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僕の思いと君の事
[シャル+キール+キャニ]


 キールと僕が初めて出会ったのは、あの、兄さんに無理やり王城へ追いやられた日。
 僕の人生は、そこから少しずつ狂い始めてきたような気がする。

 僕は王城の庭にあるベンチに腰掛けて、王城へ来てからの日々を指を折って数えると、ため息をついた。

 別にキールの事が嫌いというわけではない。否、キールの存在は嫌う嫌わないの次元を軽く超えてしまっているのだろう。今更、自分の好みで判断することは出来そうにもない。

「なるほど。シャルズは俺様の生き方に敬服していると」

 突然後ろからキールに声をかけられて、僕は飛び上がらんばかりに驚いた。
 噂をすれば影が差す、という言葉を知らなかったわけではないけれど、これではあまりにもタイムリーすぎる。そもそも、キールはここ数日、任務の為に留守にしていたのだから。

「まあ、キーさんの事を考えてしまうのはしかたないかもねぇ。いるだけで結構楽しめるし」

 呆れてため息をつくと、キールの後ろからキャニオンがくつくつと笑いながら姿を見せた。
 キャニオンはキールの相棒と呼んでもいい存在なので、今回の任務にも二人揃って向かったのだ。この二人が揃うと、向かうところ敵なし、の状態なわけで、結果的に、任務は短時間でこなされる事になる。

「キーさんの生き方は誰にもまねできないよね。……したいとも思わないだろうけど」

 何気に酷い言葉を吐くキャニオンに、僕は苦笑を浮かべた。
 しかし、キールはその言葉すら褒め言葉とうけとったのか、そうだろ、とにかりと笑った。

 確かにキャニオンが言うとおり、キールの行き方は誰にもまねは出来ないだろう。そして、やりたくもない。それでも、そんな生き方を堂々としてしまえるキールは、ある意味凄いのかもしれない。

「まあ、俺とシャルズはある意味同じタイプだしな。惹かれるのも仕方がないとは思うぞ」

 キールは僕の言葉を全く無視する形で、言葉を続けた。
 その言葉に、僕は思わず全ての動きを止めて、まじまじとキールをみやってしまう。

 ――同じタイプ。確かにキールはそう言わなかっただろうか。

「僕とキールが同じ種類って。僕は少なくとも人間だよ?――光合成だって出来ないし。キャニも思うでしょ?」

 うん、と即答するかと思っていたキャニオンは、小さく唸り声をあげた。
 どうして、躊躇う必要があるのだろう。どこからどう見たって、キールは人間外の存在で、僕は普通の人間じゃないか。僕の疑問に気がついたのか、キャニオンは僕を見て苦笑を浮かべた。

「まあ、確かにシャルさんとキーさんは少し違うと思うけれど……。光合成というなら、俺は手から養分を吸い取る事が出来るよ?」
「えっ?」

 僕は思わず聞き返してしまう。しかし、キャニオンはにっこりと微笑んで、もう一度同じことを繰り返した。

「キーさんの手のひらが葉っぱなら、俺の両手は根っこだね」

 などと言って、キャニオンはあははと笑う。僕は途端に頭痛を覚えた。

 キャニオンがそんな冗談を好む人種だとは思わなかった。彼は、なんていうのか――もう少しまともだと思っていたのだ。だというのに……

「冗談って思っている?本当だよ。俺は土壌から養分をもらっているんだよ。いい土がなかったら、手近にある植物からね」

 それって、寄生植物って事?
 僕はごくりと唾を飲み込んで、恐る恐るキャニオンを見上げた。

「まあ、植物だけじゃないけどね……」

 キャニオンは小さく恐ろしい事を呟く。
 僕はその言葉はあえて無視をすることにした。

「どうかしたのかい?シャルさん。――それぐらいの事だったら、人間誰でも出来る事だよね」

 そうなのだろうか。
 そんなはずはないと分かっていながら、何故かキャニオンの言葉に自分の方がおかしいように感じてしまう。僕のほうがまともなのに、僕だけが間違っているような、そんな感覚。

