Music Diary

Juniekの音楽ノート


Juniek's Music Diary

聴いたり演奏したりした音楽の感想を書き綴っていくことにします。御意見、御感想をお待ちしています。

目次(抄)

Robert Gass- 心地よい合唱の新境地  メリー・ウィドウとチャールダーシュの女王  マーラーの千人の交響曲  加羽沢美濃 Piano Pureフォーク編  ボルドーオペラの椿姫  ベートーヴェンの合唱幻想曲  美人姉妹のコンサート  ブリテンの春の交響曲  カルミナブラーナ  レナード・スラトキン  ブラームス雑感  プーランクのグローリア  二人の古楽の巨匠との出会い  バッハのシュメルリ歌曲集  古関裕而歌曲集  ショルティの「ヘンゼルとグレーテル」  サヴァリッシュのブラームス  ヴェルディのレクイエム

だんご三兄弟

 美人に弱いとよく冷やかされる私ですが、実はソプラノの茂森あゆみさんの隠れ(?)ファンです。え?ご存知ない?NHK「おかあさんと一緒」の歌のお姉さんです(笑)過去の歌のお姉さんには、二期会のプリマドンナ、斉藤昌子さんなどもおられましたが、茂森さんも声楽の専門教育を受けた方で、発声、音程ともに素晴らしく、安心して聴いていられます。歌のお兄さんは名前も知りません。悪しからず(笑)。

 お正月にTVをつけたらこの番組で歌のお姉さんとお兄さんがデュエットしていたのがこの曲。初めて聴いたときから、この曲の親しみやすさ、味わい深さに感銘を受け、密かに注目していました(笑)。この手の歌は1カ月間放送されたらそれで終わりになるのが通例だそうですが、何とこの曲が今巷で大評判で、CD発売されたのだそうです。

エマニュエル・クリヴィヌとフォーレのレクイエム

高田三郎の合唱曲

曾野綾子作詞、三枝成彰作曲 鎮魂歌(レクイエム)

 昨年秋に完成し、世界初演されたばかりの曲です。楽譜も録音も未発売なのですが、縁あって楽譜と世界初演のテープを手に入れました。日本語を母国語とするものとして、この曲が作曲されたことを素直に心から喜びたいと思います。今まで宗教音楽を何度となく歌ってきましたが、ラテン語の歌詞の意味をわかっているつもりでも、心から共感するところまではなかなか行きません。かと言って、教会の礼拝で歌われる賛美歌は、会衆全員が歌うことを目的として作られていますから、音楽的に楽しめるものは多くありません。日本語か、せめて英語の素晴らしい作品がないものかと思っていました。

 この曲、とにかく美しいです。もちろん批判をする人はいると思いますよ。でも歌詞が直接心の琴線にふれることは、本当に貴重です。お葬式用の音楽として、これほど素晴らしい作品を知りません。曾野綾子さんは、カトリックの作家ですが、カトリックか、プロテスタントかなど、このすてきな作品の前には問題ではありません。

 曾野綾子さんの歌詞を読みながら、そして楽譜を見ながら、テープを聴いていて、何度も涙が出て来ました。五十を過ぎたばかりの若さで昨年急逝された、筑波大学社会工学系教授で経済学者の久保雄志先生のことを思い出しました。専門は全く違いますが、個人的にいろいろお世話になりました。久保先生は、40才にしてキリスト教の信仰を持たれました。信仰を持ったことで自分の人生がいかに劇的に変わったかを熱っぽく語って下さった、つくばの寿司屋での一夜を忘れることはできません。久保先生のことを考えると、曾野綾子さんの歌詞が、自分の心の中にストレートに入って来ます。頭で考えるのではなくて、心に訴えかける日本語の音楽が誕生しました。

David Zimmanのベートーヴェンの交響曲

 Beethovenの交響曲のCDは、あまりにたくさん出ていて、ついついあまり聴かないものまで買ってしまいがちですが、実に斬新な新録音に出会い、驚き心から感動しました。David Zimmanがスイスのチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団を指揮したもの。3, 4, 7, 8番を聴きました。authentic instrunment(オリジナル楽器)全盛のこの時代にあって、現代楽器を使いながら、奏法やarticulationなど演奏スタイルは、オリジナル楽器派よりも過激で刺激的。この意味では、11/7につくば国際音楽祭で私がインタビューした、コンバッティメント・コンソート・アムステルダムと共通性を感じます。早いテンポが、聴いていて実に爽快です。値段も定価1枚1000円とお手頃。この指揮者、グレツキの交響曲第3番のCDで有名になった人ですが、今までほとんど聴いたことがありません。こんなすごい人だったのか!Beethoven以外の曲も是非聴いてみたくなりました。どなたかこの指揮者のことご存知の方、教えて下さい。

オルガンクリスマスコンサート

 物理学者にしてセミプロのオルガンビルダーである三橋さんお手製の素晴らしいパイプオルガンのクリスマスコンサートが開かれました。オルガン演奏はICUのオルガニストの植田先生。ソプラノの中田先生が加わって、有名なモーツァルトのモテットも演奏されました。最後に「アレルヤ」が出てくる、あの曲です。いつ聴いても素朴で豊かな響きのオルガンです。NHKホール、サントリーホール、東京芸術劇場のような多目的の大オルガンとは根本的に違う響きです。例えて言えば現代楽器とオリジナル楽器の違いでしょうか。今年は9月初めにフランスの大家ミシェル・シャピュイが演奏に来たので、張り切って調整されたのでしょうか、音がぐっと落ち着いてきたような気がします。バッハの森のアーレントオルガンと並んで、アーレントの弟子である三橋氏の手によるオルガンは、つくばの街の宝物。本職の傍ら少しずつ作り続けておられるので、まだ65%の完成だそうですが、今後ますます目が離せません。

ドイツリート開眼?

 筑波大学でバリトンの木村俊光氏のリサイタルを聴きました。解説をして歌詞の対訳を読んでから歌うという企画は大賛成。シューベルト、シューマン、ブラームス、ヴォルフという一見重いプログラムですが、解説が入るとアッという間。音程が正確で発音も素晴らしいので、安心して聴けました。前にも書きましたが、発声に気を取られ過ぎるためか音程がひどい歌手が世の中には多く、驚いたりがっかりすることが多いのです。発声面でもとても勉強になりました。ハイバリトンの僕に比べると木村氏は低音が充実していて、快い響きです。タンホイザーのヴォルフラムの「夕星の歌」を是非、生で聴いてみたいなあ。この曲を歌ったことがありますが、僕の拙い声では渋い味がなかなか出ないのです。予期した以上に感激し、自分でもドイツリートに挑戦してみたくなりました。息が続かなかったり、レガートが難しかったりで、自分が下手なのが耳についてしまうので今まで敬遠してしまっていたのですが...。(12/7)

 先日たまたまFMをつけたら、Richard StraussのAllerseelen(万霊節)をやっていました。とてもいい曲ですね。昔Straussの若い頃の合唱曲をかじったことがある程度でRichard Straussの歌曲はこれから開拓したいものです。自分がソプラノだったら、「4つの最後の歌」なんて、歌ってみたいよなあ...(憧れ...)。この曲も下手なソプラノだと全然歯が立たないけど、上手な人が歌うと、ゾクゾクしてきます。

歌詞と音楽の問題

 歌詞の問題は、歌をやってきた僕には大問題。大学の合唱団の指揮をやっていた頃は、まだまだ重要性に対する認識が甘くて、今から考えると冷や汗ものです。巷では第9の季節ですが、あの歌詞だって結構難しくて、何度歌ってもまだまだ未消化な部分が残ってしまう。「人類皆兄弟!」のところはわかりやすいかも知れないけど、"Vater"と歌うたびにキリスト教の神のことを意識します。歌曲のリサイタルにじっくり予習をして自分で歌ってみてから...と思いながらなかなか実現できません。歌曲の勉強は一向に進まず、いつまでたってもレパートリーが増えません^_^;。

 今年の5月に弦楽アンサンブルの方々との共演で、バッハのマタイ受難曲のバスの最後のアリアの歌い振り(!)をさせていただいたのですが、弦楽器の皆さんが楽しかったのでまたやりましょうとおっしゃって下さっています。レパートリーを増やすチャンスかなあ?お好きな曲を御紹介いただけませんか?

