エホバの証人の医療に関する最近の進展

以下の記事は、アメリカの医学雑誌、Western Journal of Medicine 1999年5月号297−301頁に掲載された、Recent Developments in medical care of Jehovah's Witnesses と題する総説を、日本語に翻訳したものです。原文はアメリカの医師に向けて書かれているために、日本の医療事情と少し異なることがあることをご承知下さい。

初めに

エホバの証人たちを指導する、ものみの塔聖書冊子協会(ものみの塔協会)は、1945年以来その信者に対し、医療の目的で血液やある種の血液製剤を使用することを禁止してきた。協会は、聖書の「血を食べてはならない」(レビ記17:12)、「血を避けている」(使徒15:29)という教えは、「血を体内に少しも取り入れてはならないという意味」として、聖書は血の医療での使用を禁止していると教えてきた。[1] 過去半世紀の間、この教義はエホバの証人の医療に数多くの課題を投げかけ、また時に、不必要な患者の死をもたらして来た。この教義は神の「永遠に続く掟」とされているにもかかわらず、近年幾つかの重要な調整が加えられている。この総説では、世界中で1000万人に及ぶ信者と研究生(洗礼を受けていない信者)の医療に直接影響する、これらの最近の進展を展望してみたい。

受け入れられる治療と拒否しなければならない治療

エホバの証人を治療する医師にとって、最も不可解なことの一つは、彼らが絶対に血から避けていると言いながら、その実多くの血液製剤や血を使った治療を受け入れていることだ。ものみの塔協会が、血を避けることは聖書の絶対的に重要な教えであると言いながら、なぜ単純に全ての血液製剤、血を使った医療を禁止しないのかは不可解な所である。一方では、神は、聖書の時代に血を食べることでも、現代の医療で血を静脈に注入することでも、どのような形であろうと方法に関係なく、血を体に取り入れることを禁じている、とものみの塔協会は教えるが、他方では、現代の医療の現場での血を使った治療を、その方法によって受け入れられる治療と、拒否しなければならない治療とに細かく分類している。しかし、この分類は、高度に専門化した血液を使用した治療法が次々に開発されるにつれ、ますます複雑化してきた。

表1は現在の受け入れられる治療と拒否しなければならない治療の分類表である。表2は同じ治療法や製剤が、使用条件や細かな使用方法によって受け入れられたり拒否されたりする、複雑な分類をまとめたものである。これらの表は、ものみの塔協会の出版物、特に協会から出されている医療指示書(Advanced Directive)とエホバの証人の医師たちによって書かれた医学記事 [2,6] によった。多くのエホバの証人は、これらの複雑な規則を覚えることも理解することもできない。

表1: 現在のものみの塔協会の決めている禁止された治療法と受け入れられる治療法

禁止されている血液成分ならびに治療法

受け入れられる血液成分ならびに治療法

● 全血

● 赤血球

● 血小板

● 血漿

● ヘモグロビン溶液

● 貯蔵式自己血輸血

● 献血
● 血漿蛋白質(アルブミン、グロブリン)

● 凝固因子

● 幹細胞

● 希釈式自己血輸血、回収式自己輸血

● 骨髄移植

● 体外循環(人工心肺、人工腎臓、血漿交換)

● 受け入れられる成分をとるために献血された血液の使用
 

 

表2:同じ血液成分や治療法が、それ次第で受け入れられたり拒否されたりする複雑な条件

この条件ではエホバの証人は受け入れない

この条件ではエホバの証人は受け入れてもよい

全血[2] もし「輸血」として受け入れるなら # もし骨髄移植の中に混入して受け入れるなら[3]
血漿蛋白[2] もし「血漿」として成分を一緒にして受け入れるなら # もしアルブミン、グロブリン、凝固因子、フィブリンなどの個々の血漿蛋白質に分けて別々に受け入れるなら
白血球[2] もし「白血球」として受け入れるなら # もし「末梢血幹細胞」として受け入れるなら[4,5]
自己血[2] もし患者への管の接続が断たれているなら #

