written by カメ山カメ吉
ということで、40歳にもなって剣道を始めた私ですが、無事に修行の日々が始 まりました。 稽古は(練習ではなく、稽古なんですよね〜)週に二回。水曜と金曜の夜7時半 に道場に行きます。(その他に日曜の朝稽古も有るんですけど、私はパス) 子供たちは7時から8時過ぎころまでで、私が7時半に行くとすでに会長先生が 稽古を付けていますが、なんせ保育園とか小学校の低学年ばかりで、いや〜、な かなか大変そうであります。 ガキだから、ちっとも言うことを聞かないんですよ。ジャージに鉢巻き巻いて竹 刀を振り回してるんだけど、よそ見してばかりでろくに先生の言うことなんか聞 いちゃないという……。 やれ「足が冷たい」とか「オシっこ出ちゃう〜」とか、どうにもならない。 先生もカリカリしてるんだけど、ガキだから仕方ないか〜みたいな雰囲気もあり ます。 そんな様子を見ながら、私も稽古着に着替えて準備運動などをしたりして、お声 の掛かるのを待つわけですね。 なんせ最初の頃なんてのは、大げさでなく、竹刀の握り方さえ知らなかったので 素振りも出来ず、準備運動くらいしかやる事がないわけです。 道場は上座と下座があり、あっち側のエリアは先生方がおられる場所で、もちろ ん入門したての私は下座の手前側、つまり〜入り口の角っこのあたりでうろうろ しているしかないわけです。 そうこうするうちに、他の先生とか先輩のオバさんなどもやってきます。 しかし〜、先輩が見当たらないというか、若い連中が見えないんだけど、なぜだ? とか思うじゃないですか。 これはですね〜、見当たらないんじゃなくて、居ない(!)のだという、実に単 純明快な答えでありました。 若い奴は、居ないんだ〜。ってマジで? ガキとオジさん連中しかいないのか? いないんだ〜……。ウソ〜〜〜!? 次第にその○×剣道協会のメンバー構成が分かってくるにつれ、ちょっと茫然と したというか驚いたというか……、ほんとに若い連中がいないんですよ。 下は保育園から中学生まで。その上はいきなりオジさんオバさんに飛んでしまっ て中間の若い衆がまったくいない。 これはなぜかといいますと、中学校を卒業するとそれ以後も続けたい人は高校の 剣道部に入るんですね。だから町の道場には来なくなるんです。 もちろん、もう止めたいという人は、そのまま剣道そのものを止めてしまうよう です。 ということで、そのメンバー構成を観察してみたんですけど、会長先生、副会長 先生の他に先生が……五人ほどいらっしゃいまして、それに対して面を付けられ る小学高学年や中学生が5人くらい。その母親らしき女の人が一人にオバさんが 二人。 あとは、日曜日の朝稽古のみの先生と小中学生も10名ほどいるようです。 この驚くほど片寄ったメンバー構成の中に、40男の私が入ってきた訳です。 普通なら40歳といえばもういい歳なんだけど、このメンバーの中だととっても 若いので笑ってしまいます。なにしろ私より若いヤツといえば、いきなり中学生 になってしまうのですから、う〜ん……。 オバさん達は面倒見がよくて、あれこれと教えてくれました。 お話を聞くと、お二人ともすでに成人して勤めに出ている息子さんがいるそうで、 その息子さんが子供のころに剣道を始め、その稽古について来ているうちに母親 同士で仲良くなり、自分達も始めようか、みたいな話になってF君のお母さんと 一緒に始めたのだそうです。 ただのオバさんだとばかり思っていたら、なんと二段と三段のオバさんだという のでびっくりしたものです。 F君のお母さんはその後剣道から丈道(木の棒を振り回すヤツ)に変わり、今で も頑張っているそうです。 ともあれ、そんな独特な雰囲気の中で私の修行は始まったのです。 で〜、ガキどもが先生に叱られながら嫌々(と私には見える)竹刀を振り回して いるのを横目で見ながら、私はひたすら準備運動です。 オバさん方は気軽に声をかけてくれますが、他の先生方は遠巻きに見ている、と 言った状況。 これは私だけでなく、ガキどもも同じです。基本は会長先生の受け持ちみたいで、 初心者がある程度の形になるまで他の先生は文字通りの遠巻きにして見ている、 といった状況みたいでした。 保育園児が一段落付くと、会長先生が私を見てくれます。とにかく竹刀の持ち方 からだから、本当に一からの手ほどきですね。 