つくば国際音楽祭 '98

詳しいプログラムや公演の情報はこちらをご覧下さい。

ドレスデン国立歌劇場室内管弦楽団(11/26)

 世界で一番響きの美しいオーケストラはどこでしょう?僕は学生時代からStaatskapelle Dresden(ドレスデン国立歌劇場管弦楽団)だと思っていました。憧れのオーケストラです。少なくとも世界最古のオーケストラであることは間違いないのだそうです。学生時代もアルバイトしたお金で無理して何度かコンサートに出かけました。Herbert Blomstedt指揮でBrucknerの7番、若杉弘指揮でRichard StraussのDon Juan, Mozartの交響曲第29番、Brahmsの交響曲第4番など、落ち着いたふくよかな響きに心踊らせた思い出がなつかしいです。当時合唱団員として若杉先生にしばしば指導していただいていた僕はマエストロの博識と音楽性に心酔しており、我らが日本人の素晴らしいマエストロがこの伝統あるオーケストラの常任指揮者に選ばれたことに感激しました。このオーケストラにはペーター・ダムという名ホルン奏者がいて、ホルンの独特の豊かな響きも特徴でした。ドレスデン国立歌劇場(ゼンパー・オーパー)が引っ越し公演で来日した時には、この劇場で初演されたウェーバーの「魔弾の射手」を見ました(ジークフリート・クルツ指揮)。大学生だった僕は、学生実験が遅くなり、大慌てで東京文化会館に駆け付けたところ、もう始まっているはずなのに会場が静まり返っている。どうしたのかと思うや否や、まばゆいばかりの落ち着いた響きのフォルテが会場を包み、圧倒されました。「魔弾の射手」序曲をご存知の方はおわかりでしょう。ゲネラルパウゼのところで会場に入ったわけです。この時の響きを聴いたとき以来、このオーケストラのファンになったのです。

 さて、憧れのオーケストラの首席奏者たちによるアンサンブルがノバホールにやってきました。指揮はやはりこのオーケストラのコントラバス奏者であるヘルムート・ブラニー。オーボエやホルンのまろやかな響きは、さすがDresdenです。コレルリ、ヘンデル、ハイドン(交響曲第45番「告別」)、モーツァルト(交響曲第29番と、アンコールのディヴェルティメントK. 136の第1、第3楽章)というプログラム。伝統的なスタイルと、最近流行の古楽器オーケストラに見られるようなphrasingの折衷といった感じの演奏スタイルで、バロック音楽はやや中途半端な気もしましたが、モーツァルトはなかなか気に入りました。指揮者のブラニーさんは、にこにこしながら愛想良くお話しして下さるのですが、東独の方であるせいか英語が片言しかできないようで、コンサートマスターが通訳して下さいました。アーノンクールのことを尊敬しており影響を受けたとのお話でしたが、歯切れの良いarticulationの中にも優美な響きを目指したモーツァルトは、アーノンクールの刺激的なスタイルとはやはり違った印象でした。

 コンサートマスターなどオーケストラのメンバーの方々とは、ドレスデン国立歌劇場に客演する名指揮者たちの話題でも盛り上がりましたが、Bernard Haitinkの人気が高かったようです。昨年の国際音楽祭のパーティで御一緒したウィーンフィルの第2ヴァイオリン首席奏者のペーター・ヴェヒター氏がHaitinkのことを激賞しておられたのを思い出しましたが、きっとオーケストラのメンバーにとって弾きやすい指揮者なのでしょう。

 今年の国際音楽祭は、はからずもウィーンフィル、ライプツィッヒゲヴァントハウス、ドレスデン国立歌劇場、18世紀オーケストラと、世界の超一流オーケストラのコンサートマスターが次々と登場しパーティで楽しいお話をうかがうことができました。弦楽器は素人の僕には豚に真珠のような気もしますが、幸運を感謝しましょう。

バーバラ・ボニー(ソプラノ)

 Barbara Bonneyは大好きです!もう10年近く前でしょうか、アーノンクール指揮の「魔笛」のCDのパミーナ役がとにかく素晴らしく、その時以来のファンです。5年くらい前でしょうか、ノバホールにジェフリー・テイト指揮のザルツブルクモーツァルテウム管弦楽団が来たときのソリストが彼女で、モーツァルトのアレルヤ他を歌いました。素晴らしかったのに、つくばでもあまり話題にならなかったのはなぜでしょう?目のさめるような青い色のドレスもすてきだった記憶があります。また是非聴きたいものです。

最近コンサートや放送で聴いて気になる演奏家たち(順次更新予定ですが...)

 ガリー・ベルティーニ(指揮)、エレーナ・ブリリューワ(ソプラノ)、ドーン・アップショー(ソプラノ)、ウィレム・メンゲルベルク(指揮)、加古隆(作曲・ピアノ)

インマゼール(フォルテピアノ)

 古楽器(authentic instrunment)ピアノ(フォルテピアノ)の鬼才?インマゼールのシューマンばかりを集めたリサイタルに出かけました。ちょうど東京で所用がある日に、インマゼールの講演の通訳をなさっている音楽学者の関根敏子先生が割引チケットを御紹介下さったので、ラッキー!「謝肉祭」の創意溢れる演奏には圧倒されてしまいました。素晴らしかったです。関根先生にインマゼールに紹介していただき、直接お話しできて幸いでした。それにしても英語で話していたら途中から彼の答がフランス語に変わってしまい、真っ青になりました。大学の教養の時、第三外国語でフランス語を取ろうとしたのですが、先生がお多福風邪にかかってしまわれ、数カ月休講になりました。その間に本業の科目があまりに忙しくなり、泣く泣く断念してしまったのが悔やまれます。コンサート終了後の楽しいひとときのことは、こちらの第35話に関根先生が書いて下さいました。

ハンドベルアンサンブル

 米国を中心に頻繁に海外ツアーも行っている世界に冠たる明治学院のハンドベルアンサンブルのコンサートを聴きました。統率のとれた高校生のアンサンブルは、体育会系といった感じでしょうか、なかなかの迫力。ピアノやオルガンを一人で演奏することと比べると、一人が両手で二つの音しか演奏しないハンドベルというのはとても贅沢な音楽ですよね。学生やアマチュアの団体に向いているのかも?いろいろなテクニックが工夫されていて、音色や強弱の表情の変化が楽しめました。レハールの「メリー・ウィドウ」のメドレーなど、こんなテンポで演奏して大丈夫なの?と驚くくらいの速いパッセージもさらりとこなしてさすがですね。このレベルまで達するとより深い音楽性や解釈を求めたくなりますが、高校生を指導、統率することと音楽性を追求することの両立は思っている以上に大変なことなのでしょう。高校1年の時から学校の吹奏楽団を指揮していた僕の若気の至りを考えると、恥ずかしい限りです(11/23)。

バッハの森アーレントオルガンコンサート 

 ハンブルク音楽大学の女性オルガニスト、ジョジネイア・ゴディニョを招いて、バッハの森の誇るアーレントオルガンのコンサートが開かれました。この楽器は言ってみれば古楽器の一種で、NHKホール、サントリーホールに代表される多目的オルガンとは全く異質のものだそうです。バッハとそれ以前の音楽に適している素朴な音色で、当日のプログラムもバッハ、ブクステフーデ、リューベックなどが中心でした。コンサートの後ゴディニョさんや、バッハの森の代表の石田友雄先生(筑波大学前副学長;古代ユダヤ史、キリスト教文化史が御専門)、奥様でオルガニストの石田一子先生らと楽しく歓談しました。"bach.or.jp"(バッハの森のHP)のシスオペ、Fさんにも初めてお目にかかりました(11/8)。

コンバッティメント・コンソート・アムステルダム(11/7)

