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日常化現象
[おまけ]


「しかし、何故、シャル程の者がただの王女の婚約者として城におるのだ?」
 甘味処・数珠にて、私は餡蜜をつつきながらシャルに尋ねた。シャルは大きな宇治金時をスプーンですくいながらちらりと私を見、それから真横の人物に目を向けた。全てを話すには躊躇いが先行してしまうのだろう。
「心配する事もあるまい。その男は、おそらく事の真実までつかんでおると思うが?」
「まあな」
 キールは事も無げに答えて見せた。やはり、この男、全てをつかんでいるようだ。
「一人の方が気が楽でしょ」
 どこかで聞いたことのある言葉だ。どこで……。
「確か、ルー君が僕に臣下に下るように言った時に答えた言葉だったと思うよ」
 ああ、そうだ。シャルは、そう答えたのだ。遠まわしに、誰の臣下にも下らない、と、その意志をはっきりと見せて。
 引く手数多の優秀な人材。どこかの臣下に下れば、一生で使い切れないほどの財産と、そして誰もが羨むほどの地位を手に入れる事の出来る存在であるシャル。しかし、彼は誰の臣下にも下らないとその意志を決めた。
 そういう所が高く評価できる点なのだろう。……私が彼が対等である事を認める理由。
「そうか……」
「まぁ、別に誰かのもとで働くのが嫌とか、そういうんじゃないんだけどね。けど、今の年齢じゃ、絶対にバカにされるだろうし」
「一級賢者でも、か?」
「10歳で一級賢者になりました、なんて言ったら、このガキ、嘘ついてんじゃねぇよって思われるのが関の山でしょ。説明するのも面倒だしね」
 年齢以上に幼く見えるシャルにしてみれば、確かにそうかもしれない。
 何しろ、一級賢者と呼ばれる人物は全世界でも数える程しかいない。アーディルだけではなく、全世界で通用する称号である「一級賢者」になるのは、王家に生まれるよりも難しい、とまで言われる程なのだ。
 若干10歳という若さ――というよりも幼さ――で、その一級賢者の称号を家族にも内緒で手に入れてしまったシャル。何故、どうやって、家族に内緒に出来たのか、私も深い部分は知らないが……。ともかく、彼もまた普通ではないのだろう。
「いつでも臣下に下りたくなったら言うがよい。シャルならば、取り立ててやってもいいぞ」
「今のところ、遠慮しとくよ」
 さらりと言われると、苦笑するしかない。私は今度はキールに視線を向けた。
「ところで、お前は何用なんだ?」
「いや、別に何も」
「……ところで、例のペットとやらはどうなったんだ?魔精花を食したのであろう?」
 しばし沈黙し、キールはにやりと笑った。底意地の悪そうな、何かを思いっきり含んだ、人で遊んでいる笑みだ。
「ああ〜、あれね。おかげさまで、魔法力は回復しましたとさ。なんか、成長してしまったみたいだしな。俺様のペットとしてはそこそこじゃないか」
 ……何を飼っているのだ、こいつは……。いや、聞くまい。私はまだ、わたしの知らない世界へは行きたくない。
 無難に、そうか、と返すと、キールが小さく舌打ちをした。私で遊ぼうとでも思ったのやもしれないが、私はそこまで浅はかでもない。
「……キール……それ、人を食うようなもんじゃないよな?」
「大丈夫大丈夫」
 シャルの恐る恐るの問いかけに、キールはあっけらかんと手を振ってみせる。
「人の味は教えてないから」
 ……私は、この男だけには関わるまいと決めた。……そのささやかな願いが、絶対に叶わぬものだと知りながら……。
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