操作する官僚・踊るマスコミ・愚弄される国民


  

 

 

 

2000年11月28日朝日新聞関西版より
健保340組合解散の危機だと、一面トップで大きく載せました。さらに3面でもフォローの大きな記事です。  老人医療の増大が健保組合の存続にかかわる大問題だとの指摘です。 さらに、独自に保険料負担ををおさえて払い戻したり、直営保養所に泊まったりできなくなるのが大問題としています。

国民は命に軽重があるわけではないですから、ある組合に入ったら豪華な保養所が利用できたり、窓口で支払った金額が戻ってくるのに、国民保険に入るとそういう特典がないというのがそもそも不公平なのです。これがなくなるかもしれないのが問題であるという朝日の見識を疑います。しかも、そもそも豪華な保養所が建設できたのは、本来医療費の支払いに当てられるべき保険料を、豪華保養所の建設に回し、健康組合の関係者の天下りに利用したり、保険料の有り余る組合は厚生省の天下りを受け入れてきたのです。本来健康保険は、医療費のためであり、保養所にまわすべきものでないという本質が見えない朝日新聞が理解できません。

そんなにレジャーを推進したいのなら、民間ホテルの利用補助券を配布すればすむことです。 私には、天下り先作成の目標以外には、健康維持が目的の健康組合の素人同然の役員が、なぜホテル運営のまね事をする必要があるのか、まったく理解できないことなのです。個人旅行の多様性が増大し、時代に合わなくなった保養所を廃止するのに、なんの同情が必要なのでしょう。朝日新聞の考えがまったく理解できないのです。事の本質をはきちがえているのです。

私の知っているある組合では、2年前100億以上の剰余金が出ました。東京で全国の理事が招集され、その使い方について臨時総会が開かれたのです。もちろん、保養所の建設も検討案です。こういう組合のことは都合が悪いのでプレス発表はされないのです。

しかし、認識に根本的誤謬があるとしても、事実関係には大きなうそはないですから、医師の私が口を出すほどのものではないでしょう。

私が落胆しているのは、これが報道された日付なのです。

もちろん健保組合連合会のプレス発表があったために、報道しているのです。その主張どおりの報道です。

低能の朝日新聞は、何故この時期にプレス発表が必要であったのか理解できないのです。大局がまったく見えていないのです。大局から見れば、プレス発表は最大効果を狙ってのことなのです。厚生省と健保組合は大喜びです。
朝日の一面に大きくトップで、さらに三面で大きな記事です。広告費としては10億円ではきかないでしょう。
あまり厚生行政に知識のない政治家も、これは重大だと考えます。

結果としてどういう効果が出るか、書いた記者さえ理解していないのです。重大なことを報道して、世間を啓蒙したとくらいに思い上がっているでしょう。私が見ると、まったく違う様相が見えてくるのです。

これが掲載された日には、ちょうど来年からの老人医療費の大幅増額がまさに審議され、可決されようとしている日なのです。厚生省・健保組合は笑いが止まらないでしょう。これほど大きな国民負担増に、これほど大きな意見広告の援護射撃はないのです。厚生行政のマスコミ操作の最大成果のひとつでしょう。プレス発表の「アンケート結果」の数字を見事に思い通りの記事にしてくれたのです。実際は厚生官僚と健保連合会の陰湿巧妙な誘導で作られたアンケート結果に「書かされている。」のですが、朝日は健保組合を引用して「自ら自主的に書いた。」と信じ込んでさえいるのです。これほど完璧なマスコミ操作を見たことがありません。書いた本人さえ、誘導されたと気づいていないのですから。それが証拠に、本来健保組合の位置付けは国民医療でどうあるべきかとか、健保組合に保養所が必要なのか、健保組合の存在自体が不公平の原因でないかという視点はまったく欠如しているのです。健康保険の一元化、公平化の視点はなく、すべては老人医療悪玉論で単純明快です。保養所が使えなくなるという枝葉末節の組合の主張を重視しているのです。組合役員の利権確保に全面協力しているのです。