竹刀の持ち方と一口に言うけど、これが中々に大変なアレがありまして、そりゃ もうアレでした。 どのくらいアレなのか、ちょっと書いてみましょうか。 竹刀というのは、それまで私は触ったこともなかったので勝手に想像していただ けですけど、一本の竹の先っぽだけを6つくらいに割ってあるのかと思ったらまっ たく違うんです。 四つ割りなんですね。4本の竹を組合せ、革で出来た握りの袋と先の袋を被せ、 弦で結んで外れないようにしてあるんですよ。 最近では竹以外にも、カーボンで出来たカーボン竹刀などというブツも有ります。 竹はササクレたり割れたりするので稽古の後は必ず手入れをしなければいけませ んが、カーボンは竹よりはるかに丈夫なのでそういった心配がいりません。ただ、 使用感がいまいちのようです。 また、バイオ竹刀という製品もあるようです。これは、竹に何かを(樹脂みたい なものでしょうか)染み込ませて普通の竹よりはるかに丈夫に仕上げてある竹刀 のようです。 で、竹刀は刀の代わりですから、握りの革が刀の柄にあたり、先の革が剣先にあ たります。弦の方が峰で、弦の無いほうが刃というわけです。当然ながら、竹刀 を握るときはこの事を頭に入れておかないといけません。 左手で竹刀の柄頭(握る所の一番尻)を握ります。小指と薬指でしっかりと握り、 他の指は軽く添えるくらいの積もりで、親指と人差し指で出来るVの字が柄革の 上の縫い目にくるようにまっすぐ上から握ります。 右手は鍔のすぐ下を、こちらは本当に添えるだけ。左手との間は拳骨一つ半くら いで、やはり親指と人差し指でできるVの字が柄革の縫い目に来るように上から 握ります。横から握ってはいけません。横から握ると脇が甘くなるんですよ。 構えたとき左手がへその前にきて、拳一つくらいの位置。右手は鳩尾の高さで自 然にすんなりと伸ばします。 肩に力が入らないように、竹刀の先は相手の喉の高さ。(伸ばしたときに相手の 喉に向くように、という説もあり) この状態を、竹刀を持ってすっと構えただけで自然にとれないといけません。 ただ握ればいいと思っていたら、思ったよりずっと難しかったので驚きました。 足がまた面倒なんですよ。右足は正面に向けてヒカガミ(膝の裏側)を自然に伸 ばし、左足はやはり正面に向けてすんなりと伸ばし、爪先が右足の踵の位置で、 げんこつ一つくらいの間隔をとって踵を軽く浮かせます。両足は必ず相手に真っ すぐ向いていないといけません。 さらに身体は……あくまでも正面を向き、背筋を伸ばし、顎を引き、どっしりと 構え、力まず、自然にリラックスしていないといけません。相手を見下ろすよう な気構えで立つ事が大切……だそうです。 そして目の付けどころです。これは「遠山の目付け」といい、常に相手の目を見 て相手の全体を見渡すような積もりでいないといけません。面だけを見たり甲手 だけをみたりしては全体が見えないから、目を見て全体を見るんだそうです。 とりあえずはこんなところかな?。 これが、剣道で一番基本の立ち方で、「中段の構え」もしくは「正眼の構え」。 こんだけのモロモロを、竹刀を持って構えただけですっと自然に……出来るわけ ないぞ〜。 手を気にすると足がおかしくなり、足を気にすると手がおかしくなり、そりゃも う大変です。 脇が甘くなる、膝が曲がる、爪先が曲がる、背中が曲がる、剣先が上がる、力む、 顎が上がる……。もう、ちっともうまくいかなくて、ヒーヒー唸るだけですよ。 この基本の立ち方は、難しいのは別にして大体は納得出来るんですけど、初心者 の私にとって一つだけどうしても納得できないところがありました。何かという と、立ち方です。 まず、右足が前というのがちょっと変。 棒を持って構えるといえば、普通の人が最初に思い浮かべるのはやはり野球のバッ トでしょうか。 私も子供の頃から、野球とかソフトボールのバットは散々握ったことがあるんで すけど、ピッチャーに向かえば左足が前なんですよね。 それが、剣道の構えだと右足が前になるというので妙な気分でした。キャッチャー に向かっているような、何ともおかしな気分です。 左足が前のほうがいいんじゃないか? と思ったんだけど、素振りをしてみると やはりこれでいいのかな〜、とは思いました。 竹刀を持つ手はバットを持つのと同じ右手が前です。