保健所高脂血症講義ノート

     
 動脈硬化から起こる病気
   狭心症 心筋梗塞 脳出血 脳梗塞 脳血管性痴呆 めまい 不眠  腎不全 腎血管性高血圧 眼底出血などによる失明 手足などの血行障 害による歩行困難・激痛  足の壊疽 

  中性脂肪  脂肪肝 動脈硬化促進 膵炎
高コレステロールはネフローゼや甲状腺ホルモン低下で起こる事もある 
危険因子
たばこ 糖尿病 高血圧 狭心症・心筋梗塞の家族歴 肥満特に内臓脂肪 の沈着 運動不足 ストレス 尿酸が高い 男性 閉経後の女性  40 歳以上 など

  総コレステロールの目標値
  危険因子のまったくないひと  220mg/dl  危険因子のあ る人 200mg/dl

  中性脂肪 
   150mg/dl以下が目標。中性脂肪が増えると,HDLコレス テロールが減少。中性脂肪が増加すると,動脈硬化が促進され,心筋梗塞 の死亡が増加する。血栓の増加も考えられる。

  日本動脈硬化学会の指針

 コレステロールの多いとき
1. 摂取エネルギーの減少  25〜30Kcal/kg(標準体重あ たりの)
2. 不飽和脂肪酸の増加。動物性脂肪1に対し,魚油や植物性脂肪を2
3. コレステロールの摂取を減らす。1日300mg以下
4. 繊維 特にペクチン マンナンを増やす。

中性脂肪の多いとき

1. 摂取エネルギー調節
2. アルコール制限
3. 糖質(甘いもの,でんぷん)制限

HDLコレステロール低いとき

1. 摂取エネルギー調節
2. 不飽和脂肪酸の増加。動物性脂肪1に対し,魚油や植物性脂肪を2
3. 喫煙中止

HDL高いのは長生き 保険会社にとっては危険 

    コレステロールの血管への沈着
血液中コレステロールが上昇すると動脈硬化が増えるのは証明されている。しかし, 直接正常のコレステロールが血管壁に沈着するのではない。酸化されたLDLコレス テロールは肝臓に取り込まれず,血液中から出て行かない。さらに,過酸化物がある と,血管自体を傷つける。ここから酸化LDLがしみ込んでいく。LDLは異物処理 のマスト細胞に取り込まれて血管に沈着する。遺伝的にLp(a)が多いと,同じよ うに沈着が増加する。コレステロールが酸化されない様にするのも重要。血液中のコ レステロール下げると,これらの反応も抑制される。

  酸化の原因 =活性酸素 

   たばこ(受動喫煙もかなり危険) 過酸化脂質の摂取 ビタミンや抗酸化 物質の不足(ビタミン A E C ベータカロチン フラボノイド ポ リフェノール イソフラボン など)   (ビタミンAは摂り過ぎると 危険なので注意)

  過酸化脂質 

良い油ほど酸化されやすい。具体的には魚の干物,冷蔵庫で3週以上たっ たマーガリン,何度も使ったてんぷら油 例 ポテトチップ等揚げ菓子  油で揚げたインスタント麺 外食産業の揚げ物 

  マーガリンは危険

マーガリンは製造過程で天然には無い,トランス型脂肪酸が形成されるの で危険。実際アメリカでは,統計上バターより死亡率が増加した。さら に,1ヶ月以上冷蔵庫保存したマーガリンは過酸化脂質が急速に形成され る。6週後には食品として認可できないくらいの大量の過酸化脂質ができ るので,非常に危険である。

  Hertogの研究1959年

フラボノイド1日摂取量が19m以下の集団は,30mg以上の集団に比べて心筋梗 塞で死亡する率が2倍以上。脳卒中で死ぬ率は3.7倍。フラボノイドの摂取源はお 茶  61%,玉ねぎ13%,りんご10%であった。(ポリフェノールもフラボノ イドの一種。)

  コレステロールを下げるのが最も重要であるが,抗酸化物質で心筋梗塞や動脈硬化を 減らす事ができるのも事実。

他に,体重減少,運動,禁煙,アルコール甘いものを控えて中性脂肪減少も大事。

 水溶性食物繊維がコレステロール低下作用

  抗酸化作用の有望なもの

     ポリフェノール お茶      ココア 果物(皮の部分に多い) (赤ワイン,ぶど
     う)
フラボノイド 野菜 果物
リコペン トマトの赤   前立腺癌も減らす
イソフラボン 大豆  大豆製品 豆腐類 (W HOでも確認済み) コレステロール低下作 用もある
カテキン お茶 紅茶  ウーロン茶
アスタキサンチン 赤い魚介類 さけ いくら  えび たい (いくらはコレステロールも 多い)
ビタミンC 果物
ビタミン E ナッツ類  小麦胚芽 積極的にとらないと摂取不足になり易い
ベータカロチン 食品からとるのが良い。錠剤 でとると肺癌が増えた。緑黄色野菜が良い。
アリシン にんにくに多い。ねぎ,玉ねぎなどにも。実験で強い抗癌作用
セレニウム 大陸では不足しやすい。魚介類に多く含まれている。
オリーブ       オリーブの実にも多く抗酸化物質がある。オリーブオイルに は動脈 硬化予防作用が認められる。
柑橘類          ビタミンCだけでなく,多種の抗酸化物質を含む。
緑黄色野菜       抗酸化剤が多い。積極的に摂る。
  魚油         中性脂肪も下げる。干物は油が酸化されていて,過酸化              脂質が多いので危険。