もし自己血が貯蔵されたら #
もし患者への管の接続が保たれているなら(希釈式、回収式自己血輸血)

もし「末梢血幹細胞」として受け入れたら(たとえ貯蔵してあっても)[4]
幹細胞[6] もし臍帯血からとられたら[7] もし末梢血か骨髄からとられたら[3,4]
禁止された血液成分の主要蛋白質 もし赤血球からとられたら(ヘモグロビン)[6] # もし血漿からとられたら(アルブミン)[2]
人工心肺[2] もし患者の血液が機械を充填するのに使われたら # もし患者の血液が機械を循環するのに使われたら
硬膜外血液パッチ[8] もし血液が静脈から取られた後に注入されたら もし注入用の注射器が静脈と管でつながれていたら
献血[9] もしエホバの証人やそれ以外の人が使うためにエホバの証人によって献血されたら # もしエホバの証人やそれ以外の人が使うためにエホバの証人以外の人によって献血されたら
# 印のついた条件は、全てのエホバの証人が例外なく従うが、それ以外の条件は多くのエホバの証人が従うが、例外もある。例えば、全てのエホバの証人は前もって血液で充填された人工心肺を拒否するが、自己血で還流されている人工心肺は大部分のエホバの証人が受け入れるが、これには例外もある。

ものみの塔協会はこのような複雑な情報に対応するために、ニューヨークの本部と多くの国の支部に、血液拒否の方針を徹底させるために医療機関情報デスクを設置した。このサービスは無血治療についての問い合わせにに対応し、輸血拒否の複雑な細則を患者や医師たちに理解させる助けとなっている。更に、医療機関情報デスクで特別の訓練を受けた長老たちから構成される、医療機関連絡委員会が世界中に1200以上も作られ、委員の長老たちは病院を訪問して輸血拒否の方針の理解を求める他、必要に応じて医師たちとエホバの証人の患者との間を仲介する役割も果たしている。

エホバの証人内部での改革運動

1996年以来、医療機関連絡委員の一部を含むエホバの証人たちが、匿名で現在の輸血拒否の方針に疑問を表明し、その数は増加している。[10] 彼らは「血液拒否改革エホバの証人連合」(AJWRB)を形成し、彼らの言葉によれば、矛盾と一貫性に欠ける複雑な規則に縛られた輸血拒否の方針が、聖書の根拠も明らかにされないままに厳しく施行されている状態に対して、内部からの改革を提唱している。[11,12] 何人かの医療機関連絡委員は、これらの規則が「パリサイ的」であるとして、その任を辞職している。ものみの塔協会は、これらの改革派のエホバの証人を「不満分子」として無視し、その匿名での発言のゆえに信憑性がないとしている。[13,14] しかし、AJWRBによればエホバの証人が匿名を使わずに、協会を少しでも批判するような発言をしたり内部から改革を訴えることは不可能なのだ。なぜならそのような公の発言は、ほとんど例外なくその信者の排斥につながるからである。[12]

エホバの証人を治療する医師たちにとって、この改革派エホバの証人の存在は重要な視点を提起する。それはこれまで、全員が一致している宗教団体と理解されていたエホバの証人の中に、価値観や信条に多様性を持つ個人が増えてきていることだ。信者の間のこのような多様性は、これまでエホバの証人の患者に対して一律のやり方で対応してきた医師たちに、より柔軟で個性に合わせた多様なアプローチをとることを促している。

エホバの証人の医療における選択の自由

ものみの塔協会が、対外的に、特に法曹界や医療界に対して、輸血拒否を選択する患者の自由を要求して戦ってきたことは広く知られているが、その反面、ものみの塔協会は内部的には、その信者に対してそのような選択の自由を一切許しておらず、信者は罰則を受けずに輸血を選択する自由はないのである。このように対外的に要求した選択の自由を内部的には一切禁止するという矛盾したものみの塔協会の方針は、AJWRBが改革を要求している重要なポイントである。エホバの証人で公然と意図的に協会の禁じる種類の血液製剤による治療を受け、その行為を「審理委員会」において悔い改めない者は、この宗教の最も厳しい罰則である排斥処分を受ける。排斥処分を受けた者は、神を裏切った者とされ、信者である終生の友人や家族から全て、交友関係を絶たれるのだ。多くの元信者はこの宗教を離れることに伴う、心理的な傷害を証言している。