だから、まっすぐに振り下 ろすことを考えると、右足が前の方がすんなり伸ばせる気もします。 ただ、立つ歩幅がやたらと窮屈なんですよね〜。 ちょっとやってみてくださいな。右足の踵に左足の爪先がくるようにして、足の 幅はげんこつ一つ。 やたらと歩幅が小さくて、窮屈な立ち方なんです。その上に両足のヒカガミを伸 ばして立つというのは、他のスポーツ、例えば野球、バレーボール、ピンポン、 柔道とか空手とかの立ち方と比べてみると、どうみても棒立ちで融通が効かない というかフットワークが使えないというか、窮屈。 「こんな立ち方で動けるのかよ〜!」といった感覚なんですね。 大抵のスポーツとか武道とかは、ある程度歩幅を取って腰を落として構えるじゃ ないですか。だから、両足の間隔が拳一つというのはあまりにも狭すぎないか? と思ってしまうんですよ。 さらに、移動はすっとそのままの高さで動くんです。出るときも下がる時も、身 体が上下しないように、そのまま平行移動しなくてはならないというから……仙 人かひょっとして? で、その窮屈な立ち方で、竹刀を振り上げてみましょう。これがまた難しい……。 左手が身体の中心を通るように真っ直ぐ振りかぶります。 振りかぶりはとにかく大きく、左拳が額の上になるように。大きければ大きいほ どいいんですね。 右手はもっと後ろに行くのですが、真っ直ぐ振り上げるのは思ったより難しいで す。自分では真っ直ぐの積もりでも、鏡で見てみると右手で押したり引っ張った りして振り上げた時の竹刀が斜めになってるんですよ。 で、振り上げた竹刀を振り下ろすわけですが、これも左手が中心を通るように、 右手は添えるだけ。当たる瞬間に両手を絞りこむように絞めます。 打ったときの両手が出来るだけすんなり伸びていなければいけません。しかし、 右手が先で左手が手前なのでこれにはちょっと無理があります。握りの位置が違 うから、物理的に両手をすんなりと伸ばせる訳がない。 先生がおっしゃるには「これが剣道の大矛盾なんですよ。矛盾は矛盾なのですが、 それを鍛練で矯正して自分の型を造るんです」との事でした。面白いですね。 竹刀はとにかく真っすぐ上から握っていないと、脇が開いてしまって真っすぐに 振れません。だから握り方がとても重要になります。 コツとしては、とにかく竹刀を上から握り、真っ直ぐに振って、当たる瞬間に両 手をきゅっと握りしめるような感じかな〜。これをですね〜、さっきの基本の立 ち方と一緒に行うんだから、もう大変です。 竹刀といえども気持ちは刀ですから、刃の部分が真っすぐに当たるように振り降 ろさなくてはいけまん。 最初はこの握りと構えを繰り返しやりました。構えたまま擦り足で前に出て、擦 り足で戻ってきます。身体が上下しないように、すっと出てすっと戻ります。出 るときも、戻るときも必ず中段の構えに戻らなくてはなりません。形状記憶身体 のように、手も足もきっちりとこの構えに戻らなくてはいけません。 移動は送り足というのが基本です。擦り足で右足から出て、素早く左足を引き付 けます。必ず右足から出て左足がついてくるわけです。戻るときはこの逆で、左 足から戻って右足が付いてきます。左足の踵は常に上がっていないといけません。 出るときは、構えたまますっと出るのですが、普通膝を曲げてからバッと出ると 思うけど、それはいけないんです。両足を伸ばして立っているそのまんまの構え からすっと出なくてはいけません。戻るときも同じく。 そんな事出来るか? う〜む……。 最初からある程度歩幅を取って、膝を曲げて構え、そこから出たほうが遠くまで 出られると思うんだけど、先生がおっしゃるにはそうでなはいそうです。実験を してみると、基本どおりの方が15から20センチくらい遠くまで踏み出せるそ うでした。う〜む……。 それから、歩幅を大きく取ったり膝を曲げて構えたりするのは、剣道にとっては 良くないことなのだそうです。「どうぞ面を打ってください」と言ってるような ものだそうな。 特に、出るときに沈むのは最悪だそうで、相手にしてみればまさに面が打ちやす くなるんだそうで、絶対にいけない事なのだそうでした。 しかし、これは〜、大きく踏み込もうとすればどうしても膝を曲げてしまうんで すよ。そうしないと遠くまで踏み込めません。