Pistol‐‐‐Nov. 20th, 1999

アメリカでの殺人事件のほとんどが、知人同士による、いざこざが原因というのを、誰かから聞いた事があった。

何時ものように、夜中、学校のスタジオから自分の住むアパートへ戻り、リビングのカウチで浅い眠りについていた。僕の部屋は二階に在って、下の部屋の住人が何やら言い争いをしてるらしく、なかなか熟睡とまではいかなかった。その口論は徐々に激しくなり、一瞬で僕の目を覚ます事件が、その後すぐおこった。銃声だ。とにかく凄い音で、最初はびっくりして飛び起きただけで、何の音だかわからなかったけど、2発目が発砲された時に、なんとなく判った。とにかく、嫌な不協和音だった。ボロアパートなので、真上に在る僕の部屋には、特に筒抜けだった。アドレナリンは、全開に出ていたけれど、実際何も出来ないまま、窓から様子を覗いていた。他の部屋の住人達も同様に、どの部屋の窓からも、少しづつ光が漏れていた。

5分もしないうちに、誰が通報したのか、サイレンの光が近づいてきた。音は消している様子だった。四台は来ていたのだろうか。一人の警官が僕の部屋へ来て、すぐ避難する様にと命じた。服を着ようとしたら、真っ赤な顔になって、いいから早く出ろと言った。しかたなく、下着と毛布、裸足という情けない格好で、警官について、外に在るアパートの駐車場に出た。もうほとんどの住人が、駐車場に避難していた。とても小さいアパートなので、全部で50人足らずの人達が、着の身着のままで、手持ち無沙汰に、駐車場でたたずんでいた。警官が来ていたせいか、割とリラックスムードだった。

その中に、同じアパートに住んでいる日本人の友達がいない事に気付いた。彼の部屋は、銃声があったと思われる部屋の隣、つまり僕の部屋の斜め下だった。彼はアメリカと云う国に居るにもかかわらず、何時も鍵もかけずに寝ている。心配になって、ショットガンを持ったスワット隊の人にお願いして、様子を見てきてもらう事になった。スワットの人は、慎重に壁をつたって、ゆっくり彼の部屋のドアの前まで行き、ドアのロックを確認した。ドアの鍵はかかっていた様だが、ベルを鳴らしても一向に出てくる様子が無かった。その男はあきらめて戻ってくるなり、寝てるか、死んでるかどちらかだろう、と物騒な事を僕に告げた。

四半時も過ぎた頃だろうか、警官の説得もあってだろうか、あれからは、何の騒ぎも無く、犯人と思われる男が手錠をかけて、2人の警官に連れられて部屋から出てきた。まだ、若い。十代の青年だろう。少し興奮気味だったが、警官の言う事には、素直に従っていた。

そこにいた、警察からの事情説明によると、早い話し、女の取り合いだったらしい。幸い、死傷者無し。部屋へ戻る許可をもらうと、僕の部屋へ上がる階段の前に、被害者と思われる寝巻き姿の男女が、まだ警官に事情を説明していた。何だか、どういう状況だったか想像できて、嫌な感じだった。

翌朝、安否不明の友達を訪ねてみると、眠そうな顔をして、のんきにおはようと言った。事件の事は全く気付いてなかった様子だった。警察が、彼に対してノ‐タッチだったのが、少し不思議だった。けっこう、いいかげん・・・。

テキサスへ来てから、この事件が起こるまでに、似たような学生同士による事件が、2件あった。双方とも殺人事件だった。1つは、学生寮の中で、もう1つは、モーテルで。でも、本当に忘れていけないのは、それらの事件の十倍以上の数のガンショップが、この小さな街に存在すると云うことだ。大袈裟かもしれないが、野菜や肉を買うのと同じ感覚で、人を殺せるピストルが買えてしまう。

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