Books


    カルトな本棚

    唐沢 俊一

    世の中には、人の本棚が気になる人と、そうでない人がいる。 と、言うのは大袈裟だとしても、私は人の本棚は大いに気になるほうだ。 それに加えて「カルトな本棚」である。それだけで、速効ゲットである。 実際、その本棚は、スゴイ、凄すぎます。 大概の人は、彼らの本棚を見て、その強烈な毒にあてられてしまうこと間違いない。 どんなカルトな人たちの本棚が納められているのか見てみると
    「と学会」会長 山本 弘 さんの トンデモ本の数々。
    ポルノ作家 睦月 影郎 さんの 変態ポルノの数々。
    日曜研究家 串間 努 さんの 昭和B級文化関係本の数々。
    落語家 立川談之助 さんの ロリータ・オタク関係本の数々。
    人肉食作家 佐川 一政 さんの お堅い文学の数々。
    危険物コレクター 奥平 広康 さんの 危険思想(極左、極右)関係本の数々。
    マンガ家 唐沢 なをき さんの いろいろ。
    編集家 竹熊 健太郎 さんの マンガといろいろ。
    カルト評論家 唐沢 俊一 さんの へんな本の数々。
     皆さん立派なカルトな本棚の持ち主達である。 自らの個性を十分に反映させています。 彼らの主張が、メッセージが、そこからは、強力に感じられます。 以前、同様な企画で、伊藤ガビンの「魔窟ちゃんの訪問」という、 カルトなグッズを文字どおり、山のように積み、 寝る場所も無いほどに占領している部屋の写真集がありました。 なんで、男の人ってコレクターとかマニアとかオタクになってしまうのでしょう。 性(サガ)なんでしょうか。



    田宮模型の仕事

    田宮 俊作

     モノを作る仕事は楽しい。 そして、楽しんで作られたモノは、人を喜ばせる力をもっている。 日本人の男性で田宮模型を知らない人はいないだろう。 少年のころ、男の子は誰でも胸を躍らせてプラモデル、 あるいは今ならミニ四駆を作ったことがあるはずだ。 その製品を作ってきた人たちもまた、そうした経験をとおして大人になり、 子供のころと変わらぬ情熱で製品を作っている。 この本から彼らの、製品に対する愛情が伝わってくる。 プラモデルの設計をしている人たちが、実物の戦車を取材にいくと、 感動してあらゆる角度から写真をとりはじめる。 戦車に下にもぐり、上に登り、中に入って写真をとる。 食事もろくにとらず、一日中写真をとる。 彼らの、喜びが感じられる。 私も、ものを作る仕事をしている。 ユーザーを喜ばせることも、依頼人(クライアント)の意向にそうことも大切だが、 まず、自分が喜べるものを作るようになりたい。



    タンジェント

    グレッグ・ベア

     グレッグ・ベアの日本オリジナルの短編集。 ベテランらしさを感じさせる作品集だ。 それぞれ、ひとつのアイディアからファンタジー風に、 話を発展させて奇麗な小説に仕立て上げている。 「姉妹」、「炎のプシケ」などは、 その巧みなストーリーにぐっとくるものがある。 だが、決してアイディアが貧弱なわけではない。 「飛散」、「タンジェント」などは傑作だ。 「飛散」は手垢のついた多次元宇宙を扱いながら、生きているテディベアが登場するファンタジー色の利いた逸品。 「タンジェント」は4次元を見ることができる少年の物語。 同様のコンセプトの4次元の冒険を扱ったものでは、ルーディ・ラッカーの「4次元の冒険」、「セックス・スフィア」などがあるが。 4次元を直接認識できる少年の設定にはゾクゾクするものがある。



    愛はさだめ、さだめは死
    /老いたる霊長類の星への賛歌
    /たったひとつの冴えたやりかた
    /故郷から10000光年

    ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

     私はSFの短編集が好きだ。奇抜なアイディアで勝負する、純粋なSFがそこにあるように感じるからだ。 さて、短編集について何か言うのは難しい。 ネタつまりそのアイディアをばらさずに、その内容を語るのは難しいし、内容にまったく触れないわけにもいかないからだ。 とりあえず、SFのなかでもファンタジーよりサイエンス・フィクションよりの私好みの短編をお勧めとして列挙してみる。
  • 故郷へ歩いた男 (故郷から10000光年)
    間違いなく傑作の時間ものSF。
  • ハドソン・ベイ毛布よ、永遠に (故郷から10000光年)
    時間ものロマンスSF。やはり、時間ものとロマンスの相性はいい。
  • われらなりに、テラよ、奉じるのはきみだけ (故郷から10000光年)
    スラプスティックなSF。地球の悲運が善良な人間をつくる。皮肉な設定。
  • セールスマンの誕生 (故郷から10000光年)
    これもスラプスティックなSF。ティプトリーの作品は悲劇的なものやさびしい話が多いのだが、 初期の作品には楽しいものもある。
  • 接続された女 (愛はさだめ、さだめは死)
    題名から想像がつくとおりサイバーパンクもの。 アイデアに見るべきものはいまさら無いかもしれないが、ストーリーは巧いです。
  • 男たちの知らない女 (愛はさだめ、さだめは死)
    ティプトリーといえば、フェミニズムを扱ったものが多いのだが、これはその代表作。 解説に書かれている、作者が実は女性だと知らずにいろいろとりざたされたエピソードは痛快。
  • 最後の午後に (愛はさだめ、さだめは死)
    地球人の最後の生き残りが植民惑星で最後の願いをかなえようと・・・。
  • ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか? (老いたる霊長類の星への賛歌)
    女性観や男性観への痛烈な皮肉が利いているティプトリーらしい作品。
  • 一瞬のいのちの味わい (老いたる霊長類の星への賛歌)
    究極の生(性)の欲望を書いた作品。 人間は遺伝子の乗り物にすぎないのと言うが本当は・・・。
  •  「たったひとつの冴えたやりかた」には同じ世界と時代を共有した三つの中編が収録されている。 ティプトリーの小説ではとても読みやすいものに入る。 だが、小説の技巧の素晴らしさは相変わらずだし、いつもの読後のほろ苦さは健在である。 彼女の遺作である。これ以上作品が読めないのは惜しい。



    あなたのココロはダイジョーブ!!