そして、膝を曲げると身体が沈ん でしまいます。この辺は大きな課題でしょうね。稽古有るのみ! てなわけで、基本の立ち方と竹刀の握り方、振り方、出方戻り方を繰り返し繰り 返し教わったのですが、いくら直されてもなかなか出来ません。自分では出来て いる積もりでも、出来ていないんですね〜これが。 握りが横からの鷲掴みになる、肩に力が入っている、剣先が上がってしまう、歩 幅が広くなってしまう、膝が曲がる、足が前を向いていない、振りかぶりが小さ い、振り降ろしたときに手の内が絞まっていない……。って、全部ダメじゃない か〜……。 一つ直せば他がおかしくなり、他を直せばその他がダメになり……どうにもなら ないじゃないか! 言ってはなんですが、たかが竹刀を握って振るだけだと思っていた私は……。 こういうのは、考えるまでもなく無理も無いことなんですよね。基本は、剣道ば かりじゃなく何でもそうだけど難しいものです。簡単に身につくはずがないんで すよ。 構えを覚え(出来るという事ではない!)出方と戻り方を覚え(出来るという事 ではないぞ!!)たら、次は先生の持っている打ち込み棒(打ち込み専用の竹刀 みたいなブツですね)を実際に打ってみます。 竹刀の先から三分の一くらいのところを、中結いという革紐で縛ってあるんです が、その近辺を物打ちといい、その近辺で打たなくてはいけません。竹刀の先っ ぽや手元側で打ってはいけません。これもやはり刀からきているそうでして、そ の辺りが刀で言えば一番斬れる部分なのだそうで、柄を握って振り降ろしたとき に一番威力のある部分という事みたいです。だから、竹刀でもその部分で、刃筋 正しく打たなくてはいけません。(竹刀の横とか峰の側で打ってもダメなんだそ うです。真っすぐに上から握ってないとうまく打てません) 理屈は分かっても、実際に打ってみるとこれがまた難しい。 散々基本を教わったはずなのに、まったく出来ません。 脇は甘くなるし手の内は絞まらない。振りかぶりは小さくなるし真っすぐに当た らない。さらに難しいことには、当たってからのフォローなんですけど、切っ先 の手前辺りを当てて、そこからズリっと斬り進むような積もりで伸ばすんだそう です。 先生がとてもリアルな説明をしてくれました。「切っ先を相手の額に打ち込み、 そのままズリズリっと伸ばすように斬り進めれば相手の頭はザックりと斬れます」 なるほど〜、雰囲気は分かります。 打つというのは結構気持ちいいというか、心地よい手応えが有りますね。 けっこう難しいんですけど、当たった瞬間にスパーンッと打ち伸ばすとでも言い ましょうか、実際はほんの一瞬だからズリズリーなんて伸ばせるわけはないんだ けど、気持ちの上では打ってからスパーンと伸ばすとちょっと快感。 放り出すような積もりでとか、釣りのルアーを投げるような積もりでとか、雰囲 気は分かりますね。 さらに手の内を締めるという厄介な問題が有ります。振り降ろしたときに、タオ ルとか雑巾を絞るような積もりで両手を絞りこみます。本当は茶巾絞りというん だそうで、タオルみたいな力任せの絞りこみではないんですけど、茶巾なんて絞っ たことないからよくわからん。 竹刀をやたら握り締めないで、両手の親指をぐっと前に突き出すような積もりで キュっとタオルを絞りこむように……でいいのかな〜。 この手の内の冴えはとても重要な事でして、たとえば、目標を力任せにぶっ叩い たりすると力んで動きは遅くなるし正確でなくなります。また、もし外された時 に竹刀が大きく流れてしまいますね。面を打って外されれば、下手すりゃ勢い余っ て臍の辺りまで振り降ろしてしまうんですね。甲手を狙って外されれば確実に床 をぶっ叩いてしまう事になります(これはね〜、笑っちゃうけど本当に何度も床 をぶっ叩きました)。そうするとこっちは隙だらけの状態になりますから、相手 に簡単に打ち返されてしまいます。いけませんね。 これの練習方は、力まずに振りかぶり、振り降ろして、当たる瞬間にビシっと止 める事だそうです。いきなり手の内を絞めろなどと言われても、出来るもんじゃ ないですよね。だから、とにかくすっと振り上げてビュっと振り降ろし、ビシっ と止めるように心がけなさい、ということでした。 素振りではまあまあうまく出来ても、実際に打つと難しい。