発表日 | 偽装物件数 | 典拠 |
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2005年11月17日 | 21 | 各紙 |
2005年12月5日 | 57 | 「耐震偽造被害/支援の「格差」が気になる」神戸新聞2005年12月7日 |
2005年12月13日 | 70 | 「基準半分未満、新たに6物件=耐震強度偽装70件に−国交省まとめ」時事通信2005年12月13日 |
2005年12月15日 | 73 | 「構造計算書の改ざん73棟に…国交省発表」読売新聞2005年12月15日 |
2005年12月16日 | 75 | 「<耐震偽造>新たに2棟確認、17都府県75棟に 国交省」毎日新聞2005年12月16日 |
2005年12月28日 | 88 | 「<耐震偽造>姉歯物件、3件増えて88件に 国交省発表」毎日新聞2005年12月28日 |
2006年1月11日 | 93 | 「<耐震偽造>姉歯物件新たに4件増え、93物件に 国交省」毎日新聞2006年1月11日 |
2006年1月16日 | 94 | 「改ざん物件94件に」読売新聞2006年1月17日 |
2006年1月20日 | 95 | 「<耐震偽造>姉歯関与1件増え、計95件に」毎日新聞2006年1月20日 「新たに偽装確認、計95件に 足立区のマンション」共同通信2006年1月20日 |
2006年1月30日 | 97 | 「耐震偽装、97物件に=国土交通省」時事通信2006年1月30日 |
「「姉歯以外」での偽装が確認されれば、問題は姉歯固有のものではなく一般的な構図に広がってしまうことになり、日本の建築の信用が完全に崩壊する事態となる」(「「非姉歯」拡大なら底なし 国交省、木村の169件重点調査」産経新聞2005年12月21日)。
建設業関係者は「『非姉歯』からクロが出れば底なしの様相となり、マンションの買い控えなどが進んで業界は計り知れないダメージを受ける」と話す(「耐震偽装 「非姉歯」163件シロ 残り278件 全容解明は中旬以降」産経新聞2006年1月7日)。
木村建設(熊本県八代市、破産手続中)が関与した物件は169件、ヒューザー及び平成設計の関与は90件である(「木村建設関与は169件=調査対象数を訂正−国交省」時事通信2005年12月15日)。姉歯元建築士以上に鉄筋量を減らしていた設計士が存在した。木村建設が施工したホテルのうち、姉歯秀次・元一級建築士が構造計算に関与していない9棟のホテルでも、鉄筋使用量が「姉歯物件」並みに少ないものがある。
1998年11月に着工したとされるホテルなど2棟の鉄筋量は、最も鉄筋量の少なかった「姉歯物件」を下回っていた(「木村建設施工のホテル、姉歯以外の9棟も鉄筋量不足か」読売新聞2005年12月16日)。北側国交相は「『姉歯』以外に、鉄筋が非常に少ないものがあると判明した。木村建設のしかるべき方からよく事情を聴きたい」と述べた(「鉄筋少ない物件、他にも 国交省が調査へ」朝日新聞2005年12月16日)。
国交省には小出しに発表せざるを得ない理由があるのだろうか。当たり籤は残りの部分に隠されているとの疑念を抱きたくなる。調査結果にも不審点がある。「耐震強度に問題がなかった」ではなく、「構造計算書は改竄されていなかった」と、いつの間にか微妙に論点がすり替えられている。これでは構造計算そのものが初めから手抜き構造のいい加減なものであっても、審査する過程で、書面の「改竄」さえ行われていなければ「問題なし」という意味に解釈できてしまう。問題は耐震強度の有無であった筈である。
グランドステージ藤沢では基となる構造図と、現場用の施工図に食い違いがある。木村建設が建設段階で作った施工図は、姉歯元建築士が作成した構造図よりも軟弱なものであった。地震の揺れを吸収する「スリット」と呼ばれるすきまを減らしたり、配置場所を変えたりされていた。姉歯氏によって経済設計された上に、施工業者が柱・梁・鉄筋から基礎まで安く上げるためにスカスカにしていたことになる。
