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紅葉狩りに行こう!
[キールと和君コンビ]


「和ちゃん、紅葉狩りに行こう」

 突然、キールがそんな事を口にしたので、如月和は首を傾げて、読んでいた本から目を離した。

 キールが突然思いついた事を後先考えずに口に出すのは、そう珍しい事ではない。これまでも、その思いつき一つ一つに付きあわされ、その度に頭を抱えるのは和の役目であったのだから。
 だが、今回、キールが思いの他まともな事を口に出したので、和は思わず眉を顰めた。

「春ちゃん、紅葉狩りへ行きたいの?」

 確かに時期的には、現在、秋も真っ盛り。秋晴れが続いているし、紅葉狩りには絶好の季節だろう。忙しい日々の息抜きにするには、丁度いいかもしれない。

「俺、行った事ないし。和ちゃんは?」
「行った事はあるよ。最近は、忙しくて全然だけど」

 和が答えると、キールは驚いたように、だけど尊敬の念をこめた瞳で和をみやった。その反応に、和は思わず首を傾げる。

 紅葉狩りぐらい、行こうと思えば何時だって行けるだろう。そう驚かれるような事でもないはずなのだが……。

 ふと、そこまで考えて、和は何やら嫌な予感を身に感じた。もしかして、キールは紅葉狩りが何かを知らないのではないだろうか。

「春ちゃん、紅葉狩り、知っているよね」
「当たり前だろ。知らなかったら、行こう、なんて誘わない」

 そうだよね。
 和は、ほっと胸をなでおろした。流石にそこまでバカ、もとい世間知らずではなかったようだ。

「今の季節、真っ赤に染まっていて綺麗だろうな」
「そうだね。今が満開かな」

 アーディルだと、火竜山が見ごろだろうか。それとも、もっと綺麗な紅葉を見せてくれる場所があるのだろうか。

「武器は何を持っていくべきなんだ?」

 つらつらと考えていた和は、キールの見当違いな言葉に思わず言葉をなくした。
 驚いてキールの顔を見てみれば、キールはいたって真面目な顔で和を見つめている。

「……別に、そこまで深くには入らないから、軽装で大丈夫だよ」

 人に荒らされていない紅葉を見ようと思えば、山深くに入る必要はあるだろう。しかし、そこまでしなくとも、それなりに美しい紅葉は見れるものなのだ。

「だけど、突然襲い掛かってきたら――」

 心配そうに言葉を重ねるキールに、和はくすりと笑った。

「野生の動物ってのは、人間を怖がるものなんだよ。人間の声がすれば、逃げていくよ」
「だけど、紅葉は……」

 紅葉は人間じゃない、と言いたいのだろうか。
 心配いらないよ、と和は苦笑を浮かべた。やはり、俺様なキールであっても、初めての紅葉狩りを思うと、気持ちが先走ってしまうらしい。

「紅葉の近くに人間がいれば、野生の動物は近寄ってこないから」

 キールの気持ちを落ち着けてやるつもりで、幾分強めに言うと、キールはきょとんとした瞳で和に目を向けてきた。

「そうじゃなくって」

 その後、表情を険しいものに変えて、真っ直ぐ和を見つめてくる。それから視線をはずす事も出来なくて――キールがそこまで難しい表情をする事も珍しい事ではあったので――和はキールの言葉に疑問を抱きながらも、和は、黙って次の言葉を待った。

「そうじゃなくってさ、紅葉を殺るのに何の武器が一番いいんだ?」

 瞬間、絶句。

 もしかして、キールの頭の中では、紅葉を……狩る?

「話によると、奴ら人間の顔を見るとケタケタと笑うらしいじゃないか。しかも、逃げ足が速いんだろ?」

 和は、思わずキールの言う紅葉を想像して、背筋が寒くなるのを感じた。
 ひらひらと紅葉が舞い降りる美しい秋の情景が、途端にケタケタと笑いながら人間に襲い掛かってくる紅葉の姿に変貌する。――コメディを超えたホラーだ。

「アーディルの紅葉って笑うの?」
「和ちゃん、アーディルに紅葉はない。あれは、アーディルの原産じゃない」

 そういえばそうだった。アーディルでは、特殊な結界の所為か、アーディル原産ではない植物は根をはることが出来ないのだ。もちろん、紅葉も存在しない事になる。

 だったら、ケタケタ笑う紅葉って?

「じゃあ、何処に紅葉狩りに行くの?」

 この際、紅葉狩りの本当の意味を教えるのは後回しだ。和はキールに尋ねた。キールはにやりと笑う。

「サミスーラ」
「サミスーラ?」

 サミスーラ帝国。それは世界でも有数の大国の一つだ。数多くの謎に包まれていて、独自の魔法形態を持つ、特別な帝国。
 とはいえ、植物形態は、アーディルやスノライとそう変わりはないはずなのだが……。

「整理すると、春ちゃんはサミスーラに行って、ケタケタと笑う紅葉を狩る、と……そういう事?」
「そう。応援もサミスーラに依頼してある。で、狩り立てをてんぷらにして食うと美味いらしい」

 和はあまりにも無邪気なキールの様子に、頭を抱えた。
 やはり、キールはキールという事で、半端じゃなく世間知らずの――というよりも、むしろ、常識知らずの――キールに一般的な知識、というのを望んだ自分がバカだったのだ。和は頭を抑えたまま、軽くため息をつく。

「ところで、春ちゃん、一体、誰にそんな事(嘘っぱち)教えてもらったの?」
「紅葉狩りの事?」

 キールは少し考えて、にやりと笑った。

「スノライの某剣士」

 そういえば、キールがスノライへ帰ってきている日に、その某剣士の機嫌が最悪状態だった時があった。キールはその憂さ晴らしに付き合わされたのだろう。
 そう考えれば哀れではあるが――それにしても、バカすぎる。

「春ちゃん、紅葉狩りは今度にしよう。他国に首を突っ込むのはあまりよくないと思う」

 とりあえず、紅葉狩りの真実を教えるのは後回し。今は、自分の常識へ戻ろう。

 和は、持っていた本を開いて、軽く息をついた。


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