ド イ ツ の 旅 1 9 9 8 秋




コラム  町を蹂躙する路面電車





 ドイツには路面電車が多い。
 至る所に走っている。
 ボンで初めて路面電車の走行に出くわしたとき、その走行音にカルチャーショックを受けた。
 もしかしたら間違っているかも知れないけれど、走行音から判断すると、VVVFインバータが採用されていると思われたのだ。
 発車と停車の時、何度かウイーン・ウイーン・ウイーンという、機械音というよりむしろ電子音的な音がする、アレである。
 最新技術のひとつと言っていい。
 日本では十何年ぶりに路面電車の線路が延長されたと話題になったけれど、ドイツでは路面電車の廃止だの休止だのとは無縁のように思われたのだ。
 ひとつの路面電車をとっても、まるで市バスのように経路が複雑でたくさんあり、市民の足になっている。
 路面電車の単線分しかないような道でも、平気で線路がひいてある。
 中には「歩行者・路面電車専用道路」があったりする。
 地下では地下鉄と連絡していたりする。
 これはボン中央駅の地下鉄ホームなのだが、地下鉄のホームは高く、その向かいの路面電車ホームは低く、相互に乗り換えられるシステムなのだ。これは素晴らしい。
 もっともそこから地上に出れば、別の路線の線路が道路を走っていて、複雑である。
 停留所も、必ず安全地帯があるとは限らなかったりする。
 バスと共通の停留所まである。
 編成も長く、2両から4両までのものを見た。
 乗車率も高く、座れないことも結構あるから大したものだなと思う。
 線路のすぐわきに路上駐車の車があっても平気で通過する。どこまでが車両幅なのか完璧に運転手は把握しているのだ。
 客も大胆で、今自分が降りた列車の前方を横切って、道路の反対側に渡ってゆく。不意に電車が発車したら敷かれてしまうのに、どうも無頓着である。
 運賃の支払方法は日本と全く異なっていて、ワンマンバスのような料金表示や料金箱は存在しない。
 基本的には事前にキップを買っておき、乗車時に改札機のようなものにキップを突っ込むのだ。こうすると、キップに時間が印字され、そこから何時間有効という形になる。
 何時間有効なのかは町によって異なるらしい。
 最近では、車内に券売機も備えられて、乗ってから買うこともできる。
 車内に券売機のないところや、車両により有ったり無かったりすることもあるらしいから、よそ者は注意が必要だ。
 集札はない。つまり、検札さへ来なければ、いとも簡単に無賃乗車が出来るのである。
 僕は無賃乗車はしなかったけれど、検札に出合ったこともなかった。
 「これなら、キップなんて無くてもいいじゃないか」と無賃乗車をしてるときに限って、検札が来るというから不思議である。
 無賃乗車は60マルクの罰金である。
 車内には基本的には、自転車が持ち込める。
 犬も乗れる。犬は子供料金であるらしい。
 しかし、ローラースケートでの乗車は禁止されている。もちろん禁煙である。禁煙マークのように、飲み物のマークにも斜線が入っていて、車内でジュースなどを飲んではいけないのだそうだ。さらに、アイスクリームのマークにも斜線が入っている。アイスクリームだけが禁止なのか、食べ物全てが禁止なのかは判然としない。



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