written by ケイ・プロクシマ
ナビア その昔、 娘は泉に水をくみにくる男に出会って恋をした。 男はそれに気がつかない。 男は毎週、同じ日同じ時刻にやってきた。 娘は毎週、その瞬間だけを待って過ごした。 それを何十回繰り返しただろうある日、 男はその日、その時刻にこなかった。 娘は、混乱し不安でいっぱいになった。 この前会えたのが最後だったのなら、 何か一言でも、彼に話し掛ければよかった・・・ 娘は、そう後悔した。 その思いにとらわれたまま、一週間を過ごした。 次の週、同じ日同じ時刻に男はまた現れた。 娘はうれしかった。 娘は男に近付いて、声をかけた。 「先週はどうしてこなかったのですか?」 男はびっくりして振り返った。 そこには、誰もいなかった。 男が振り向いたのは、ほんのすこし 木々がゆれたような気がしたからだ。 男は帰っていった。 娘は、思いだした。 男の視線が自分の体を通り過ぎていくのを見て 思いだした。 自分の体がないことを・・・。 そうだった。 彼に恋する資格がないことを忘れていた。 でも、いまさらこの想いを捨てることはできない。 誰が止めることができよう。この想いを。 娘は次の週も男を待った。 男は、いつものとおりやってきた。 娘は男についていくことにした。 どうせ見えないのだから。 男には、妻と息子がいた。 娘は、それを知ると泉のほとりに帰った。 娘は、狂うように嫉妬した。 娘の嫉妬は、憎しみとなり哀しみとなった。 男は何も知らない。 男は、いつものように毎週水をくみにやってきた。 娘は、それでも男を待った。 娘は、どうして自分がここにいるのかわからなかった。 ある日、泉に女がやってきた。 女は、彼女を見た。 女は、彼女に語りかけた。 「ここはどこ?私は死んだの?」 娘はびっくりした。 女は、自分は死んでしまったはずだといった。 娘は、笑った。 方法が見つかったと、笑った。 女は去り、娘は男を殺したいと思った。 「なあ、おまえ、『ナビアの迷信』って信じるか?」 と、つり糸をたぐりながら男は尋ねた。 「なんだそれ?」 と、もうひとりの若い男は、尋ねた。 「ひいじいさんから聞いたことがあるんだけど、 この湖にはナビアって娘の亡霊がいて、 たびたびこの泉にやってくる男に恋をして、殺してしまうそうなんだ。」 「へえー。」 「それが、100年ごとなんだって。」 「気の長い迷信だな。」 「迷信かどうかわかんないぞ。今年がちょうど、100年目にあたるそうなんだ。」 「ふーん。」 「なんでも、そのおまえが腰掛けてる岩の上にすわるとよくないらしい。」 「そ、それを早く言えっての。」 「信じてるのか?でもおまえ、いい男だからあぶないぞ。」 男は笑いながら言った。 「よせよ。迷信だろ。」 若い男は、そういいながら、岩から降りた。 でも、もう、遅かった。 3ヵ月後、若い男は原因不明の熱病で死んだ。 「会いたかったわ。」 ナビアは、男を抱きしめた。
Copyright (C) 1997 by ケイ・プロクシマVZC27929@biglobe.ne.jp
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