しかし、このような処罰の方針も、やがて変更の日が来るかもしれない。この数年来のなかで、エホバの証人の輸血拒否の方針の最も重要な出来事は、1998年にヨーロッパ人権委員会において、ものみの塔協会とブルガリア政府との間で締結された調停である。この中で、ものみの塔協会は、ブルガリアのエホバの証人は輸血を受けるかどうかの「自由な選択を持つことができる」ことを認め、この自由選択に関して「協会側からどのような統制も処罰も受けることはない」とうたっている。[15,16] この一見ものみの塔協会の妥協と見える調停は、ブルガリア政府が彼らを公的な宗教団体として公認することの見返りとして、ものみの塔協会が付け加えられたものであった。ものみの塔協会はこの調停に関しては、信者に対しては一切沈黙を守ってきており、報道発表と医学雑誌への手紙の中では、[16a] 今までの輸血拒否の方針に一切変更がないと短く述べるだけで、詳しい説明は一切なされていない。しかしそれでも、ものみの塔協会を代表するイギリスの医療機関連絡委員会議長のデービッド・マリオン氏はブルガリア政府に承認された、エホバの証人の宗教団体としての認可規約を引用し、次のように述べている。[17] すなわち、ものみの塔協会は「信者が自由意志を行使することを統制せず、かれらが聖書の原則に一致するような良心の選択を行うことを許す」、とし更に、「エホバの証人が良心に基づいて自分たち、またはその子供たちのために求める医療に関して、ものみの塔協会は恣意的に処罰を行うことはしない」と述べている。更に、このブルガリアの認可規約にうたわれた方針は、ものみの塔協会を代表するマリオン氏によれば、「世界的に確立されたエホバの証人の信条」であるといわれる。

これらの声明は、現在執行されている、良心的な輸血受容者で悔い改めない者に対する、排斥忌避の処罰の方針とは隔たりがある。AJWRBによれば、これらのものみの塔協会の声明は、信者が医療においてどの種の血液製剤や成分を受け入れるかを、信者の良心に基づいて決めることができることを意味するという。その理由は、ブルガリア認可規約にうたわれている「聖書の原則」は血液のどの成分が受け入れられ、どの成分が受け入れられないかについては言及していないからだ。しかしその一方、この声明では、ものみの塔協会は「恣意的に処罰を行わない」と約束しているだけで、恣意的でない処罰は引き続き輸血受容者に対して行うことができるわけで、今後も信者の「自由意志を行使することを統制」し続ける可能性を残している。このあいまいな点については、今後のものみの塔協会の明解な釈明を期待する以外にない。しかしいずれにせよ、このヨーロッパ人権委員会での調停は、エホバの証人が一人一人自分の良心に基づいて、輸血を受け入れるか拒否するかの決断も含めて、自分自身の医療上の決定を、協会の統制なしにできる日の来る可能性を示唆している。

「血液カード」をめぐる倫理的法律的問題とインフォームド・リフューザル

ものみの塔協会によって作成され、エホバの証人が常に持ち歩く、名刺大の医療指示書である「血液カード」(日本では「医療上のお願い」カード、あるいは「医療上の事前の宣言および免責証書」という)の使用については、懸念の声が上がっている。このカードは、エホバの証人が緊急事態の時に、輸血のインフォームド・リフューザル(医療行為を拒否することへのインフォームド・コンセント)を文書で示すことを目的に作成された。それにもかかわらず、その有効性に疑問を抱く医療関係者は少なくない。特に、大量の出血で意識のないまま救急病院に運ばれたエホバの証人が、このカードだけで輸血拒否の意志を表明している場合は問題である。そにょうな懸念には二つの大きな理由が挙げられている。