姉歯元建築士作成の構造図では、マンション一階の壁の二十カ所にスリットが入っているのに対し、施工図では半分の十カ所に入っているだけだった。スリットは地震の際、柱と壁が揺れ合ってできるずれで破壊されるのを防ぐために設けられる(「施工図の強度、構造図より劣る 耐震偽造のマンション」朝日新聞2005年12月22日)。配置もほとんど異なっていた。
構造図と施工図とを見比べた構造設計の専門家は「施工図では、明らかに壁がもろくなる。現場での手抜き工事のやり方だ。簡単でコストも削減でき、工事費が安くなるが、壁にひび割れができる上、耐震性にも影響を及ぼしかねない」と話す(「木村建設、手抜き工事か」東京新聞2005年12月22日)。
読売新聞社による非破壊検査では建物全体を支えている地下一階の柱の鉄筋が必要量の半分以下しかなく、「耐力壁」の鉄筋も通常求められるものより細いことを確認した。住民側に渡された「工事監理報告書」と「施工結果報告書」には、事実と異なる工事名や構造が記されていたことも明らかになった(「地下の柱、鉄筋半分以下…藤沢のマンションで検査」読売新聞2006年1月5日)。
検査に立ち会った元住民は以下の疑問を呈した。「なぜこんな構造で検査が通るのか。図面をきちんと見たんだろうか」(「耐震偽装、GS藤沢非破壊検査「柱の中スカスカ」」読売新聞2006年1月5日)。
水が多くてもコンクリートは固まるが、内部に微細な空隙が多くなって強度は低下する。「後日、ハンマーで叩くと簡単に崩れたり、素手でかきだせるような劣悪なコンクリートになる」(橋本一郎、サラリーマンでもできるマンション投資・家賃収入で儲ける極意、明日香出版社、2004年、66頁)。
シャブコン使用は建物の強度に大きな影響を及ぼすことから、同マンションの耐震強度はさらに低下する可能性がある(「「姉歯偽装」のGS藤沢、水分多いコンクリ使う?」読売新聞2005年12月23日)。木村建設は「使っていない」と否定する。しかし業界に「シャブコン」という隠語があること自体、「そういうこともありなのか」と疑ってしまうのは当然であり、全容解明が待たれる。
生コンはJIS規格で硬さが決められており、流した直後の広がり具合で硬度をチェックする。写真は建設現場に納入された当日、木村建設の現場監督が撮影した。建物全体の重量がかかる半地下部分に使う生コンをチェックした2005年1月28日の写真は、黒板には直径37センチと記されている。しかし写真は、それを大きく超えているように見え、規定外の軟らかい生コンの可能性が高い。下条議員はこの写真を一級建築士の他、複数の生コン業者にも見てもらい、規定通りではない可能性が高いとの回答を得たという(「耐震偽装 生コン硬度、規定外か 「藤沢」の現場写真公開」産経新聞2006年1月13日)。
元平成設計幹部らによると、同社は2004年6月、設計会社「塩見」(広島市)にアルクイン黒崎の構造設計を発注した。同社は7月中旬、民間検査機関の日本ERIに構造計算書を提出した。木村建設はその後、ホテル部で会議を開催。「塩見では鉄筋量が多い。姉歯氏なら1平方メートル当たり約70キロでできる」と計算書の差し替えを話し合った。
木村社長は会議に出席しなかったが、数日後、平成設計担当者に直接電話した。ホテル外観などを描いた意匠図を木村建設の篠塚明東京支店長(当時)に送るよう指示した。「構造計算書を作成するための意匠図を送れ」と言ったという。篠塚氏が姉歯氏の窓口的存在だったことは当時、両社内で広く知られていた。元平成幹部は「木村社長が構造計算書を姉歯氏のものに差し替えようとしていると思った」と話す。構造計算書は既に日本ERIに提出されていたが、その後、建築主に無断で姉歯秀次元建築士の計算書に差し替えられた。>
木村社長は普段から姉歯氏の構造設計を高く評価していたという。木村社長は姉歯氏が構造計算したホテルの例を挙げ、「14階建てぐらいなら鉄筋コンクリート造りでいける」と周囲に話し、鉄骨を使わず少量の鉄筋で済む設計を評価していた。「姉歯氏と(木村建設)の関係はあまり知らない」とした国会証言と異なる実態も判明した(「木村社長、直接指示か=担当者に「意匠図送れ」−構造計算書差し替え疑惑」時事通信2006年1月14日)。木村建設社内では建築士ごとに鉄筋量を比較した積算対比表が出回っており、幹部は目を通していたという。