ここまで、厚生省寄りべったりの報道は見たことがありません。普通なら、反論・批判・別の観点をマスコミ人なら少しは載せておくものです。厚生省・健保組合の主張と一字一句違わないのです。
国民はもっと悲惨な状況なのかもしれません。厚生省と朝日新聞は完全に癒着し、国会対策のため朝日新聞を利用しているのかもしれません。朝日新聞の確信犯としか考えられないではないですか。
少なくともまともなマスコミ人なら、政府に利用されているとか・癒着しているとみなざれるのは最大の恥のはずです。こんな絶妙な時期に報道はせず、国会論戦が終結してから少し突き放して報道するのが、報道機関として安全というものです。こんな危険を冒すからには、癒着が日常化しているのでしょう。こんな朝日新聞に医療制度を論じる資格はありません。

まだ解らないマスコミもいるかもしれませんから整理しましょう。
1.国民負担増の政策立案。
2.立法化
3.マスコミ対策の資料集め。たとえば、いかに財政が逼迫しているか、健保組合の財政が悪いとのアンケート。または一部の者が不公平であるとの宣伝。資料ができなければうそのでっち上げ情報を作り出す。
4.国会委員会法案提出
5.審議の3月前くらいにマスコミにそれとなくリーク、またはプレス発表。
6.新聞などで危機的だとの報道、または一部が不公平だとの怒りの増幅。(本質的な改正から目をそらす)
7.世論の仕方がないとのあきらめ。不勉強な政治家にも仕方がないとの認識。
8.法案成立。
9.国民の負担増の実現。
10.本質的・抜本的改革の先送り。小手先の財政改善。
11.厚生省の既得権益・天下り先の温存

3の例をあげてみましょう。
年金改悪のときは、主婦は甘い汁を吸っていて、働く女性は大損であるという世論を厚生省とマスコミが作り上げました。結果として、働く女性も年金支給の切り下げです。

以前健康保険の支払い切り下げでは、朝日新聞は「年間9兆円の医療費不正請求」と一面に大きく載せました。でっちあげのうそ情報による言論操作の一例です。医師は悪徳な金儲けだとの世論が形成されました。朝日はいまだにこの記事を訂正謝罪もしていません。間違いとは言い切れないといまだに主張しています。
ところで、同じ日の朝日に医師の数は26万人と出ています。単純に割り算を行うと、毎年医師一人あたり3500万円近くの不正請求・蓄財を行っていることになります。私の所得は3500万に遠く及びません。発表から時間がたつのに、医師が大量詐欺で逮捕されたり、巨額脱税を大量摘発をされたとは聞きません。会計検査院も黙っているはずがないのですが・・・。厚生官僚のリークをそのまま記事にした、これほど荒唐無稽な一面記事を見たことがありません。厚生省は、医師と患者または国民との間を分断し、自分たちの思いのままの改悪を実現したのでした。この記事は国会の委員会でも取り上げられ、厚生省自らがでたらめであるとしているのに、朝日新聞はいまだに訂正・謝罪しないのです。

もうすぐ新世紀が来ようとするこの時期に、厚生省の陰湿なマスコミ操作。それを、操られているとも感じずに大きく一面に載せる低能新聞。その結果として、国民分断・憎悪の拡大。愚弄され、負担増ばかり押し付けられる国民。官僚に情報操作される政治家。やりたい放題の役人。官僚の利権維持。抜本改革の先送りと小手先の改悪の繰り返し。この日本的官僚システムと、官僚の手のひらの上で踊るマスコミ。 新世紀にも、この官僚と操られるマスコミの関係が当分続くと思うと、暗澹たる気分になってくるのです。

