[おまけ] 時と場所は変わって、僕の心のオアシス、甘味処「数珠」。 僕はいつもどおりウルトラミラクル宇治金時を食べていて、甘いものは好きだけどあんこは嫌い、というファーレはみたらし団子を食べていた。 僕は歴編室の室長になってから、ようやく制限つきではあるけれど一人行動を許されるようになって、ファーレは、というと学院へ入学を果たした。という事で、そのお祝いを兼ねて数珠に来ているというわけだ。 「僕、プラチナさんはファーレと一緒にアーディルに残るんだと思ってた」 しゃくしゃくと宇治金時にスプーンを突っ込みながら言うと、ファーレはぱたりと手を止めて、机の上に肘をついた。 「プラチナは筆頭だからさ、長兄様が王位に就くには筆頭の力は必要不可欠だし。……だから、貸し出してんの」 ジョジョスに新国王が立つには、ジョジョスの13の領主がその王を認めないとならないらしい。当然、力が物を言う世界で、筆頭魔法使いはかなり重要な位置にいるのだろう。
「もしかして、その為?」 肘をついたまま、ファーレが僕に目を向けてくる。
「アーディルの学院への留学」 ファーレは少し考えて言った。数秒の沈黙に、それだけじゃないことを僕は知る。あえて問う必要がなかったのは、それからすぐにファーレが言葉を続けたからだ。 「あとは情報、だな。ジョジョスにいたら純粋なジョジョスの情報は手に入らない」 あれから、アーディルの学院への留学の手続きをするのに幾度か話していくうちに知ったのだけど、ファーレはその道では有名な情報屋らしい。情報を制するものは世界を制す、という事か、ジョジョスの第一王子と第二王子はその能力を高く評価していて、弟だから、というよりも、有能な情報屋としてファーレを手に入れたがっているらしいのだ。
「後は身の安全。オレの顔は案外と知られていないし、プラチナがいなかったら、多分、誰もオレが第三王子だとはわかんないだろうな」 ファーレはしばらくじとっとした視線を僕に向けてから、ため息をついて最後のみたらし団子に手を伸ばした。 ファーレがプラチナを慕っているのは、数時間一緒にいればすぐに分かった。元教育係で、プラチナの名前を与えたのもファーレらしく、とにかく物心ついたころから一番近くにいた人間だったらしい。
「もしかして、プラチナさんとこんだけ長く離れるのって初めて?」 指折り日にちを数えて、ファーレは机に突っ伏した。 たかが三日。でも、ファーレにしてみれば、されど三日。 僕には、そこまで執着した人間がいないので、よく分からないけれど、ファーレにしてみれば半身を引き裂かれたようなものと同じなのだろう。そういう人間がいるっていうのは、正直、少し羨ましい。 僕は数日前のファーレとプラチナの別れの情景を脳裏に浮かべた。 ……学院にいる間は会いに来るな。そう言っていたのはファーレだ。ぎゅっとプラチナのマントの端を握り締めて、不安げな瞳を向けながら、というなんとも説得力のないものではあったけれど。
「ファーレ、寂しいんでしょ」 茶化すように僕が言うと、ファーレは即答を返してきた。僕は調子を崩されて、それ以上何も言えずに宇治金時を口に運んだ。抹茶とミルクの味わいが口の中に広がる。
「素直に寂しいって言えばよかったのに」 一応、国の事も考えての事らしい。それ以上に、プラチナに自分はちゃんとやっていける、という所を見せたい、というのもあるのだろうけれど。 「う〜っ……プラチナに会いたい〜っ」 突っ伏したまま言うファーレに目を向けたまま、僕は宇治金時の最後の一すくいを口に運んだ。 この姿を見ていると、ハーレムを作るのが夢、と言った男だとは到底思えない。僕はスプーンを名残惜しく思いながらも口から離して、ぽんぽんとファーレの頭を軽くはたいてやった。
「まあまあ、少しは我慢しなよ。僕がトモダチにだったらなってあげるから」 ファーレは顔を上げずに、小さく頷く。どうやら、我慢をしきる自信がないらしい。僕は内心で苦笑を浮かべた。 「いよいよ我慢しきれなくなったら、ファーレから会いにいったら?」 僕が言うと、ファーレはきょとんとした視線を僕に向けてきた。その顔が、苦虫を噛み潰したような渋いものに変わる。 「いつまで我慢出来るかが問題だよな……」 小さく唸り声を上げながら考え込むファーレから視線をそらせて、僕は窓から見える空に視線を向けた。 空はすっかり秋の空だ。ずっと高い場所に、いくつか雲が浮かんでいる。 ファーレはプラチナに会いに行くだろう。それは、限りなく確信に近い、僕の予想。 ――多分、この空が冬の空に変わる前に――
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