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故郷へ
「俺達は、だまされたんだ!」
男はそう叫んで、夜空を見上げた。
何処までも深く暗黒の夜空を。満天に星々の広がる宇宙を。
限りなく憎しみを込めて見上げるその瞳には、ひと際明るく輝く星が一つ、映り込んでいた。
「パパ達は、だまされたんだよ。本当は、こんな、地球から何光年も離れた星に来る
はずじゃなかった。月の採掘プラントで働かされるだけなはずだったんだ。」
「そして、宇宙船も、飛行機も、全てを」
「帰巣本能が告げるのだよ。故郷へ、地球へと帰れ、とね。」
「人は、宇宙では生きていけない。いや、全ての生物は、皆、自身の故郷で生きて
行くように、自身の故郷でしか生きて行けないように出来ているのだよ。テリトリーから離れては、永くは生きられない。」
「他の恒星系へと移民した者達は、一人の例外もなく病気にかかった。風土病が
彼らを襲い、精神病が、強烈なホームシックが皆をうちのめした。もっても、僅かに
数世代が限界だった。」
「ある惑星では、全ての住民が地球に帰ってこようとした所もあってね、でも、人口問題で、地球にはそれを受け入れる余地なんてなかった。長く、つらい戦争も起きたん
だ。」
「だからこそ、地球は、恒星間宇宙開発を諦めたんだ。いや、そのはずだったんだ。
まさか、こんなだましうちがあるとはね。しかも、奴ら、俺達が帰ってこれないよう
に、宇宙船から飛行機まで、一切がっさいを持ち返りやがった。」
「だが、俺達は諦めないぞ。今はクワとスキしかないような状態でも、すぐに技術を発達させ、飛行機を、そして宇宙船を作り、必ず故郷に帰ってみせる。俺達の世代が
駄目でも、いつか、恒星間宇宙を越えて、地球に帰りついてやる。」
「奴らも存外間抜けってもんさ。宇宙船本体を奪っておきながら、その設計図は奪うのを忘れて行きやがった。書物が、そして頭の中にある知識が、俺達の武器だ。」
「何をどうすればいいのかは既に判っているんだ。遅くても数世代で完成させてみせる!」
「俺達は、だまされたんだ!」
男はそう叫んで、暗黒の夜空を見上げた。
自分達が発って来た星は、自身が踏む惑星の影にあり、天頂には無い。
やり場のない怒りは、天でひと際明るく輝きを放つ星へと向けられた。
その星へと圧力さえ感じる憎しみの視線を貫き、彼は怒鳴る。
「チクショウ!この怒りはどこへぶつければいいんだ!俺達の、生きていく指標は!」
その目は空から地表へと転じ、後ろにたたずむ妻へと向けられた。
いや。
その妻の手の中に眠る、生まれたばかりの息子へと。
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