第9章 サン・オブ・ザ・ビッチ  IHO PUTA

「ラテン男はIHO PUTA (サン・オブ・ザ・ビッチ)よ!覚えておきなさい」そういってローラは苦笑した。

ローラは最近フアン(男性名)とデートをしたが、バーに置き去りにされひどく憤慨していた。確かに、話を聞くとフアンという男はIHO PUTA なのだが、ラテン男がIHO PUTA というのにはちょっと驚いた。私のラテン男の印象は、女性にやさしく、女性を女性として扱うことに長けている人種というものだった。

「ラテン男はね」掴みかからんばかりに私に近づき、そのセクシーな目を見開いて話し始めた。「女を人間だと思ってないのよ。リスペクト(尊敬)がぜんぜんないの!」

スペインでは未だ男尊女卑が残っているようだ。例えば、女性は家のことは全てやらねばならない(共働きの場合も含む)、女性の学歴は重要視されていない、女性から声をかけることはほどんどない、、、。現在はひどい差別はなくなったというが、未だ男性は女性の上であぐらをかいているらしい。どこかで聞いたことがあるような習慣だ。

このような習慣が残っている理由の一つに、男性の人口率が挙げられる。スペインでは、男性の人口は女性のものよりかなり下回っているという。学校においても、バーにおいても、どこでも女性のほうが多い。これは、女性の出生率が高いことが原因とされている。昔は1家族につき4人ほど子供がいて、そのうち上3人は女性だったという。そういえばローラの家庭もそうだ。現在では1−2人しか子供を生まない家庭が多いので、女性の出生率はさらに増えているらしい。

「だからね、絶対にラテン男をつけあがらせちゃだめ」 

スペイン女性は傲慢だというイメージをもっていたが、どうやら、それには男性側に問題があるらしい。確かに今まで出会ったスペイン女性はほとんどコンサバティブ(保守的)で、傲慢と感じたことは一度もない。

「ここではね、女から媚びたりすることは絶対にないの!」

そいういえば、ローラの姉、ホセがアントニオと付き合い出す際に、電話は一度も自分からはしないと言っていた。会いたくてもひたすら電話を待つそうだ。

「TE QUIERO ( I LOVE YOU ) は絶対に言っちゃだめ。」

意外だった。TE QUIEROなどは、1日に100回位言い合っているのかと思っていた。

「TE QUIERO と言ったら最後よ。もうラテン男は自分のものになったと思って他の女に愛想を振り撒き始めるわ。」

情熱のままに恋愛を楽しんでいると思っていたスペイン人は、どうやらかなり慎重でコンサバティブな人種らしい。

こんな、ややこしいラブ・ゲームに敗れ、IHOPUTA と言い放ち、そのすぐ後にお気に入りのマイク(バーテンダー)に流し目をしているローラを見ると、どっちもどっちだな、、、と思わずにはいられなかった。

 

 

戻る