 17-18世紀の演奏スタイルの研究に基づきながら、古楽器を使わず現代楽器を使って、非常に刺激的、個性的な演奏をすることで人気急上昇中のオランダのアンサンブルの初来日公演初日のコンサートでした。パーティが大いに盛り上がりリーダーのデ・フリエント氏の独創的な音楽観をたっぷりうかがいました。昔の文献を調べると、オーケストラ演奏を聴いた人々が天地がひっくり返るほど驚いたとあるそうで、ありきたりの生温い演奏ではなく、聴衆がわくわくするような刺激的な演奏を心がけているとのこと。こういう演奏、大好きです。古楽ファンの友人Yさんがノバホールにかけつけて来られ、パーティの後はこめこめさんも交えて男三人で鍋を囲む楽しいひとときを過ごしました。

ウィーン弦楽四重奏団(11/5)

 今年の国際音楽祭は通訳を仰せつかっているので皆勤賞。それぞれのコンサートで演奏家を囲むパーティで通訳をしていると、その演奏家の追っかけ?の方々によく出会います。とても専門的な質問を通訳してくれと頼まれることも多く、プロの通訳でも何でもないボランティアとしては頭を抱えてしまうこともしばしばです。

 今年の音楽祭は10月中旬から3週間半の間に5回コンサートがあり、どの会も非常に充実したパーティが開かれています。今年の音楽祭の特徴として、ヨーロッパの超一流オーケストラのコンサートマスターや弦楽器奏者たちと次々と出会えたことは幸いです。

 巨匠ホルスト・シュタインに率いられたバンベルク交響楽団の後に登場したカール・ズスケ氏は、メンデルスゾーン以来の伝統を誇るドイツの超名門ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のコンサートマスターを44年前から務めています。コンバッティメント・コンソート・アムステルダムのメンバーの多くはアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団で活躍された方々とのことで、音楽監督のデ・フリエント氏はお話をうかがえばうかがうほど素晴らしい個性的なヴァイオリニストでした。ヴィヴァルディの「四季」のソロで客席を湧かせたヴァイオリニストは、有名な18世紀オーケストラのコンサートマスターを兼任しているそうです。この意味では、世界最古の歴史を誇るドイツの超一流オーケストラ、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団の首席奏者たちによるコンサートも非常に楽しみですね。

 そんな中での極め付きは、天下のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスター、ウェルナー・ヒンク氏を初めとするウィーン弦楽四重奏団の方々との出会いでしょう。演奏会のプログラムは、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンというウィーン古典派の巨匠の有名な弦楽四重奏曲を三曲並べた豪華なものでした。当初提示されたプログラムはやや地味な曲が並んでいたのですが、つくばでは名曲ばかりの豪華なプログラムにして下さいとお願いしたところ快く引き受けて下さった結果です。演奏は、ウィーンの伝統に則った実にしなやかで立派なものでした。近年、古典派の演奏は、オリジナル楽器を使ったり、最新の音楽学の研究成果を生かしたものなど、刺激的で多様なスタイルが模索されているようですが、ウィーン弦楽四重奏団の演奏は、「これがウィーンの伝統!」と言わんばかりの説得力溢れるものでした。アンコールではドヴォルジャックの弦楽四重奏曲「アメリカ」の第4楽章が演奏されました。ウィーン古典派を集めたコンサートには一見異質に感じられますが、ボヘミアはウィーンと地理的にも非常に近く、ウィーン子にとってはこれもまた自分たちの音楽なのだそうです。メンバーの皆さんは、ウィーンフィル、ウィーン国立歌劇場での演奏、音楽院の教授としての教育活動、室内楽と四足の草鞋を履いておられる多忙な方々ですが、当日はホールの隣のホテルに宿泊されたため、我々はゆっくり交流することができ、とても幸いでした。

 世界の音楽界は国際化が進む中で、ウィーンの方々は自分たちの伝統こそ世界最高のものという自信に満ち溢れ、頑なに自分たちのスタイルを守り続けていることはとても印象的でした。ヒンクさんは、実際に身振り手振りを交えながら、自分が守ってきたウィーンのヴァイオリン奏法の伝統が、ズスケ氏に代表されるドイツのスタイルや、諏訪内晶子さんが学ばれたアメリカのジュリアード音楽院の機能的、現代的なスタイルとどこが違うのかを説明して下さいました。またカラヤンやバーンスタイン亡き後のウィーンフィルハーモニーの未来を背負う若手指揮者たちの裏話など、120%楽しむ界のパーティならではの多彩なお話をうかがうことができました。評価の高かった指揮者をこっそりお教えしますと、ラトル、ヤンソンス、アーノンクールなどでした。アーノンクールは実演はちょっと危険で、録音の方がよいという話もありましたが。

カール・ズスケと仲間たち メシアン 世の終わりのための四重奏曲(10/31)

 メンデルスゾーン以来のドイツ音楽正統派の伝統を守るライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のコンサートマスター、カール・ズスケ氏は、何と1954年に若干20才でコンサートマスターに就任されたそうです。ズスケ氏の師匠でもあるゲルハルト・ボッセ氏(現在東京芸術大学客員教授)と共に、ヨアヒム(ブラームスと親交の厚かったヴァイオリニスト)以来の伝統を受け継いでいます。コンサート最初の曲はバッハの無伴奏パルティータ第2番の「シャコンヌ」。いわゆるJuliard流のヴァイオリンとは根本的に弾き方が違います。その後前半はチェロ、クラリネット、ヴァイオリンの名曲集。多様な曲のスタイルに合わせてタッチを巧みに変える児島一江さんのピアノが絶品で特に印象に残りました。モンティのチャールダーシュは好きな曲で、ズスケ氏がこんな曲を弾かれるのかといぶかしげに思っていると、何とクラリネットの高橋知己さんの演奏。メシアンで見せた弱音の美しさも含め素晴らしいテクニックの持ち主で、高校時代にクラリネットをかじったことのある僕は口をあんぐり開けて聴いてしまいました。後半は一転してメシアンが1941年にナチスの収容所で書いたという大曲。この曲はCDで聴いてもダメですね。実演ならではの緊張感に満ちた素晴らしい盛り上がりを見せました。

 ズスケ氏は英語もお上手ですし、話好きでインタビューも盛り上がりました。でも難しい質問になると答がドイツ語になってしまいます...^_^;あわててクラリネットの高橋知己先生が助け船を出して下さいました。ゲヴァントハウス管弦楽団の新音楽監督ブロムシュテットのことをすごく誉めていて、彼が着任してとてもよかったと話していました。東京からファンが詰めかけて来られ、ズスケ氏に質問攻め。ゲヴァントハウスの往年の名指揮者フランツ・コンヴィチュニーの大ファンの方がいらっしゃいましたが、コンヴィチュニーが有名なシューマンの交響曲全集を録音した頃からズスケ氏はコンサートマスターを務めておられたそうですから恐れ入ります。こちらは通訳を次から次へと頼まれて、素人のにわか通訳に大忙しとなりました。

ミシェル・ベロフ ピアノリサイタル(10/25)

 チェンバロがピアノに進化したとき、大きなコンサートホールの隅々まで音を響かせ轟かせることができるようになりました。こうしたピアノの特徴を生かした奏法の一つの頂点が、中村紘子さんが学ばれたいわゆるRussian methodであり、この奏法を極限まで生かしたピアノ音楽の最高峰がRachmaninoffの第3番の協奏曲とおっしゃる中村氏のお話はなるほどとうなずけます。

 しかし僕は常々ピアノという楽器が今一つ好きになれません。その最大の原因は音色。音楽に安らぎを求めるとき、濁った響きが耳につくのです。そんな中で高校生の頃でしたでしょうか、東京厚生年金会館でアルド・チッコリーニのリサイタルを聴いたときの驚きは一生の思い出です。とにかくピアノの響きが澄んでいました。このときの音色が忘れられません。

