毎日新聞は一日205円以下の薬は厚生省に監査されず、使い放題だから監視せよと一面トップで主張しました。
毎日新聞の理想が実現するようで、4月からすべての薬は厚生省の指針どおりの使い方か監査されることに決まったようです。
おめでとうございます。
さて、これで弱者の負担は3倍以上になるか切り捨てられ、悪徳医はしたい放題ができるようになったということです。
2001年12月の「悪徳医の正体」の記事で述べたように、患者さんの命を守るためには、厚生省の決めた薬の使い方以外の方法しかないことがあります。たとえば、ACE阻害剤は日本では高血圧にしかつかえませんが、糖尿病の腎不全の予防にはこの薬しかないなどです。
このことは役人どもも表立って認めはしませんが、感づいてはいます。
厚生省がすべての薬の使い方を監査するなら、上のような薬は使えなくなります。これは、厚生省の責任となります。
これでは、患者さんが満足するはずはありません。かといって、役所など迅速に世界の潮流に合わせて薬の使用対象を拡大などできません。薬が使えなかったことにより死者さえ出かねません。
薬の使い方を厳しく監査して許可以外の使用をまったく許さないということは、厚生労働省の役人が薬の作用に関して全責任を持たなくてはいけないということです。役人がそんなことをするはずがありません。(許可以外の使用法はイコール、非科学的使用・学問的に不正な使用・金儲けではありませんよ毎日新聞さん)
例えば、糖尿病の患者さんがACE阻害剤が使えなくて腎不全になれば、それは厚生労働省の責任です。
厚生労働省が訴えられる訴訟が多発することが予想されます。
さて、役人はどうするでしょう。責任はとらないのが役人の最大の仕事です。
保険診療の中で許可された薬は、目的外の病気にも使用を認めると言い出しました。ただし、これは患者さんの費用負担であるというのです。これなら、保険財政は安定で、国に費用はかからず、役人は大喜びです。負担するのは患者個人だからです。
さらに、医師会や学会から非難される、国際的に承認されている標準医療が日本で行えないという厚生労働省の責任問題も患者負担で回避できます。急いで承認手続きに入るという必要もなく、役人は非常に楽です。
誤解とちっぽけな正義感でマスコミがさわぐ── それを利用して役人が焼け太り── 困るのは医師−−負担増は国民 のいつもの構図です。
今までは、不正を疑う医療機関はカルテを調べ、目的外に薬が使用されていれば205円以下でも告発や処分が可能でした。ところが、今後は悪徳医はやりたい放題ということです。
保険に決められた使い方しか認めないのが今まででした。これからは、目的外の使い方でも患者さんの自己負担にしてしまえば、保険の監査を受ける必要が無いからです。
今までは、医師はできるだけ保険のルールに従わないと監査を受ける可能性があり、命を守るためにルールに外れるときは何とか205円以下にしていました。医学と保険ルールに注意を払ってきました。
保険のルールは完璧ではありませんが、まず一定のルールで極端な不正を防ぐ防波堤の役割があり、また、どこでも同じ費用でほぼ一定の医療が受けられるという美点もありました。4月からは、患者さんの同意を得てしまえば、とても学問的に認められない医療でも監査の方法が無いということです。
また、まじめな医師がこれを科学的に利用するにせよ、保険が効かない分患者さんの負担増は膨大になります。それは金持ちが先進的医療を受けられ、生活保護者等金を持たないものは保険内でしかだめという、金持ち優遇の差別制度です。これが、福祉の理念でしょうか。現行の保険制度では、生活保護も金持ちもほとんど同じ条件の治療法でした。いまの制度なら、金持ちに特に有利というわけではありません。これからは、医師は患者さんのふところ具合で治療法を変えないといけなくなります。
弱者に対して何の配慮も無い政策を、マスコミが後押ししたことになります。
政策は結果責任でしたよね。
カルテ上の区別も必要で、事務員が間違って請求する等も増えますから、本来の監査も混乱するでしょう。保険請求のコンピュータープログラムの書き換え費用も大変です。 税務上の区分もどうなることやら、考えただけでも頭が痛くなります。社会的コストも膨大なのです。それによって喜ぶのは役人だけです。 マスコミの目指す理想郷はこんなところです。
感情が先にたち、どのような社会が理想かという目的意識も無く、医師が憎いと何でも攻撃材料にするとこういうことになります。マスコミが騒ぐたびにひとつずつ医療情勢が悪くなります。
ビバ毎日新聞。そして誰も責任をとらない・・・・・
2002.2.1
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