よいPilotとは
まだ訓練生だったころの話です。狙った場所に着陸できるようになってきて、自分の操縦に自信がついてきました。そこで教官の一言。「着陸が上手い人がいいPilotってわけでもないんだ」と。彼が言うには、操縦が上手なことも大事なことだけれど、非常事態の中いかに冷静に対処できるか、それが出来るのがいいPilotだと。そのころの私は、緊急時の訓練で、教官にPowerを絞られただけで心臓の鼓動が大きくなっていたほどなので、それは自分にはまだ無理だなと思いました。燃料切れでGliderになってしまったBoeing767や、4発同時にEngineがとまったBoeing747の話を聞きますが、あのような状況を切り抜けたPilotには尊敬の念を抱かずにはいられません。
実は一緒に飛行機に乗って操縦の技量を見なくても、そのPilotの技量は、地上での飛行機の取り扱い方を見てだいたいわかります。「この人は無線交信とChecklistと、地上走行とで頭がいっぱいになっている」、「この人は状況判断ができていない」、「この人は少しSystemを勉強した方が…」など。地上で飛行機を上手く扱えない人が、果たして上空で上手く扱えるでしょうか?では、私が普段地上にいて思うことを、それぞれの状況に分けて語ってみたいと思います。
1. Pre-flight Inspection
Pilotは操縦席の中を覗いています。どうやらMaster Switchを入れて、無線機器を確かめているようです。それだけなら、短時間なら別に問題はないのですが、困ったことに飛行機のLightは全部点灯しています。
<Propからのお願い>
短時間であっても、電源を節約する心構えは持ってください。不必要な物はOffです。GPSの使い方を見るだけなら、Transponderは必要ありませんし、当然Landing LightもAnti-Collision Lightも要りません。
2. Engine Start
Fuel Injection装備のEngineを掛けようとしています。なかなか掛からずに、何度も試しています。
<Propからのお願い>
このEngineはFuel Injectionを装備しているので、Carburetor装備のEngineのようにThrottleをPumpingしても、何の効果もありません。始動時のThrottleの開けすぎはMixtureを薄くするので、Engineが冷えている時は始動しづらくなります。一度Throttle開度を決めたら、Engineが掛かるまで特に動かす必要はありません。
この飛行機はSpark Plugがカブってしまったようで、離陸を断念して帰ってきました。
<Propからのお願い>
Engineの温度が上がるにつれて、燃料の気化効率が上がってMixtureも徐々に濃くなっていきます。始動後はEngineが暖まるにつれ、Mixtureも再調節をしてください。低回転ではEGT (Exhaust Gas Temperature) も低いため、Engineの回転数が下がる直前までMixtureを絞ってもExhaust Valveを破損するようなことはまずありません。また、可能な限りは1000rpm前後を維持して、Spark Plugのカブりを防ぎます。
3. Taxi Out
私もParking SpotでEngineを掛けて、そのままTaxi Outすることはあります。でもこの状況はどうでしょう?後ろに見える格納庫の扉は大きく開いています。あなたはこのCessna182Sに乗るとして、この場でEngineを掛けますか?
<Propからのお願い>
仮に低回転であっても、Propeller後流は相当なものです。格納庫内の書類は全て飛び散ってしまうでしょう。整備士は私のように穏やかな人ばかりではありません。ほとんどは荒くれの野郎ばかりです。そして、Parking SpotからEngineを掛けて出発する時は、1000rpm以下の低回転で出られる技量がある人に限ってください。Engineを思い切り吹かし、BrakeをLockしながら、飛行機を揺らしながらのTaxi Outを見ますが、これほど醜く危険なものはありません。自分の腕の無さを披露しているようなものです。静かなTaxi Outが出来ない人や、それが構造上無理な尾輪式飛行機の場合は、予めTaxiwayに飛行機を引いてからEngine Startをしてください。
4. Taxiing
目の前のTaxiwayが塞がっているから、空いているここを通って…。飛行機はSUVではありません。翼を他の飛行機に当ててしまったり、Propellerに縄がからまることもあります。
飛行機は速く飛ぶものであって、速く走るものではありません。それはそうですが、平地なのに何故か高回転、そして速度が上がらず、低速度で走る飛行機。心なしかキーキーと音がします。
<Propからのお願い>
駐機場は安全のために静かにゆっくりと通過してください。周りには作業中の整備士や、飛行前点検をしている人もいます。ひょっとしたら子供が走り回っているかもしれません。そしてBrakeを引きずったままTaxiingはしないようにしてください。小型機ではRudder PedalにBrakeが装備されていて、無意識にBrakeを踏んでいることがあります。通常Brakeが必要なのは、減速と停止の時、そして小回りする最初の時だけで、それ以外の旋回ではRudder操作だけで十分です。不必要なBrake操作は磨耗を早めるだけです。
5. Taxi In
着陸後、駐機場に向けてTaxiing中の飛行機です。昼間の地上でTaxi/Landing Lightは必要ありません。
<Propからのお願い>
着陸して安心してしまったのでしょうか。それでも、After Landing Checkは忘れずに。紙のChecklistだけに頼らず、言葉でのChecklistを身に付けておくと助けになります。例えば、「Gas、Mixture、Light、Radio、Flaps…」など、自然に口から出るようにしておきます。違う飛行機に乗り換えてもCheckする項目はほとんど一緒なので便利です。飛行機の灯火類は寿命がとても短いです。今夜、夜間飛行をする人のためも節約しましょう。
こうして地上でPilotの方々の飛行機の取り扱いを見ていて、どうしても悪い部分ばかり見えてしまいます。Negativeな話で申し訳ないのですが、今回はして欲しくないこと、してはいけないことを題材にしてみました。人ごとではなく、実は私も思い当たる節があります。楽しい飛行のためにも、空港内の他の人々の安全のためにも、飛行機は常に丁寧に取り扱いましょう。
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