 ベロフの演奏は、チッコリーニの原体験を思い起こさせるものでした。強靭なフォルテで音が澄み切っているのは誠に見事です。ノバホールの最前列のど真ん中で聴いたのですが、ベロフの表情もとても興味深いものでした。ピアノは素人が取っつきやすい反面、このような天才は人生半ばにして新しい方向性を見つけられなくなりがちなのではないでしょうか?昔Christoph Eschenbachの指揮でMahlerの交響曲第2番「復活」を歌ったことがありましたが、その驚くほど重厚でロマンティックな指揮ぶりを間近で見て、Eschenbachがなぜピアニストとしてのキャリアを捨てて指揮者に転身したのかがよくわかるような気がしました。19才でEMIにメシアンのピアノ曲のレコードを録音し、若くしてフランスのピアノ音楽の巨匠に上り詰めたベロフは、一時期指揮に転身したり、指の故障に苦しんだりした時期があったようです。そんな中で50才に近づいたベロフはもう一度Debussyに真正面から取り組み、他の人が表現し得なかった研ぎ澄まされたピアノの響きを追求しているように感じられました。アンコールのDebussy「月の光」は、きらきらと光るピアノの音色と趣深い解釈に、決して多くはなかった聴衆が大いに沸きました。詳しいプログラムはこめこめさんの第92話をご参照下さい。

ホルスト・シュタイン指揮バンベルク交響楽団(10/24)

 7月以来病気でコンサートをキャンセルし続けて心配させたマエストロ、ホルスト・シュタインは無事来日し、来日公演初日の昨日、ノバホールで味わい深いブラームス(交響曲第4番)を聴かせてくれました。小柄でちょっと気むずかしいおじいちゃんは、アサヒスーパードライを缶からガブ飲みしながら、熱心にインタビューに答えて下さいました。いずみホールの音楽ディレクターとしてトークコンサートで御活躍中のI教授に演奏家インタビューの心得を教えていただいたのが参考になりました。インタビューの内容は、筆の達者なこめこめさんがこちらの第91話に書いて下さいましたのでご参照下さい。二人でビールを飲みながら内容を思い出しておりました。日本の音楽家については、日本も音楽家も大好きだからこんなに長くN響と仕事をしているんだというお答でした。

 諏訪内晶子さんのヴァイオリンソロは、音程やphrasingがとにかく完璧。実に鮮やかで気持ちのよいものでした。チャイコフスキーコンクールでの演奏をTVで見た記憶では、もともとあまり線の太いviolinを弾かれる方ではなかったと思いますが、アメリカに留学されて、アメリカ文化のよい面を吸収されたのではないでしょうか?最近世界のviolin界はThe Juliard Schoolの天下だそうで合理性を追求した"method"ゆえに、ともすると演奏スタイルが画一的になりがちです。諏訪内さんの場合は、もともと持っておられた素質とアメリカ流の合理性をうまく融合させて、独特のスタイルを作り上げようとされていると感じました。自分の専門分野でこれだけきちんとしたものを作り上げ、さらに個性を出すというのは大変なことだよなあ...己を顧みると青くなる自分^_^;

中村紘子ピアノリサイタル(10/14)

 つくば国際音楽祭が開幕しました。パーティも開かれましたが、中村紘子さんでしたので、日本語が通じますから通訳の必要がありませんでした。話題豊富で話術巧みな方でしたので、ご本人の得意とされる興味深いお話をうかがえ、おもしろかったです。ピアノの時代はラフマニノフの第3番の協奏曲で終わったとか、中村氏のピアノのスタイルはロシアのmethodに基づいているとか。

 パーティには音楽大学のピアノ科出身の方々や子供にピアノを習わせているお母さま方がたくさん見え、中村氏を神様のように讃えていたのにとても驚きました。彼女のピアノは確かにショパン、リスト、ラフマニノフなど特に、とても立派なものと思います。リストのメフィストワルツは鋭いタッチの名演奏でした。でも決して彼女のスタイルがすべてではないはずです。ベートーヴェンの27番のソナタを非常にロマンティックに弾いたのには違和感がありました。第2楽章を「谷間の白百合(ご本人の表現)」のように弾きたかったから選ばれたのでしょうが、それでは第1楽章はどうなるのでしょう?中途半端な音楽に聴こえます。もちろん中村氏は自分のスタイルを確立されたからよいのですが、ピアニストを目指す多くの人々が共通のスタイルを目指しているのだとすれば、それは日本の音楽界の底の浅さ、音楽教師たちの視野の狭さを表しているのではないでしょうか?素人なのに過激なことを書いてしまいました。来週末はいよいよホルスト・シュタインです。

Helmuth Rilling

 月に一度の宗教音楽鑑賞会で、Rillingのバッハ ロ短調ミサ曲のLDのシリーズが始まりました。バッハの宗教音楽の権威Helmuth Rillingは不思議な指揮者です。バッハのカンタータ全曲録音を史上初めて成し遂げたわりには、レコードの評判も今一つ。なぜでしょうかねえ。学生時代、アルバイトで貯めたお金でようやく高かったチケットを買って、サントリーホールに「ヨハネ受難曲」を聴きに行った時の生き生きとした合唱団の演奏は強く心に残っています。ロ短調ミサ曲はLeipzigの聖トーマス教会前カントールのHans Joachim Rotschその他、何人かの指揮者の指導で歌ったことがありますが、作品があまりにも素晴らしい割に、指揮者の斬新な解釈にうならされるという経験はあまりありません。でもLDでRillingの指揮を見ていると、こんな指揮者と演奏できたら歌詞の意味するところも含めてこの巨大な宗教音楽の最高傑作がもっと生き生きと捉えられるようになるのではないかと、いたく感銘を受けました。それにしてもバッハのロ短調ミサは一生のうちに何度でも挑戦のしがいがある音楽ですね。(10/25)

三澤洋史著「バイロイト日記」

 三澤先生はバッハとワーグナーを特に得意とされる指揮者で、二期会合唱団や芸大合唱団などで大活躍中です。私も学生時代から折に触れて御指導いただいていますが、キリスト教や哲学の造詣も深く、感心することしきりです。その三澤先生が、今年の夏にバイロイト音楽祭に滞在されたときの日記をまとめたものが出版され、早速読んでみました。オペラ指揮者、合唱指揮者としての視点がとてもおもしろく書けています。Wagnerは、僕にとっていつか登ろうと思っていながらいつも麓をうろうろしている巨大な山。いつかバイロイトにも行ってみたいものです。(10/3)

Lamb

 日曜日の夜に教会でLambというグループのミニコンサートが開かれたので遅れて覗きに行ったところ、とってもきれいなお姉さま二人組がシンセサイザーの伴奏で歌っていました。ニューミュージック調のゴスペルソングですが、曲はすべてオリジナルでなかなか工夫されています。それにお二人とも音楽大学の声楽科出身とのことで、基礎がばっちりできているし音程も正確。TVでよく流れているいい加減な歌唱とはひと味違って、好感がもてました。というわけで今年の夏に発売されたCDも買って、サインまでしてもらったミーハーな私...。気軽に聴くのにお勧めのCDです。ちなみに美人のお姉さまはお二人ともお子さんがいらっしゃるそうで...^_^; (10/3)

佐藤しのぶ(ソプラノ)

 FMで、ソプラノの佐藤しのぶさんのinterviewをやっていましたね。たまたま所用で出かけるときにカーステレオをつけたら、プッチーニの「トスカ」第2幕のアリア、「歌に生き、恋に生き」が流れてきたので、誰の演奏だろうと思ったら、佐藤しのぶさんでした。音程も声もとても安定しているので、安心して楽しめる演奏でした。友人には、彼女が嫌いという人が何人かいます。これだけメジャーになれば、無理もないのかも知れませんが。こめえじさんによれば僕は、美人ピアニストには弱いが、歌には厳しいのだそうですが、彼女に対してはいつも好感を持っています。もう10年以上も前、Mozartのハ長調のミサ曲(戴冠ミサ)を歌ったとき、当時無名に近かった彼女がソリストで、Agnus Deiのソロ(フィガロの結婚の伯爵夫人のアリアによく似た旋律が出てくる、有名な部分)を聴いて、何ともすごい声だと感心したのが最初でした。若い頃から、抜群の安定感があったように思います。その後何度かステージで御一緒したり、放送で聴いたりすると、聴く度に進歩しているような感じがして、きっといろいろ影で努力されているのだろうと、感心しています。interviewをちょっと聞いていたら、ピアノを勉強していた期間が長いので和声に興味があり、自分の声を単旋律楽器としてではなくて、オーケストラ全体の和音の中で捉えようとしているとの話がおもしろかったです。

ヘルマン・プライ

GERMAN BARITONE HERMANN PREY: 1929-1998

Thursday, July 23, 1998--- We are saddened to announce that German baritone Hermann Prey died last night at his home in a suburb of Munich, Germany. Mr. Prey, 69, known for both his operatic and concert repetoire, had a career which spanned more than four decades. Hermann Prey is survived by his wife of over 40 years, three children and two grandchildren. He will be deeply missed.

