WONCAに行ってきました


  

 

 

 

World Organization of National Colleges, Academies and Academic Association of General Practitionersです。
asia pacific regional conferenceです。


今回の主題が、Family Practice/General Practice as a Global Standardだったからです。
家庭医の世界標準があるなら、どんなものなのかと考えたからです。
しかし、世界標準とは困難なようです。

なぜ今家庭医なのかからです。
感染症などの急性期医療は重要ですが、先進国においては急性期医療、・大手術等の医療の比重は急速に低下し、慢性期医療・生活習慣改善・高齢者医療・それらに対する継続した医療管理が必要になってきたからです。一見派手で、見栄えのする重篤な病に対する処置や手術より、高血圧・糖尿病等の何年にも渡る管理のほうが実は需要が高く、 継続した医療は病院や大学の手には負えないからです。これは各国とも認識を共有していました。
またこれらは、医療費削減につながるのも実証されていました。

もちろん、大学などでも高度に専門化され、特定臓器のさらに特定の病気しか診れない医師では困るという危機感も、逆方向からあります。また、需要の少ない最先端手術など、派手でセンセーショナルなことばかり取り上げるマスコミが阻害要因であるのも共通認識でした。

世界的にみると、半数以上の大学に家庭医のコースがあるのに、日本には実際上ほとんど無いというのは特殊であるのが解りました。

アメリカはかなり充実しています。アメリカでは一部開業医は病院内の治療も担当していますが、それは非効率で少なくなる傾向のようです。往診・在宅医療は全く行ないませんが、25%近くがお産を扱うのが特殊です。イギリスは患者登録が原則で、病院への入院・検査は家庭医を通さないと受けれません。(gate keeping)在宅医療も熱心です。香港では家庭医の4年制研修プログラムが最近制定され、良い制度のようです。しかし、問題は香港で貧富の差が激しく、accesebilityは悪いので、効果は限定的です。北欧モデルは演者が無かったです。韓国の発表時間には別のセッションに出たので、解りません。

オーストラリアにはすばらしいプログラムがあるようです。医師会と政府が患者のニーズに基づいて家庭医を計画的に養成しており、70%は家庭医になるそうです。WHOも賞賛しています。他国からの研修も積極的に受け入れています。

日本の研修制度は無いといっても過言ではありません。昨年から始まった研修制度も、単に種々の科を見てまわるにすぎません。しかし、日本の家庭医の評価は非常に高かったです。それは、平均寿命や乳児死亡率、accessの良さなどからです。日本のように、家庭医に心電図・超音波・レントゲン・内視鏡などまで備えている国は無いようでした。

最近は日本の大学でも一般医(GP)を養成しています。しかし、それは単に外来診療の真似をしているに過ぎないように思われます。単に「特定の臓器ではなく、何でも診ますよ」という研修にしかなりにくいのです。家庭医の本来の役割は、継続して診療を行い患者背景や、家庭や経済環境・福祉事務所等社会資源の活用等に及ばなくてはならないのです。一年間大学の一般医コースにいても、継続して血圧や糖尿病の外来管理を行なうことはまず不可能だからです。下手をすれば、初診患者の他科への振り分け・紹介業務のみです。患者の社会的背景への踏み込みはできません。

また、文献的に確定した数字では1000人のうち1月に750人が不調を感じますが、開業医を受診するのが250人に対し、大学病院を受診するのはたった一人です。大学で診ているのは0.1%にしかすぎないのです。N Engl J Med. 2001 Jun 28;344(26):2021-5.

さて、アメリカの家庭医教育も充実はしています。それなのに、家庭医は急速に減少しています。それはなぜかとフロアから質問がありました。

回答は、アメリカでは自分の金で大学に行く。親が支払うのではない。それだから、卒業すると多額の借金を背負うことになる。家庭医になるより、専門医になったほうが収入は3倍くらいになる。早く借金を返すには家庭医を選べないというものです。北欧では学費はほとんど無料に近いものですが、逆にアメリカのような医師高収入も望めません。香港ではどうかと言われ、香港は親が支払うのでそういう問題は無いとのことです。しかし、親の教育程度と収入レベルが医学部にくる学生を規定してしまうことが問題であるようです。日本も似たようなものでしょう。東大の学生の親の収入が最高レベルなのが知られています。

しかし、アメリカのように自立しているから問題が無いともいえないようです。これだけでも、社会背景で医師も違ってくるのが解ります。オリックスの宮内氏とか経団連奥田氏、大阪大学本間教授あたりも、剥き出しの企業原理・競争原理を医療に持ち込めば効率が良くなるといつも主張しますが、絶対にそんなことにはならないでしょう。アメリカとオーストラリアを比べれば理解できます。

