都市成長境界線の仕組み

ポートランドのまちづくりのシンボルである都市成長境界線について説明します。

都市成長境界線とは何か? I 都市化保留地域とは何か? I 日本の線引き制度への示唆 I 都市成長境界線拡大の意思決定プロセス


都市成長境界線と都市化保留地域

<都市成長境界線とは何か?>

都市成長境界線(Urban Growth Boundary=UGB、以下「境界線」とする)は、都市部と田園(農地や森林など)の土地利用を区分する計画上の境界であり、その内部には20年間に見込まれる都市の成長を収めるのに必要十分なだけの開発可能な土地を含みます。そして、境界線外部での開発は原則として禁止されます。境界線導入の目的は、都市部の土地のより効率的な消費を計画および推進し、公共施設(学校、公園など)と公共サービス(道路、下水、上水など)を効率的に提供し、乱開発を防ぎ、優れた農地や森林を保全することです。

境界線の制度は、1971年に策定されたオレゴン州の土地利用プログラムの一貫として始まり、1973年の州土地利用法によって、各自治体に義務づけられました。ポートランド地域では、メトロの前身のCRAGが1977年に行った提案が1979年にメトロ議会で承認、1980年にオレゴン州土地保全開発委員会(LCDC)に認可されたのが始まりでした。現在、メトロは3郡の都市部と24市にまたがるポートランド地域の全ての境界線を管理します。その総延長は320キロ、境界線内部の面積は943平方キロです。(→地図

1979年に最初の境界線が設定されて以降現在に至るまで、アメリカおよび地域経済が低迷し、新規開発もあまり発生しなかったため、議会による境界線の変更(後述)は行われていません。しかし、1990年代前半からの急激な地域成長は多くの土地開発需要を引き起こしているため、1996年より議会による境界線見直しの検討が行われてきました。この検討は、メトロを中心に、自治体、住民、環境グループ、産業などを幅広く巻き込んで行われてきましたが、1997年10月23日の議会において、現時点の試算による住宅用地約29,000戸分の不足(業務開発用地の不足はほぼゼロ)を収めるのに必要十分な1,600〜1900ヘクタール(4,100〜4,800エーカー)の拡大が決定されました(→決定プロセスはこちら)。注意すべきは、この決定が幅を持った総量だけを定めたものであり、具体的な位置は決まっていない点です。今後、開発を希望する全てのデベロッパーはマスタープランを作成しメトロの承認を受けねばならず、このプロセスを経て位置指定が行なわれるのです。拡大面積に幅があるのは、マスタープラン作成に柔軟性を持たせる工夫です。

境界線の(拡大を含む)変更は、メトロ、自治体、土地所有者が提案することが可能であり、法律的には以下の4つの方法があります。しかし、議会決定された(1)の手法による初めての拡大が約1,600〜1,900ヘクタールであるのに対し、過去18年間の(2)〜(4)での拡大が合計で約800ヘクタールであったことを比べると、(1)の方法が他の3つに比べてはるかに重要であることを意味します。

  1. 議会立法による変更(Legislative Amendment):州法を満たし、長期的予測に基づく大規模な変更
  2. 大規模な変更(Major Amendment):州法を満たし、20エーカー(8ヘクタール)以上の変更
  3. 位置の変更(Locational Amendement):境界線外の農地や森林を保全した上で、計画済みの開発がより効率的に行われることを目的とした20エーカー(8ヘクタール)以下の変更
  4. 行政処理による修正(Administrative Adjustment):道路再配置に伴う部分的修正
境界線の拡大は都市化保留地域(Urban Reserve)に向かってのみ可能であり、それ以外の田園地域に向かっては行えません。拡大の必要性は最長でも5年毎に検討されますが、実際に拡大するか否かの判断は境界線内部の土地の消費状況によって左右されます。境界線を拡大するには、自治体は都市開発用地の必要性、さらに拡大候補地として指定された土地が他よりも望ましいことを示さねばなりません。この条件は、オレゴン州土地保全開発委員会(LCDC)によって厳しく審査されます。

ポートランド地域を始めとするオレゴン州での境界線導入による都市成長管理の成功に倣って、シアトル、サン・ディエゴ、メリーランド、マディソン(ウィスコンシン州)でも同様の試みが行われています。

<都市化保留地域とは何か?>

都市化保留地域(Urban Reserve)とは、将来的に境界線内部に取り込まれる都市開発可能な土地であり、30年分の土地供給予測を満たすのに必要十分な面積を指定することが、州法によって義務づけられています。勿論、全ての都市化保留地域を境界線に取り込む必要はなく、必要十分なだけの量が編入されます。

都市化保留地域の制度によって、住民は都市拡張に最適である地域を選定することができ、開発業者は新規開発にともなう許認可などの不確定要素を減らすことが可能です。また、投機的な土地取引を減らす効果もあります。個々の都市化保留地域の範囲は土地課税区画線に一致し、河川や排水溝、氾濫源、標高線、地形、道路、土地課税区画線、送電線などに基づいて指定されます。都市化保留地域内部のゾーニングは田園用途のままですが、境界線に取り込まれる際に整然と効率的な都市サービスを供給できることを保証する注意が払われます。そして、都市的なゾーニングが指定されるのは境界線内に含まれてからになります。