 独特の声質で、一声聴けばすぐわかる名バリトンでした。彼を生で聴いたのはたった一度、1993年1月にNew Yorkに行ったときでした。学会の帰りに、ロックフェラー大学で講演をさせてもらえることになり、勇んで行ったのですが、4日の滞在中、オペラを4つとコンサートに1つ行き、お前何しに来たんだと言われ...^_^;。昼間はちゃんと大学にいましたから...。それはともかく、オペラの最終日は、ワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」のプレミエ。ジェイムス・レヴァイン指揮。ザックスはドナルド、マッキンタイアー、ヴァルターが、フランシスコ・アライザ。そしてベックメッサーが、我らがヘルマン・プライでした。彼は舞台姿が本当にさまになりますよね。オールスターキャストなのに、ベックメサーが一際光っていました。彼のパパゲーノも一度見てみたかったです。We miss him very much, indeed.(7/24/98)

プーランクのグローリア

 夕方、車の中でFMをつけたら、ジョルジュ・プレートル指揮で、この曲の素敵な演奏のライブ録音を放送していました。学生時代に2度ほど歌い、とても好きな曲ですが、あまり演奏されないようですね。一度目は大学の合唱団。指揮者の熊谷卓先生はPoulencがお好きなのでしょうか、後輩たちは今年の定期演奏会でPoulencのStabat Materを取り上げるそうです。二度目は、松尾葉子先生の指揮でした。NHK-TVで放送されたビデオが残っています。この曲を歌った3回目は、アメリカのカトリック教会でした。たまたま友人から助っ人を頼まれて。パイプオルガンの伴奏。オーケストラ版とはちょっと違った雰囲気で、教会のコンサートとしてはなかなかでした。最近触れる機会が少ないので、Poulencとはどんな作曲家なのか、自分でもう一度見直してみたくなりました。(4/4, 7/18)

声楽と音程

 音程の問題は奥が深く、僕自身、自分の歌に自信があるわけではないので、自分のことは棚に上げてのことですが、あまりに音程に無頓着な歌手の歌を耳にすることが多く、嫌になってしまいます。運転しながらFMをつけると、藤原歌劇団の看板プリマドンナ、ソプラノのDさんのリサイタルをやっていました。この方、以前オペラの舞台でも楽しんだことがあったのですが、Belliniなどの古典歌曲を聴いて、とても気持ちが悪くなりました。伴奏ピアノに比べて、全曲に渡って明らかに音程が低いのです。また二期会の看板テノール、Fさんと、「第9」のステージで御一緒したので期待していたら、有名な行進曲の部分で、上ずること上ずること。若手でも音程が正確な方がたくさんいらっしゃる中で、弦楽器や管楽器ではとても許されないような音程のずれが、日本の第一人者と評価されている声楽家の方々に許されているのはどうしたことでしょう?絶対音感が邪魔をしている?まさか!

ハンス・ツェンダー編曲のシューベルト「冬の旅」

 ドイツの現代音楽の作曲家として有名なツェンダーの作品をテノールのハンス・ペーター・ブロホヴィッツが歌ったCDが話題になっているようです。友人宅で聴かせてもらい、FMでもやっていました。シューベルトは最晩年、精神的に不安定になっていたそうで、シューベルトの隠された意図を表現したのだそうです。第一印象は「何だこれ?」でしたが、結構楽しめそうなので、ゆっくり聴いてみたいと思います。ブロホヴィッツは、アーノンクール指揮の「魔笛」のTaminoや、ショルティ指揮の「マタイ受難曲」のEvangelistの頃は、美声だけれど、ちょっと喉声が耳についていました。1997年のN響の第9(デュトワ指揮)のソロをTVで見たときは、期待してたのにあまり冴えない印象でした。それに対してこのCDでは、伸びやかな声が素晴らしく、感心しました。

ヴェルディの「ナブッコ」(新国立劇場)

 夜遅くワインを持って飲み友だち(美女ではなくて、男性です...^_^;)宅に誕生日のお祝いに行ったら、「明日の夜、新国立劇場行かない?」ですって。女の子を誘うはずだったチケットが余ったらしい。全席売り切れの公演の初日だし、チケット争奪戦が嫌いな僕が新国立劇場の公演を見られるなんてそんなにないことなので、急遽予定を調整してかけつけました。ヴェルディの出世作「ナブッコ」です。CMでも使われ、イタリア第二の国歌とも言われる第3幕第2場の合唱曲は有名ですが、初めて見る舞台。行く道すがら、大慌てでストーリーを予習。旧約聖書に出てくるユダヤとバビロニアの話ですが、フィクションでハッピーエンドになってます。初日で、オールスターキャスト。主役級の5人のうち3人は、外国から呼んだ有名歌手。アビガイレを歌ったアメリカのソプラノ、ローレン・フラニガンも合唱も、一番の聞かせどころがイマイチだったものの、実に刺激的な演奏でした。フラニガンは、ちょっとマリア・カラスに似た強靭で劇的な声の持ち主、すばらしかった。世界の超一流のオペラハウスで大活躍のテノールの市原太朗さんは絶好調。この前、共演した(私はもちろんその他大勢の合唱団員の一人)ときは喉声が気になりましたが、昨日は全然気になりませんし、楽しめる歌でした。僕は、総じて素晴らしい出来だったと思います。欲を言えばきりがないけれども、充分楽しめる舞台でした。オールスターキャストの日やプレミエでない、日常的なメトロポリタンオペラハウスの上演といい勝負くらいの出来ではないでしょうか。

 終演後、ブーイングが多いのにびっくり。チケットが手に入らないのに公演数を増やさない新国立劇場の対応に対する不満が渦巻いているのでしょうか?あそこまでブーイングが出るのはいくら何でもちょっと行きすぎで、カーテンコールで余韻を楽しみたい者にとっては興醒めでした。詳しくは、こめえじさんのページの第33話に報告があります。

 新国立劇場は、絶対に公演数を増やすべきです。掲示板にもこめえじさんや若葉さんが報告して下さっていますが、国が税金でやっているというのに、これほどチケットが手に入らないというのは全く異常です。役人は世論には意外に敏感だから、みんなで圧力をかけましょう。

ドヴォルジャックのミサ曲ニ長調と、イギリスの合唱音楽

 ドヴォルジャックといえば、「新世界」をはじめとする後期の三大交響曲や、チェロ協奏曲が有名ですが、宗教合唱音楽はあまり話題に上りません。僕にとっては、学生時代に大学の合唱団で取り上げた懐かしい曲ですが、素晴らしいCDに出会いました。イギリスの教会の伝統に則して、Simon Prestonがオルガンを弾きながら、子供と大人の合唱団を指揮しています。

 Californiaに住んでいたとき、よくdowntownにある、Episcopal Church(英国国教会の伝統を守るアメリカの聖公会)に音楽を聴きに行きました。立派なパイプオルガンの音が耳に残っています。この教会には、音楽監督(ドイツのカントールのようなもの?)がいて、この方は、児童合唱(原則として男子のみ)や成人の聖歌隊を指揮したり、オルガンを弾いたりされていました。大学の音楽学部の非常勤講師としてオルガンも教えておられました。

