造影剤心停止の現場


  

 

 

 


先日、大病院の廊下を歩いていました。
看護師が慌てています。 患者さんも異様な雰囲気に注視しています。「モニター・・・」「MR・・・」と単語だけが断片的に聞こえてきます。

看護師さんの邪魔にならないように、エレベーターを避け、階段を使い様子を見に行きました。どうも、緊急呼び出しコールは聞き漏らしたようです。

もうすでに、7人ほどの医師が集合していました。看護師さんも技師さんも集まっています。大所帯で患者さんの様子も見えません。心臓マッサージも始まっているようです。

私も気管挿管も、心臓マッサージも経験しています。ほかに人がなければお手伝いもするつもりでしたが、専門家の麻酔医が挿管を開始しているようです。私の出番はありません。モニターの電池が切れるといけないので、コンセントの延長コードに、モニターの電源プラグを差し込むという大仕事を手伝ったのでした。

担当医によると、MR造影剤を注射したところ、顔が急に赤くなったそうです。大丈夫と思ったが、一応応援を呼びました。その直後急に苦しくなり、脈が触れなくなったそうです。癌かどうかはっきりさせるために、MRはぜひとも必要な検査でした。

ドパミンの点滴で心臓は戻ったようです。しかし、呼吸が戻りません。結局人工呼吸器をつないで、個室へ移動となりました。意識ははっきりしません。

院長に連絡し、インシデントレポートを提出です。

3時間後人工呼吸器をはずせたと連絡がありました。直接の上司で責任者の放射線科部長が説明に病床を訪れました。気の重いいやな仕事でしょう。

さて、ここからは伝聞で正確ではありません。おおよその病室の会話です。

病室に行くと、患者さんは女性で、ご主人に喉が気持ち悪いと訴えていました。3時間もチューブが入っていたので機械的刺激で気持ちの悪いのは当然です。

「大変でした。」とか何とか、部長が挨拶をされました。
ご主人は「学会の報告によると、一万人に一人ぐらいでしたかね?」

「良くご存知ですね。」
「某大学の放射線科の助教授をしていました。造影剤は仕方ありませんね。」
「そうですねえ。」

これでおしまいです。プロ同士だからです。もちろん、後遺症でも残っていたら、これで済んでいなかったかも知れませんが・・・。

放射線学会は、造影剤によるショックを予測する方法は一切ないと断定しています。
以前は1ccの造影剤を静脈注射して反応を見ていました。しかし、反応が無い正常者でも、本番ではショックを起こす例があるのです。逆に反応がプラスでも、慎重に本番に臨むと何も起こらなかったりするのです。

結局、このような事前検査は廃止されたのです。

ということは、事前にショックや心停止が予測できないということです。上記のように、起こってから速やかに反応するしかないのです。

もちろん、今回の検査は癌の鑑別が目的であり、造影はぜひとも必要だったのです。一万人に一人、造影により死の恐怖を味わうとしても、それ以外の一万人は癌が発見され生還したり、逆に癌が否定され、無駄な手術を受けなくて済むのだから利益は巨大です。利益と副作用を天秤にかけ、慎重に行っていかないと現実は仕方ないのです。

事が起こってから、責任は誰だと探して責め立てるのは法律家やマスコミですが、科学的には予測はできないのだから仕方がないのです。知性あるプロにはそれがわかっているので、反応は淡々としたものなのです。素人に同じ反応を求めても無理なのかもしれませんが・・・。

逆に知性のない者の感情的反応はどうでしょう。イレッサのバカ騒ぎを見れば理解できます。
「イレッサ悪魔の薬」をご覧ください。イレッサを造影剤と置き換えれば、95%は文章の意味がとおるでしょう。患者さんからの抗議の部分は、診断する放射線科医とでも置き換えればよいでしょう。

 

2003.7.1
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河合 医院

初級システムアドミニストレーター 河合 尚樹

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