電子顕微鏡による像観察および電子線回折実験
A.電子顕微鏡による像観察
1.目的
金属の組織をレプリカ法によって観察し、光学顕微鏡法との相違を理解すると同時に微細組織の観察をする。
2.電子顕微鏡の概念
電子顕微鏡ではほとんど光学顕微鏡と同様な原理で像が形成される。図1に光学顕微鏡と電子顕微鏡の結像の仕方を示している。
光学顕微鏡の解像力は、対物レンズの『開口数』と使用する光線の『波長』によることがわかっている。そして、分解能の限界は100[mμ]程度である。倍率で表すと400倍前後が最も広く使用され、小油浸レンズを使用してもせいぜい1500倍程度であり、高倍率になればなるほど焦点深度が浅くなる為に試料にはより強く平滑さが要求される。
一方、電子線の波長は次式で与えられる。
λ:波長,h:プランクの定数,m:電子の質量
v:電子の速度,E:加速電圧
今、仮にとすれば、
となり、電子線の波長は可視光線の
程度となる。
分解能は、波長に依存する度合いが非常に大きいことから電子顕微鏡が優れていることがわかる。
また電子顕微鏡の焦点深度も大きい。
3.レプリカ作成法
透過型電子顕微鏡は、試料を電子線が透過し対物レンズ,中間レンズ,投射レンズの順に透過して最後に結像させるために、試料を薄片にするか組織を無構造の極めて薄い膜に転写する必要がある。
今回の実験では後者の方法『レプリカ法』による像観察を行った。
(1)第1段のレプリカの作成
Bioden filmを試料面より一回り大きく切る。これを溶剤(酢酸メチル)中に全体をちょっとの間だけ浸し、手早く試料面に張り付ける。
このとき、空気砲を入れないように注意し、試料表面の汚れを除去するためにブランクレプリカを約3回ぐらい作成する。(十分に乾燥させてから、剥離を静かに行う。それを数回繰り返す。)
(2)真空蒸着処理
試料面から剥離させた第1段のレプリカフィルムは丸まりやすいので2枚の清浄なガラス板に挟みクリップで留めて70℃の空気浴中に30分入れる。
つぎに、レプリカ面を上向きにしてガラス板上に置き周囲をセロハンテープで貼り付けて真空蒸着を施す。シャドーイング用の白金線約20mmをタングステン線に巻き約30°の方向に上記レプリカフィルムを置く。また、炭素電極は一方の先端約5mm長さをφ2mm程度に細くしてカーボン粒子が均一に蒸着するようにセットする。
セットが完了したならばロータリーポンプを作動させて蒸着室内をTorr程度に減圧したのちシャドーイングとカーボン蒸着を行う。
(3)保護膜被覆処理
真空蒸着処理がすんだ後、レプリカフィルムの蒸着膜の上に針の先で軽く2〜3mm角くらいの碁盤目上の傷を付け、レプリカフィルムを適当な大きさに切り取る。別に用意したスライドガラスの小片を加熱し、保護膜となるパラフィンを薄く溶融塗布しこれにフィルムの蒸着面の側を張り付ける。(保護膜の適当な厚さ:0.1〜0.3mm)
(4)第1段のレプリカフィルムの溶融除去処理
保護膜被覆処理のすんだレプリカフィルムはガラス板にはりつけたまま溶剤中に浸漬する。溶剤は酢酸メチルまたは酢酸メチル:メチルアルコール=1:1のものを使用し、容器は秤量瓶を使用する。
まず、室温の溶剤中に約5分間浸漬したのち予め50℃に調節してある空気浴中に容器ごと入れ加温しパラフィンを溶解してしまう。
注意:急激に加熱しないこと。目安としては50℃の空気浴に入れてから20〜25分で40℃を超すようにすること。
(5)第2段の蒸着膜レプリカのメッシュ上への固定
溶解が終わったあと下記の段階で洗浄処理を行う。
@アセトン 100%
Aアセトン 60%、水 40%
Bアセトン 20%、水 80%
C水 100%
たいらに伸ばされた蒸着膜は水面上に浮く。
次に、メッシュをピンセットで挟み注意しながらメッシュ中央に試料(蒸着膜)をすくう。
4.実験方法
(1)試料:炭素含有量0.5,0.4%炭素鋼
(2)蒸着膜の作製:上記レプリカ作製法にしたがって蒸着膜を作製する。
(3)試料の装入:メッシュにすくった試料はメッシュごと試料ホルダーに装入したのち試料室に装
入する。高真空が得られたのち試料ホルダーを電子線通路に入れる。
(4)像観察の主な手順
@エミッション電流OFFを確かめ加速電圧をOFF→60kV→80kV→100kVの順に上げる。
Aエミッション電流を所定のところまで上げる。
B倍率をLow Magにしておく。
Cコンデンサーつまみを廻してメッシュ像を蛍光板に写し出す。
D観察しようとする部分を蛍光板の中央に持ってきたのちに適当な倍率にする。
E軸合わせをしたのちピントを合わせ希望する倍率で像を観察する。
場合によっては写真撮影をする。
(4)試料交換
@エミッション電流をOFFにする。
A試料ホルダーを電子線通路より取り出し、所定の試料室に入れる。
B別の試料を電子線通路に入れる。