 John Rutterという作曲家をご存じですか?イギリスの教会合唱音楽の伝統をもとに、現代的な感覚で新作の合唱曲を次々と発表しています。Requiemなど、ちょっと甘ったるいくらいのところもあって、なかなかステキ。「キャッツ」や「オペラ座の怪人」で有名な作曲家、Andrew Lloyd-WebberRequiemにもこうした伝統が感じられます。

Robert Gass & On Wings of Song- 心地よい合唱の新境地

 とっておきの一風変わった団体を御紹介しましょう。日本ではほとんど無名の指揮者と合唱団。アメリカのコロラド州Boulderが本拠地のようです。有森裕子さんも住んでいた、マラソンで有名な街。ありとあらゆる種類の世界各地の聖歌を、独特のアレンジで合唱にして、瞑想、音楽療法、relaxationにも最適な音楽になっています。特徴は、Steve Reichにも見られるような、短いフレーズを延々と反復しながら少しずつ発展させて行く手法。聴いていて本当に落ち着きます。

メリー・ウィドウとチャールダーシュの女王

 6/13の日本経済新聞、文化面に「世紀末ニッポン、オペレッタ天国に」という記事が出ていました。僕もオペレッタは大好き。「あまりハイバリトンということを意識しすぎずに、バリトンのレパートリーをじっくり勉強しなさい」というのが、最近相談にのっていただいているバリトン歌手の鈴木優先生のadviceですが、やっぱりダニロ・ダニロヴィッチは持ち歌。

 そんな中、ウィーンオペレッタ劇場の来日公演初日、レハール作曲「メリー・ウィドウ」は、メラニー・ホリデイがハンナ役デビュー。新聞にもチケットは格安とありましたが、舞台装置はとても簡素。オーケストラもとても一流とは言えません。踊りの得意なメラニーのために、ハンナが踊る場面がやたら多い演出。メラニーは、高音は弱いものの、歌も踊りもさすがは大スター。つくばのパーティーで出会った思い出が蘇りました。彼女は、オペラで名高い、インディアナ大学の出身とか。大学院生の時6週間滞在した思い出の大学なので、親しみを感じます。来年1月のノバホールのコンサートとパーティーが楽しみです。一番残念だったのは、PAが最悪だったこと。ダニロ役のバリトン、ダニエル・フェルリンは、大柄、二枚目で声も素晴らしかったのに、聞こえてくる音は、割れていた!これを売り物にするのはひどすぎます。カミーユは、二枚目テノールの役ですが、ローレンス・ヴィンセントは、喉声が耳につき、全くひどい出来。でも語り役のニエグシュは、タップダンスのうまいクルト・リーデラーという俳優さんで楽しめたし、やっぱりメリー・ウィドウはおもしろいオペレッタです。

 一方、「チャールダーシュの女王」は、日本人のスター歌手による手作りの舞台。歌手6人、ダンサー10人、室内アンサンブル5人という小さな編成ながら、名手ばかりですから、安心して見ていられました。歌も踊りも、総じて本当に素晴らしい出来。成功の原因は、歌手たちが自発的、積極的に舞台を作り上げていったことではないでしょうか。天才的、独創的な演出家や指揮者の統率で作られる舞台もいいでしょうが、ここにはベテランたちが手作りでよいものを作ろうとする気概が感じられました。チケット代は、最高でも5000円。お金をかけなくても、豪華でなくても、出演者の実力と熱意があれば、心から楽しめる舞台が作れることの典型を見た思いです。それに美女と一緒だと楽しさも倍増!ハンガリーはヨーロッパの中では東洋系だから、我々の文化と一脈通じるところもあるんでしょうか?ちょっと浪花節っぽいところもあるチャールダーシュを聴くと、どこか血が騒ぐものがあります。

 掲示板に若葉さんが報告して下さったところによれば、新国立劇場Arabellaは、2万円近くするのに、チケットがすぐに売り切れたとか。僕だって自分のスケジュールとうまくあう日に簡単に安いチケットが取れるんなら、見たいですよ、それは。ツデンカ役のソプラノ、釜洞祐子さん、大好きだし。売り切れるんだったら、公演数を増やすべきです。今からでもよいから、追加公演を企画してほしい。でも一方で、はるかに安くて、しかも何の苦もなくチケットを買える公演も、こうしてあるんですね。二期会は、シリアスなオペラではイマイチという評価もあるようですが、「メリー・ウィドウ」、「こうもり」などのオペレッタ路線は絶対おもしろいです。こういう演目は、台詞が日本語じゃないと楽しめないところもありますし!(6/15)

マーラーの千人の交響曲

 有名なCDですから、何を今更かも知れませんが、ショルティ指揮のCDを聴いてたまげました。この曲、我が青春の歌の一つ。かなり以前から折に触れて、本番を10回程経験しています。指揮者も、シノーポリ、コシュラー、山田一雄などなどいろいろな指揮者との出会いが楽しい。だから当然、細部まで知ってるつもりだったのに、Solti先生、細かいところまで芸が細かく、感心することしきり。この曲の第2部は、ゲーテファウストの最後の場面を延々と描いた、言ってみればオペラですよ、これは。この曲、あんまり話題に上ることが多くない。マーラーは自信があったようですが、駄作だとか言われて、9番の陰に隠れてしまったり。だからこそ、ドイツオペラ好きの方に、このCDをお勧めします。第2ソプラノのルチア・ポップと、テノールのルネ・コロが特にすごい。ワーグナーのマイスタージンガーのエーファとヴァルターの競演みたい?二人とも全盛期ですね。(6/13)

 最近、東京都響の音楽監督に就任したガリー・ベルティーニが、1991年にケルン放送交響楽団と来日したときのサントリーホールでのライブ録音のCDを聴きました。予想以上の名演奏です。これほど緊張感に満ちたライブは、そんなにないのでは?(6/21)

中丸三千繪さんのリサイタル

 真夜中にTVをつけたら、ソプラノの中丸三千繪さんのリサイタルをやってました。舞台は何と歌舞伎座とか。この方の歌、とても見直しました。特にPoulencの歌曲、Chopinの「別れの曲」に歌詞を付けたものは絶品でした。力まずに美しく響かせながら感情を歌い上げる技術は大したものだし、音程がとても正確なのも素晴らしい。

 この方、オペラの舞台というより、リサイタル向きなんじゃないでしょうか?透明感のある美しい声の魅力に引きつけられます。でもドラマティックなアリアでは、高音でフォルテを出そうとすると、響きが濁り、音も下がりがち。着物を着て歌われた「椿姫」の3幕のアリアなど特に感じました。「トスカ」2幕の有名な「歌に生き恋に生き」は、前半など歌曲のようで、余分な感情を入れずにさらりと歌われるととても美しいのに、後半で力むと...。「カヴァレリア・ルスティカーナ」の「アヴェ・マリア」も同様。「ジャンニ・スキッキ」の有名な「私のお父さん」も、とっても美しい声と響きなのに、クライマックスのフェルマータを伸ばしすぎるから、わずかながらやっぱり響きが濁り、音が下がってしまうんじゃないかなあ。でも総じて、とてもよいリサイタルだと思います。日本人の他の多くのソプラノは、余分な濁りも含めて(!)、もっとパワーで押そうとしてるもの。自分のことは棚に上げて言いたい放題ごめんなさい。(5/31)