アルクイン黒崎施工に際し、木村建設が鉄筋減量で削減した経費は約270万円である。関係者の証言で判明した(2006年1月10日)。問題発覚で休業した同ホテルの改修費は1億2000万〜1億3000万円に上るとされる。建築主は、目先の利益を追い、甚大なツケを生じさせた業者側の体質に怒りをあらわにしている(「鉄筋減量で「270万円」=改修費は1億2000万円超−北九州のビジネスホテル」時事通信2006年1月10日)。
木村建設に続き、平成設計も自己破産を申し立てた。やばくなったら自己破産というのは、不良建設会社の常套手段である。木村建設も自己破産し、ほとぼりが冷めたら手形を買い直して、新たに違う会社名として出発することを企図していると思われる。偽造問題に関与した関係者は全員全財産没収して補償にあてるべきである。会社の倒産くらいでは許されない。個人レベルで取り立てるべきである。
関係者は「通常、構造設計は元請けが自分で発注し、代金も直接支払う。間に木村建設が入るのは不自然」と指摘する。同社と姉歯元建築士の密接な関係が改めて浮き彫りになった(「構造設計費、木村建設が請求=元請け設計事務所に−姉歯氏への支払いに介在」時事通信2006年1月10日)。
業者を対象に各地でセミナーを開いていた(「木村建設、「総研」が経営指導」読売新聞2005年11月30日)。業界向けの会報(2005年夏発行)では建築士を替えてでも鉄筋を減らすように推奨していた(日下部聡「内川健社長の「罪と罰」」サンデー毎日2005年12月25日号30頁)。
木村建設の子会社である平成設計関係者は、内河所長らから「鉄筋の数を抑えろ」と直接指示を受けたと証言する。「断ることはまずできなかった」とする(「耐震性の裏付けなき数値 「統計値」で鉄筋削減」産経新聞2005年12月26日)。平成設計は本社が総研のビルに入居している。
平成設計は、内河所長の個人資産の賃貸収入などを管理する有限会社「内河」(東京都)など3社に、2001年以降だけで1億4000万円を超す金を支払っていた。総研がビジネスホテルを開業指導する度、設計を担当した平成設計から「企画料」や「指導料」として設計料の20-25%を受け取り、ホテル建設の情報提供に協力した関係者に謝礼として渡されていたという。「(設計料還流先の一部は)内河所長しか知らなかった」とされる(「総研の資金還流、「内河所長だけ認識」 耐震強度偽装」朝日新聞2006年1月10日)。
日本共産党の穀田恵二衆院議員は、証人喚問で内河氏に厳しく指摘した。「構造設計にとことんまで注意を払うということがあなたの事業の核心部分だ。会社ぐるみで偽造を行なったと断じざるを得ない」(「総研“鉄筋減らせる”指示・推奨2つのメモ」しんぶん赤旗2005年12月16日)。
「総研は自分たちとは別に、同じようなシステムを伝授し、それで手数料をさらに取っていた。要するに、そうした耐震データ偽造による施工・販売グループが他にもたくさんあるということです」(山岡俊介「耐震データ偽造事件一味のXデーは4月21日」ストレイ・ドッグ2006年4月20日)。
鹿島と大林組は、国土交通省の事情聴取に対し「建築確認済みの図面の構造計算書を精査することはなく、偽装に気付かなかった」と説明した(「大手も「耐震偽装気付かず」=鹿島、大林組から聴取―国交省」時事通信2005年12月20日)。
仙台市建築指導課によると、この工事業者は宮城県亘理町の「カップリング圧接」である。偽造物件5棟は青葉区の2棟と宮城野、若林、太白区の各1棟で、7-12階建て。建築主は野村不動産が4棟、大和ハウス工業が1棟。このうち、青葉区と宮城野区の2棟は分譲を終え、既に住民が入居している(「鉄筋業者、溶接強度データ偽造…仙台のマンション5棟」読売新聞2005年11月25日)。
業者は試験機関の県産業工業技術センターが試験を実施したように見せ掛けて一棟につき約三割のデータを偽造していた。県産業技術総合センターの所長印が入った強度検査「引張試験」の成績表を無断で複製した。同センターに強度検査を依頼していないにもかかわらず、複製した成績表に鉄筋溶接部分の強度について架空の数値を記入し、元請けの大手ゼネコン「大林組」(東京)に提出した。業者は「工程がきつく検査の時間が取れなかった」と説明する(「大手ゼネコンも鉄筋の強度データ偽造」日刊スポーツ2005年11月25日)。