先ず、そのような指図書が自発的な自由な意志に基づいて署名されたのか、それとも組織の一員として、組織が要求する義務を果たす目的で署名されたのかどうかが明らかでないことだ。毎年一月には、エホバの証人全員に新しいカードが配布され、エホバの証人は全員これに署名する。この際、書籍研究といわれるグループの指導者(書籍研究の司会者)は、ものみの塔協会からの指示で、全てのエホバの証人がグループのミーティングの中で一緒に署名し、全員の署名漏れがないことを監督するように指導されている。このような全員に徹底された署名の仕方では集団による個人へのプレッシャーが強く、真に個人の自由意志の現われとしての署名ではない可能性が出て来る。

第二の問題は、エホバの証人がカードを署名する時点で、輸血によって得られる益と、その危険との間の利害得失のバランスについての十分な情報が与えられているか、という疑問だ。エホバの証人はその組織の機関雑誌「ものみの塔」「目ざめよ」などにより、世界中の報道機関や医学雑誌から集められた、輸血の危険を知らせる知識を日常のように与えられ、輸血に対する過度の恐怖心を植え付けられているが、その一方で、輸血でしか得られない医療上の利益と、可能性のある危険や副作用とを客観的に比較して、利害得失のバランスを取るような情報は一切与えられていない。このようなエホバの証人の偏った情報は、「血液カード」(「医療上のお願い」カード)のインフォームド(情報を与えられた上での)・リフューザル(治療拒否)としての有効性に疑問を投げかける。

ミグデンとブレーンがすでにその論文の中で述べているように、[17] 血液カードの真の目的は、エホバの証人に対して真のインフォームド・コンセントによる自己決定をさせることではなく、むしろエホバの証人が漏れなく輸血を拒否するように徹底させる目的で作られたというべきであろう。このようなものみの塔協会の徹底した組織的指導の元では、インフォームド・コンセントの前提条件である患者の自由な自己決定権は抑止されていると考えられる。これらの点を勘案すると、もしエホバの証人の患者が、明確にバランスの取れた情報を受けた上で署名された、有効性の間違いない医療指示書を示さない限り、意識の無い緊急事態の患者で救命のために輸血がどうしても必要な場合には、緊急事態回避のための輸血は許されると、ミグデンとブレーンは結論している。

「血液カード」のはらむこのような問題点は、近年ものみの塔協会も認識しだしている様子であり、協会は「血液カード」の他に、協会がアメリカ各州の法律にあわせて作った完全な医療事前指示書と医療決定代理人指示書とを完成するように指導している。エホバの証人は各自これらの書類を用意して、自分の主治医に提出し、患者記録の中に保管するように要請することが指導されている。これらの書類には、輸血拒否に関する法律的な問題の提起されることを予想して、判事や病院の弁護士たちに向けた法律参照文献が含まれる他、ものみの塔協会が正式に認めた、受け入れられる血液治療、拒否しなければならない血液治療、血液に代わる治療法がどのような条件で受け入れられるか、等に関して詳細なリストが書かれている。(表1と2参照)ものみの塔協会は現在、「血液カード」以外にこれらの完全な医療指示書が用意されていることをカードに明記することによって、「血液カード」の問題点を回避するように指導している。

エホバの証人の医療管理

生命に別状のある重篤な疾患がなく、血液に替わる治療が特別の費用と危険を伴わずに直ぐに使用できる場合には、エホバの証人の患者の治療は他の患者と特に変わる所はない。彼らは血液以外の医療行為は拒否せず、一般に健康によく注意し、医師に対しては敬意を持っている。

血液を使った治療以外に選択がない事態の時に、医療倫理の大きな問題が起こるのだ。ものみの塔協会がその方針を簡潔なものとして、全ての医療に関する決定を個人の良心で決定できるようにするまでは、エホバの証人の治療は複雑である状態が続くであろう。協会が一律に作った指示書を盲目的に受け入れるだけ、あるいは単純に治療を拒否して別の医師や病院に送ることだけでは不十分である。

