Kenny`s ウェ・マガジン From Toronto,Ontario
2005年10月  
ケニー吉岡(ブルースハープ・プレイヤー)


キム・ウィルソンと会うの巻!

トロントのダウンタウンにあるナイト・クラブHealey`s。御存じギタリストのジェフ・ヒーリーがオーナーでほぼ毎週木曜日には自らも出演するこの店に、9月8日(木)ハーモニカの達人として現在右に出るものはいないキム・ウィルソンがゲスト出演することになった。週末に控えているトロント郊外でのフェスティバルに出るためにやってきたファビュラス・サンダーバーズのバンドリーダーでもある。キム・ウィルソンについてはそれこそ紹介するまでもないナンバー1ハーモニカ・プレイヤーで僕にとってはもっとも生で観たかったアーティストだ。"Smokin`Joint"というライヴ盤はここ数カ月ほぼ毎日聴いているしそれに合わせて練習もしている。"Tiger Man"という作品もベスト・コンテンポラリー・ブルース・アルバムだと思う。

数週間前からローカル情報誌に広告が出ていたので9時にハウスバンドのセットが始まることは知っていた。こういう時には時間きっかりに出向く。入場料が15ドルと信じられない程安かったのだが、僕もマイク・オグラディ・バンドでよくこの店に出ていたこともあり受付で働いていた女のコが「顔パス」で入れてくれた。キム・ウィルソンとジェフ・ヒーリーに悪いなと思いつつ、、、まあビールを飲んでバーの売り上げに貢献すればいいかと。中に入ると大のハープ・ファンの友人マイクが一番前のテーブルに陣取っていてそこに一緒に座ることになった。彼自身もハーピスト/シンガーである。以前彼からゲットしたハーモニカ用マイクロフォン「グリーン・ブレット」が故障していたの修理してもらおうと思い今日持ってきた。しかしこの席、ステージの真ん前でツバでもかかりそうな位置だし音もでかくてちょっとヤダなとも思ったのだが、、。

早速ハウスバンドのセットが始まる。キーボードとボーカルのデイヴ・マーフィを中心とした4人編成でベースの人は知っている人だった。以前よくジャムった。ブルースのスタンダードなどでまずは場を盛り上げる。前で聴いているとアンプからの音がダイレクトに耳に入ってくるのでかなりうるさい。キム・ウィルソンはトロントに車で移動中だそうでちゃんと着くことを願う。そのセットの間トイレへ行く途中ギターの相棒ケンミに会ったのでしばらく後ろで見る。当然ながらこっちの方が音のバランスは良い。すると後ろから人がぶつかってきたので誰かと思って振り返るとそれはジェフ・ヒーリーであった。知っていると思うけど彼は盲目で白い杖をついている。最近ちょっと太ったんじゃないか。2セット目から彼も演奏に加わったので再び最前列に座る。

ジェフ・ヒーリーはやっぱり凄かった。ブルースっぽいロック・ギタリストっていうタイプでかなり興奮して弾きまくっている感じ。座って左手の指をネックの上から押さえ丁度スティール・ギターのように弾く。音が信じられないくらいはっきりして聴いた瞬間ひと味違うなとわかる。見た感じ指のまさに先端を使って押さえているのがポイントか?このセットの途中ついに御大キム・ウィルソンが到着した。ジージャンにジーパンでまったくの普段着で見かけはどこにでもいるおじさんなのだがハーモニカを吹くとモンスターに変身する。あらかじめアンプが2つ用意されていて(フェンダー、ベースマン)その両方から音を出すのだろうと友人のマイクは推測していたが実際は気に入った方を選んで使っていた。演奏は予想通りパワフルなトーンで切れのよいフレーズをバシバシ決めていた。リズムの取り方が天才的。コンマ何秒の世界に生きている人。スロー・ブルースの時などフレーズの譜割りなどはパっと聞いた感じはシンプルそうでも、コピーしたりするとわかるがかなり複雑。月並みな表現しかできないのが歯がゆい。ジェフ・ヒーリーとは10数年知り合いだそうで、ギター・ソロの時、教え子を見守るように手を後ろに組んでじっと聞き入って、終わるとよしよしという具合にうなづいたりなんかして、そんな場面もあった。