C前と同様の手順で像観察を行う。
5.課題
1.可視光線について
可視光線とは、目に見える電磁波のことである。波長は0.39〜0.75μmの範囲で、波長が短くなるにつれて、赤から紫までの連続した色と知覚される。
さらに、可視光線の範囲のすべての光が混じったものは人間には見えない光として感じるので白色光と呼ばれる。可視光線より波長が長いものは『電波』(10q〜0.1o),『赤外線』(0.1o〜700nm)である。それに対して短いものは『紫外線』(380〜0.1nm),『X線』(0.1〜0.001nm),『ガンマ線』(0.001nm未満)である。なお、電子線の波長は可視光線の10万分の1位である。
2.電子顕微鏡と光学顕微鏡の仕組みと相違点について
2つの顕微鏡の光学系は図1に示したように変わらない。しかし、光学顕微鏡は、光源であるタングステンランプを発光させ、その白色光を利用する。これに対し電子顕微鏡は、フィラメントに数アンペアの電流を流し、陽極との間に10万ボルト程度の高電圧を印加し電子線を発生させ、これをグリッドである程度収束させて利用する。
光学顕微鏡はガラスレンズを使用するため観察倍率の変更時にはレンズを交換し試料とレンズの距離を変更して焦点を合わす。これに対し電子顕微鏡は、電磁レンズを使用し、コイルに流す電流の大きさで焦点距離を調節できるので倍率の変更は容易である。電子顕微鏡は電子線を利用するため、顕微鏡内が高真空状態でなければならない。このため試料は真空の試料室に入れられて観察される。このことから、生物の観察は光学顕微鏡で行われる。光学顕微鏡は、色の違いによる光吸収の差異でその像を観察する。無色の結晶の場合でも結晶の周辺部や厚さの異なる境界線で、光の反射や散乱が起こりその部分が暗く見えて外形や凹凸を観察することができる。電子顕微鏡は電子線の透過能がきわめて小さいので試料にあたった電子線は吸収や散乱させられてしまいその部分が黒く映る。したがって、平面的な外形ははっきりするがその厚さは見当がつかない。
3.解像力・分解能について
解像力とは、レンズなどが物の形を細部までとらえて写し出し再現する能力のことをいう。
ある程度離れた2つの点を2点と見分けられる2点間の最小距離のことをいう。
分解能においてもっとも重要なのは対物レンズである。なぜなら投射レンズがいくら良い物でもこのレンズの働きは対物レンズで作られた像を拡大するからである。そのため、対物レンズで作られた像以上に新しい映像は得られない。
分解能はレンズの開き角によって決まり、開き角が大きくなると、レンズ中央部と周辺部を通る電子線の像が一致しなくなり分解能が悪くなる(球面収差)。開き角が小さくなると、点光源の像が点でなくある大きさを持つぼけ(エアリー円)ができて分解能が悪くなる(回折収差)。そのため、この2つの収差の組み合わせを最小にする開き角を選ばなければならない。
4.レンズの焦点距離、焦点深度について説明せよ
焦点距離とは、点光源からでた光が、凸レンズを通って屈折し再び同一軸上の一点に集まるとき、点光源からレンズまでの距離、または、レンズと光が再び集まる点までの距離のことである。
焦点深度とは、試料表面に凹凸があるとき、それらが同じようにはっきり見える深さの限界のことである。焦点深度には、幾何光学的なものと物理光学的なものがあって、幾何光学的なものは、物点がレンズ系によって幾何光学的に結像するとき、正しいピント位置の前後に像として見分け得る距離範囲が生ずることによるものである。物理光学的な物は、像面の乱れがそう大きくならない限界の物体位置の移動を考えるものである。
5.対物レンズの開口数について説明せよ
分解し得る2つの点光源の極限の間隔として
λ:波長,n:屈折率,α:レンズの開き角
が得られたときのを開口数といい、分解能を決める重要な要素の一つである。
6.レプリカ用フィルムに求められる条件
6.実験結果
今回の実験で得られた顕微鏡写真を見るかぎり、左上の薄く層状になっている部分はパーライトであると考えられる。しかし、写真の全体を占める粘度の高い物質をガラス板でつぶしたような物は何であろうか。これは、フィルムが完全に乾ききっていないまま剥がした為に生じた物であると思う。
7.感想
今回の実験で今まで悩んでいたことが解決した。それは、電子顕微鏡室に入ってさらには電子顕微鏡を使って金属の表面までも観察した。光学顕微鏡を持っていたせいもあるが、いろいろな物を拡大して見てきた。その中でも、始めて顕微鏡を覗いた時と同じような感じがした。
実際に電子顕微鏡に触れたわけではないが、試料を観察してみてとてもきれいな像が見えると思った。さらに、倍率を上げていってもはっきりと見えた。これはとても感動的だった。
観察試料を作る際もいろいろな手順があることを本などで知った。
もし今度機会があるなら自分で顕微鏡を操作してみたいと思った。