Piano Pure: Mino meets Japanese folk & new music

 ジャケット写真にひかれて(笑)札幌で飛行機の待ち時間に試聴し、とても気に入ったCD、その時は思いとどまりましたが、どうしても欲しくなり、購入。ミーハーと言われようと、絶対にお勧めします。加羽沢美濃さんは、今年の春に芸大大学院の作曲科を卒業した方。コンポーザーピアニストというキャッチフレーズで売り出されています。翼をください−いい日旅立ち−時代−あなた−贈る言葉...カラオケでよく歌われるような、僕らの世代にとって懐かしい曲をピアノソロに編曲して弾いているのですが、単なるムードミュージックを超えた多彩な編曲は独創的でとっても魅力的です。世に満ち溢れている安っぽい音楽と明らかに一線を画した充実した音楽で、今後の活動がとても楽しみです。僕は昔からピアノの音色が今一つ好きになれず、鍵盤楽器ならオルガンやチェンバロの方を好むのですが、このアルバムの世界は、ピアノでしか表現できない素晴らしい響きです。楽譜も同時に発売されたそうですが、ピアノが弾けたらどんなによかっただろうという気になってしまいます。まあ、僕みたいに気が多い人は、歌とどっちつかずになりやすいから、これでよかったんでしょうが...。それにしてもレコード店でおまけにもらった美濃さんの写真をもらって喜んでいる僕って...やっぱりミーハーだなあ。(5/26)

ゲルバーのブラームス

 3月末にピアニストのブルーノ・レオナルド・ゲルバーがシャルル・デュトワ指揮N響との共演してブラームスのピアノ協奏曲第1番を演奏しました。演奏会も衛星放送も聴き損なってしまいましたが、運良くTV放送を見ることができました。体が大きい上に指も図太く、ピアノという楽器のダイナミックレンジの限界に近い表現力の凄さを思い知らされました。単に完璧に弾き切るというレベルではなく、ピアノでこんな多彩な表情を表現できるのか驚嘆したというのが正直なところです。こんな人がいるんだったら、ピアニストを目指さなくてよかった!?(5/16)

ボルドーオペラの椿姫

 今月はNHKの衛星放送で3週間連続して、Verdiの椿姫を放送していましたね。1週目はショルティ指揮ロンドンのコヴェントガーデン王立歌劇場、3週目はムーティ指揮ミラノ・スカラ座ですから、定番中の定番。それにはさまれた2週目は、name valueから言えば、いかにも地味です。ところが、たまたま録画しておいたビデオテープを何気なく流していたら、これが予想をはるかに上回る素晴らしい演奏です。マウリツィオ・ベニーニ指揮ボルドー歌劇場の演奏は、きびきびとした魅力あふれるテンポ感がすばらしく、斬新な解釈が聴衆を飽きさせません。普段イタリアオペラをあまり聴かない方(←自分のことか?)にもお薦めです。ともすると退屈しやすい(←自分だけ?)第2幕第1場のヴィオレッタとジェルモンの長い掛け合いも、とても新鮮な音楽に聴こえました。マタイ受難曲のアリアを練習しなくちゃいけない(全然やってない...)のに、浮気してジェルモンを歌いたくなってしまった...。(4/20)

Beethovenの合唱幻想曲

 Barenboim指揮Berlin PhilharmonicによるChoral FantasyのCDを聴きました。ピアノ独奏、独唱四部、合唱とオーケストラと、大編成の曲ですが、第9交響曲の習作として世間の評価が低いですね。そう言われれば確かにそんなにおもしろい曲とは言えませんが、私にとっては思い出の曲。渡米後auditionを受けて大学の音楽学部の合唱団に入り、初めてのステージは、先日書いたCarmina Buranaのコンサート。コンサートの前半でこの曲を演奏しました。ピアノ独奏は、サンディエゴ出身で地元で人気ナンバーワンのGustavo Romero。ジュリアード出身のこの小柄な若い男性ピアニスト 、日本ではほとんど知られていないようですが、Beethovenのピアノ協奏曲全集や、ショパンなど、すてきなCDをたくさん出しています。オーケストラはYoav Talmi指揮のSan Diego交響楽団でした。このコンビも、NaxosレーベルにBerliozの名演奏が3枚ほど出ています。

 さて、合唱幻想曲のピアノパートは、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」にそっくりなところがあったりしてなかなか華やか(つまらないという人も多い)ですが、終わりの方に、和音の音階を弾く速いパッセージがあります。それほど目立つところではないんですが、in tempoで弾くのがとても難しいようで、どの演奏も多かれ少なかれリズムが乱れています。音楽界のスーパーマン、バレンボイム先生なら...と思って聴いてみると、やっぱりそこで音楽の流れにかすかにブレーキがかかってしまう。ここはリスト編曲の交響曲全集を完璧に弾きこなしているカツァリスにでも、期待したくなります。合唱パートは難しくありませんが、歌ってて気持ちのよい小品です。(4/17)

美人姉妹のコンサート

 1997年12月のことですが、生粋のウィーン子の美人姉妹、Karin Adam (Vn), Doris Adam (Pf)のリサイタルがノバホールであり、恒例のパーティで即席の通訳をさせられました。安定感のあるふくよかな音楽を作る実に素晴らしいviolinistで、とても気持ちの良い演奏でした。聴衆は少なかったですが、みんな大満足でした。通訳をしたのが縁で、夜中過ぎまで打ち上げにおつきあいして、とてもいろいろなお話ができました。つくばって、こういうところはすごくいいですよ。皆さん、ノバホールにも一度どうぞ!でもホールの周りは夜、店が閉まってしまうところが多く、二次会の会場はファミリーレストランのロイヤルホストになってしまいましたが。(4/14)

BrittenのSpring Symphony

 雨の桜並木を運転していたら、FMから懐かしい曲が流れてきました。ブリテンの春の交響曲です。雨続きで忘れてしまいがちですが、今、春真っ盛りなんですね。私はまだイギリスに行ったことがない(今年の夏に行けるかも?)ので、イギリスの春ってどんな感じか知りません。この曲、春の交響曲といっても、渋いですよねえ。2年前の今頃、アメリカの合唱団で、この曲を歌いました。(ちなみに、この写真は1996年11月のBeethovenの第9のコンサートの時のものだと思うので、私も写っているはずですが、わかります?)

 それにしても、ブリテンのオーケストラ付の合唱曲は日本であんまり聴きませんね。やはりアメリカで歌った「5つの花の歌」の方が有名でしょうか。アカペラですが。Brittenの響きは、あまり日常耳にできないイギリスの感性を感じさせてくれます。春の盛りのうちに、Brittenの自然描写をもう少し味わってみたくなりました。(4/9)

OrffのCarmina Burana

 消し忘れたTVから、Carmina Buranaが流れてきたので何かと思ってみると、深夜番組で、何かにつけてCarmina Buranaのいろいろな部分が使われていました。どうやら、運命の女神と引っかけているらしい。この曲、私はアメリカでヨアフ・タルミ指揮サンディエゴ交響楽団と共演した思い出があります。合唱団の中でただ一人の英語を母国語としないメンバーとして、しかも5週間で仕上げてしまうという猛烈に密度の濃い練習は新鮮でした。これを練習しているとき、いろいろなCDを聴いたのですが、あまり話題に上らないわりにとても気に入ったのが、Leonard Slatkin 指揮 St. Louis Symphonyの演奏です。シルヴィア・マクネアーのソプラノが絶品です。(4/7)

Leonard Slatkin のこと

 アメリカに住んでいた間、Leonard Slatkinの演奏会を二回聴きました。一度目は長年の手兵だったSt. Louis Symphonyを指揮しての、Beethoven 交響曲第7番など。二度目は、Washington National SymphonyとのBeethovenのMissa Solemnisでした。Slatkinは以前N響にも何度か客演し、N響の常任指揮者は、DutoitでなかったらSlatkinかと噂されたこともあったようですね。アメリカでは、自国生まれの数少ないマエストロとして、大きな尊敬を集めています。とても堅実な指揮ぶりで、派手さはありませんが、安定して充実した音楽を聴かせてくれる指揮者だと思います。彼が長年育て上げたSt. Louis Symphonyのdirectorをやめて、Washington DCに移ったとき、意外に思った人が多かったようです。ちょうどその時アメリカに住んでいたのですが、新聞によれば、彼はアメリカのクラシック音楽の将来を憂慮しており、ホワイトハウスのあるWashington DCに住んで、政治を動かしてクラシック音楽を盛り立てていこうとしているのではないかとのことでした。日本でまた聴いてみたい指揮者です。(4/7)

