寄生虫減少はスギ花粉症の原因ではない


1999.10.01
http://www.oocities.org/HotSprings/4347/
〒6050842 京都市東山区六波羅三盛町170 河合 医院

東京医科歯科大の寄生虫の教授は,寄生虫を退治しすぎたためにアレルギーが増えたとしています。その理論は説得力のあるもので,科学的です。しかし,しょせんは推論,仮定であり,証明されたものではありません。

この教授も言われるように,寄生虫講座は廃止の方向にあり,なんとか巻き返そうと本の発行など努力されています。そのために,面白おかしく素人受けのする記事がみられます。

最近,「富士ふぐ」なるものが,富士五湖周辺の旅館で出されるそうです。刺身を食べたあと「これは,なまずです。」と説明されるのです。とんでもない連中です。淡水魚は寄生虫の宝庫です。これは,このホームページの「おそろしい寄生虫」のコーナーを参照してください。琵琶湖でも「ひめ」なんとかと名付けてブラックバスを刺身にして出すそうです。業者は金儲けになるなら何でもするのです。怖いのは営業停止になる,急性食中毒だけ。客が病気になるのは数ヵ月から一年後です。慢性でいつ感染したか解らないものは保健所でも指導出来ないので,儲かればよいのです。もちろん,うまければよいと,グルメ指向の客も問題です。最近は,「あゆ寿司」も一般的になりました。養殖,天然にかかわらず,寄生虫による肝硬変の危険があります。硬くなった肝臓はもとには戻りません。十年以上たってから,肝臓や脳に癌そっくりのかたまりを作り,手術後に寄生虫と解る例もあります。(ふなずしは完全発酵のため安全です。古代から工夫されて食べられたものには理由があります。)グルメもいいかげんにしろ。金儲けもいいかげんにしろです。

マスコミはこれらの食品を非難するどころか,グルメ紹介記事であおっているのです。もちろん,それらの記事をうのみにして,子供が病気になったとしてもマスコミは責任をとったりなどしません。

本来食品もPL法を適用すべきです。健康被害があれば賠償させるべきです。つまり,適切な衛生手段を講じていないならば,高額な賠償をさせるべきです。そうでもしないと,金儲けのために寄生虫つきの食品さえ販売されるからです。新聞を信じて生じた被害にもPL法を適用してほしいものです。

さて,論理的,科学的思考のできないマスコミは権威に弱いものです。大学教授の論であれば盲信してしまいます。科学的推論と「証明済みの真実」とが区別できません。

長くこの教授のコラムを連載した朝日新聞などは,「少々の寄生虫がいたほうが健康的である。」「少々不潔な環境の方が,抵抗力が出来て良い。」などの非科学的感情論天声人語などであおります。マスコミの大好きなテーマです。老人の「昔はよかった」式の論理です。

こんな低レベルの議論は,寄生虫の多い一部東南アジアやアフリカと日本の平均寿命がどちらが長いかを考えれば,すぐに結論の出ることです。さらに,寄生虫の罹感率と上下水道の普及率は反比例します。水道の普及率が低いと,低年齢から種々の菌に暴露されますが,これらの国の乳児死亡率は日本より絶対に悪いはずです。百歩譲って,これらの国の人々が感染症に強かったとしたら,普通の子が乳幼児の内に死んでしまい,よほど強いのだけが生き残ったとも考えられます。幼い命の犠牲を代償として,アレルギーが減少したとしも,それが良いことなのでしょうか。

寄生虫がいたほうが健康的などとばかな新聞もあったものです。

さて,寄生虫が減ったためにアレルギーが増えた。特にスギ花粉症は寄生虫減少のためであると教授は主張します。仮説をたてて,現実を検証することは大いに結構なことですし,言論は自由です。

