イラクを攻撃したら何が起こるか
――予想される戦争のシナリオ メダクトの報告書より――
緊急! メダクトが、イギリスのブレア首相にイラク攻撃を止めるよう要望する
署名を行っています。
イギリスの医療専門家組織「メダクト」が、過去の戦争の報告などをもとに、イラクへの攻撃にかんする推計を発表しました。
淡々とした報告ですが、私たちはその中から、私たちと同じように日々を生きるイラクの人たちに、何が起ころうとしているのかをできる限り想像
してみる必要があると思います。
※
メダクト
ノーベル平和賞を1985年に受賞した核戦争防止国際医師会議
(International Physicians for the Prevention of Nuclear War)
傘下の英国の医療専門家組織
メダクトの報告では、もし今回イラクを攻撃するなら、1991年の湾岸戦争
よりはるかに激しく、破壊的な戦闘になるだろうと予想しています。
「米国のイラク攻撃の公然の目的はサダム・フセインの封じ込めから交替、つまり「政権の交替」、または少なくとも「指導者の交替」へと変化し
た。このために、そしてまたこの間に開発された新型でより破壊的な武器の使用により、戦闘は1991年のものよりはるかに激しく、破壊的になる
であろう。」
メダクト報告「予想される戦争のシナリオ」より
では、湾岸戦争はどのような戦争だったのでしょうか。当時のテレビからは、軍事関連施設だけをピンポイントでねらい、誤爆
以外は民間人を殺傷しない戦争であるかのような映像が流れていました。しかし、その後明らかになった実態は、そうした映像からイメージさ
れるものとはまったく違っていました。
イラクに投下された爆弾は88,500トンにものぼりますが、そのうち落下地点制御装置のあるスマート爆弾はわずか6,520トンに過ぎず、
爆撃の約九三%は高高度からの無差別爆撃だったそうです。
子弾を202発搭載したCBU-87CEMという汎用クラスター爆弾は、1万発も投下されましたし、南部のバスラなど重要目標が少ない地域では、米軍は無差別のじゅうたん爆撃を行ったということです。
劣化ウラン弾はイラク全土に落とされ、汚染されてない土地はほとんどないとの事です。公式な数字で約95万発(劣化ウラン約320トン)が投下されたそうです。
メダクトは、今回攻撃をはじめた場合、人口500万を擁するといわれるバグダッドに対して、クラスター爆弾や気化爆弾などの広域破壊兵器を使用したり、
じゅうたん爆撃を行ったりするだろうと予測しています。
「空中戦ほぼ完了後、また政権が原油から切り離された後、(アメリカと連合軍)部隊の配備は急速にバグダッドに向かう。これは精鋭の(イラ
ク)共和国防衛軍やその他の部隊が街の防衛に全力を傾けるよう政権をしむけるためである。これによりイラクは精密誘導兵器、じゅうたん爆
撃、広域破壊兵器による猛烈な空襲にさらされることになる。」
同上
このあと報告は、イラクが大量破壊兵器で反撃し、イスラエルやイギリス、アメリカが核兵器によってそれに報復した場合へと進みます。
イラクが大量破壊兵器を持っているのかどうかは、まだわかりません。しかし、それは査察によって明らかにし、持っているのならば破棄させるというのがとるべき選択肢であって、
イラクの決議違反を見つけ出して攻撃するという選択肢を、間違っても選ぶべきではないということを、この報告は示しているのではないでしょうか。
「−政権が崩壊に直面し極限状態になると、より多くの生物化学兵器が使用される。目標にはイラク北部、クウェート、カタールにある米軍基地や
おそらくイスラエルが含まれ、後者のケースでは核による反撃をもたらす。アリエル・シャロンはすでに報復の準備があることを表明しており、イ
ギリスはそれを否定しておらず、2002年3月、ジェフ・フーン国防大臣は「状況が適切であれば、我々は進んで核兵器を使用する」と述べている。」
同上
メダクトは、ブルッキングズ研究所 対外政策研究上級研究員の言葉をひいて、短期で攻撃を終わらせて政権交代をさせることはむずかしいと導きます。
そして戦後もなお、内戦や経済的・社会的破綻が続き、人々の流出や飢餓、多くの死者をもたらすだろうと予測します。
「マイケル・オハンロンは言う。『簡単な勝利を当てにすることは…入手可能な証拠によっても、戦闘予測の方法論によ
っても裏付けできない』」
「イラクに対する戦争は恐ろしいリスクを背負っている。すなわち、非常に多くの一般市民が犠牲になり、大量破壊兵器の使用を
もたらす可能性がある。もし政権が早期に崩壊しなければ、シナリオはますます危険なものになり、その予測やコントロールは容易にできなくなる。」
「内戦が起きる可能性は非常に高く、それにより戦争によって誘発された経済的・社会的破綻はさらに悪化し、一層多くの
人々を流出させ、飢餓や多くの死者をもたらす。すでに不安定な中東、中央アジア地域はさらに不安定になり、「西側の支配」を不快に思う多く
の人々に支持されたさらなる準軍事的行動により混乱する。西側を目標にしたテロリストの攻撃の可能性もさらに増える。」
同上
対訳
資料