 僕は慌ててかぶりを振った。

「出来ないよ、そんな物」
「そうか?」

 僕の言葉に、キールがにやりと笑う。続けて、キャニオンも小首を傾げた。

「だけど、シャルさん、試してみた事ないんでしょう?」
「そりゃあ……まあ……」
「だったら、おかしい事かおかしくない事か、分からないでしょう?」

 駄目だ。このままだと、二人に感化されてしまう。
 僕は、多分にひきつった笑みをキャニオンとキールに向けた。ここで、変に反発して、洗脳でも受けたら事だ。それよりも、ここは納得したふりをして、事を荒立てない事が懸命だろう。

「うん、そうだよね。キャニやキールの言うとおりだよ」

 わかりゃあいいんだよ。キーツがにやついた表情のまま呟いた。にやついた、といっても、キールの場合、これが地顔なのだから、特に深い意味はないのだろうけれど。

「そういえば、キーさん。俺達、そろそろ陛下へ報告に行った方がよくないかな」

 これ以上二人の相手をするのは疲れる。そんな事を考え始めていた時に、キャニオンが尋ねるように声を上げた。キールは少し考えて、そうか、と答える。その言葉に、僕は思わずにんまりと微笑んだ。

「行った方が絶対いいと思うよ。僕も」

 報告の内容がどんなものかは分からないが、ともかく早くに報告は済ませておくべきだ、ともっともらしい事を並べるとキールは納得したように頷いた。 「それじゃあ、行って来るわ」
「またね、シャルさん」

 僕は満面の笑みで二人を見送ると、二人とは逆の方向に歩みを進めた。そんな僕の視界に、最近新しく入れられたばかりの肥料が飛び込んでくる。僕は思わず歩みを止めた。

 もちろん、キャニオンやキールが言った事を信じているわけではない。僕はいたって常識人なので――。
 しかし、なんとなく好奇心が沸いてきて、僕はゆっくりと肥料に足を近づけた。ぷん、と肥料独特の臭いが漂ってくる。僕はごくりと唾を飲み込んで、そっとその場にしゃがみ込んだ。

 両手を肥料に押し付けてみる。
 ――しかし、やはり、というべきか養分は僕の中に流れ込んでこない。僕は安心して立ち上がり、再び元の道へ戻ろうとした。――それを実行に移せなかったのは、僕のすぐ後ろにキールとキャニオンがいたからだ。

「やると思ってたぜ」
「シャルさんは素直だから」

 僕は言葉をなくして、金魚のようにぱくぱくと口を開いては閉じる。キールとキャニオンはそんな僕を見て、もう一度笑った。

「騙したなっ!」

 ようやく声が出るようになって、僕は大声を上げる。恐らくは怒りの為か恥ずかしさの為か、顔は真っ赤に染まっているだろう。そうしたところで、キールとキャニオンにダメージを与える事は出来ないとわかっていたのだが、何かを口にしないとやってられなかったのだ。

「騙したつもりはないよ。キーさんは光合成できるみたいだし……。俺も、ね」
「……キャニ、冗談なんでしょ?」

 もう騙されないぞ、とキャニオンを睨み付けるが、きゃにオンは飄々と微笑んで見せた。その笑みには何の邪気も含まれていなくて、僕は逆に不安にかられる。
 キャニオンもキールの自称友人なのだ。何をしでかしてもおかしくはないような気がする。

「どうかな」

 キャニオンは遠くを見て微笑んだ。

「俺、養分吸えるのは土や植物だけからじゃないって言ったよね?……俺が触れた後、妙に疲れたりした事ない?」

 僕は瞬間、硬直した。

 キャニオンの突然の告白に、僕が硬直している間に、キャニオンとキールは僕の前から去って行ったらしい。僕が我に返った時には、二人の姿はなかったから、はっきりした事はいえないんだけど。

 僕は唇をかみ締めて、前髪を上げると、ため息をついた。今更ながら思い出した。――僕の周りには、おかしな人が集まりやすいらしい。そんな運命に打ち勝つには……

「僕も、常識を捨てないと駄目なのかなぁ」

 僕はもう一度ため息をついた。




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