2003年5月22日に安全保障理事会がその第4761回会合において 採択した決議第1483号(2003)(日本政府訳)
 
 
 
安全保障理事会は、

 同理事会の従前のすべての関連する決議を想起し、
 
 イラクの主権及び領土保全を再確認し、
 
 また、イラクの大量破壊兵器の武装解除及び最終的には武装解除を確認することの重要性を 再確認し、
 
 イラク国民が自由に自らの政治的将来を決定し自らの天然資源を管理する権利を強調し、ま た、これらのことが可能となる状況を可能な限り早急につくり出すことを支持するすべての関 係する当事者のコミットメントを歓迎するとともに、イラク人が自らを統治する日が早急に訪 れなければならないとの決意を表明し、
 
 すべてのイラク市民に対して民族、宗教又は性別にかかわりなく平等な権利と正義を与える 法の支配に基づいた代表政府を形成するためのイラク国民による努力を奨励し、また、この関 連で、2000年10月31日の決議1325号(2000)を想起し、
 
 この点に関するイラク国民の最初の数歩を歓迎するとともに、この関連で2003年4月1 5日のナシリアの声明及び2003年4月28日のバグダッドの声明に留意し、
 
 人道的救済、イラクの復興及び代表制による統治のための国家及び地方の組織の回復及び設 立において、国連が重大な役割を果たすべきであることを決意し、
 
 先進7カ国グループの蔵相及び中央銀行総裁による2003年4月12日の声明において、 メンバー国が、イラクの再建及び発展を助ける多数国間の努力の必要性並びにこれらの努力に おける国際通貨基金及び世界銀行からの支援の必要性を認識したことに留意し、
 
 また、人道支援の再開並びに事務総長及び専門機関によるイラク国民に対する食料及び医薬 品の供給の努力の継続を歓迎し、
 
 事務総長によるイラクに関する事務総長特別顧問の任命を歓迎し、
 
 イラクの前政権により行われた犯罪及び残虐行為に対する責任の所在を明らかにする必要性 を確認し、
 
 イラクの考古学上、歴史上、文化上及び宗教上の遺産に対し敬意を払い、並びに考古学上、 歴史上、文化上及び宗教上の場所、博物館、図書館及び記念碑を引き続き保護することの必要 性を強調し、
 
 アメリカ合衆国及びグレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国の常駐代表発安全保障 理事会議長宛2003年5月8日付け書簡(S/2003/538)に留意するとともに、統 合された司令部(「当局」)の下にある占領国としてのこれらの諸国の関係国際法の下での特定 の権限、責任及び義務を認識し、 
 
 さらに、占領国でないその他の諸国が当局の下で現在活動している、又は将来活動しうるこ とに留意し、
 
 さらに、当局の下で要員、機材及びその他の資源を提供することにより、イラクの安定及び 安全に貢献するとの加盟国の意思を歓迎し、
 
 多くのクウェート国民及び第三国の国民の所在が、1990年8月2日以降、依然として明 らかでないことを懸念し、
 
 イラクの情勢は、改善されたものの、引き続き国際の平和及び安全に対する脅威を構成する と認定し、
  
 国際連合憲章第7章の下に行動して、
 
 
  
1 加盟国及び関係機関に対し、制度を改革し国家を再建する努力につき、 イラク国民を援 助するとともに、本決議に従いイラクにおける安定及び 安全の状態に貢献するよう訴える。
 
2 その立場にあるすべての加盟国に対し、国連及びその他の国際機関の イラクのための人 道アピールに直ちに応え、食糧、医療品並びにイラクの経済インフラの復興及び復旧に必要 な資源を提供することによってイラク国民の人道上その他の要請を満たすよう支援をするよ う要請する。
 
3 加盟国に対し、犯罪及び残虐行為に責任があるとの疑いのあるイラクの前政権の構成員に 安全な避難所を提供することを拒否し、それらの者に法の裁きを受けさせる行動を支援する よう訴える。
 
4 当局に対し、国際連合憲章及びその他の関連国際法に従い、特に、安全で安定した状態の 回復及びイラク国民が自らの政治的将来を自由に決定できる状態の創出に向けて努力する ことを含む、領土の実効的な統治を通じてイラク国民の福祉を増進することを要請する。

