inu biscket

アメリカ的いぬの生活 その十六
特別編

「シリウス」
2001年9月11日、テロに散った命



警察犬シリウスは、ニューヨーク/ニュージャージ港湾警備隊に 所属する爆発物探知犬でした。 シリウスとパートナーのデビッド・リム巡査は、ニューヨークの 世界貿易センタービルに勤務し、アメリカの「テロに対する闘い」 の一部として、毎日何百ものトラックや車の検査を仕事としていました。 シリウスは、9月11日の悲劇で命を奪われた唯一の警察犬、そして、たぶん 唯一アメリカの警察犬で国際テロリストに殺された警察犬でしょう。

9月11日の朝、リム巡査とシリウスは、世界貿易センタービルノースタワーの 地下にある港湾警備隊の警察官詰め所にいました。リム巡査は、爆発のような音を耳にし、 なんらかの爆発物がビルの内部で爆発したのだと思いました。リム巡査は、シリウスに 「見逃してしまったのかな・・」と言いました。でも、それは、ビルに仕掛けられた 爆弾ではなかったのです・・・。それは、ハイジャックされた飛行機が最初のタワーに 激突した音だったのです。

リム巡査は、すぐに市民を避難させなくてはならず、そのためには、シリウスを連れて いるより、両手が自由に使える必要があるとわかっていました。それと同時に、 リム巡査は、シリウスを地下の詰め所にあるケージの中に入っているように指示しました。 巡査は、そのほうがシリウスにとっても、安全だと思ったからです。

リム巡査は、急いでノースタワーの階段を駆け上がりました。丁度、44階に達したとき、 二番目の飛行機がサウスタワーに激突しました。

リム巡査が、必死になって、非常階段を降りるよう人々を誘導していたとき、 突然、建物が崩れ落ちはじめたのです。奇跡的に、リム巡査と、巡査が誘導していた グループの人々は、なぜか完全崩壊をまぬがれた5階あたりの非常階段にとじこめられて 命は助かりました。長時間ののち、彼らは、救助隊に助け出されることができたのです。

市民が安全に避難したことを確認したリム巡査は、跡形も無く崩れたタワーの地下にある 警察官詰め所に戻ってシリウスを助けだそうとしました。でも、あまりに危険な状態なため 救助隊から、許可はでませんでした。

9月11日、優秀な爆発探知犬、シリウス、その命を爆発物探知という危険な仕事に捧げた・・ しかし、彼が得た訓練も、経験も探知することができないテロの攻撃によって命を落としました。 無力のうちに命を落としたシリウス、しかし、あなたの死は、崇高なあなたのこれまでの人々への献身によって、一片の曇りすらないのです。

上記の文章は、ニューヨーク/ニュージャージ港湾警備隊メモリアル ホームページを私が稚拙ながら翻訳したものです。先日同ホームページの管理者であるジョン・カバナー元巡査長(引退)より、翻訳転載の許可をいただきました。もし、このページにリンクなどしていただける方がいらっしゃいましたら、リンク後でもかまいませんので、どうそ掲示板またはメールでご一報くださると嬉しいです。Received permission for translating into Japanese from the original site, "The Port Authority Police Memorial" on 08/11/2002. Thank you for Port Authority Police Detective Sgt. John Kavanagh (Retired).

オリジナルの英文およびシリウスの写真は以下のホームページでご覧頂けます。
Police K9 Sirius

個人でHPを作っていらっしゃるようですが、シリウスの葬儀にも参加され、 またシリウスが嬉しそうに笑っている写真も掲載されています。
In Memory of K-9 Sirius


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後書き:

わたしは、9月11日のテロの数日後、リム巡査のインタビューをテレビのニュース番組で 見ました。まだ、世界貿易センタービルツインタワーの崩壊のイメージも覚めやらぬ時期、 誰もが、肉親を捜し歩いていた時期に、リム巡査は、犬であるシリウスを助けるなどと いうことが、優先順位にあがるはずもないことはわかっているが、やるせない悲しみと 悔しさで、テレビに映っていることも、自分が公僕の警察官であることも忘れて、 正直に泣いていました。 あのとき、鍵をかけなければ・・・、あのとき、一緒に連れていればと・・・・。 シリウスは、「Sit and Stay (オスワリ、待て)」を忠実に守っていたにちがいないのです。 リム巡査が、インタビューを受けたのは、シリウスのためではありません。奇跡的に、御自身が、がれきの中から、丸一日経ったの後に、無事救助されたことによるものです。それでも、シリウスのことに触れないではいられなかったのでしょう。

わたしは、何が起っているか、わからない表情のポチ・はなを側に、一緒に泣いていました。 その後、どこかで、そのインタビューの再放送がないか、また、詳しい情報はないか、 探しましたが、やはり、多くの人命を失ったなかで、シリウスの記事を見かけることは ありませんでした。

ニューヨーク/ニュージャージ港湾警備隊は、37名の隊員を失ったそうです。

警察犬部隊の隊長は、ホームページのなかで、シリウスの名誉葬は、37名全員の儀式が 終わってからでないとできなかったが、我々が、仲間の一員である犬を忘れることは決して ないと語っています。1月には、世界貿易センタービルのがれきの中から、シリウスの 遺体が発見されたと、葬儀を伝える記事に書いてありました。リム巡査は、 9月11日の朝、シリウスにケージに入れと指示したとき、「必ず、すぐ迎えにくるからなっ!」と約束したそうです。その約束を果たすべく、リム巡査は、現場まで、シリウスの亡骸を迎えにいったそうです。今年の4月に、遠くはカリフォルニア州から、全国の警察犬が集まって見守る中、トランペットと21発の空砲とともに、シリウスの最高敬意警察葬が執り行われたとのことです。

リム巡査は、シリウスへの賛辞が刻印されたステンレスのボウルをプレゼントされたとき 涙してしまったそうです。「いまでも、シリウスがこのボウルから水を飲む姿を目に浮かべることができるよ」と・・。そして「彼は、自分の命を僕にくれたんだ、だから、僕は多くの人を救うことができた・・。」

こわかったでしょう、寂しかったでしょう、でも、もう、心配しないで。予定より、ずいぶん早かったけど、虹の橋で、引退生活を楽しんでね、シリウス。みんな、決してあなたのことを忘れないよ。


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