謝罪・感謝の言葉は言わない

なかなか挨拶しない社会

東亜日報 JANUARY 07, 2005 23:06
by 趙?榮 申水晶 (lycho@donga.com crystal@donga.com)  

 警察の関係者は「『申し訳ございません』の一言がなかなか言えない人が多いようで、ちょっとした謝りの言葉が原因で喧嘩になって警察署までくる人たちも珍しくない」と話した。

 韓国社会は「すみません」「有難うございます」といった基本的なお礼や挨拶の言葉をなかなか言わないとよく言われている。「千両の借金も言葉で返せる」ということわざは、現代人の忙しい日常に埋もれ色あせして久しい。

 なぜ、こうなったのか。ソウル大学の韓相震(ハン・サンジン)社会学科教授は、「人を思いやらない極めて低い市民意識はお礼や挨拶を言わない社会文化と相まっている」と指摘している。

 韓教授は「出世と成功という自分の目的達成のために、前ばかり見て突っ走る『突進的近代化』の影響で、周りを思いやる余裕に欠けている」と診断した。

 「明るい社会運動」の李渙鎬(イ・ファンホ)韓国本部事務局長は、「挨拶というのは、一見なんでもないようだが、人間関係をスムーズにする『潤滑油』の役割をし、社会統合につながる」と語った。

 社会共同体を成して生きていくには、人への配慮が欠かせず、基本的な礼儀が必要だということだ。挨拶をすることは小さなことだが、こうした基本が守られてこそ人情が生まれ、人間関係の立て直しが期待できる。

 ソウル陽川区新亭洞(ヤンチョンク・シンジョンドン)の木洞(モクドン)マンション9団地では、先月から小さな変化が起きている。住民代表会議で「近所付き合いのための親切キャンペーン」を今年の主な事業にかかげ、「まず挨拶しよう」運動を展開している。

 昨年12月末から2週間にわたって、住民代表らと婦人会役員、警備員などが、朝早くから団地内の随所で挨拶キャンペーンを広げたうえに、エレベーターに「まず挨拶しよう」のポスターを貼ると、雰囲気は一変した。

 お陰で、住民の金さん(43)は朝の通勤が楽しくなった。電車の駅に向かう途中、5〜6人のお隣さんと気持ちよく挨拶を交わすと、会社でもいい気持ちが続くためだ。

 釜山で活動する交通文化運動市民連合は、2002年からバスの運転手と乗客の間で挨拶を交わす運動を進めている。市民連合は2700台余りの市内バス内に「挨拶は美しい」とのステッカーを貼って、市民に知ってもらう一方で、運転手を対象に挨拶の教育を行った。

 同団体の周永坤(チュ・ヨンゴン)代表は、「最初のときは無愛想に何も言わなかった運転手と乗客らが、今では笑顔で挨拶を交わしたり、声をかけ合ったりしている。バスに対する不親切がらみの苦情も40%近くも減っている」と話した。

 ソウル永登浦区汝矣島(ヨドゥンポク・ヨイド)の聖母(ソンモ)病院では、「挨拶は私から先に、明るい表情で、明るい声で」とのキャッチフレーズをかかげて、2003年から「こんにちは」「どうもありがとう」「良い一日をお過ごしください」との挨拶交わしを日ごろ心がけている。

 外来看護チームの姜敏子(カン・ミンジャ)さんは、「患者さんに親切になろうという趣旨から始めたのだが、職員の関係までよくなった。うれしい気持ちで日に数十回も挨拶を交わすと、『私』と『他人』を区別しない雰囲気が生まれた」と話した。

 ソウル大学の崔仁哲(チェ・インチョル)心理学科教授は、「挨拶は『私は市民社会の一員』という共同体意識を身につけさせる小さな行動だ。『礼儀を守ろう』という雰囲気を社会全般に広めることがまず必要だ」と指摘した。

 基本を守ってこそ大人の社会になれる。今日からでも周りの人に暖かい言葉をかけよう。