5 すべての関係者に対し、特に1949年のジュネーブ諸条約及び1907年のハーグ陸戦  規則を含む国際法上の義務を完全に遵守するよう要請する。
 
6 当局並びに関連機関及び個人に対し、イラクの前政権が実施しなかった、1990年8月 2日以降イラクに所在するすべてのクウェート国民及び第三国民又はその遺骨並びにクウェ ートの公文書の所在を特定し確認し帰還させる努力を継続するよう要請するとともに、この 点に関し、高等調整官に対し、国際赤十字委員会及び三者委員会と協議しつつ、またイラク 国民の適切な支援を得て、当局と調整しながら、クウェート及び第三国の行方不明となって いる国民及び財産の行方に関する任務の実施のための措置をとることを指示する。

7 すべての加盟国は、1990年8月6日の決議第661号(1990)の採択以降、イラ ク国立博物館、国立図書館及びイラク内のその他の場所から不法に持ち出されたイラクの文 化財及び考古学上の、歴史上の、文化上の、稀有な科学上の及び宗教上の重要性を有するそ の他の物品がイラクの諸機関に安全に返還されることを容易にするために、そのような物品 及び不法に持ち出されたとの合理的な疑いが存在する物品の取引又は移転の禁止措置を設け ることを含む、適切な措置をとることを決定するとともに、国連教育科学文化機関、インタ ーポール及びその他の国際機関に対し、適当な場合に、この規定の実施を支援するよう要請 する。

8 事務総長に対し、イラク特別代表を任命するよう要請する。その独立した責任は、本決議 の下での同代表の活動に関する同理事会への定期的な報告、イラクの紛争後のプロセスにお ける国連の活動の調整、イラクにおける人道支援及び復興活動に従事する国連及び国際機関 の間の調整、並びに当局と調整しつつ以下の活動を通じてイラク国民を支援することに関連 する。
 (a)国連機関による、及び国連機関と非政府組織の間の人道及び復興支援を調整すること。
 (b)難民及び国内避難民の安全で秩序ある自発的な帰還を促進すること。
 (c)国際的に承認されたイラクの代表政府にいたるプロセスを容易にするために協力する ことを含む、代表制による統治のための国家及び地方の機関を回復及び設立するため の努力を促進するために、当局、イラク国民及びその他の関係者と集中的に取り組む こと。
 (d)他の国際機関と協力して、基幹インフラの再建を容易にすること。
 (e)国家及び地方機関、適当な場合には、市民社会、援助国及び国際金融機関との調整を 通じたものを含む、経済の再建及び持続的発展のための条件を促進すること。
 (f)基礎的な民生の行政機能に貢献するための国際的な努力を慫慂すること。
 (g)人権の保護を促進すること。
 (h)イラクの文民警察の能力を再建するための国際的な努力を慫慂すること。
 (i)法制及び司法の改革を促進するための国際的な努力を慫慂すること。
 
9 国際的に承認された代表政府が、イラク国民により樹立され当局の責任を引き受けるまで の間、イラク国民が、当局の支援及び特別代表の協力を得て、自ら運営する移行行政機関と してのイラク暫定行政機構を形成することを支援する。
 
10 本決議及びその他の関連決議の目的を果たすために当局により必要とされるもの以外のイ ラクに対する武器及び関連物資の売却又は供給に関する禁止措置を例外として、決議第66 1号(1990)及び1992年10月2日の決議第778号(1992)を含むその後の 関連決議により設定されたイラクとの取引及びイラクへの金融又は経済資源の提供に関する すべての禁止措置は、もはや適用されないことを決定する。
 
11 イラクがその武装解除の義務を果たさなければならないことを再確認し、グレート・ブリ テン及び北アイルランド連合王国及びアメリカ合衆国に対し、この点に関する自らの活動に つき同理事会に報告するよう慫慂し、さらに1991年4月3日の決議第687号(199 1)、1999年12月17日の決議第1284号(1999)及び2002年11月8日 の決議第1441号(2002)に規定される国連監視検証査察委員会及び国際原子力機関 の権限を再検討する同理事会の意思を強調する。
 
12 イラク中央銀行に保有されるイラク開発基金が設立され、同基金の国際諮問監視理事会に より認可された独立した公認会計士により監査されることに留意するとともに、事務総長、 国際通貨基金専務理事、アラブ社会経済開発基金事務局長及び世界銀行総裁の正式な資格を 有する代表者が含まれる当該国際諮問監視理事会の早期の会合を期待する。

