・基礎電子工学実験W(交流回路)

 

1.実験目的

(1)交流回路の基本的用語,法則等を学ぶ。

(2)交流回路の設計とその各種電気量(電圧,電流,インピーダンス,位相など)の算出と計測手法を習得する。

 

 

2.実験装置

ブレッドボード,ジャンパー線,ワニ口クリップ,テスタ(アナログ&デジタル),交流電源,2現象オシロスコープ,抵抗(金属被膜抵抗),コイル

 

 

3.実験

・コイル

 図1のように、導体を筒状に巻いたものをコイルまたはインダクタンスという。このようなコイルに直流電流を流すと磁気を帯びて、弱い磁石になる。磁気が影響している空間を磁界といい、磁力線を用いて表している。したがって、磁力線は磁界の方向,強さなどを表している。そして、この磁力線の束を磁束と呼ぶ。磁束の記号はΦで表し、単位は[Wb]である。

 コイルが1回巻きのときに生じる磁束をφ[Wb]とするとき、N回巻きのコイルに生じる磁束Φ[Wb]は次式で表される。

          (1)

 また、コイルに電流I[A]を流したとき、コイルに生じる磁束Φ[Wb]は次式で表される。

          (2)

 ここで、Lをコイルのインダクタンスといい、単位は[H]である。コイルに1[A]の電流を流したとき、コイルに生じる磁束が1[Wb]であるとき、インダクタンスの大きさは1[H]である。

 ここで、(1),(2)式より次式が得られる。

          (3)

 コイルに直流電源を加えると、電流は瞬時に一定値を示し、コイル端子間の電圧は、はじめ電源電圧を示すが、その後瞬間的に0[V]となる。したがって、コイルは直流電流が流れていてもコイルの端子間には電圧は生じない。しかし、電流が変化するとその変化の割合に比例した電圧が発生するという性質を有している。

 コイルに交流電流を流すと、コイル端子間には電圧を生じる。この電圧は、コイルの電流を妨げようとしうる性質を持っている。これを誘導リアクタンスといい記号X,単位[Ω]で表す。

 誘導リアクタンス[Ω]と周波数f[Hz]およびインダクタンスL[H]には次式が成り立っている。

          (4)

 また、電圧V,電流Iとの間にオームの法則が成り立つことから次式が得られる。

          (5)

さらに、コイルに交流電圧を加えたとき、流れる電流の位相は電圧の位相よりπ/2[rad]だけ遅れる。

 複素数で表すと以下のようになる。

  誘導リアクタンス:[Ω]     (6)

   (a)電圧を基準:[V]     (7)

           [A]     (8)

   (b)電流を基準:[V]     (9)

           [A]     (10)

                (11)

 コンデンサのときと同様に、三角関数および指数関数による表し方もある。

 

・コイルのみの交流回路実験

 以下の手順でコンデンサのみの交流回路実験を行う。

  1. 図1に示す回路を組む。なお、L=100, 50, 22, 10[mH], R=150[Ω]とする。
  2. 理論値を求め、表1を完成させる。

図1 コイルのみの交流回路

 

表1 理論値および測定値

実験条件

理論値

実験値

L[mH]

f[kHz]

[V]

[V]

[mA]

[kΩ]

[V]

[mA]

[kΩ]

100

3.0

5.0

0.40

2.66

1.88

0.40

2.67

1.88

100

6.0

5.0

0.20

1.33

3.77

0.20

1.33

3.75

100

9.0

5.0

0.13

0.88

5.65

0.12

0.80

6.25

100

12.0

5.0

0.10

0.66

7.54

0.09

0.60

8.33

100

3.0

3.0

0.24

1.60

1.88

0.28

1.87

1.61

100

3.0

1.0

0.08

0.53

1.88

0.08

0.53

1.88

50

3.0

3.0

0.48

3.19

0.94

0.48

3.20

0.94

22

3.0

3.0

1.10

7.32

0.41

1.00

6.67

0.45

 