県警捜査2課と仙台南署は、公文書偽造、同行使の疑いで、同市宮城野区岩切、鉄筋工事業の30歳代の男の逮捕状を取った。県警は2005年12月5日、容疑者不詳で告発を受けた。同26日、男が実質的に経営する宮城県亘理町の鉄筋工事会社「カップリング圧接」や自宅などを家宅捜索していた(「強度成績書を偽造、容疑の鉄筋工事業の男逮捕へ…仙台」読売新聞2006年1月13日)。
府は11月に確認申請書類の審査だけで、これらのホテルについて「改ざんはない」と発表していた。しかし、構造計算プログラムを使って再審査したところ、改ざんが見つかった。両ホテルは府からの要請を受け、12月2日から営業を休止した。ともに鉄筋コンクリート造、地上8階である(青野昌行「大手ゼネコンの施工でも偽造、京都のホテルで」建設総合サイトKEN-Platz 2005年12月4日)。
鹿島は「建築主の不動産業者から『欠陥があった場合の責任は木村に負わせる。ポイントで監理をしてくれればいいから元請けになってほしい』と頼まれ、建設費の数%を受け取る契約で応じた」と話す(広報室)。鹿島は現場に技術者一人を月数回派遣しただけで、鉄筋不足などには気付かなかったとしている。責任の所在の曖昧さが浮き彫りになった(「「姉歯」23物件、大手から木村建設に“丸投げ”」読売新聞2005年12月25日)。
大阪市は2005年11月24日に「安全性は確保されている」と公表していたが、JR西日本の子会社で、ホテルを運営するジェイアール西日本デイリーサービスネットが専門機関に依頼して調査したところ、構造計算書の改ざんが見つかった。同ホテルは12月5日から営業を休止した(「大林組の施工でも偽造、鹿島に続いて大手で2件目」建設総合サイトKEN-Platz 2005年12月4日)。
国土交通省は分譲マンションなどの施工業者が工事を別の業者に一括して下請けに出すいわゆる「丸投げ」について、全面禁止を含めて見直しを検討する方針を決めた(2005年12月30日)。国交相の諮問機関の社会資本整備審議会が今後、建設業法などの改正を議論する。北側一雄国交相が同日の臨時記者会見で明らかにした。
現行の建設業法でも業者の中間搾取防止のため、工事一括下請負(丸投げ)を原則的に禁止している。但し民間工事に限り、事前に発注者である建築主の承諾を書面で得た場合にだけ丸投げが許される。違反に罰則はないが、国交省総合政策局長通達で、営業停止15日の行政処分の対象となると決められている。
マンションなどの販売時には丸投げ情報の開示が義務付けられていない。消費者は実態が分からないのが現状である。消費者保護の観点から検討の必要があると判断した(「工事丸投げの禁止を検討 消費者保護の観点で国交省」共同通信2005年12月30日)。
東京都内の複数の設計事務所が、施主の業者からの紹介で姉歯建築設計事務所に構造計算を発注していたことが判明している。姉歯事務所は「コスト削減のプレッシャーがあった」と話しており、建設費を抑えたい施主の依頼が偽造の原因となった可能性がある(「<ニセ耐震>施主の依頼が書類偽造の原因か」毎日新聞2005年11月18日)。
姉歯建築士は「業界の全体的な風潮の中で、コストを安くしなければならないとの意識があった。悪いことをやっているとの認識はなく、忙しすぎて感覚がまひしていた」と述べた(「建築士、1カ月前まで偽造 「悪いという認識なし」」共同通信2005年11月18日)。
姉歯元建築士は鉄筋の量を減らすことを強要されていたと証言する。「仕事の九割が木村建設だった」姉歯氏の立場にしてみれば「鉄筋を減らさねば今後仕事を回さないぞ」という言い方でも、一線を越えるのに十分な圧力だろう(「耐震偽装喚問/全体像解明し責任追及を」神戸新聞2005年12月15日)。
木村建設関係者は以下のように振り返る。「コストダウンは永遠のテーマ。それを追求する中で、姉歯の『経済設計』に皆が飛びついた。その結果が、今回の問題につながった」(「【強制捜査(上)】“コスト減信者”が連携」読売新聞2005年12月21日)。