お茶,コーヒー,ココア  抗酸化物質である。適度に摂るようにする。

  以上の抗酸化剤は発癌防止物質でもある。さけと豆腐の味噌汁でご飯を食べ,野菜を 多くし,食後に果物をつけ,三時にいれたてのお茶飲めば(一番茶が良い),十分抗 酸化物質が取れている。実際,日本のほうが,フランスより,動脈硬化性疾患の死亡 率は低い。フランス人のまねをして赤ワインなど飲む必要はない。アルコールは体に 良いとはいえない。特に女性は乳がんが増えるし,胎児にも危険。フランス人はアル コール性肝硬変での死亡率が高い。チェルノブイリの放射能の危険もある。

  リノール酸は危険 リノール酸にはコレステロールを下げる働きはない。むしろ動脈硬化促 進,血栓促進物質である。実験では癌促進物質でもある。リノレイン酸や 魚油は逆の効果がある。リノレイン酸が多いのはシソ油であるが,手に入 りやすい物ではキャノーラ油が比較的多い。オリーブオイルも動脈硬化予 防作用が認められている。

  運動 運動してもやせない事はよくあるが,運動する事により筋肉が増え,脂肪 が減少した分が相殺された為であり,運動の効果がないわけではない。健 康には非常によいし,それ以上肥りにくい体質に変わっている。食事制限 と運動は,車の両輪である。平行しないと効果はない。

  夏は脱水症状にも注意 血が濃くなると血管が詰まりやすくなる。砂糖の入っていない水分を十分 補給する。夜間にトイレに行くのが嫌で,水分を控える人がいるが,朝方 は脳梗塞や心筋梗塞が多いので危険。夜間にトイレが近いのは,加齢で腎 機能等がおちて,夜間に尿を作っているため。夜間にトイレにたったな ら,コップ1杯の水分をおぎなうくらいが良い。

りんご型肥満(おなかが出て,全体的に丸い感じ)と洋梨型肥満(下半身の肥満が 主)
りんご型は内臓に脂肪が貯まりやすく,死亡率も高い。脂肪肝も多い。し かし,運動ですぐに痩せやすいのはりんご型。洋梨型はやせにくい。 

マスコミはなぜこれらの報道に不熱心なのか マスコミは,マーガリンの危険性,油で揚げたものの発癌性疑惑,カップ 麺の容器からのホルモン類似物質の疑惑などはほとんど報道しません。マ ーガリンの製造メーカーのリーバなどは確かオランダを本拠にする巨大企 業で膨大な数の関連企業があります。ポテトチップスはナビスコなど国際 巨大資本,フライドポテトはMcDonaldなどの巨大資本,カップ麺はインス タント麺の巨大な業界。すべてマスコミスポンサーとして最大手ばかりで す。たばこのCMの規制にどれだけマスコミが遠慮をしていたか,考えてみ ればわかると思います。

余談) 1998年10月22日,関西の旅行会社がカルテルを組み,学 校の修学旅行の値段を吊り上げていて,摘発されました。公教育を食い物 にするけしからん連中です。当日の夕方から深夜のテレビはトップか少な くとも2番目のニュースとして取り上げました。翌日の朝日新聞は三面記 事のかたすみです。読売旅行,朝日旅行など新聞社関係の旅行会社もから んでいたのでしょう。金曜日の夕刊は旅行会社の宣伝で埋め尽くされま す。庶民を食い物にする悪い連中より,自分達の営業が大事でしょう。不 景気で広告収入は減っており,新聞社もさぞや大変でしょう。マスコミが いかにスポンサーに遠慮するかの例で,ここにあげました。

  天ぷら油の酸化について

  てんぷら油は繰り返して使ってもほとんど酸化しません。しかも,酸化したあ ぶらは腸で還元され,そのまま吸収されません。この点から,マスコミが天ぷ ら油は繰り返し使っても安全とキャンペーンしだしています。「油脂専門家」 が「医師も誤解している」と言っていると,マスコミ,特にNHKが宣伝してい ます。それ程安全でしょうか? 古い油で揚げたものは胃にもたれることはよくあ ります。どうしてでしょうか? 

家庭で天ぷらを繰り返しても,油は酸化しにくいことは以前から解っていまし た。しかも,料理専門家は何回か使った油の方が美味しいといいます。本当に おいしいようです。

油の専門家は油だけしか考えていません。ここから,上のようなおかしな結論 が出てくるのです。それを批判的に理解できず,「専門家」の意見をうのみに して報道するマスコミは困ったものです。小麦粉の17%はグルテンなどの蛋白質 が含まれています。天ぷらを繰り返すと,衣や肉類から蛋白質が溶け出てきま す。蛋白質を,天ぷらを繰り返して,170度位で熱し続けると発癌物質ができて きます。古い時代の,初期の発癌性の実験そのものです。この発癌性物質は吸 収される危険が十分あります。過酸化脂質を体内で作る可能性も十分ありま す。

外食産業の揚げ物や,スナック菓子の揚げ物を避けるべきなのはこれらの理由 です。決して,過酸化脂質の議論からだけではありません。もちろんカロリー が増え,肥満から動脈硬化も増えます。

  どこの国でも喫煙率の高い男性が,女性よりも肺癌死亡率が高いものです。例 外がありました。中国です。最近原因が解りました。中国の油は精製度が悪 く,炒め物などで油から出た煙を吸い込むためと解りました。油の中で発癌物 質ができる実例です。

  油の酸化の問題だけではないのです。おろかなマスコミや「専門家」を過信し てはいけません。最も信頼できないのは,素人の集まりのマスコミの思い込み です。

  やはり天ぷら類は少しの油で行い,さっさと捨てたほうが安全といえます。

1998.12.05 http://www.oocities.org/HotSprings/4347 
河合 医院
河合 尚樹