ネオンのまたたく夜。いかがわしい店ばかりが立ち並ぶその通りで、僕はひとりたたずんでいる。周りを見ると、似たように立っている少女や少年が何人か見つけられた。みんな容姿には恵まれているのに、心は満たされていないのか。そんな風に考えながら、僕も同じように立っている。 声をかけられた。 見れば、生活に疲れたような四十代くらいのサラリーマン。家族とかちゃんといそうなのに、裏ではこんなことしてんのか、この人。まあいいか。僕には関係ない。 「二万円でいいけど」 営業スマイルなんか浮かべて、僕は答えた。色気をふりまくことも忘れない。本当は値段なんてどうでもいいんだ。でもタダほど恐いものはないって言うじゃない。 僕は男に連れられて、ホテルの一室へと入っていった。 僕は身体を売って生きている。 そんな今の生活に疑問はない。 今の僕には他に何もないから。 こんな生き方くらいしか能がない。 シャワーを浴びて、僕は客のいいなりになる。したいと言うことはなんでもさせる。だって一晩寝ただけで、そこらのバイトなんかじゃ絶対にもらえない金がもらえるんだ。サービスのひとつやふたつ、なんてことはない。 「……んっ……」 見ず知らずの男に抱かれることにはもう慣れた。激しく身体を貫くモノ、それを受け入れている時には何もかもが忘れられる。昔のことも嫌なことも全部。 「あっ、あっ……」 女のような声であえぎながら、男の下で僕は狂う。すべてを解放する。どんな狂態だって演じる。言いなりのあやつり人形と化す。 やがて何もわからなくなって、僕はベッドの中でぼんやりとしていた。 「……すごいね、君は」 耳元で囁かれ、いきなり僕は僕以外の人間が傍にいたことを思い出した。意識がぶっ飛んでたせいで、彼のことは忘れてしまっていた。僕は僕の快楽のために抱かれていたから、客のことなんか本当はどうだっていいんだ。 手の中に金が渡され、客は部屋から出て行った。 ぼんやりと金を眺めながら、僕は睡魔に襲われる。 帰らないと……。頭のどこかが勝手にそう思って、僕は言うことをきくためにベッドから降りた。シャワーを浴びて、服を着て、ホテルから出た。 外は相変わらず夜だった。 すべてを忘れられる快感を得る変わりに、僕はひどく疲労する。全身のだるさをひきずりながら、夜のネオンを浴びつつ僕は歩く。純粋に寝るためだけに存在する、アパートの僕の部屋へと向かって。 アパートの近くまで来た時だった。 「悟瑠(さとる)っ?」 聞き覚えのある声に、僕はぎくっとして振り向いた。声はずっと後ろの方から聞こえた。しかも呼ばれたのが僕の名前だったから、倍は驚いた。 振り向いた先にいたのは……中学の頃の同級生だった。 名前は確か……相沢真(あいざわしん)とか言った……。 その頃みんなと同じように普通のいい友達関係を築いてた奴だった。 目が合うなり、僕はどうしたらいいのかわからなくなった。ついさっきまで見知らぬ男に抱かれていた僕が、どうして中学の同級生とまともに顔が合わせられる? 黙っていた僕を怪訝に思ったのか、相沢はさらに近づいてきた。 「悟瑠……悟瑠だよな? おまえ、こんなとこで何してんだ」 「……だれだよ、おまえ……」 反射的に僕はそう言っていた。相沢だとわかっていたけれど、人違いだと思い込みたかった。 「悟瑠じゃないのか? ……いや、おまえ以外の誰だってんだよ。人違いなんかじゃないっ」 なぜか余計ムキになって、相沢がきっぱりと言い放った。突進するように僕の方へ向かって歩いてくると、逃げないようにと思ったのか、腕をつかんできた。 「……っ。なにすんだよっ」 僕もなぜかムキになり、腕を振り払おうと頑張った。そんなやりとりを繰り返していたが、唐突にふたりとも力を抜いた。……というより、相沢が先に諦めたから僕も暴れるのをやめたのだ。 「おまえ……高校やめたってのは本当なのか?」 卑怯者。 なんでいきなりそこから切り込むんだ。 顔に出してしまった。これでシラを切れなくなる。 「本当なんだな」 「……関係、ないだろ」 僕はそっけなく言い放ち、相沢に背中を向けた。アパートに向かって走る。……結局は逃げたのだ。相沢から。 |