「久しぶりだな、庵」
まるで何事もなかったように、今年も開催されたKOF大会。
庵は、マチュア、バイスとともに初戦を無事勝ち抜き、優雅で自由な時を過ごしていた。
そんな中、同じく初戦を勝ち抜いたという草薙京が現れた。
その瞳は懐かしい友との再会を喜ぶ言葉を述べているにも関わらず凍て付いていた。
「何か・・・用か?」
言葉を交わすどころか、目も合わせたくない男の来訪。
庵にとって最も好ましくないことで、最も在り得ることだった。
「冷めてぇなぁ・・・。あんなに愛し合った仲じゃねぇか」
にやにやと嗤う京に、後ろできゃいきゃいと反応するマチュアとバイス。
「だ・・・っっ! だれがっっ、いつ!?」
食って掛かろうとするところをほろ酔い加減のマチュアに止められる。
「まあまあ・・・。照れないの」
「そうそう・・・、今更隠さなくったって・・・。公認の仲なんだから・・・」
ポンポンと肩を叩かれる。
泣きたい気分だった。
誰が(と言っても京と神楽であることは間違い無いのだが)の陰謀により、草薙京と八神庵は道ならぬ恋に落ちてしまいひとときも離れる事が出来ないと、KOF大会関係者だけでなく一般市民にも『噂』という形で広まっていた。
庵が否定すればするほど、噂は広まり、本家から確認の為の使者が訪れる程だった。
然もこの時、丁度草薙の奇襲に遭い言いように弄ばれているときだったから・・・・。
目撃してしまった青年使者は、同情と羨望の眼差しから逃れるように姿を消してしまった。
一部では、邪魔をされたと草薙当主に消されたのではないかという物騒な噂もある。
「あっっ・・・、はぅ・・・。い・・・やぁぁ・・・」
あれよあれよという間に服をはだけさせられ、胸の飾りを蹂躪される。
「うっ・・・あっ、ア・・・・ぁ・・・・あ・・・・、はぁ・・・・」
絶え間なく漏れる甘く切ない吐息。
躯に刻まれた快楽は、1年というブランクをあけても尚変わることなく庵を弄んだ。
指の腹で擦るように弄られ、薄い唇できつく吸われる。たったそれだけのことに、庵は過剰な程に感応した。
「うんっっ・・・・あ・・・、んっ・・・・ぁ」
漏れる嬌声を押さえることが出来ない。
「やけにイイ声出してんじゃん・・・。もしかして1年間誰ともヤってなかった?」
「ーーーーーーんなっ」
デリカシーの無い言葉に逆上するが、京を何とかしようとして伸ばした腕は襲いくる快楽に抗おうと京のシャツをぎゅっと掴むに止まった。
「いやぁ・・・・だぁ・・・・ぁ」
口先だけの拒絶。プライドが引き起こす抗い。
本当は犯されたいくせに・・・。躯の奥で京をくけ入れることをこんなにも待ち望んでいるというのに・・・。
庵がそれを表に出すことなどなかった。
「なんだっっ・・・、それはっ」
両腕を頭上で一つに纏められる。そして・・・。一本の細くて紅い紐でベットに括り付けられる。
「何って・・・、こうする為のものだよ」
耳元で甘く囁かれ、ねっとりと舌を差し込まれる。
「っん・・・」
真赤に染まった耳朶を優しく包み込み、悪戯に甘噛みされる。
「耳・・・弱いんだよな、お前」
「っるさっ・・・」