しかし,無責任なマスコミが便乗し,「不潔にしないから抵抗力が弱り,病気が増える。」式の感情論を尻馬にのって流布するのは馬鹿としかいいようがありません。

最近,中国の膨大な疫学調査によっても,寄生虫とスギ花粉症との関連は否定されています。(メディカルトリビューン 8月12日号)日本の寄生虫罹感率は0.02%,中国の小学生は1.9%,中国の大学性は3.9%ですが,それぞれ,スギ花粉症との相関はありませんでした。さらに,中国の大学性は小学生よりアレルギー検査の陽性率が高いのですが,同時に寄生虫感染率も高くなっています。先の教授の説に従えば,寄生虫保有率が高くなる中国大学生はアレルギーが少なくならないといけないのに,事実は逆です。その他にも否定の材料は多くありますが,省略します。

誤った風説を広めてしまってから,新聞は真実が解っても訂正の記事など載せはしません。仮に載せたとしても,目立たない片隅です。警察の不祥事と同じ様なものです。医療費9兆円不正支払の記事を,日本医師会が抗議しても,のらりくらりとわけの解らない弁解で,いまだに訂正しないのも朝日新聞です。9兆円という数字は「うそではない。」と言うが,根拠は示されません。「うそではなく,言葉のあやです。」, 神奈川県警となんら変わりがありません。マスコミは,面白おかしい記事で,新聞や雑誌が売れさえすれば良いのです。医者批判,医療批判,自然回帰論は素人受けする面白い記事になります。まともな正論では雑誌や新聞は売れません。富士ふぐと同じで,売れさえすれば,儲かりさえすればよいのです。

マスコミとか,科学を真に理解できない者には「自然主義」「なんでも,自然が一番。」「自然こそ健康的。」「現代人は不健康。」「医療不信」「科学は悪。」「科学が発達しすぎたから,不健康になり,幸せになれない。」「合成品は絶対的悪」「薬など出来るだけ使わないほうが健康。」という信仰が隠れています。これらを,タイトルにすれば,現代を批判でき,なにか考えが一段上のような気分になれます。20世紀末,この考えに乗らないと時代遅れの科学信仰者だと思われてしまいます。思考も流行に乗らないと,時代遅れなのです。自然は安全であるなどは愚かな思い込みです。自然と闘い,絶滅の危機から何度もはい上がってきたのが人類です。

例えばペスト。上下水道を普及させ,ねずみを出来るだけ遠ざけ,遺体を火葬したからペストによる人類絶滅の危機が遠のいたのです。薬が効いたからではありません。天然のおいしい水,処理しない下水自然放流,野鼠や小動物と共生する生活では人類絶滅の危機は再来します。例えばアメリカのリス。毎年リスからの狂犬病で死者が出ています。

当院の様な都会の真ん中でも,つつが虫病を年に一人くらい発見します。治療は簡単ですが,初期に診断を誤ると死亡することもあります。大学や大病院でも,診断に失敗して死者が出ています。アウトドアブーム,渓流釣,ガーデニングでだにに刺されて感染します。自然ブームの恐ろしい影のほんのひとつです。アメリカ中西部で死者が出て問題になったライム病も似た病気です。決して自然は人にやさしくはありませんし,健康的でもありません。動物も動物園で飼った方が長生きします。犬猫も室内で飼ったほうが長生きします。放し飼いにすると白血病ウイルスに感染したりするからです。とき繁殖センターでも,天然のどじょうでなく,寄生虫の少ないどじょうを与えたほうが長生きするのが確認されています。これらから解るように,寄生虫・感染症は確実に寿命を縮めているのです。発展途上国の低栄養に,寄生虫が体力を奪い,さらに感染症で多くの幼い命が奪われるのです。

癌だ,生活習慣病だと騒いでいますが,騒げるのは一部の国のみ,世界的に見れば,死因の第一位と二位は結核とマラリアです。寄生虫は人類の寿命を縮める最大要因の一つです。寄生虫は根絶すべきもので,根絶して悪い理由などまったくないのです。

清潔が良いに決まっています。それら人類の成果の一つとして,食品は加熱処理するというのが原則です。寄生虫と細菌感染を防ぐためです。 O−157も,のどもと過ぎればなんとやら。町では生レバーを出す店も増えています。淡水魚の刺身や寿司といい,とりの刺身といい,繰り返しますが,グルメを煽るのもいい加減にしろです。

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