振子として用いる。Hの慣性モーメントをI0とし、円環Rを
(a)のように水平に吊したときのRの慣性モーメントをI1、(b)のように鉛直に吊したときの慣性モーメントをI2とする。(a)の場合のねじれ振動の周期
(12)
(b)の場合の周期
(13)
である。この2式より、I0を消去すると、求める剛性率Gは、
(14)
を得る。I1
,I2は、
である。したがって、
(16)
で剛性率を求めることができる。
・実験器具の測定値
円環の寸法 |
外径c [mm] |
内径b [mm] |
厚さd [mm] |
質量M [g] |
1回目 |
189.00 |
130.50 |
32.00 |
3530 |
2回目 |
189.50 |
130.00 |
32.00 |
3520 |
3回目 |
189.50 |
130.00 |
32.00 |
3540 |
4回目 |
189.50 |
130.50 |
32.00 |
3530 |
平均値 |
189.38 |
130.25 |
32.00 |
3530 |
真ちゅう |
長さl [mm] |
太さa [mm] |
鋼鉄 |
長さl [mm] |
太さa [mm] |
|
1 回目 |
822.0 |
0.95 |
1 回目 |
810.0 |
1.20 |
|
2 回目 |
820.0 |
1.00 |
2 回目 |
811.0 |
1.25 |
|
3 回目 |
819.0 |
1.00 |
3 回目 |
810.0 |
1.20 |
|
4 回目 |
819.0 |
0.95 |
4 回目 |
810.0 |
1.20 |
|
5 回目 |
820.0 |
0.95 |
5 回目 |
809.0 |
1.25 |
|
平均値 |
820.0 |
0.97 |
平均値 |
810.6 |
1.22 |
・各針金における周期の計算
・真ちゅう
(a)の場合
回数 |
時間@ |
回数 |
時間A |
A−@ |
0 |
0 分00秒00 |
30 |
5 分25秒85 |
325.85 |
5 |
49 秒16 |
35 |
6 分31秒94 |
342.78 |
10 |
1 分44秒38 |
40 |
7 分27秒22 |
342.84 |
15 |
2 分39秒51 |
45 |
8 分22秒94 |
343.43 |
20 |
3 分35秒19 |
50 |
9 分17秒73 |
342.54 |
25 |
4 分30秒35 |
55 |
10 分13秒32 |
342.97 |
周期平均 |
340.068 |
|||
Tの平均 |
11.336 |
・真ちゅう
(b)の場合
回数 |
時間@ |
回数 |
時間A |
A−@ |
0 |
0 分00秒00 |
30 |
7 分34秒84 |
454.84 |
5 |
1 分15秒69 |
35 |
8 分51秒28 |
455.59 |
10 |
2 分32秒06 |
40 |
10 分07秒06 |
455.00 |
15 |
3 分47秒48 |
45 |
11 分22秒06 |
454.58 |
20 |
5 分03秒97 |
50 |
12 分37秒44 |
453.47 |
25 |
6 分19秒28 |
55 |
13 分54秒09 |
454.81 |
周期平均 |
454.715 |
|||
Tの平均 |
15.157 |
・鋼鉄
(a)の場合
回数 |
時間@ |
回数 |
時間A |
A−@ |
0 |
0 分00秒00 |
30 |
2 分29秒48 |
149.48 |
5 |
22 秒42 |
35 |
2 分54秒80 |
152.38 |
10 |
47 秒67 |
40 |
3 分20秒09 |
152.42 |
15 |
1 分12秒95 |
45 |
3 分45秒26 |
152.31 |
20 |
1 分38秒73 |
50 |
4 分10秒58 |
151.85 |
25 |
2 分04秒09 |
55 |
4 分36秒01 |
151.92 |
周期平均 |
151.727 |
|||
Tの平均 |
5.058 |
・鋼鉄
(b)の場合
回数 |
時間@ |
回数 |
時間A |
A−@ |
0 |
0 分00秒00 |
30 |
3 分28秒71 |
208.71 |
5 |
35 秒68 |
35 |
4 分03秒52 |
207.84 |
10 |
1 分10秒42 |
40 |
4 分38秒07 |
207.65 |
15 |
1 分44秒86 |
45 |
5 分12秒55 |
207.69 |
20 |
2 分19秒52 |
50 |
5 分47秒24 |
207.72 |
25 |
2 分54秒24 |
55 |
6 分21秒90 |
207.66 |
周期平均 |
207.878 |
|||
Tの平均 |
6.929 |
・剛性率の計算
各測定値を
(16)式に代入し剛性率G[・真ちゅうの剛性率
・鋼鉄の剛性率
・実験による剛性率と文献値との比較・考察
計算値と文献値をまとめると以下のようになる。
表:剛性率の
真ちゅう |
鋼鉄 |
|
文献値 |
32 〜40 [GPa] |
82 〜85 [GPa] |
計算値 |
41.78 [GPa] |
74.49 [GPa] |
真ちゅうは文献値の範囲におさまっているが、鋼鉄は文献値をかなり下回ってしまった。計算結果から考察するなら、鋼鉄の文献値を調べる際に、鉄として調べてしまうとするなら、『軟鋼』
,『硬鋼』,『鋳鉄』などの種類のそれぞれに剛性率は計算されていて、今回の実験結果から求められた値は柔らかい鉄に部類される鉄の仲間ではないかと考察する。
感想と考察