否定する度にベットでぱさぱさと髪が鳴る。否定しきれないことなど百も承知。
現にこうして京の荒い吐息が掛かるだけで全身を痺れるような甘さが駆け巡る。
「んっーーーーーーーーーーーー」
口唇を塞がれ、息が止まりそうなくらいの甘い口付けを受ける。
このままどうにかなってしまいそうなほどに・・・甘く・・・・蕩ける。
久しぶりの京を庵の全てが歓喜の悲鳴を上げた。
庵を包む表向きの心と拒絶の言葉しか出ない口唇を除いて・・・全部。
「い・・・ゃ・・・だ・・・・・」
溶けるような甘い口付けに気を取られているうちに、下肢を包んでいたもの全てを奪われる。
しっとりと汗の浮かぶ肌を晒すことになり、庵は無我夢中で足を動かし抵抗した。
恥ずかしいどころではなかった。出来ることならこの場から今すぐにでも消えてしまいたかった。言葉ではあれだけ拒絶していたというのに、曝け出された雄は悦び、先走りを零し続けている。
「ったく・・・素直じゃないんだから・・・。仕方無い・・・」
荒く、暴れる脚を捕まれ隠し持っていたもう一本の赤い紐で膝の後ろを通ってぐっと持ち上げられ、両手を括り付けているのと同じところに括られる。
「ーーーーーーーーあ・・・・」
胸につくくらいにきつく折り曲げられ固定された所為で、京の目の前に全てを曝け出すこととなる。
あまりのことに、今自分がどんな格好をしているのか理解出来なかった。
汗でべとつくシャツはそのままに、下肢を露にされ、括り付けられ、余すとこなく晒している。
「良く・・・似合ってるぜ、庵。ここからだと・・・良く見える・・・。イレて下さいって言ってる・・・。ほら、分かるだろ?」
何もされていないのにすでに柔らかくなりつつある蕾に長く角張った指を一つ突き立てられる。
「ああぁぁぁ・・・」
待っていたとばかりに奥へと誘い、収縮を繰り返す、そんな己の淫乱さ加減に言葉もない。
いくら京に無理矢理調教され、男を受け入れることに対し快楽を覚える躰にされたとは言え、これは酷すぎる。
京に抱いてもらえなかった1年分を取り戻したがっているようだった。
「すでに準備万端ってカンジだな・・・」
もっと太くて大きいモノで奥まで掻き回して欲しいという訴えを他のことは鈍感だというのにこういう事に関しては鋭い京が読み違える筈などなかった。
「きょ・・・・、も・・・焦らすな・・・」
庵に出来る最大限の誘惑・・・。気も狂わんばかりに荒れ狂う熱をどうにかしたいと、優しく愛して欲しいと告げる、京への御強請り・・・。
でも、今の京には何故か通じなかった。いや、十分に伝わっていたのだが、京がその願いと叶えようとはしなかった。
「優しくなんてしてやらねえよ・・・。必要無いだろ、俺達は大会中昂ぶる欲望を処理する為だけに利用し合ってるに過ぎないんだからよ。そうだろ?
そういうことだよなぁ・・・、庵」
耳元で囁かれる冷たい台詞でさえも高みへ向かう庵には心地良かった。
言葉の意味など庵に届くはずなどない。それでも京は想いをぶつけた。
「ココにイレてくれて、イカせてくれる奴なら誰でもいいんだよな、お前は。道具にしかすぎないんだろう?