患者自身の個人的信条と輸血に伴う利害得失のバランスに関する理解を、個人的な会話の中で注意深く引き出すべきであろう。この会話の中では宗教の話を避けなければならないということはない。ものみの塔協会が患者の選択の自由を統制している事実は、患者の信仰と不可分だからである。[18] エホバの証人の中のほんの一部の信者しか、自分たちの宗教の指導部が出している輸血拒否の複雑な規則や条件を理解できていない。従って、エホバの証人の患者を扱う医療従事者は、AJWRBから発行されている「エホバの証人は本当に血から避けていますか?」[19] という小さなブロッシュアーを手に入れて、エホバの証人との対話の材料に使うことが勧められる。これはエホバの証人自身が自分たちのために書いたもので、現在の輸血拒否の方針の問題点を手短にまとめてある。また、複雑なケースは医療倫理のコンサルテーションを依頼することも必要である。

究極の所、何が受け入れられる治療であり、何が拒否しなければならない治療であるかは、個人個人の患者が、主治医と相談しながら自分自身で決定しなければならない。一部のエホバの証人はそのような決定を、ものみの塔協会に委ね、医療機関連絡委員会の介入を希望するかもしれない。しかし他のエホバの証人は、医師とのそのような対話の結果、新たな視点から、より自発的になり個人独自の決定をするかもしれない。

患者がどのような決定をしようとも、医師−患者関係の秘密、医療決定の秘密とプライバシーはエホバの証人の場合、特に注意して保護する必要があることを銘記すべきである。ものみの塔協会は過去においてその機関雑誌の中で、医療関係に従事するエホバの証人たちに、仲間のエホバの証人の患者がものみの塔協会の方針に反する医療行為を秘密で受けたことを職務上知った場合には、医療の秘密とプライバシーの保護よりも会衆の指導者にそのことを知らせることを優先すべきであるという通達を出しているからだ。[20]

大量出血を続ける瀕死の救急患者の取り扱いは、引き続き困難が続く。輸血に対するまともなインフォームド・コンセントを取る時間の余裕はない。あらゆる努力をして患者の容態を安定化させ、有効で最新のインフォームド・コンセントを取る努力を重ねるべきであろう。もし患者がどうしてもその時点での意志表示をすることができず、有効な医療事前指示書もなく、あるいは「血液カード」の有効性に疑問がある場合には、患者の出血死の危険を回避するための緊急輸血を行うべきであろう。

このような緊急事態回避の処置には、いくつかのそれを支持する事実がある。まず、医療法制の中では緊急事態においては、その治療決定はインフォームド・コンセントの例外とされるという判断は確立されている。ペンシルバニア州最高裁は、その判決の中で次のように述べている。「即座に決定を下さなければならない緊急事態においては、医療の必要性の判断を覆せるのは、患者が完全に正常な意識をもってその時点で決定を下した場合に限る。」[21] 第二に、エホバの証人が無意識のうちに輸血された場合には、宗教の審理委員会にかけられることもなければ、罰せられることもない。第三に、この総説の前半で述べたように、この輸血拒否の方針がものみの塔協会によって変更させられる可能性が示されており、そのような不安定な状態である現時点では、不可逆的な患者の死という事態はどうしても避けるべきであろう。

小児の治療について

エホバの証人である親の子供たちの治療は、はっきりと親の宗教から切り離して考えるべきである。アメリカ小児科学会の生命倫理専門委員会は、親の宗教と子供の医療との関係について次のような声明を出している。「憲法で保証される宗教の自由は、親が宗教行為によって子供に傷害を引き起こすことを許してはいません。」[22] 緊急事態で血液による治療を差し控えることにより、子供に危害が生じることが予想される場合には、親の宗教に関係なくその子供の最善の治療を行い、必要があれば輸血をしてでも、差し迫った危険を回避すべきであろう。いわゆる「成熟した未成年者」あるいは思春期の子供たちに対する判断は、より複雑である。子供の成熟度は一人一人の子供によって異なり、輸血拒否の方針に関する理解と係わりの度合いもまた子供により様々である。もしエホバの証人の子供に関して倫理的、法律的に困難な問題がある場合には、治療を行う前に、裁判所の判断を仰ぐのが最も賢明であろう。