結論
1.負担増の法案と、マスコミ操作は官僚にとって一体である。
2.そのためには、法案審議に合わせ都合のいい情報リーク、一方的アンケートなどを用意する。でっち上げのうそ情報さえ流す。
3.公的機関の発表は正しいと、検証もせず癒着したマスコミは官僚の言い分を垂れ流す。
4.結果として、国民間の不公平感を刺激し、政治家も法案に賛成する。本質から目をそらす、官僚に都合の良い世論が形成される。
5.法案は通過する一方、本質的議論・改革は行われない。
6.官僚の既得権益は守られる。
7.一見無関係な事実も、時系列で並べ、相関関係を調べると、まったく別の側面があらわれることがある。
8.国民・マスコミ・医師会も、だれもこのことに気づいていない。


追加
からくりが理解しにくいかもしれませんので、追加します。
豪華保養所ができたのは、健康保険組合に剰余資金があったからです。本来健康保険組合とは会社員から資金を集め、医療費の支払いを行うに過ぎない機関です。物を作ったり、資金運用を行って利益を出すところではありません。剰余金ができたということは、計算を誤って、会社員から保険金を集めすぎたからです。豪華保養所を安く利用できたからと喜ぶ人は愚かです。本質的には、本来の自分の所得を多く取り上げられ、それでできた豪華施設を利用しているに過ぎません。もちろん保養所の運営には組合理事や、労働組合理事などがすべりこむのでしょう。よくは知りませんが。

昔、私の患者さんで大きな大学の理事の方がいました。医学部ではありません。文部省には定員オーバーでよく呼び出され、そのたびに文部省の役人に多額の金封を届けていました。彼の言うことには、校舎建設などでは理事に1%のキャッシュバックがあるそうで、建設業界では常識だそうです。もちろん、私学なので贈収賄罪は成立しないので大丈夫です。これから推測すると、豪華な保養施設ではずいぶん潤う人がいるのでしょう。

窓口で支払った医療費を全額戻してくれる組合もあります。これも、おかしな話です。喜んでいる場合ではありません。本来保険金を取りすぎているから、こんなことができるのです。まともな保険料率計算では、こんなことができないでしょう。さらに、国民の健康保障は平等であるべきと考えます。加入している健康保険で支払額が戻ってきたり、戻ってこなかったりするのが不平等だと考えます。

もちろん、健保組合は国からの補助を大きな財源の一つとしています。つまり、国民の税金を使い、一部の組合は組合員に補助金を分け与えているとも考えられます。さらに、赤字の国保の補填には税金が使われているのです。大衆から薄く広く金を集め、補助金さえもらい、その金を非効率に運営し、まだあまれば豪華保養所を建設し、天下りなどでうまく甘い汁を吸うのが、官僚と癒着公的機関であるのがいまだに理解できない新聞と国民がいるのが日本です。

健康管理が組合の方が充実しているから剰余金ができると主張します。しかし、これもおかしな話です。健康診断をした上で、健康で若い優秀な社員を大企業は確保できます。さらに大企業は資金に余裕があるので、検診が充実し、病気が早期発見で軽いうちに治せるから支払いは少ないのです。中小企業は資金の余裕がなく、検診が不十分です。時間外労働も多く、過労気味で医者に行く時間もないので、受信したときは手遅れ・重症で医療費も多くかかります。さらに、病気がちになる高齢になれば、組合を出て国民健康保険に加入することになります。もっと病弱なら、中小企業にも就職できず、自営業で国民健康保険です。もちろん全員がそうではないのですが、巨視的に見ればそういう傾向になります。国民健康保険はいつも赤字です。国民間の不公平を利用して、剰余金を確保できる仕組みがあると私は考えます。補填はもちろん税金です。

何故豪華保養所が存在するのか。それで、利益を受けているものがいないか。よく考える必要があります。こういうことが理解できず、一方的に組合の言い分を載せる低能新聞が情けないのです。確信犯かもしれないのですが。

2000.12.01
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河合 医院

朝日新聞評論家 河合 尚樹

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