外されてみると竹刀 が大きく流れるので、全然締まっていないのがよ〜く分かります。 最初は正面打ちです。文字通り、相手の正面を打つ積もりで打ち込み棒を打ちま す。面打ちが基本です。何が何でもまずは面打ち。 打った後はのびのびと打ち伸ばし、そのままの凄い勢いで駆け抜けます。足はも ちろん送り足。これもけっこう違和感が有るんですよね〜。普通の歩み足(歩く ときのような)の方が自然に動けるんだけど……。 そんなこんなで、この送り足での正面打ちを暫らくやりました。諸々のあれこれ を踏まえた上で、踏み込んだ足が床に付くと同時に打ち込むように。 それから、気合いですね。 お馴染みの「メーン!」というアレです。 メ 私が教わった気合いは「メーン」ではなくて、「 ンー!」といったアクセント の気合いで、メが高くンーを下げます。この辺は人それぞれで、先生によっては 「メーンッ」という気合いを掛けておられる人もいますし、何と発しているのか 分からない先生もいます。 やることは面打ちだから一緒なんですが〜。 正面打ちをしばらくやったのち、甲手打ちです。 これも面と同じように当たる瞬間に手の内をキュっと締めます。高さは自分の甲 手くらいまでで、床と水平くらいの位置でビシっと止めます。面のように打った 後打ち伸ばすのではなく、鋭くビシっと打ってから剣先を相手の喉元に付けて残 心をとります。残心というのは、そこで気を抜いてしまわず、もし相手が反撃し てきたらすかさず応じられるように気持ちを集中させておく、というような意味 ですか。 難しいのは、水平でビシっと止める事でした。手の内を締めないと止まりません。 自分では締めている積もりが、先生がすっと打ち込み棒を外すと床まで降り下ろ してしまうんですよ。おかしいな〜〜〜……ってなもんです。 何をどうやっても手の内が締まらないので、先生に聞いたところ、 「毎日素振り1000本やってみなさい」と言われました。 正面打ちもしくは上下振り(大きく背中まで振り上げてから、剣先を膝の高さま で振り下ろします)を1000本!。 素振りを繰り返すことによって手の内の冴えが出てくるという事でした。 で〜、1000本、振ってみました。竹刀だと天井に当たるので、木刀で、ぶっ 続けでは無理だから100本ずつ10セットをテレビでも見ながら振ってみたの ですが、これはきついわ……。 肩から腕から肘から、パンパンで次の日仕事になりません。情けない……。 無理して何日か続けてみたのですが、1000本は無理ですね。私の仕事は細か い仕事だから、指が震えて仕事になりません。 しょうがないから少し数を減らして、600から700くらいに落としたらなん とかいい具合です。 今、ちょうど1年過ぎましたけど、毎日振ってます。 この辺までが初歩の初歩というか、竹刀の握り方と振り方です。 子供とかの場合だと、これを下手すりゃ半年とかやるそうです。 私の場合、それでも3週ほどやりました。短いのか、そうでもないのか、ただ竹 刀を握って打つまでだから、こんなもんかもしれません。 その日の基本が終わると、先生は先生方と本格的な稽古に掛かります。子供はそ れで終わりになり、面を付けられる小学高学年とか中学生も稽古を始めます。 私はそれらを横目で見ながら、その日教えていただいた基礎の復習です。 一人で、ひたすら素振りを繰り返すわけですね。 F君が言うには、面が付けられるようになるには子供で3ヵ月くらい、というの でまだまだだと思っていたのですが、そうでもなかったです。 一通りの基本と打ち方が分かったら、次に甲手を付けるように言われました。 それまでは、剣道着に袴、防具は胴のみを着けていたんですが、そこに甲手が加 わったわけです。 ちょっと防具の説明をしましょうか。 面というのは、厚手の面布団という代物に面金が付いています。面金は安いもの はステンレスとかジュラルミンが使用されていて、高いものだとチタンが使われ ています。 面金の内側に内輪というビロードの輪っこが付いていて、それに顔をはめ、面金 から紐を後頭部に回して後で縛ります。 胴は、普通は竹を50本とか60本とか組合せて(酒樽を半分にしたような形に 組み合わせて糸で縛るようです)その上に革などを張り、漆を塗って仕上げて有 りますが、その他にファイバー製とか圧縮した紙などの物も有ります。