コスト削減は無条件に正しいと思ってしまう錯覚に陥らせがちである。コストを減らすことは大抵の場合、悪くはない。しかし、やってることが安易な場合も多い。単に値切ること等である。低コスト・短工期一辺倒の発想には建物の資産価値を高めるという社会貢献の意識はない。
コスト削減は価値の創造よりも容易である。売価100円の商品の原価50円を40円にする方が、売価100円を120円に上げることよりは易しいと考える人が大半だろう。従ってコスト削減に逃げたがる。ないものを造るよりも、在るものを減らす方が楽だからである。気をつけなければ、そればかりになり、ビジネスが縮小均衡してしまう。
昨今の上向き景気も、強い立場の企業が強烈な圧力によるコスト削減を弱い立場の企業に求めた結果の高利益がもたらした面が大きい。あくまで上辺だけの、一握りの人間だけがおいしい思いをする景気に過ぎない。
姉歯秀次元一級建築士が警視庁と千葉、神奈川両県の合同捜査本部による事情聴取に「木村建設や平成設計から受注したマンションとホテルのルートとは全く関係のない物件でも、構造計算書を偽造していた」と供述していることが判明した(2005年12月29日)。合同捜査本部は、姉歯元建築士が下請けで覚えた手口を悪用し、自ら積極的に耐震強度を偽装していた疑いがあるとみて調べている(「「木村物件」以外でも偽造 姉歯氏自身が積極関与か」熊本日日新聞2005年12月21日)。
木村建設らから「設計会社は他にいくらでもある」と言われたとしても、姉歯元建築士は以下のように答えるべきであった。「いいですよ。別の設計会社にしても。法律を破ってまで偽造はしません。それが一級建築士としてのプライドですから」。
技術者の良心は存在しない。自らの仕事にプライドを持っていたら、恥ずかしくてできない筈である。偽造とまではいかなくても、建物に対する愛情が乏しい状況が存在する。平然と「マンションなんて、自分なら住みたくないね(苦笑)」と嘯く業界である。愛情を受けなかった子どもが不幸なのと同様、愛情なく建てられた建物が健全である筈がない。
建築士(設計士)は本来、安全で快適な居住空間を創り出すものである。家は、その人が欲して住むことのために建築すべきである。その精神を持って仕事をすることが大切である。「入居者や購入者ではなく、元請けである建設会社の意向のほうを重視した結果の不正である」(森希宗子「住まいの相談室」新しい住まいの設計2006年2月号129頁)。「重い責任を託された職業人としての自覚がもう少しあったなら、こんな事態を招いただろうか」(「「職業人」の倫理を磨こう」朝日新聞2005年12月31日)。
名古屋大の福和伸夫教授(耐震工学)は以下のように語る。「ルールを順守できない建築家は存在してはいけない。基準を守ることは最低限で、人の命や財産を守る仕事に就いているという崇高な倫理観が求められる」(「不正相次ぐ科技立国 ニッポン」東京新聞2005年12月29日)。
「建築物の安全は建築士や建築主らのモラルに頼っていてもダメということが分かった以上、法律で規制するのは当然である」(「耐震強度偽装防止策/第三者機関の監視体制を」山陰中央新報2006年1月31日)。
メディアで騒がれている建築士は、姉歯秀次元建築士たった一人である。登場するのはデベロッパーやゼネコン、コンサルタントらの、似非建築士ばかりである。マスメディアが終始近視眼的だということで片付けていいものだろうか。
耐震強度偽装事件は、年明け以降、報道量が激減した。マスメディアは冷めやすいという理由だけだろうか。幕引きを図ろうとする圧力が働いていないだろうか。未だに何も解決していない。方針や行方も分からないままなのに、このまま埋没してうやむやになるのだけは避けなければならない。
建築基準法上、構造計算書は元請けの設計業者の名義で作成されるため、設計業者に偽造の認識があったかどうかにかかわらず責任が生じると判断している(「耐震設計偽造 国交省、月内にも刑事告発 姉歯建築士と6設計業者」産経新聞2005年11月21日)。設計者は元請であり、外注が勝手に偽造したとしても、その設計の全責任を負うことになる。設計を統括する意匠設計者に悪意がないなら、構造図を確認して是正させるべきであった。