  1. ファンクションジェネレータを所定の周波数fに設定し、コンデンサの電圧Vが所定の電圧になるように調整する。このとき、測定誤差を小さくするため、電圧の測定機の内部抵抗が誘導リアクタンスXよりも十分大きくする必要がある。したがって、測定レンジは大きくする。
  2. 抵抗Rの両端電圧Vを測定する。
  3. 電圧Vと抵抗Rより電流を算出する。
  4. オームの法則より誘導リアクタンスXを算出する。
  5. (3)〜(6)を繰り返し、表1を完成させる。
  6. 以下に示す関係の理論値および測定値のグラフを描く。(別紙参照)

    (@)L=100[mH]におけるX(縦軸)とf(横軸)の関係

    (A)f=3.0[kHz]におけるX(縦軸)とL(横軸)の関係

(9)実験の考察

 (@)において、Xとfの関係は、周波数の増加にともない、誘導リアクタンスXは増加することがグラフより読み取ることができる。そして、理論値の関係は(4)式からも、このことがいえるように、比例関係であるといえる。

 また、グラフより実験値と理論値の傾きがほぼ同じように見ることが出来る。しかし、周波数の増加にともない、実験値と理論値の違いが生じているが、実験結果として良い結果であると考える。そして、誤差が生じた原因として、測定値の読み違いや、回路素子や抵抗などの実際の値が規格の値との微妙な誤差によるものと考える。

 (A)において、XとLの関係についても上記と同じことがいえると考えられる。

 

・RL直列回路

 抵抗RとコイルLを直列に接続した回路(RL直列回路)は図1に等しい。

 RL直列回路においてもRC直列回路と同様に、Lでの電圧Vと電流Iには位相差があるため、抵抗のみで構成された直列回路のように演算することはできない。

 したがって、ベクトルを用いた式や図を用いて次のように解析をする。

 

(a)理論解析

 図1に示すRL直列回路において、交流電流I=I∠0[A]が流れているとき抵抗R(AB間)の電圧は次式で表される。

          (12)

 電圧[V]は電流Iと同位相であるからベクトル式で表すと

          (13)

 コイルL(BC間)の電圧[V]は、誘導リアクタンスXとすると次式で表される。

          (14)

 電圧Vは電流Iより位相がπ/2[rad]だけ進むことから、ベクトルの式は次式で表される。

          (14)

 したがって、回路(AC間)の電圧Vは以下のベクトルの式で求められる。

          (15)

 (8)式より電圧V[V]の大きさは次式で表される。

          (16)

 ここで、Z[Ω]はRL直列回路におけるインピーダンスといい次式で表される。

          (17)

 位相角φは次式となる。

     [rad]     (18)

 

(b)実験

 RL直列回路におけるインピーダンスZ[Ω],位相角φ[rad]等の理論値を求め、実験により検証するために以下の手順で実験を行う。

図2 RL直列回路

  1. 図2に示すRL直列回路を組む。
  2. ここで、L=100, 50, 22, 10[μF], R=R=1, 0.5[kΩ]とする。

  3. 理論値を求め表2に記入する。
  4. ファンクションジェネレータの周波数を設定値に合わせる。
  5. 抵抗Rの両端に生じる電圧Vを設定値に合わせるため,ファンクションジェネレータの出力を調整する。
  6. コイルの端子間電圧Vを測定する。
  7. 回路全体(AD間)の電圧Vを測定する。
  8. 回路を流れる電流Iを算出する。
  9. 誘導リアクタンスXを算出する。
  10. インピーダンスZを算出する。
  11. 位相角φ([rad]値&[deg]値)を求める。
  12. 全ての設定に対し(4)〜(10)を行い表2を完成させる。
  13. RL直列回路における波形の観察を行い、理論値および測定値の検証を行う。
  14. 実験の考察