オーストラリアや日本では開業医と専門医の収入には巨大な格差は無く、家庭医の分布割合は極端ではありません。ニーズにマッチした医師分布は良質な医療が提供できます。オリックス宮内式剥き出しの競争原理なら、医師は高収入にはなれるでしょうが、必要な分野に医師が不足し、結局国民が困るのです。ある意味現在の小児科医不足にも通じるのです。経済原理・競争原理だけなら、儲からなくて体力的にきつい小児科医は不足して当然です。もっと勉強しましょう。経済界で少し成功したから、他の世界でもその競争原理が万能であるなど、たわごとを考えるのはやめましょう。国際会議の出席者でそんなことを考えるものはだれもいないでしょう。

わたしはこういうのを、経済至上主義とか経済専門バカと名づけています。専門医の集まりだけで医療が成立しないとの認識と共通します。

インターネットによる情報提供の共有は重視されていました。インターネット無しでは成り立たなくなっています。また、イギリスなどでは電子カルテとカードなどによる患者さんの病歴管理が国を挙げて行なわれており、避けてとおれないのですが、日本では民間がばらばらに電子カルテを開発しているだけで、暗澹たる気持ちになります。電子化には大きな成果が患者さんにあるようです。

家庭医が行なうことと、その養成の議論が煮詰まってコンセンサスができかかったときに、バングラデシュの人が、「わが国の医師でさえコンピューターを持っているのは10%にしか過ぎない。インターネットも整備できていない。先進国の勝手な言い分ばかりで、Global Standardなどありはしない。」と発言があり、多くの拍手をもらっていました。南北間格差・貧富の差も考えさせられました。

発展途上国では、マラリヤ・結核・感染症が重要です。さらに下痢などを防ぐには良質の水が重要であり、抗生物質ではありません。国の状況によって家庭医の役割は異なり、Global Standardは難しいようです。元会長は、「ヨーロッパでも1000年前には水の争奪で戦争が起こっていた。今世紀中にはまた水の争奪のため戦争がはじまる。」といやな予言をしていました。戦争と貧困は、医学の最大の敵です。

しかし、国民一人の年間医療費が500$を越えてくると、かなり共通の土俵には立てるようです。また、医療制度の確立にしても、イギリスモデル、日本モデル、福祉大国で何でも無料に近いが課税率の高い北欧モデル、(失敗例としてのアメリカモデル)等がありますが、どれが良いかWONCAで決めてくれという切実な発展途上国要求がありましたが、WONCAは回答することができませんでした。

各論もまわろうと思ったのですが、主催者が同時刻にすべてのセッションを集中していたので、各1個しか聞けなかったのには腹が立ちました。逆に3日目に少しだけ飛んで講習があるなど、配慮に欠けています。
narrative medicineの実習を選びましたが、カナダの大学で授業を受けているようなものでした。参考にはなりました。

Global Standardとしての、ガイドラインなどの説明もありましたが、常識的なものでした。

山折氏の講演も素人ながら案外的をえた講演で面白かったのですが、マレーシア人で元会長のRajakumar氏も格調高い演説をしていました。

家庭医でも、料金を払い受診する人だけを見ていてはいけない。健康は人類共通の基本的権利であり、健康なくして人権も発揮できない。国連も格調高く宣言を出している。しかし、貧しい国では健康は保証されていない。13億人は1日1ドル以下で生活しているそうです。医療はほとんど成立しません。

国の中でも、農村部等は特にそうである。先進国にできることはたくさんある。と強調されていました。

しかも、縦割りの役人を強烈に非難していました。縦割りの行政組織が整合性のない援助をしたり、二重に同じ援助をしたりするのはありふれています。組織維持が目的としか考えられないような援助もあるようです。

ある貧しい国で、先進国から立派な病院が寄付されました。どこの国でも箱物の援助は見栄えのいいものです。非常に貧しいので、国家医療予算は限られています。次の年から、その国の医療費はこの立派な病院の維持のみに使われました。それくらいの予算しかないのです。都市の一部高級官僚と金持ちだけが健康になりました。

農村部には予算が行かなくなり、農村部の健康状態は悪化したのです。

どこかの国がやっていることです。

地道な努力や成果をマスコミや役人は評価しません。本質は見えていないので、センセーショナリズムにおちいります。「XXの協力でできた立派な病院」の報道は感動でき、見栄えもいいものです。しかし、現地のニーズはまったく違うのです。
利権で儲かる政治家や業者が無かったとしても・・・。
高機能3次医療の病院は、一次医療を充足させ、そのニーズで建設すればよいのだというのが元会長の意見です。数十億円のMR付きの立派な病院より、保健婦養成のニーズが勝る国は多いのです。