国土交通省は耐震強度偽装事件で、耐震強度が不足しているすべてのマンションやホテルの元請け設計担当者について、建築士法に基づいて免許取り消しか業務停止の懲戒処分にする方針を固めた。処分を受けるのは約20人に上る見通しで、一つの事件としては前例のない大量処分となる(「元請け設計者全員を懲戒処分へ 耐震強度偽装事件で」朝日新聞2006年1月5日)。
建築確認申請書に自己が工事監理を行う旨の実態にそぐわない記載をした建築士は、建築主との工事監理契約のない場合であっても、建物購入者に対する不法行為責任がある(最判平成14年9月24日判例時報1801号77頁)。
資格を取り消されたのは、姉歯秀次元建築士に構造設計を依頼した設計事務所と建設会社合わせて6社の一級建築士計8人である。エスエスエー建築都市設計事務所、木村建設東京支店、スペースワン建築研究所(2人)、シノケン東京支店、下河辺建築設計事務所、平成設計(2人)の建築士である(「8建築士の免許取り消し 元請け責任も重いと国交省」共同通信2006年1月24日)。
いずれの処分も中央建築士審査会が同意した(「元請け建築士資格取り消し=設計担当6社の8人−耐震偽装で中央建築士審査会」時事通信2006年1月24日)。国交省は、6社以外で偽装物件の元請けとなっていた建築士についても順次、処分を進める(「耐震強度偽装事件、1級建築士8人の資格取り消し処分」読売新聞2006年1月24日)。東京都は設計事務所としての登録抹消などの処分を行う方針である。
建築設計実務者の13%が、「コストダウンの要請などで、脱法行為を犯してしまうほどの強いプレッシャーを感じたことがある」と答える(「13%が「脱法行為を犯すほど強いプレッシャー感じた」設計実務者緊急調査」建設総合サイトKEN-Platz 2005年12月13日)。
日経アーキテクチュアが読者を対象に実施したアンケート調査では「これまで大小にかかわらず、確認申請図書の偽造・偽装をしたことがある」と回答した人は12.7%も存在した。自由意見でも「ほかより経済的でないと言われ、仕事が来なくなるプレッシャーがある」など、発注者の声に対抗し切れない現状を嘆く声が数多く寄せられた(「違法を指示する建築主にやむなく屈する設計者も」建設総合サイトKEN-Platz 2005年12月28日)。
耐震強度偽装の問題の闇は深い。構造計算書偽装は人が安全に、安心して生活する権利を侵害する。人権侵害の問題として捉えることができる。経済優先の社会が歪んだスペシャリストを作り、それが社会につけとして返ってきた。
「人命よりも自分の収入や業界の要望を重視するようなやり方には、強い憤りを感じる」(「耐震性の偽造/「命の重み」を知るべきだ」神戸新聞2005年11月19日)。
「古代バビロニアのハンムラビ法典には「大工の建てた家が倒れて家の主が死んだら大工を殺す」という条文がある。建築は人命を預かる仕事だという緊張感が、古今を問わず求められている」(「命を脅かす犯罪だ」朝日新聞2005年11月19日)。
徹底的な責任追及がなされるべきである。「入居者や住民のために緊急策を肩代わりする形の自治体や国は、建築主らの責任を厳しく追及していくべきだ」(「素早い支援はいいけれど」朝日新聞2005年12月7日)。「何よりも公的資金を使う以上、業者の責任を棚上げしたままでは国民は納得しない」(「耐震偽造住民支援策 業者の責任追及も急げ」徳島新聞2005年12月8日)。
「グランドステージ東向島」がある墨田区では、「責任を問うべきはヒューザーやイーホームズ。税金を使ってほしくない」とする意見が大勢を占めている(「耐震偽装への税金投入批判、被害住民悩ます中傷も」読売新聞2005年12月18日)。
元請け設計会社(スペースワン等)、建設業者(木村建設、サン中央ホーム等)、売主(ヒューザー、シノケン等)、検査機関(イーホームズ、日本ERI)の全てに責任がある。建て主、建築確認実施機関、施工、制度設計を行った国に至るまで、それぞれの立場において責任がある。いいかげんな検査機関の人間も含め、皆が共犯者である。ヒューザー、姉歯秀次元建築士、木村建設、イーホームズ、皆がコスト削減のグルの気がする。
「設計事務所の職業倫理が問われるは当然としても、責めを負うのはここだけだろうか。元請け・下請けの関係、検査機関、行政の責任…解きほぐすべき課題は多い」(「小社会」高知新聞2005年11月22日)。