    香山 リカ

     現役精神科医が書いたエッセー集。1994年から1996年に書かれたのを集めたもの。 最近、エバンゲリオンのブームや異常犯罪人気により、精神分析が専門の彼女は引っ張り凧のようで、既にご存知の方も多いと思います。 昔、ファミ通に「お尻に目薬、目に座薬」(文庫タイトルは「リカちゃんコンプレックス」)を連載していたのを知っている人もいるでしょう。 この先生、ワイドショーが大好きで、今回のネタはほとんどそんなのばっかり。 ノリも軽く、かってに何とか症候群とか命名して、社会現象を分析してみたりして、「ちょっと違うぞ」と思う箇所も多い。 95年といえば阪神大震災とオウム真理教だが、彼女はオウム真理教の事件がワイドショー的なニュースであると言って、報道にワイドショーとの垣根をはずさせたといっている。 だけど、それは違うでしょう。 ワイドショー・ネタよりもとてつもなく面白い事件(失礼)が起きたので、ワイドショーもいつもの下らない番組を変えざるを得なかっただけでしょう。 実際僕もテレビつけっぱなしでしたものね、当時。



    デジタルな神様
    /マザー・ハッカー
    /2000年のゲームキッズ

    渡辺 浩弐

     現在のテクノロジーを題材にした近未来ものショートショート。 仮想現実、クローン技術、ネットワーク、ゲームなどを扱う今が旬の小話。 あっさりと読めます。それぞれ副タイトルが 1999年のゲームキッズU、V とあるので読むなら早めに(西暦がタイトルに追い越されないうちに)読んだほうがいいでしょう。



    シンプル・サイモン

    ライン・ダグラス・ピアソン
    訳 田口俊樹
    「レインマン」+「ウォーゲーム」だとか宣伝されている。 こいつのアイディアは抜群にいい。 自閉症の少年が最強の暗号を簡単に解いてしまう能力のせいで、NSA(国家安全保障局)に追われる羽目になるのだ。 ハリウッドが映画化するのもうなずける。だが、ストーリー展開は最近のハリウッド・娯楽映画にありがちな、 アクションシーンと終わり方。最後に主人公を助ける謎の組織が、謎のままなのなのは納得がいかん! 謎の組織が、どうして事件を知っていたのか、何故存在するのかまったくわからない。 主人公を目の敵にする人物もステレオタイプだし、本当にハリウッド・アクション映画を見たよう。 読むほうもあっという間に読み終わる。破綻をきたす後半までは非常に面白いだけに残念。 アイディアは最高なのに。映画化で生まれ変わってくれることを期待したい。
     それから、暗号についてひとこと言っておこう。 この作者は暗号についてまったく無知なのか、あるいは無視しているのかわからないが、 鍵という概念を知らないみたいなのだ。キゥイという暗号装置で暗号化したものは、 鍵を手に入れないで、同じキゥイで暗号を解除できるのである。 これでは、キゥイを盗めば、それを分解する必要も無く(本の中では分解されないように厳重に守られている説明がある。)、 そのまま使ってすべての暗号を解くことができてしまう。 ついでに説明しておくと、最新の暗号は公開鍵方式といって、暗号をかける鍵と、暗号を解除する鍵が別で 相手に渡した暗号をかける鍵がばれてしまっても安全になっている。 暗号装置に当たるアルゴリズムも、民間のものはすべて公開されており、軍のものでアルゴリズムの一部を非公開としているものがある。 でも、アルゴリズムの部分はソフトなら簡単に解析できてしまう。 それを避けるにはチップ化するのが最強の防御だろうが、それもリバース・エンジニアリングは不可能じゃない。 どの道一度どこかからもれたらおしまいなのだから、もろいものだ。 現在では、アルゴリズムは公開してどんなに鍵を見つけるのが困難かを第三者に評価してもらうやり方が主流である。



    パンダのanan

    小泉 今日子

     SF、ミステリーの類をメインにとりあげようと思っていたのに、最初からこんな本になってしまった。 でも、いい。kyon^2。こう書いてキョンキョンて読むんだよね。懐かしいな。 ananならan^2だよね。
     僕は、子供のころ何を考えながら過ごしてきたのだろう。 何かをはじめて見たときに、どう感じていたのだろうか。 大人になってしまった僕は、何も思い出せないが、この本にはキョンキョンのそんな話がいっぱい詰まっています。 いつまでも、子供の気持ちを忘れない小泉今日子は素敵です。 各ページに載せられたポラロイドのスナップ写真には、飾らないキョンキョンの日常が写されてて、そこにもキョンキョンの人柄が見えます。 それに何よりカワイイ。30代になったとはいえ、いやだからこそか、まだまだ奇麗だとあらためて思いました。 できたらまたエッセーを書いて欲しいな。

By Kaji yasuyuki:ykaji@usa.net

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