13 さらに、イラク開発基金の資金は、当局の指示により、イラク暫定行政機構と協議の上、 下記の14の規定に定められた目的のために支出されることに留意する。
 
14 イラク開発基金は、イラク国民の人道上の要請を満たすため、イラクのインフラの修復及 び経済再建のため、イラクの武装解除の継続のため、イラクの民政の行政機能の費用のため、 及びイラク国民に恩恵を与えるその他の目的のために、透明性のある方法で使用されること を強調する。
 
15 国際金融機関に対し、経済の再建及び発展においてイラク国民を支援すること、並びによ り広範なドナー社会による支援を容易にすることを要請するとともに、パリ・クラブに所属 するものを含む債権者がイラクのソブリン債務問題の解決を探求する用意があることを歓迎 する。
 
16 また、事務総長に対し、当局と調整しつつ、本決議の採択から6ヶ月間、2003年3月 28日の安保理決議第1472号(2003)及び2003年4月24日の決議第1476 号(2003)の下でのその責任の執行を継続し、現在実施中のオイル・フォー・フード計 画(「計画」)をこの期間中に最も費用効果的な方法で本部レベル及び現場の双方で終了し、 以下の必要な措置をとることを含め、計画の下での残されたいかなる活動の運営責任も当局 に移行することを要請する。
 (a)当局及びイラク暫定行政機構と調整しつつ、事務総長及び同事務総長により任命され た代表者により確認された優先的民生品の輸送及び認可された配布を、イラクの前政 権によりこれまでに締結され、承認され、また資金手当された契約に従ってイラク国 民の人道支援のために、できるだけ早期に容易にすること。右には、必要に応じて、 決議第1472号(2003)の4(d)の規定に定められたこれらの契約及び個々の信 用状の条件の修正について交渉することが含まれる。
 (b)契約の中に現在及び復興期間中のイラク国民の要請を満たすために必要な品目が含ま れているか否かを決定するために、状況の変化に照らしつつ、当局及びイラク暫定行 政機構と調整しながら、個別の承認され資金手当された契約の相対的な効用を再確認 すること、また、効用について疑問があると決定された契約及びこれらそれぞれの信 用状についての行動については、国際的に承認されたイラクの代表政府がそのような 契約を履行するか否かにつき決定できる立場になるまで、延期すること。
 (c)安全保障理事会に対し、同理事会の再確認及び検討のために、本決議の採択から21 日以内に、1995年4月14日の決議第986号(1995)の8(d)の規定に従い 設置された口座に既に保留されている資金に基づいた運営予算の見積りを提出し、以 下を特定すること。
  (1)本決議の履行に関連する活動が継続的に機能することを確保す るために必要とな る既知の又は見積もられた国連に対するすべての費用。右には本部及び現場におい て計画の履行に責任を有する関連国連機関及び計画に関連する運営及び管理費用が 含まれる。
  (2)計画の終了に関連する既知の又は見積もられたすべての費用。
  (3)決議第778号(1992)の1の規定において要請されている加盟国より事務総 長に提供されたイラク政府の資金を回復することに関連する既知の又は見積もられ たすべての費用。
  (4)上記の6箇月の間の、特別代表及び国際諮問監視理事会に務める事務総長の代表者 に関連する既知の又は見積もられたすべての費用。これらの費用はその後国連によ って負担される。
 (d)決議第986号(1995)の8(a)及び8(b)の規定に従い設置された口座を単一の基 金に統合すること。
 (e)計画の下でこれまで事務総長と契約上の義務を負った当事者との間で、決議第986 号(1995)の8(a)及び8(b)の規定に従い設置されたエスクロウ口座からなされる いかなる必要な精算支払いについても、最も費用効果的な方法で交渉することを含め、 計画の終了に関連する残されたすべての義務を履行すること、及び当局及びイラク暫 定行政機構と協調しつつ、決議第986号(1995)の8(b)及び8(d)の規定に従い 設置された口座の下で国連及び関連国連機関により実行された契約の将来の位置づけ を決定すること。
 (f)安全保障理事会に対し、計画終了の30日前に、当局及びイラク暫定行政機構と緊密 に調整の上で策定された、すべての関連文書の当局への引渡し及び計画のすべての運 営上の責任の当局への移転につながる包括的計画を提供すること。
 
17 さらに、事務総長が決議第986号(1995)の8(a)及び8(b)の規定に従い設置された口 座にある使途の決定していない資金から10億米ドルを可能な限り早期にイラク開発基金に 移管し、決議第778号(1992)の1の規定の要請により加盟国より事務総長に提供さ れたイラク政府の資金を回復することを要請し、残された債務を含め、上記16(C)の規定に 示された認可された契約の輸送及び計画に対する費用に関連するすべての関連国連経費を控 除した後、決議第986号(1995)の8(a)、8(b)、8(d)及び8(f)の規定に従い設置され たエスクロウ口座のすべての余剰資金を可能な限り早期にイラク開発基金に移管することを 決定する。
 
