clip04
under the anylight 関連

----------
火星光


あの日の事はよく覚えている。
何といっても、俺の人生が大きく変わった日だからな。
いい方に?それとも、悪い方に?
まだ、判らん。
でも、確かに変わったんだ。
あの日の事なら、どんな細かい事でも思い出せる。
ほら、こんな風に。

俺は、その日まで、しがない只のサラリーマンだった。
大っ嫌いな上司にちょっとだけ好きな口を叩くと、それを理由に営業に左遷。
暑い中、外回りで宇宙開発公社に足を踏み入れた。
そして、いきなり社長の呼び出しを受けたのだ。
どんなミスをしたのか、俺には全く心当たりがなかった。だが、まず
まちがいなく厄介ごとだと思った。

黒一色に統一された、馬鹿に広い部屋。
その奥に、これまた馬鹿に広くて黒いデスクがあり、そこに一人のガキが
座っていた。白いシャツ、黒いネクタイ、黒いスーツ、黒いサングラス。
長い黒かみは後ろで束ねてある。
その隣には、秘書、というより執事、という風格をもつ男。
それと気づかせぬような間接照明が、部屋全体をてらしていた。
このガキが、社長?
と、そいつが口を聞いた。
「君の事は調べさせて貰った。」
ぎく!としたね。俺だって正人君子じゃないから、思い当たる後ろめたい事が
沢山ある。そして、これ以上左遷の場がない、次は首だ、てことも知ってる。
「ひょっとしたら、君よりよく君自身の事を知っているかも知れないな。」
口調が弾がい口調じゃない。よかった。どうやら、首がどうこう、て話しでは
ないようだ。
では、なんなんだ?心の中に、不安と期待がうずまく。
「君は、今の仕事に満足していない。」
うむ、それはその通りだ。
「君は、かなり有能で、働き者だ。」
それに関しちゃ、自分の事だからなんとも言えん。
「そして、君は宇宙が好きだ。」
今でも毎月ミュートンは買っている。
「君に部長のいすを用意した。どうする?」
え?
「ヘッドハンティング、だよ。この話、受けるかね?」
「あ、はい。」
なんとなくあいづちをうってしまった。
「よろしい。オフィスは5Fの225だ。いけば判るだろう。今日から頼む。
では、下がりたまえ。」
俺は社長室を出て、エレベーターに乗り、5Fでおりて225室を探した。
自分でも状況が良く判ってなかった。とりあえず、いわれた通りにしただけだ。

そうして、俺は宇宙開発公社 火星テラフォーミング部の部長になってしまっていた。
いつの間にか。


火星におとす二つの微生物。

フロッピー
命びろい決算報告

扉とデスクの距離が地位の距離
エベレストより高く感じる

ろんげの男は嫌い
どうも、もやもあ

酒を飲んでると、例の執事が現れた。

ん?前にあったって…あの時の浮浪児か!

裁判所ぎりぎりずれこみ
火星軌道と交信。証人喚問。かねて

「お前の手で、息の根を止めてやってくれ。」
「なんていやいいんだ。」
「簡単さ。一言でいい。
「プラントの投下は、中止だ」
と。」

足の傷跡が錆びた音をだした。

「…ィラントォ投下ァ…ィ…だ…」

「了解!じゃあ、勝訴したんですね!やったあ!」
「なにい!待て、おい!」
だが、相手は光の彼方である。
「プラント、投下します!」

屋上に出ると、社長が先に来ていた。夜空を見上げて微動だにしない。
その視線の先には、火星の赤い光。

生みの気持ち

「今年で23だ。」
「にじゅうさんんん?」
その時、俺は初めて、社長が口紅を付けているのに気がついた。
なんてこった、ガキじゃなかったんだ。
「そういえば、質問があるんだったんだな。なんだ?」
「え?いや、その、ええと…」
混乱してしまって言葉にならない。
でも、これで今までの胸のモヤモヤの意味がはっきりした気がする。
多分。
「ええとですね、その、そうですね。
まず、そのサングラスをとって頂けませんか?」
「?それがどうかしたのか?」
トビ色の瞳が不思議そうに見つめかえす。ああ、そうだ。こんな色だった。
「えと、えと…社長、名前、なんて言ったんでしたっけ。」
「…ああ、そういえば教えた事はなかったな。ジュエルだ。
ジュエル・スターウェイ。それが?」
へえ、そんな名前だったんだ。
「んと、ジュエルさん。」
「なんだ?」
「今度、皆で飲みに…いや、違う。こうじゃないんだ。そうじゃなくって。
待って下さい、待って下さいよぉ」
「??一体、なにが違うんだ?」
自分の心拍数を数える。いち、にい、さん…
彼女の瞳が不思議そうにこちらをみてる。
その中に瞬くのは、火星の光か。
深呼吸。よし。
「オーケイ、ジェリー。今日の祝いに何処か飲みにいこうよ。
いい店を知っている、是非そこに招待させてくれ。
…その、できれば、二人、っきり、、で…」
しりつぼみにきえる俺のセリフの、本当の意味を彼女はすくってくれた。
イェイ、さすが才女。
「オーケイ、トム。喜んで。ええ、喜んでその招待、お受けするわ。」
イエイ!!!