参考文献

1. You Can Live Forever in Paradise on Earth. Brooklyn: Watch Tower Bible and Tract Society of Pennsylvania, 1989, p216

2. Dixon JL, Smalley MG. Jehovah's Witnesses. The surgical/ethical challenge. JAMA 1981; 246:2471-2472

3. Questions from readers. The Watchtower; 1984 May 15:31

4. Kerridge I, Lowe M, Seldon M, Enno A, Deveridge S. Clinical and ethical issues in the treatment of a Jehovah's Witness with acute myeloblastic leukemia. Arch Intern Med 1998; 157:1753-1757

5. Muramoto O. Medical ethics in the treatment of Jehovah's Witnesses. Arch Intern Med 1998; 158:1155-1156

6. Malak J. Jehovah's Witnesses and medicine: An overview of beliefs and issues in their care. J Med Assoc Ga 1998; 87:322-327

7. Questions from readers. The Watchtower; 1997 Feb 1:29

8. Kanumilli V, Kaza R, Johnson C, Nowacki. Epidural blood patch for Jehovah's Witness patient. Anesth Analg 1993; 77:872-873

9. Questions from readers. The Watchtower; 1961 Jan 15:64

10.Muramoto O. Bioethics of the refusal of blood by Jehovah's Witnesses: Part 1. Should bioethical deliberation consider dissidents' views? J Med Ethics 1998; 24:223-230

11."New Light on Blood. Official site of The Associated Jehovah's Witnesses for Reform on Blood": http://www.visiworld.com/starter/newlight/index.htm

12.The Liberal Elder. Reply to Malyon on respecting the autonomy and motives of Jehovah's Witness patients. J Med Ethics (Submitted for publication)

13.Malyon D. Transfusion-free treatment of Jehovah's Witnesses: respecting the autonomous patient's rights. J Med Ethics 1998; 24:302-307

14.Malyon D. Transfusion-free treatment of Jehovah's Witnesses: respecting the autonomous patient's motives. J Med Ethics 1998; 24:376-381

15.Communique issued by the Secretary to the European Commission of Human Rights. INFORMATION NOTE No. 148 on the 276th Session of the European Commission of Human Rights. (Strasbourg, Monday 2 March - Friday 13 March 1998). http://194.250.50.201/eng/E276INFO.148.html

16.Muramoto O. Jehovah's Witnesses and blood transfusions. Lancet 1998; 352:824

16a.Wilcox P. Jehovah's Witnesses and blood transfusion. Lancet 1999; 353:757-758

17.Migden DR, Braen GR. The Jehovah's Witness blood refusal card: ethical and medicolegal considerations for emergency physicians. Acad Emerg Med 1998; 5:815-824

18.Muramoto O. Bioethics of the refusal of blood by Jehovah's Witnesses: Part 2. A novel approach based on rational non-interventional paternalism. J Med Ethics 1998; 24:295-301

19.Do Jehovah's Witnesses really abstain from blood? Boise: The Associated Jehovah's Witnesses for Reform on Blood. 1998 (available by writing to AJWRB, P.O. Box 190089 Boise, ID 83719-0089, or on-line at http://www.visiworld.com/starter/newlight/doctor.htm)

20."A time to speak"-when? The Watchtower; 1987 Sept 1:12

21.Re Estate of Darrell Dorne, 534 A.2d 452 (Pa. 1987)

22.American Academy of Pediatrics Committee on Bioethics. Religious objections to medical care. Pediatrics 1997; 99:279-281