 回路の波形観察の結果、電流がコンデンサやコイルを通過すると、電流と電圧に位相差が生じることが確認できた。そして、その位相差は、理論値の計算結果をもとに考えると、No.1の実験では約π/4[rad]であると思われ、実際に波形観察や実測値による計算をしてみると、ほぼ確かであることが確認できた。このことで、コンデンサとコイルは全く逆の性質をもつ回路素子であることがわかる。

 また、理論値と測定値を比較してみると、ほぼ一致しているといえる。これも、誤差が生じた原因として、測定値の読み違いや、回路素子や抵抗などの実際の値が規格の値との微妙な誤差によるものと考える。

 

表2 RL直列回路の理論値および測定値

 

電気量

No.1

No.2

No.3

No.4

設定値

R[kΩ]

1.0

1.0

1.0

1.0

L[mH]

100

100

100

50

f[kHz]

1.59

2.76

3.41

3.18

[V]

2

2

2

2

理論値

I[mA]

2.00

2.00

2.00

2.00

[V]

2.00

3.47

4.29

2.00

V[V]

2.83

4.00

4.73

2.83

[kΩ]

1.00

1.73

2.14

1.00

Z[kΩ]

1.41

2.00

2.36

1.41

φ[rad]

[deg]

0.785

45.0

1.047

60.0

1.134

65.0

0.785

45.0

実験値

I[mA]

2.00

2.00

2.00

2.00

[V]

2.0

3.6

4.4

2.1

V[V]

3.0

4.2

5.0

3.0

[kΩ]

1.00

1.80

2.20

1.05

Z[kΩ]

1.41

2.06

2.42

1.45

φ[rad]

[deg]

0.785

45.0

1.063

60.9

1.145

65.6

0.810

46.4

 

・課題(実験書 P15,前回の続きで奇数問題)

(13)インダクタンスL=50[mH]のコイルに直流電流I=10[mA]を流したとき、コイルに生じる磁束Фを求める。

 

  1. 32[mH]のインダクタンスコイルに、5[kHz]10[V]の交流電圧を加えたとき流れる電流の大きさを求める。

 

(17)周波数f=12[kHz],電圧V=16[V]の交流電源にコイルを接続して電流I=3[mA]を流すにはコイルのインダクタンスをいくらにすればよいか求める。

 

 

(19)抵抗R=4[Ω],誘導リアクタンスX=3[Ω]の直列回路に5[A]の電流が流れているとき、複素数の式を用いて電圧の大きさVおよび位相φを求める。

 

  1. 抵抗R=1[kΩ],インダクタンスL=72[mH]の直列回路において、電流が60[deg]遅れているときの角速度ω[rad/s]を求める。

 

4.考察

 4回行った電子工学実験を通じて、交・直流回路における基本的な事柄を学んだ。そして、各種回路素子の特性を実験によって実際に得られ、そのときにおける誤差の要因に関して各実験において考察を行った。

 しかし、どんなに注意をはらっても、実験値と理論値とが一致するためには、もっと別な何か手段を考えなければならない。

 

 

5.感想

 4回の実験を通して、電気電子(略して電々)の授業で習ったことがやっと役に立った。そして、電気電子の授業で理解できなかった先生の言っていたこともやっとわかるようになった。どんぶり勘定をしそうになる自分に驚いてしまった。

 でも、授業やテストだけの勉強ではなく、実際に実験をやってみてわかることの多いことや、本当に自分の役に立つことが多いことに実験を終えてあらためて考え深いものを感じる。

 

 

(19)抵抗R=4[Ω],誘導リアクタンスX=3[Ω]の直列回路に5[A]の電流が流れているとき、複素数の式を用いて電圧の大きさVおよび位相φを求める。

 

 

(19)抵抗R=4[Ω],誘導リアクタンスX=3[Ω]の直列回路に5[A]の電流が流れているとき、複素数の式を用いて電圧の大きさVおよび位相φを求める。