休憩をはさんで次ぎのセットが始まる前ステージに向かう途中のキム・ウィルソンに遭遇した。目が合うと親しみやすい笑顔を浮かべたので、
「素晴らしい演奏でした。僕はあなたの大ファンなのです。」と話し掛けがっちり握手。するとキム・ウィルソンは、
「それはそれは。じゃあ明日のフェスティヴァルにも来るのかな。」
「僕自身もハーモニカ・プレイヤーで明日はギグがあります。でもあなたに会えてとても良かった。」
それだけの会話だったのだが、彼の非常に温厚な人柄にショックを受けてしまった。写真やビデオで見た限りゴッツイ荒くれ者のようなイメージを持っていたのだが、一瞬にしてそれは忘却の彼方へ飛んでいってしまった。また、スターきどりのようなところが一切なく、本当に好きな音楽を一生懸命やっている人と言う印象だ。

次ぎのセットで完全にノックアウトされた。今度は紹介されると同時にドラムの後ろのバックステージから登場したのだが別に着替えてきたわけでもないから移動の恰好のまま。繰り返すようだが僕はステージ中央の一番前に座っていたのでキム・ウィルソンにもっとも近い位置でショーを見た。アンプの音が直接、もちろんボーカル・マイクで生で吹く時のモニターからの音、それどころかマイクで拾う前のハーモニカの生音も聞こえた程。ストレートのポジションで高音ブローベンディングに行った時は鳥肌が立つ感じ。あまりにも完璧なのでレコードそのもののようであった。サニーボーイの"Trust my baby"とかね。(Tiger Manに収録)また一緒に前に座っていた友人マイクがジョージ・スミスだとか何だとか声をかけるとじゃあと言ってそのリクエストに応じて"Telephone Blues"(Smokin` Jointに収録)をやったりしてくれて、、。例によって吹きまくりのインストで最高潮に達する。ストップしてハーモニカだけになるところでも盛り上がる。ジェフ・ヒーリーをはじめとするバックアップのメンバーも好サポートしていたし、キム・ウィルソンも各リード楽器にソロパートを与えたり気を配る。最後にスタンディング・オヴェイション。アンコールにキム・ウィルソン一人でスロー・ブルースをプレイして終了した。素晴らしい!筆舌に尽し難い。

ステージを降りる時、一番前に座っていた僕らは再び話す機会に恵まれた。ベースのアレック・フレイザーが声をかけてきた。彼のスタジオでケンミはレコーディングしたことがあった。
「もうじき日本に行くんだよ。東京のクラブ知ってるか。」
北海道出身のケンミは、
「さあ。」
「東京にはジロキチという老舗のブルース・バーがあるけど。」と僕。
Healey`sの受付にいたスタッフで、先程ただで入れてくれた女のコがステージでキム・ウィルソンと談笑していてこちらに話し掛けてきた。
「彼はとてもいいハーピストなのよ。」と僕を指差す。ちょっと恐縮。そしてマイク・オグラディ・バンドのショーで僕がいつも歌わされるローリング・ストーンズの曲にも言及して、
「彼の歌う"You Can`t Always Get What You Want"はベスト・ヴァージョンだわ。」
余計なことは言わなくていいのに、、、。何か言い訳するように、
「僕はケルティック/アコースティック・ロックのバンドにも入っていてそういう曲も演奏するのです。」
「そうですか。ではブルースは。」とキム・ウィルソン。
「もちろんブルースが一番です。」
「この前ツアー先で日本人のブルース・ミュージシャンを観たんだけどなかなかよかった。名前は忘れてしまったんですけど。」
「誰でしょうねえ。」
そこでベースのアレックが
「ケンミもいいブルース・ギタリストだよ。」
「そうなんですか。どんなスタイルなのでしょうか。」とキム・ウィルソン。
「テキサスだとかルイジアナだとかよく南部っぽいと言われます。」とケンミ。
「シカゴ・スタイルは。」
「はい。シカゴも取り入れています。」
などと話した。うちらが日本人ということもあって珍しく思ったのかは知らないけれど丁寧に接してくれてとても優しくいい人であった。