州法に規定される都市化保留地域の指定条件は、以下の通りです。

  1. 公共施設やサービスを秩序よく経済的に行う
  2. 既存都市域内部および周囲の土地利用の効率が最も高い
  3. 環境、エネルギー、経済および社会的効果がある
  4. 農地を保全する
  5. 提案された都市的土地利用と、周辺の農業活動が両立する
さらに、州法は、農地や森林をその重要度に応じて4等級に区分し、都市化保留地域への指定の優先順位を定めています。この規定への例外が認められるのは、以下の場合に限られます。
  1. 特定された土地利用を高優先度の土地に合理的に収められない
  2. 地形やその他の物理的障害によって、都市サービスを高優先度の土地に合理的に収められない
  3. 都市化保留地域内の土地の利用効率を最大にするのに、低優先度の土地を含むことが必要である
  4. 高優先度の土地に都市サービスを合理的に供給するのに、低優先度の土地を含むことが必要である
これらの州の基準を検討する際にメトロが行う分析は、以下の要素を含みます。
  1. 都市的サービス供給の相対費用
  2. 当該地域を結ぶ道路の交通混雑予測
  3. 既存と計画中の学校施設
  4. 自治体による2015年を目処とした住宅および雇用配分計画への影響
  5. 氾濫源、急傾斜地、湿地
  6. 農地および森林としての価値、および土壌の種類
  7. 当該地域の雇用と住宅のバランス
  8. 当該地域の大きさ
  9. 土地表面の形質
  10. 中心への距離
メトロ議会はポートランド地域の都市化保留地域7,463ヘクタールを1997年3月7日に指定しました。(→
地図)これは、境界線内部の土地の8%以下に過ぎません。それに先立つ検討では、全ての都市化保留地域指定の候補地についてコンピューター分析を行い、その結果を受けて、住民ヒアリング、オープンハウス、自治体との調整、政策諮問委員会の勧告などが行われました。今後、1997年10月23日議会決定された1,600〜1900ヘクタールの境界線拡大の決定を受けて(→決定プロセスはこちら)、どの都市化保留地域が境界線内に編入されるかの検討が開始されます。最終的な位置指定はデベロッパーが作成したマスタープランをメトロが承認した後に初めて決まります。

なお、数字を比べれば明らかなように、全ての都市化保留地域を編入するわけではありません。この議論が地域住民の保守的な価値観をどれほど強く反映しているかを示すために、2つの都市の例を挙げます。ミネアポリスは32,000ヘクタールを都市部に加え、81,000ヘクタールを都市化保留地域に指定しました。デンバーでは43,000ヘクタールを都市化予定区域に指定しました。

<日本の線引き制度への示唆>

日本の線引き制度とメトロの都市成長境界線制度は、効率的な都市開発を誘導し農地や緑地を保全するという目標は共通ですし、基本的には以下のような類推が成り立つと考えられます。

線引き制度メトロUGB制度
都市計画区域UGB内部+都市化保留地域
市街化区域UGB内部
市街化調整区域都市化保留地域
都市計画区域外田園地域(農地/森林)

しかし、両者の本質には以下のような大きな違いが見られます。市街地が多くの自治体にまたがって巨大に拡大している日本と、農地や森林に囲まれてコンパクトに固まっているポートランド地域では、都市構造が異なる点を差し引いても、メトロの制度から学べる示唆は多いと思います。

1)都市成長の場所と時期の管理

日本の線引き制度は、都市計画区域を市街化区域と市街化調整区域の2つに区分しており、密度や用途指定の違いはあるものの、両方で並行して開発が行なわれています。また、市街化調整区域から市街化区域への次回の編入がどこで行われるのかは明確に定められていません。したがって、これらは都市の拡大の方向やスケジュールを管理する手段としてはあまり有効ではありません。これに対し、メトロのUGB制度では、開発はUGB内部でのみ認められており、都市化保留地域では全ての開発が原則的に禁止されています。また、UGBの拡大が都市化保留地域に限って認められていることと、その面積が一定期間の都市成長量に対応するべく指定されているため、都市の拡大が秩序よく段階的に進められます。これらは、公共施設やサービスの効率的整備、土地投機の抑制と土地市場の管理、住民意見の広域的な調整、などに有利となります。

2)市街地の開発可能容量検討の総合性

再開発など土地利用度向上による既存市街地内の開発可能容量の検討は、田園から都市への土地利用の転換面積を計算するのに不可欠です。日本の線引き制度の下では、市街化区域での開発可能容量は指定容積率の未消化分として示されることが一般的です。この方法はあくまでも許認可上の計算に過ぎず、「機能するまち」をつくるのに不可欠な要素であるインフラストラクチャーの容量や環境への影響などが見落とされています。これに対し、メトロで行われる開発可能容量の見積もりでは、公共サービスの整備計画や交通量予測、環境への影響などを総合的に検討しています。

3)土地需要の長期的かつ定量的予測に基づく計画

日本の線引き指定では、都市成長や土地需要の見積もり計算は定量的に行われておらず、拡大の幅を数字で決めることは事実上不可能です。そのため、線引きの見直しは、毎年の定期見直しによる目標なき現状追認型の行政決定とならざるを得ません。そして、結果として発生する都市周辺部の開発は全体としての整合性が取れておらず、公共サービス整備の投資効率の低下や、緑地の乱開発などを招いてしまいます。これに対し、メトロの見積もりでは長期的な土地需要が定量的に示されるため、その配分を計画的に誘導することを可能にしています。ここで重要なのは、これによって開発地域の決定が行政追認型ではなくなり、住民の代表である議会の決定事項となることです。また、全体の整合性が取れているため、公共サービスの効率的な整備や、広域システムとしての農地や緑地の保全にも成功しています。

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