私の買っ た特価品は紙製でした。胸と脇腹を保護するために革で出来た飾り等が付いてい ます。 両腋の紐を背中でクロスさせて肩から回し、胸で縛ります。腰の紐は後で縛りま す。 甲手は、革と布で出来ていて、ボクシングのグローブみたいなもんですけどもっ とゆったりしていますね。 さて、甲手をはめて何をやったかと言いますと、いよいよ先生の面を打たせても らえる事になりました。 甲手は、思っていた以上にゴボっとしていて、素手よりも感覚が鈍くなるという か、手の内が作りにくくなります。硬いから手首が伸びてしまい、素手のように 真っすぐ上から握るのも難しいですね。 一足一刀の間合い(一歩踏み込めば打てる距離。相手と向かい合ったときに竹刀 の先革が重なるくらいの距離で、これ以上遠いと遠間、近いと近間になります) から踏み込んで正面を打ちます。 打つ場所は額の辺りです。頭の天辺とか面金を叩いてはいけません。 面金を叩くと手応えが違うし、音が違うのですぐ分かります。 基本で教わったとおりに大きく振りかぶり、踏み込むと同時に打ち込み、ビシっ と手の内を締めます。そしてそのまま大きく打ち伸ばして送り足で突き進むわけ です。そのままだとぶつかってしまうので、打たせる方がすっと開いて進路をあ けてくれます。 面は打ち込み棒と違って丸いので、かなり打ち難いです。本当に狭い正面を打た ないと、竹刀が滑るように横に流れてしまうんですね。手の内が締まっていない と最悪で、正面を打った積もりがするっと流れて肩を打ってしまったりします。 ある程度面打ちをやった後、「切り返し」というのを教わりました。 これは、剣道の基本中の基本という練習方法です。(だそうです) まずは一足一刀の間合いから、気合いもろとも大きく踏み込んで正面を打ちます。 そのままの勢いで体当たりをして、前進しながら左右面を4本打ち、後退しなが ら左右面を5本。これで10本ですね。普通はこの10本を二回繰り返しますが、 3回とか5回とか繰り返す事もあります。 左右面は左右のこめかみの辺りを斜め45度に打ち下ろすんですが、これも基本 の打ち込みと同じで、左手が身体の中心を通り、右手を左右に返して刃筋を正し く打ち込みます。絶対に竹刀の横で叩いてはいけません。 刃筋正しく打つためには、左面(相手の左側)はいいんですけど、右面(相手の 右側)を打つのが非常に難しいです。向かって左側を斜め上から打ち込まなくて はならないので、手首が逆になるんですね。しっかりと手首を返し、手の内を締 めないとうまく打てません。 打たせる方はそのまま全部打たせたら頭が痛くなりますから、正面打ちは受けま すけど左右面は面の前に竹刀を出して竹刀で受けます。 一息で打つのが理想なんですが、まだ私には無理ですね。やってみると物凄く疲 れるのですぐに息が上がってしまいます。 漫画の「龍」に出てくる武専(武道専門学校)では、1年生はこの切り返しだけ を繰り返し繰り返しやらされたそうです。これを繰り返すことによって無理のな い打ち方や手の内の冴え、また息の使い方を身体で覚えることが出来るのだそう です。 いってみれば、この「切り返し」の中に剣道の全てが含まれている、という事で しょうか。 皆さんの稽古を見ていると、始めに切り返しをやって稽古をし、終わりにも必ず 切り返しをやっているようです。それだけ大切な稽古だということですね。 私も、未熟は未熟なりに、確かに手の内がまったく締まっていないのがよく分か ります。やはりこれも、稽古しかないでしょう。 この辺までが基本の初歩の初歩といった所なんですけど、ちょうど一ヵ月くらい でした。 なかなかうまく出来なくて嫌になっちゃうんですけど、先生が「次からは面を着 けていいですよ」というのでちょっとびっくり。 面を着けられるまで3ヵ月くらいの積もりでいたので、思ったより早いな〜と思 い、まだ早すぎるんじゃないか? とビビったりしました。 「だいぶ型になってきたから、次からは面を着けてどんどん先生方の所へ行き、 教えてもらってください」とのこと。 いよいよ面を着けられることになったんですよね〜。うれしいな〜と。その顛末 は次回に書こうと思います。 カメ山カメ吉
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