この夜はトロントのハーピストが大集合していた。デイヴ・ロタンド、ジェローム・ゴドブー、カルロス・デル・フンコ、ローリー・プラット、マーク・バード・スタフォード、それから一応僕ケン吉岡も。
さっきまで前で一緒に座っていたマイクがジェロームと話していた。ジェフ・ヒーリーのアルバムにも参加しているジェロームに会ったのは久しぶりだったのでとても和やかな気持になる。
「ヘイ、ケン。久しぶりだね。最近はどうしてるんだい。」
「いろいろなバンドに入ってます。今もジュリアン(・ファウス)とたまに演ってるよ。」
マイクが
「俺がハーモニカを始めるきっかけになったのはケンなんだ。こいつは俺の師匠さ。ガハハ。」(誇らし気に自分を高めて書いているような気がするが会話を忠実に再現しただけなので、、)とジェロームに言う。
「ジェローム、Grossman`sのジャムが懐かしいですね。僕はあれからスタートしたのですから。」
「今度、ジャック・デ・カイザー、パイントップ・パーキンスとエル・モカンボでショーをやるんだ。」とジェロームは僕にビラをくれた。
「今日はかなり飲んだよ。恥ずかしいからもう行くよ。」と。確かに呂律がまわっていなかったし。けっこう酔っ払っていたようで後でトイレで今トロントで大活躍のハーピスト、デイヴ・ロタンドに介抱されてたりして。デイヴは木曜日はレギュラー・ギグがあるのだが、キム・ウィルソンを観に早く切り上げてきたようだ。

帰り際にキム・ウィルソンがカルロス・デル・フンコとローリー・プラットと話していたところ、僕とケンミに気付いてなんとわざわざ彼等との会話を中断して近寄ってきてくれたのだ。「いい音楽をありがとうございました。」と言うと彼は、
「君、名刺か何か持っていますか。」
「いえ。」普段は持ち歩いているのだが今日に限って忘れてしまった。
「じゃあCDなどの音源は。」
「はい。でも今日は持っていません。この袋には日本から帰ってきた友人のお土産が入っているだけです(笑)。」その場で食べられるものだったらキム・ウィルソンと一緒に食べようと思ったのだが、振りかけやら真空パックのつけものやらだったので、、。
するとケンミが
「僕も音源あります。」
「そうですか。聴いてみたいですね。住所を教えるから送ってもらえますか。」
「わかりました。」

カルロス・デル・フンコとローリー・プラットというカナダのハーモニカの大御所を差し置いて何故かキム・ウィルソンと親しくなってしまった我らジャパニーズ・ブルーズ兄弟であった。ジェロームが持ってきていたカメラで記念撮影。ハーピスト勢ぞろいでキム・ウィルソンを囲んだ。

そして、世界最高峰のブルース・ハーモニカ・プレイヤー、キム・ウィルソンは僕らのために楽屋で紙に住所を書いてくれた。自宅はミシガン州か。これは色紙にサイン書いてもらうよりすごいと子供に戻ったような気持ちで喜ぶ。後日ケンミが
「これはさっきジェロームのカメラでとってもらった写真とセットで額に入れて飾るべきでしょう。」
何か足が地につかないと言うかとてもそわそわしてしまう。
キム・ウィルソンが、
「ではぜひ録音したものを聴きたいので送って下さい。」
まだ名を名乗っていなかったので最後に
「僕の名前はケンといいます。お会いできて光栄です。こちらはケンミ。僕らは兄弟ではありません。バンドメイトです。」
と自己紹介しておいた。興奮のあまり寝つけそうもないのでティム・ホートンズでコーヒーを飲み同じ話しを何回も繰り返し今日の出来事を振り返るのであった。

ケン吉岡、2005年9月

最新ニュース
夏に出たブライアン・グラッドストーンのニューCDが何故かポーランドのヒット・チャートに入ったとかいう話し。俺は3曲ハープを吹いています。www.backtothedirt.com
11月にホルムス・ブラザーズのオープニングをやることになったので今から楽しみだ。年期の入ったゴスペル+ブルースの兄弟バンドです。

ホーム

バック・ナンバー

*御意見、感想、それからハーモニカやブルース、トロント、カナダのミュージック・シーンにに関する質問などあればken0122yoshioka@yahoo.co.jpまで気軽にメールして下さい。