ブラームス雑感

 ピアニストのブルーノ・レオナルド・ゲルバーがN響に客演して、Brahmsの1番の協奏曲を弾いたそうですね。このピアニスト、ずいぶん昔にBeethovenの協奏曲の実演を聴いてとても気に入っていたのですが、今回は忙しくて、コンサートはおろか、衛星放送も見逃してしまいました。いつもお世話になっている飲み友だちのKさんが大好きな曲だそうです。私も学生の頃はバックハウスやゼルキンの演奏など、よく聴いたものです。そこで久しぶりにと思って、ギレリス/ヨッフムのCDを聴いてみたのですが、今一つ最近の自分の好みと合いません。

 高校生の頃はブラームスが大好きで、交響曲や協奏曲をよく聴いていました。いわゆるドイツ即物主義というのでしょうか、堅い演奏が好きでした。大学に入って合唱をやるようになり、ネーニエ運命の歌運命の女神の歌、そしてドイツレクイエムを何度も歌いました。アルトラプソディはまだ歌ったことがなく、あこがれていますが。ブラームスの歌心?がゆっくり少しずつわかるようになり、ブラームス像が変わって来ました。故人となられた山田一雄先生の指揮による運命の歌や、ベルンハルト・クレー指揮のドイツレクイエムなど、とても印象的なコンサートでした。優れた音楽家と共演したときに得られる、独特の高揚感を体験すると、自分の世界が拡がったように感じます。ドイツのオーケストラで長年活躍された元東京交響楽団コンサートマスターでヴァイオリニストの西田博先生(現在は確か武蔵野音楽大学教授)とお会いしたとき、音楽の「立体感」をいうことを強調されていたことを思い出します。

 ブラームスは、バッハと並んで、大作曲家の中では珍しいプロテスタントですね。そのためドイツレクイエムは、聖書のいろいろなところから歌詞が取られています。聖書を読んでいると、あ、これはドイツレクイエムのあの部分だ!とはっとすることがあります。歌詞の深い意味を勉強すると、それが音楽の理解にもつながり、気がつかなかったいろいろな側面が見えてくるのは、楽しい体験です。(4/6/98)

二人の古楽の巨匠との出会い

 指揮者、オルガニストの鈴木雅明先生に一度お目にかかったことがあります。私の友人で聖路加病院に勤めておられた方がいて、その方の依頼で聖路加病院の礼拝堂で二度ほど歌ったことがあります。一度はメサイア全曲でした。確かそのリハーサルの時でしたでしょうか、聖路加病院の礼拝堂に行ったとき、折しもガルニエ氏(フランスの有名なオルガン制作者で、東京芸術劇場のオルガンなどを建造した方)が立派なオルガンをほぼ建設し終えたところで、鈴木先生がそのオルガンをご覧にいらっしゃっていました。不勉強な私はどんな偉い先生であるかも知らずに、気軽にお話をしてしまいました。その後BCJ(バッハコレギウムジャパン)を結成された鈴木先生の御活躍ぶりを拝見する度に、その時のことを思い出して恐縮しています。来週のヨハネ受難曲が楽しみです。

 Christopher Hogwoodが来日したときに、彼の指揮で二度歌ったことがあります。一度目はメサイア全曲で、その時はHogwoodが単身で来日し、日本のオリジナル楽器のオーケストラを指揮したコンサート。合唱団のマネージャーから、Hogwood氏をホテルまで迎えに行ってタクシーでリハーサル会場に連れてくることを依頼され、タクシーの中でHogwood氏とお話しできたのは、とてもラッキーでした。ほんの10分くらいのことでしたが、一生の思い出ですね。その翌年に今度はThe Academy of Ancient Musicと共に再来日したとき、Mozartのハ長調のミサ曲(戴冠ミサ)を歌いました。このコンサートが終わった後、幸運にも指揮者やオーケストラのメンバーを囲むパーティーに参加する機会を与えられ、Hogwood氏やオーケストラのメンバーの方々といろいろなお話をすることができました。オリジナル楽器のヴァイオリン奏者として名高いイギリス人のサイモン・スタンデイジ氏はその時のコンサートマスターで、気さくな素敵な方だったことを思い出します。このパーティーの時、オリジナル楽器でベルリオーズ、ブラームス、ワーグナーなどを演奏する計画があるという話を聞いてびっくりしたのですが、その後ノリントンなどの指揮でどれも実現しましたね!これらのCD、おすすめです。(4/3)

バッハ シュメルリ歌曲集

 笑い話ですが、私は高校時代、芸大出身のS先生から、「君は芸大の指揮科に行きなさい」と勧められたことがあります。ちなみにこの先生は音楽の先生ではなくて芸大の油絵科御出身の美術の先生ですが(笑)!音楽の先生からは何も言われなかった(笑)。この先生、今も現役の画家として御活躍中ですが、大のバッハファンで、御自宅にチェンバロをお持ちなほどです。卒業後何年もたってからこの先生の絵の個展にお招きいただいいた折にお目にかかったところ、その後バッハのシュメルリ歌曲集の楽譜を送って下さいました。これは君が一生かけて歌いなさいと書き添えてありました。不勉強な私はそれから何年もたつのに、きちんと勉強していません。ペーター・シュライヤーとカール・リヒターのすてきなCDが出ています。なかなか時間が取れないし、美しく聴かせるのがあまりに難しくて、歌っていても自分の声にがっかりしてしまうのですが、そろそろドイツリートを勉強したいなあ。(4/3)

古関裕而歌曲集 藍川由美(ソプラノ)

 子供の頃、TVののど自慢番組の審査員に、人の良さそうなおじさんが出ていたのが印象に残っています。それが古関裕而氏。博士号をお持ちのソプラノの先生が、氏の作品を日本歌曲の歴史の中で捉え直したというCDを聴きました。聴いていてとても楽しめますし、すごく歌ってみたくなります。「長崎の鐘」など、ナツメロ番組で聴くのとはひと味違って、すっきりとした味わいがあり美しいです。今度カラオケで挑戦してみようかな。ピアノ伴奏して下さる方がいらっしゃれば、なおうれしいです。(4/1/98)

ショルティ指揮 ウィーンフィル オペラ「ヘンゼルとグレーテル」

 定価3000円のビデオはお買い得?なるほどフンパーディンクはワーグナーの弟子だったんだと納得する、ショルティ節。ファスベンダーとグルベローヴァのヘンゼルとグレーテル、プライのお父さんは定番として、魔女役が素晴らしい。魔女のアリアは絶叫調になりやすくて、おもしろく聴かせるのは難しいと思うのですが、なかなかの出来です。私は昔から、SzellSoltiの指揮が大好きなんですが、日本にあまりファンが多くないのはなぜだろう。(3/29/98)

Brahms Symphony No.2 (Sawallisch/ London Philharmonic)
 1997年11月にSawallischがN響を指揮した時、めずらしく2回もNHKホールに足を運び ました。Thomas Hampson (Baritone)のSchubertの歌曲も、Brahmsの Ein Deutshces Requiemもよかったけれど、一番印象に残ったのは、 Schubertの長いハ長調の交響曲。(8番て言うのでしょうか?) ドイツ系の指揮者は、老境に入るとテンポが遅くなるとよく言われますが、 きびきびとした演奏は、曲の長さを全く感じさせないものでした。 このBrahmsのCDも、予想以上に新鮮な解釈が印象的でした。 アーノンクールやノリントンを好む私ですが、どうしてどうしてサヴァリッシュ先生の 解釈も充分刺激的ですね。(3/25/98)

Verdi Requiem
 ムーティ指揮のCDは、Pavarottiのソロの凄さはいつも通りですが、ミラノ・スカラ座の合唱団の発声のすばらしさ にうなってしまいました。こんな人たちと一緒に歌ったらすごいだろうなあ!(3/25/98) 最近おもしろいと思っているのがフリッチャイ指揮の演奏。(11/3)


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