18 本決議の採択をもって、イラクからの石油及び石油製品の輸出の監視を含む、計画の下で 事務総長により実施されている観察及び監視活動に関する機能を終了させることを決定する。
 
19 上記16の規定で求められている6箇月間が終了するときに、決議第661号(1990) の6の規定に従い設置された委員会を終了させることを決定し、さらに、同委員会は下記の 23の規定に言及されている個人及び団体を特定することを決定する。
 
20 この決議の採択の日以降、イラクからの石油、石油製品及び天然ガスのすべての輸出販売 は、国際市場における最良の慣行に一致させること、また透明性を確保するために上記の12 の規定に言及されている国際諮問監視理事会に報告する独立した公認会計士による監査を受 けることを決定し、さらに、下記の21の規定に定められる場合を除き、そのような販売から 得られるすべての収益は、国際的に承認されたイラクの代表政府が適切に樹立されるまで、 イラク開発基金に入金されることを決定する。
 
21 さらに、上記の20の規定に言及されている収益の5%は、決議第687号(1991)及 びそれ以降の関連決議に従い設置された賠償基金に入金され、また国際的に承認されたイラ クの代表政府及び国連賠償委員会の運営委員会が、賠償基金に支払いがなされることを確保 する方法に対する権限の行使において別途の決定を行わない限り、この規定は適切に樹立さ れた国際的に承認されたイラクの代表政府及びいかなる後継政権をも拘束することを決定す る。
 
22 国際的に承認されたイラクの代表政府の設立の意義及び上記15の規定に言及されているイ ラクの債務の再編成の迅速な完了が望まれることに留意しつつ、さらに、安全保障理事会が 別途の決定を行わない限り、2007年12月31日まで、イラク原産の石油、石油製品及 び天然ガスは、権利が最初の購入者に移転するまでの間、訴訟手続から免除され、いかなる 形式の差押え、債権差押え及び執行の対象とはならないこと、すべての国家が、それぞれの 国内法制度の下で、この保護を確保するために必要となるいかなる措置もとること、及び、 それらの売却から生じる収益及び債務は、イラク開発基金と同様に、国連が享受するものと 同等の特権免除を享受することを決定する。ただし、上記の特権免除は、本決議が採択され た日以降に生じる石油流出を含む生態系への事故に関連して査定される損害賠償責任を果た すためにそれらの収益又は債務に遡求することが必要となるいかなる法的手続きに関しても 適用しない。
   
23 (a)本決議採択の日にイラクの領域外に所在するイラクの前政権又はその国家組織、企 業若しくは機関の資金又はその他の金融資産又は経済資源、(b)サッダーム・フセイン又 は前イラク政権のその他の政府高官及びそれらの近親の家族の構成員(それらの者又は彼ら の代理として若しくは彼らの指示により行動する者により、直接的又は間接的に、所有又は 支配される団体も含む)によりイラク領外に持ち出され又は獲得された資金又はその他の金 経済資源を遅滞なく凍結し、また、これらの資金又はその他の金融資産又は経済資源自体が これまでに司法、行政又は仲裁上の担保又は判決の対象となっていない限り、即時にイラク 開発資金に移管するものとし、別段の言及のない限り、民間の個人又は非政府団体による移 管された資金又はその他の金融資産に関する請求は、国際的に承認されたイラクの代表政府 に対して提示することができると了解することを決定する。さらに、そのようなすべての資 金又はその他の金融資産又は経済資源は、22の規定の下で与えられるのと同様の特権免除及 び保護を享受することを決定する。
   
24 事務総長に対し、本決議の履行に関する特別代表の活動及び国際諮問監視理事会の作業に ついて定期的に安全保障理事会に報告することを要請するとともに、グレート・ブリテン及 び北アイルランド連合王国及びアメリカ合衆国に対し、本決議の下での努力について同理事 会に対して定期的に通報するよう慫慂する。 
 
25 採択から12箇月以内に本決議の履行につき評価し、必要となる更なる措置を検討するこ とを決定する。
 
26 加盟国並びに国際的及び地域的機関に対し、本決議の履行に貢献するよう要請する。 
 
27 この問題に引き続き関与することを決定する。