俺のことなんて・・・」
これまで何処か寂しげだった瞳が狂気の瞳へと変わる。
「だったら・・・、俺もお前のことそういう風に扱わせてもらうぜ」
熱に浮かされた思考回路が京の言おうとしている事を考え出したとき・・・。
「今日は・・・・泣き叫んだって許してやらねぇからな」
うめきと共に凶器の刃を突き立てられる。不断の意志を持って進入し、奥を目指す。
「ヒィッッーーーーーーー!!」
息吐く間もなく行き来を繰り返される。
何時もなら庵に呼吸に合わせてくれるのに、今日は庵の事などお構いなし、己の欲望のままに内を貪られる。
淵へと追いつめられた自身を、滑り込んできた京の長い指に捕えられる。
「ぅんっっ!!」
痛みで全身が突っ張る。いたわりの欠片も無い律動に胸が苦しい。
確かに京にこうして抱かれる事を望んだ。激しく、何も考えられないほどにこの躰に刻んで欲しかった。草薙京を言う存在を・・・。
でも・・・・、何かが違うのだ・・・。庵はそう感じた。
「ーーーーーーっう・・・」
京の迸りを受け、庵のほぼ同時に達する。
「・・・・ぁ・・・、はぁ・・・・ぁ」
何時ものように安堵に包まれない。
あるのは・・・焦燥と虚無。心に底無しの大きな穴が空いてしまったような感じがする。
「うんっーーーー」
ずるりと京が離れていき、こんなにそばに居るのにどうしようもなく孤独を味わった。
ゆっくりと紐を解かれ、自由になる。
でも、自由というよりは手放されたようだ・・・と当惑する。
「ーーーーーっどうして・・・」
こんな酷い事を・・・と、言いかけてそのまま自嘲の笑みに変える。
「ーーっ・・・くっ・・・」
視界が涙で霞む。不甲斐ない・・・と思う。女みたいに泣いてしまう自分が。
「・・・庵?」
でも、一度堰を切ってしまえばもう止める事など出来なかった。
「どうしたんだよ・・・」
白々しく尋ねてくる京。
「俺・・・怒ってるんだぜ」
「ーーーーーーっ、こんなの・・・SEXじゃないっっ」
京の言葉は庵の嘆きに掻き消された。
「これは・・・・SEXじゃない・・・。ただの暴力だっ」
手で顔を覆い泣き顔を晒すのを防ごうとする。
「っ・・・、お前が望んだ事だろっ。愛情の欠片も存在しなくて良いって・・・。だったら」
「ーーーーーっ! そんな事言った覚えない!」
「言ってなくてもそういうことだろ? 一年間も何の連絡もよこさず・・・。大蛇戦の後、俺がどれだけ心配したか分かってんの?
連絡何もなくて・・・。で、KOF大会にはけろっとした顔で出やがって・・・・・。ーーーーーーー俺、怒ってるんだぜ」
周りの人間に尋ねても、誰一人庵の行方を知る者は居なかった。
だから・・・、方々を探し回り、マンションに来てないかって何度も尋ねた。でも、マンションに帰った形跡はなく・・・。
KOFの招待状に八神庵の名を見つけた時、生きていてくれた事に対する喜びとともに込み上げてきた醜い劣情・・・。
結局、庵に想いが伝わっていなかったと思い知らされた。
自分はKOF大会中の一種の遊びにしか過ぎないのだ・・・。本気になって、相手に溺れていたのは自分だけなのだと・・・。
再び庵の姿を見た時、喩え伝わらなくてもこのどうしようもない怒りを思い知らせてやりたくなった。
庵の最も嫌がる手段を用いて・・・。
「連絡・・・だと? 貴様・・・人が気を使って仮名で電話をしても『捕まらない』と言われた状況で、どうやって連絡を取れというのだ・・・。何処に居た?
本家に決まっているだろう!? 大蛇の血を受け継ぐ者は一介の医者にかかっても意味がないと言ったはずだ。それでも、家の者の目を盗んでマンションへ行っても・・・いっつも居なくて・・・。書き置き残しても読んだ形跡ないし・・・」
「書き置き!? そんなもの無かったぜ」
「ちゃんと見たのか!? 何時もの玄関のところにあるボードに張って置いたのだが・・・?」
京の動きがぴたりと止まる。
「玄関の・・・ボード?」
何時も京のマンションに訪れた時に利用するコルクで出来たボード。それに、毎回日付とともにメッセージを残してきた。読まれた形跡など無かったではないか・・・。
「ーーーーー何処の?」
「ーーーーーーっ貴様のマンションに決まっているだろう?」
コルクボードは京の部屋にしかない。
「もしかして・・・、来てたのって・・・俺の部屋?」
「ーーーーー当たり前だ」
と、京が大笑いを始めた・・・。
「・・・? なんだ?」
「っ・・・自分のマンションへは?」
自分のマンション・・・・? そういえば、自分の部屋には行かなかった気がする。帰ってくるならココだと思ったから・・・。変える場所がココだとおもったから・・・。
「・・・・一度も帰ってない」
「俺・・・ずっとお前のマンションで待ってたんだぜ・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
タイミングを計ったように、雀が朝だと告げる・・・・。