「構造計算書偽造事件は、直接その行為に手を染めた人だけではなく、設計から施工に至る過程に関与した人々の匿名性を隠れみのにした不作為によって生じたといってよい」(野城智也「「家歴書」付け住宅流通を」朝日新聞2005年12月17日)。
「利益追求のためコストダウンを至上命題とする建築主や施工・設計業者、偽造を見抜けなかった国指定の確認検査機関…。建築確認制度そのものが問題をはらんでいる」(「不正の構図解明せよ」沖縄タイムス2005年12月7日)。
全部が全部、責任を背負う立場にあるのに、全員が逃げ腰、及び腰である。発注する民間企業も、設計・検査を受注する民間企業も、それらを監督する官庁も他人事であるような顔をする。確認できなかった、把握していなかったと言い逃れする。皆一様に責任を押し付けあい、なすりあっている。不動産業者も建設業者も検査機関も住民への安心の提供より先ず自分達の利益である。誰一人として責任を取ろうとするものはいない。
「ほかの機関や人間に責任を押し付け、自分は保身を図ろうとする。こんな無責任な人物が、人の生命や財産を守る住まいの建築にかかわっていたとは情けない限りだ」(「耐震強度偽造/真実はどこにあるのか」神戸新聞2005年11月30日)。
当事者が他人事のように振る舞い、互いに責任を押しつけ合う様子に被害者が憤り呆れるのは当然である。主張を聞けば聞くほど、関係者一同の人間性の低劣さが見えてくる。「グランドステージ茅場町」管理組合理事長は記者会見で「責任のたらい回しばかりで、あきれ、がっかりしました」と語る(「「偽装の原点」募る怒り」朝日新聞2005年12月15日)。
「建設業界に身を置くプロたちが、これだけ多くの偽装に気づかなかったことのほうが考えづらい。もし本当に知らなかったというのなら、職責を果たしていないのではないか。責任のなすり合いになっていて見苦しかった」(「責任感のなさが見えた」沖縄タイムス2005年12月15日)。
地震国日本で耐震強度偽装問題を起こしながら自らの保身を図る人達には企業人になる資格はない。「責任のなすり付け合い、トランプのババ抜きゲームを終わらせるには断固とした姿勢を示すしかない」(「ウソの証明」山陰中央新報2005年12月11日)。
「事の経緯を振り返れば振り返るほど人間の強欲、業の深さというものが浮かび上がってくる。欲望を道連れにして不正に手を染めた人物の行為は、浅ましくもある」(「塩水と富は渇きのもと」山陰中央新報2006年2月20日)。
大事における日本政府の無策ぶりは世界各国の失笑を買っている。外国人の日本製品・技術に対する高品質神話を崩壊させることになる。「この騒動、崩壊していく日本社会を象徴しているのでは、と思ってしまう」(「耐震偽装で一斉捜索」中国新聞2005年12月21日)。
「あらゆる分野でこの国は、効率化という美名のもとにさまざまな手抜き仕事を積み重ね、経済大国という幻の塔を作り上げた」(天野祐吉「CM天気図」朝日新聞2005年12月22日)。「手抜き工事は今やこの国の文化的伝統のように見える」(加藤周一「夕陽妄語」朝日新聞夕刊2005年12月21日)。
「二カ月前のパキスタン地震では、高層マンションが倒壊した。現地を調べた日本の専門家は「鉄筋の密度など耐震構造に問題」と分析した。その言葉の裏に、日本ではありえないという誇りものぞくが、これからはとても胸を張れそうにない」(「正平調」神戸新聞2005年12月21日)。
戦後、高度成長期から今日に至るまで、安全性より経済性を優先する構造を営々と築いてきた。業務遂行を暗黙の了解、阿吽の呼吸で進める日本独特の文化から未だに抜け出せないでいる。「業界独特の「阿吽」が広がっているなら、第2、第3の手抜き工事があるのでは。不安が広がる」(「小社会」高知新聞2005年12月22日)。
確認検査制度への不信は根深い。衝撃的な事実の奥底に、日本全体を揺るがすさらなる恐怖が押し寄せていることを見逃してはならない。信頼が揺らいでしまったシステムを抜本的に見直すことなく、姑息的に対策を追加するだけでは状況は打開できない。
