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今日も私は桜の木の下にいた。2月にこの町に引っ越してきたばかりの頃に見つけた、丘の上の1本の桜。そのときは蕾だけだった桜は、今は3分咲き程度ではあるが花が開き始めている。その下で、私は一人泣いていた。
「何か辛いことがあったのか?」
突然背後から声が聞こえた。慌てて涙を拭って振り向くと、同い年ぐらいの男子が心配そうにのぞき込んでいた。彼は続けた。
「君さ、よくここで泣いてるだろ?君がここに来る時はいつも悲しそうな顔してる。」
「み、見てたの・・・?でも何処で・・・?」
「っと・・・あっちの木の上だよ。俺、この丘でぼーっとしてるのが好きだから。なぁ、良かったら俺にグチってみないか?いつもそんな顔ばっかりしてるの見てたらほっとけないよ。」
羞恥心と驚きで愕然としていた私に彼は唐突に言った。いつの間にかちゃっかりと隣に座り込んでいるが図々しさは感じさせない、不思議な人だ。私は、少しずつ、言葉を選びながら話し始めた。前の学校の友達にあいたくなること、転校してきてから2ヶ月間誰も話しかけてくれなくて友達ができないこと、その他心の中にたまっていた不安や悲しみを一度に吐き出した。彼はいちいち頷きながら聞いてくれた。話し終わると彼は、私の目からいつの間にかあふれていた涙をちょっと拭ってから口を開いた。
「ちょっときついこと言うようだけどさ、今のままじゃだめだって言うことはわかるね?心の中で“こうしたい”とか“こうして欲しい”なんて思ってるだけじゃ現実は何も変わりはしないんだ。勇気を出して一歩踏み出すこと。すべてはそこから始まっていくんだ。受け身になるんじゃなくて、もっと自分から行動しないと現状は変わらないよ。俺も、勇気出して行動してよかったと思ってるし。」
彼は強い目をしていった。同世代とは思えないくらい大人びた口調だったが、本当に私のためを思っていってくれているのがよく分かった。
「・・・すごいなぁ・・・・・・強いんだね、えっと・・・名前なんだっけ?」
「サク・・咲夜だよ。花が咲くの“咲”に“夜”で咲夜。君は?」
「私は由依。理由の“由”に依存の“依”で由衣。」
「へぇ、いい名前だな。」
咲夜君は何気なく言って、そして笑った。なんだかホッとするような笑みに私もつられて笑った時、腕時計のアラームがなった。
「あ、私もう帰らなきゃ。親には塾行くって言って出てきたから。・・・・ねぇ咲夜君、いつもここにいるの?」
「あぁ、そうだよ。グチりたくなったらいつでも来ていいから。」
「うん!ありがと、咲夜君。またね」
私は咲夜君に手を振ると坂を駆け下りた。あんなに重かった心が嘘のように軽くなって、羽が生えたみたいに感じる。頭の中には咲夜君の優しい笑顔と強い言葉が浮かんでいた。
その日から毎日、私は咲夜君に会いに行って、何時間も話すようになった。その日の 変化やちょっとした会話がとても楽しかった。咲夜君は、まるで自分のことのように喜んだり悲しんだりしてくれた。どんなにクラスの友達が増えても、一番の友達は咲夜君だった。
そんなある日に異変は起こった・・・・・
いつものように桜の木の下に来ると、咲夜君の様子がおかしい。青ざめた顔でぐったりと座り込んでいた。
「咲夜君!どうしたの?体調悪いの!?」
「由・・依・・・?ゴメン、もう明日から逢えないんだ・・・。俺・・・もうすぐ全部散るから・・・・。」
「咲夜君しっかりしてよ!それに、逢えない・・・散るって・・・・?」
咲夜君の横に座って私は咲夜君に抱きついていた。恋愛感情なんかじゃない、上手く言葉にならない感情で私は動いていた。ただ、この町でできた最初の友達が苦しんでいるのが辛くて、悲しくて、助けたかった。咲夜君はちょっと驚いたようだったけど、いつもの笑顔を浮かべて言った。
「俺はね、由衣。桜の花の魂魄なんだ・・・。蕾が付いてから花が散るまでが俺の寿命で、もう花が散るから・・・・だから、俺も消えなくちゃいけない・・。」
「イヤだよ、咲夜君!いなくならないで!!咲夜君いないと寂しいよ・・・・!」
「ありがとな、由衣。・・・でも、今年はもうだめなんだ。大丈夫、由衣はもう、いっぱい友達できただろ?1人じゃないんだから。」
「でもっ・・・一番大事な友達は咲夜君だもん・・・。どんなにいっぱい友達ができても・・・咲夜君がいないと寂しいよ・・・」
私はいつの間にか泣いていた。咲夜君は優しく微笑んで私の頭をなでた。
「由衣、永遠の別れじゃないんだから、そんなに泣くなよ。また来年・・・蕾が付けば逢えるから。それまで待っててくれ。」
「ホント・・・?」
「あぁ、嘘なんかじゃない。こんな嘘つかない。だから約束だ。絶対にまた逢えるから、だから由衣も寂しがらないこと。」
咲夜君が手を差し出す。私は涙を拭ってその手をしっかりと握りしめた。
「短い間だけど楽しかった。またな、由衣。来年逢えるのを楽しみにしてるよ。」
「私も・・・。絶対忘れない。」
涙はもうでなかった。私は自然に笑顔になっていた。と、そのとき強い風が吹いた。一瞬目の前が見えなくなる。目を開けると、思った通り、咲夜君の姿はなかった。消えて見えなくなる前の笑顔だけが目に焼き付いていた。
「ウソツキ・・・・」
最初で最後の嘘に腹は立たなかった。それが咲夜君の精一杯の優しさだと分かってるから。いつまでもくよくよしてたら、下手な嘘をついてまで私を励ましてくれた咲夜君に悪いから・・・。
「サヨナラ、咲夜君・・・ありがとう・・・・」
私は一人つぶやいて丘を後にした。少しだけ振り返って、それからまっすぐに前を向いて私はあるいた。
−それでいいんだ−
もう消えたはずの咲夜君の声が聞こえた気がした。嬉しそうで、寂しそうな声だった。
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これを書いたのは実は5月の末です。(核爆)春のテーマにあわせて・・・・。春→桜、別れと、短絡的に連想した結果がこんなものです。こういうのは初めて書くので新鮮でした。
なんか、今読み返すと恥ずかしい気もします(苦笑)
by.【No.12】比翼 連哉 ('00,9/3 up)