また、別のセッションで、WHOのOmi氏もマスコミのセンセーショナリズムは良質な医療の阻害要因であると発言していました。医師にはマスコミ嫌いが多いようです。たとえば、「PET検診」の過大な期待で、他の古い検診を無視するなら、かえって健康レベルが下がりかねません。

家庭医や保健婦を教育し、ワクチン・安価な基本的資材や薬を配布しても、成果は何年も目に見えてきません。報道するようなものでもありません。立派な設備の病院なら成果はすぐに誇れます。役人や政治家やマスコミにとって・・・。

家庭医はこういうことも見えていないといけません。WONCAの標語は、
Think globally, Act locally. です。

  

  

2005.6.1
http://www.oocities.org/kawaiclinic/
〒6050842 京都市東山区六波羅三盛町170 
河合 医院

初級システムアドミニストレーター 河合 尚樹

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多くのpressの札を下げた記者と、多くのテレビカメラが入っていました。
でも報道は無いようです。最先端の技術や手術、画期的科学発見、すばらしい新薬発見などとは無縁の学会だからです。
治療哲学の核心部分の変革、心理学的アプローチの変化、教育方法論の変遷 など重要なパラダイムシフトがありますが、地道な努力はマスコミには見えないでしょう。

episode1
「脳ドック」に関しての発表がありました。どんな反応か見ものだと横で見ていました。質問は当然「何故、科学的で無いそんなものを病院が行なうのか?医師も何故そんなものを勧めるのか?医師としておかしいではないか。」でした。「患者のニーズである」という答えしかできません。演者の答えに納得できず、演者ももうひとつ英語が理解できていないので、私が横槍を入れました。「病院は金儲けになるから行なうのである」。少し納得していました。次は当然、「では何故、患者はそんなものを望むのか?」です。演者と座長が困っているので、再度「マスコミのせいである。テレビや新聞がすばらしいと報道したからだ」と言っておきました。納得したようです。

資本主義経済の悪い側面ですが、 経済至上主義のオリックス宮内氏が経営する病院には、さぞふさわしい検査でしょう。患者のニーズがあり、病院も財政的に潤うので、経済的には大成功です。経済界にとって最大の善です。

国際学会で「脳ドック」「PET検診」など通用はしません。「そのoutcomeはどうだ」と言われるのは目に見えています。発展途上国のドクターから軽蔑のまなざしを受けていました。Think globally, Act locally. 

episode2
出席者の共通認識は、日本にはまともな卒後研修システムが無く、ほとんど機能していないということです。教育する側の大学の研修担当教授からさえ、新研修制度に関しその主旨の発表が相次いでいました。
ところが、家に帰ってきて朝日新聞の第一面を見ると、現在進行中の研修がいかにすばらしいかという大きな特集です。(良医を目指してという特集)
マスコミは本質を掴み取ることができないのが、この2例でもよく解ります。Think globally, Act locally.

逆の Think locally, act globally.とは利益追求の経済専門バカの考えることです。

世界的企業ネスレはアフリカで「母乳よりすばらしい粉ミルク」と誤解を与える宣伝を大量に行ないました。このため、乳児死亡が急激に増加しました。衛生状態の悪い水で粉ミルクを使用し、下痢で大量に死んだのです。こういうことを行なうから、医師から企業・経済界は軽蔑されるのです。

TBSは根拠の無い「自閉症は予防注射の中の微量水銀が原因である。」と放送し、いまだに間違いの検証さえしません。予防接種率が低下すれば、プライマリケア・家庭医療に脅威です。このようなことがあるから、世界中の医師からマスコミは毛嫌いされているのです。

怪しげな健康食品・健康法を次々放送し、視聴率稼ぎばかり考えているから、軽蔑されるのです。

河合 医院の今月の備忘メモ
1.チンピラやくざとしか思えないJR事故記者会見の記者は、各新聞が自分の所ではないと否定してまわり、週刊新潮が決定的に読売と暴くと初めて謝罪した。
2.朝日新聞で悪徳金融業者から、5000万もの金をもらい、記者が自由にしていたことが発覚。ばれなければ、そのまま返金しない予定。3年以上も返金しなかったのだから。悪徳業者から金をもらい記事を書く体質が露呈。
3.朝日新聞が11億円もの脱税をしていたのが発覚。発覚直前に社長交代でもみ消し。責任はあいまいなまま。
4.社長交代時には怪しげな広告は一切排除していたが、交代後はまたぞろ「アトピー悪化はステロイド」式の悪徳広告再開。悪徳業者との癒着は新聞の生命線らしい。