耐震強度偽装事件は、建築士のモラルの低下をはじめ、規制緩和で始まった民間検査機関の建築確認体制の杜撰さを白日の下に晒した。「国民の貴重な財産と安全を確保する制度が、気付かないうちに機能不全を起こしていた」(「耐震偽造 広がる被害対応急げ」中国新聞2005年11月27日)。
マンションは、その製造過程が密室で、身内だけの世界で行われる。それだけに安全性を維持するための防波堤として建築士と検査機関による誠実な業務遂行が求められる。しかし実態は、なれ合い・もたれ合いの状態で、互いのチェック機能が働いていない。欠陥建築問題は前々から存在しており、欠陥設計もあると考えるのが当然である。しかし検査機関はあり得ないことが起きたとして気付かなかったと言い訳する。
「マンションの耐震強度など安全性に関する情報は建設に携わる側が独占している。それでも消費者が安心してマンションを購入できるのは、建築確認というチェックシステムが働いているからである▼耐震強度偽装事件は、この情報の非対称性が悪用され、それをチェックできなかった」(「情報の非対称性」山陰中央新報2005年12月16日)。
「マンションの工事現場には、一般人は立ち入ることができないし、もし立ち入っても素人目には、その善し悪しはさっぱり分かりません」(橋本一郎、サラリーマンでもできるマンション投資・家賃収入で儲ける極意、明日香出版社、2004年、63頁)。
「規制緩和で適正な手続きにほころびが生じているなら、民間検査機関の業務の見直しも求められる」(「耐震強度偽造 他に背信はないのか」中国新聞2005年11月20日)。「審査結果に対するチェックの強化など、具体策を示さなければ、信頼は取り戻せない」(「耐震強度偽造 こんなでたらめが なぜ」信濃毎日新聞2005年11月25日)。
同業他社による事前チェック制度を新設することが、確認検査上のミスを防ぐ手段として最も有効と考える。構造設計は多くが一人で設計しており、他人による設計検証がなされてなく、ミスがあっても地震で倒壊するまでは発見できない。加えて工事監理者の職能を独立させるべきである。重要な部分だけでも、申請書に記された設計監理者と異なる、行政から指名された工事監理者が施工現場をチェックする方法を構築できればよい。
社会資本整備審議会建築分科会基本制度部会構造計算プログラムプロジェクトチームの久保哲夫委員(東京大学教授)は「確認検査機関側で構造を再計算するのが、偽造を見抜く一番確実な方法ではないか」と話す(「建築界信頼回復への道筋(後編)」日経BP社SAFETY JAPAN 2006年2月22日)。
国民の不安の広がりを抑えるためには、耐震性検査の費用の全部または一部を負担してでも、マンションなどの安全性を政府が確認する必要があると判断した(「国が48検査機関を格付け、問題審査は全棟検査実施へ」読売新聞2005年12月4日)。これにより、悪徳不動産業者や不良建設会社が淘汰されることを希望する。適正に検査が行われたら一体どれだけの欠陥マンションが出てくることか。国のチェックにおいても検査員を買収して、更なる不正行為が行われることのないよう、注視したい。
北側国土交通相は設計事務所と民間検査機関、自治体の三者のいずれかで10年間は保存しておくよう制度を改める方針を表明した(2005年12月6日)。閣議後の記者会見で、「制度として(現在の)5年が本当にいいのか。瑕疵(かし)担保責任は10年。その整合性は今後の見直しのテーマだ」と述べた(「設計書類の保存期間、延長方針を表明 北側国交相」朝日新聞2005年12月7日)。
小泉首相は「ちょっと軽すぎるのではないか。専門家に聞くと、刑法全体のバランスも考えなければならないというが、国民一般から考えると、釈然としないところがある」と述べ、罰則の強化が必要だとの考えを示した(「建築基準法の罰則、「ちょっと軽すぎる」…首相」読売新聞2005年12月7日)。
経済同友会の北城恪太郎代表幹事は記者会見(2005年12月6日)で、耐震強度偽造問題に関連し「建築基準法違反の罰則が最高50万円の罰金と言われているが、不正に対しては抑止力が働くぐらいの厳しい制裁が必要だ」と述べ、罰則を大幅に強化すべきだとの考えを示した(「不正には厳しい制裁を 耐震強度偽造問題で北城氏」共同通信2005年12月6日)。