----------
and one more
----------
スペース・デッドヒート


「ほう、こいつはべっぴんさんだ。どうやってひっかけたんだ?」
「ちがう!お客さんだよ。急ぎの用事でね。」
「なあ、ここまで来たんだ、せめて飯だけでも食べていけよ。」
「ん、そうだな。お世話になろう。」
「ちょっと。そんな時間あると思ってるの?」
「いいから。いこう。食べれる時に食べるのが宇宙での鉄則だよ。」

「ありがとう、美味しかったわ。
すみませんけど、お水、もう一杯頂けるかしら?」
おい!
「ああ、いいとも。ほら、どうぞ。」

「で?手伝える事はないか?食事の礼だ、何かしてくよ」
「いやあ。何もないよ。私は順調さ。」
「そうかな?太陽電池パネル、あれ、変じゃないか?」
「ん?はは、あれに気づくとは成長したな。モーターがちょっと変でな。
まっすぐ光源にむかん。なに、80%は出力をキープしてるから問題ない。」
「やっぱり故障してたのか。修理していくよ。」
「おいおい、急いでるんだろ?」
「なに、それぐらいの時間はあるさ。」

「ちょっと!一刻を争うってのに、何のんきに修理なんか引き受けたのよ!
あの人もいいっていったじゃない!」
「飯のお礼さ。」
「そんな、たかが一食じゃない。お金にしたっていくらにも」
「たかが一食だと!」
これだから地球生まれのじょうちゃんは!
俺は震える拳をぐっとこらえた。
「昔話をしてやろう。ある一家が農業ステーションをやってたんだ。
これのメイン発電機がある日、突然故障してね。いつくるともしれない救助隊
待ちになったんだ。ステーションの人間は総勢11名。うち、一人だけが15歳
以下だった。
みんなは話し合った。生き伸びる機会は全員平等、だけど、10歳のガキを
死なすのはおしい。だから、大人は皆、一食分だけ自分の分を抜いてそのガキに
やった。
ガキは、10人の一食分を食いつなぎ、他の奴等より10日長く生き伸びた。
救助隊が来た時、いきていたのはそのガキ一人、
他の奴等は全員餓死だった。」
スペーススーツを着込みながら話す。
「宇宙での水一杯は、食事一食は只の水分子じゃない。只のタンパク質じゃない。
御馳走してくれたそいつの命を、一日奪っているんだよ。
金?そう、金ならそのステーションにもあったさ。だが、誰の命も救いや
しなかった!」
エアロックに向かう。
「ついでにいうとな、その一家の使ってた発電機ってのが、地球産なのさ。
輸出規制とやらで、むりやり地上から売り込まれた欲しくもなかった奴だよ。」
「…ねえ。」
「なんだ。」
「その、生き残った子供って、ひょっとして、貴方?」
「まさか、俺じゃない。俺の親類縁者はピンピンしてるよ。」
スイッチを押す。
「さっき食事を御馳走してくれたあのおっさんの話さ。」
エアロックの扉が閉じた。

パネルを直す俺の耳元で無線ラジオのノイズが入った。彼女の声。
「ごめんなさい。」
「いいさ。気にしてないよ。」

「よし!ビリー、調子はどうだい?」
「オーケー、98%になってる。直ったよ。ありがとう。」
「なに。またいつでも呼んでくれ。じゃ、先を急ぐから。」
「ありがとう、ビリー。いつか機会があったら、私の食事も食べに来てね。」
ほう。
「ビリー、俺の飯も食いに来てくれよ。」
「ありがとう、二人とも。いつか食べにいくよ。」

「なあ、ずっとちじょうぐらしだっていってたよな。」
「ええ、そうよ。」
「何処で宇宙の挨拶を覚えたんだい?」
「え?挨拶って、おはようとか、こんばんわ、とか?」
宇宙での慣用句に、食事の例は食事で、というのがある。
御馳走されたら、いつか自分の食事を食べに来てくれ、というのが挨拶なのだ。
彼女は、特に意識した訳ではなかったらしい。
「…ふ、いや、なんでもないよ。」
「ねえ。だから、あのときはごめんなさい。」
ふふふ。
「いいさ。気にしてないよ!」

----------

    Source: geocities.com/tokyo/ginza/8960

               ( geocities.com/tokyo/ginza)                   ( geocities.com/tokyo)