ふと気がつくと、メラフィがソファに横になって、小さな寝息を立てて眠っていた。 ぎゅっとクッションを抱き込むように抱え込み、始闇が近づいても一向に起きる気配のない様子は、ほほえましくも、情けなくもある。 始闇は男で、彼女は女で、二人は将来を誓い合った恋人同士で、部屋の中には二人きりで――恋人として、美味しいシチュエーションだというのに、メラフィは緊張感の欠片もなく眠りこけているのだ。 ――いつだってこんな様子で、結局、キスすらまだ、と言えば、あきれを通り越して笑われてしまうだろうか。もっとも、そんな事、恥ずかしくて言えはしないのだろうけれど。 始闇はソファに身体を下ろし、そっとメラフィの肩に手を回すと、自分の方へと引き寄せた。 「……始闇……?」 始闇の腕の中で、メラフィが小さな声をあげる。 起こしてしまっただろうか。そう思って、メラフィの顔を覗き込んでみるが、瞳はきっちりと閉じられたまま。どうやら寝言だったようだ。始闇はほっと息をついて、起こさないように注意を払いながら、静かにメラフィの髪を手ですいた。 「始闇――……」 もう一度、声が聴こえて、始闇は少しだけ腕の力を強めた。 どんな夢を見ているのか分からないが、自分の夢をメラフィが見ているのだと、そう思うと嬉しい。 始闇の腕の力が強すぎたのか、メラフィは始闇の腕の中で身じろいで、瞳を閉じたまま、嬉しそうに微笑んだ。 「……ポチ……」 続いて飛び出してきた言葉に、始闇の思考が停止する。 ……ポチ。 …………ポチ? ポチといえば、犬の名前だろう。始闇は、がっくりと肩を落として、口元に苦笑を浮かべた。 今まで、不思議とメラフィの気持ちを疑った事はない。 ようやく手を繋げるようになったという子供のような健全なお付き合いでも、メラフィが始闇に向けてくる感情はとてもストレートで、始闇の心はメラフィの気持ちで満たされている。 とはいえ、夢の中でとはいえ、ポチと呼ばれると、多少はショックを受けるものだ。 「……ポチ、ですか……」 苦笑を浮かべたまま、メラフィを見詰めて、始闇はそのまま苦笑を優しい微笑みにかえた。 どんな夢を見ていてもいい。幸せそうに夢を見ているのだから、それが悪い夢ではない事は分かっているのだから。幸せな夢の中ででも、メラフィと共に在れるのならば、それはそれで幸せな事かもしれない。 始闇は、そっとメラフィの髪の毛に口付け、口元に浮かべた笑みを更に深めた。 「いいですよ。貴方が望むのならば、我は犬にでもなりましょう」 だから、幸せな夢をこれからも共に見ましょうね。
……犬ではなく、なるべくは、今のままの姿で――。 |