40男の剣道入門講座(5) …… 初段審査を受けてみる編

                               Written by カメ山カメ吉

 という事で、苦節1年の末に(大笑い)腕を上げに上げた(大笑いったらありゃ
 しない。腹を抱えて笑ってやってください)私ですが、いよいよ剣道初段の審査
 を受けてみることになりました。
 日頃の稽古の成果を見てもらうのが審査ですから、審査に関する特別な練習とい
 うのは本当は無いはずなのですが、実はあります。
 級審査でやった「切り返し」と「実技」の他に、「日本剣道形」の審査と「学科
 試験」があるんですよ。
 この二つは、普段の稽古ではほとんどやりません。
 「日本剣道形」というのはあまり聞き慣れないというか、皆さんご存じないので
 はないでしょうか。
 私も実は、剣道に形があるとは知りませんでした。
 わりとメジャーなのは空手の型ですが、空手の型の場合は何人かの敵を仮想して
 一人で打つのが普通ですね。しかし剣道の形というのは二人一組みで打ちます。
 高段者の演舞などでは本当は刀でやるらしいけど、一般的には木刀を使います。
 打ち太刀というのが技を教える方の先生役で、仕太刀というのが生徒役です。
 この二人一組で定められた形を打ちます。
 どんな動きかというと……共に上段に構えて歩み寄り、先生役が生徒役の額目掛
 けて打ち下ろします。生徒役はその刃を一歩後ろに退いてかわし、すかさず踏み
 込んで先生役の額に打ち下ろします。これが日本剣道形の一本目。
 同じく小手に打ち込んでくるのを下に抜いて小手に切り込む二本目。下段から胸
 突きにくるのをなやして突き返す三本目。
 ここまでの三本が、初段を受けるときに打たなくてはならない形です。
 形は全部で七本まで有り、その他に小太刀が三本あるのかな? 間合とか刃筋を
 知るためにはとても大切な剣道形なんですけど、普段はあまり練習しないんです
 よね、実は。
 私の場合も、ときたま稽古の後で先生が「ちょっと形でもやりますか」と言って
 見てくれる程度です。間が空くと忘れてしまいそうです。
 この日本剣道形という代物、どんなふうにして出来たかちょっと説明しますか。
 その昔、まだ剣道の流派が統一されていなかったのですが、それを一つにまとめ
 ようという事になった訳です。(と思うのですが……)
 で、各流派に伝わっている技とか奥義とかを抜粋して、教育仕様にまとめる事に
 なったようです。
 当時は剣道が学校の正課になっていたみたいで、学校で子供たちに教えるために
 は統一された形が必要だという事になり、当時の日本を代表する先生が集まって
 今の剣道形を制定したようです。
 そのときにはかなりの軋轢というか、様々な流派からのプレッシャーが有って大
 変だったようです。
 自分の流派の技をぜひ剣道形に入れてくれ、という話がくるんですよ。
 それらをかい潜り、制定委員の先生方は命がけで今の形を決められたようです。
 各流派の人たちに詰め寄られ、それこそ懐刀を持って制定に望んだとか本に書い
 てありました。
 その主になった委員をあげますと、内藤高治(漫画の「龍」でお馴染みの先生で
 すね)、高野佐三郎、門奈正、根岸信五郎、辻新平といった先生方です。
 この先生方が主になって、子供たちに教える形を定めたということなのでしょう。
 当時は「大日本帝国剣道形」と呼ばれていたのか?
 形は、動き自体はそれほど難しいものではないのですが、ちゃんと打つためには
 細かい部分でやはり難しいですね。
 手だけとか足だけとかでなく、全部に神経が行き届いてないといけない。
 それこそ、つま先から剣先まで気が行き届いていて、さらに相手との間合とか理
 合いとかも重要になります。
 間合と理合い、これがね〜、実に難しい。
 相手が面に打ち下ろしてくる。それをどうさばいてどう返すか。無理なく応じる
 事が出来れば理合いに合っているという事です。
 無理ならば合っていないということ。
 二人の呼吸が合わなければうまく行きませんね。
 実際に打ってみると、バランスを取るのが実に難しいんです。
 下手くそだから、気持ちが行き届かないんですね。
 剣の位置や向き、手の位置や向き、足の位置や向き、身体の向き、目線、それら
 全てに神経が行き届いてないといけません。
 一つクリアすれば一つがおかしくなる。そのおかしなところを直せば別のところ
 がおかしくなる。
 直しては崩れ、直しては崩れ、この繰り返しで少しずつ巧くなっていくしかない
 ですね〜。
 剣道形を練習しながら、普通の稽古も審査用に切り替えていきます。
 審査用の稽古といいますと、本当はいつもの稽古と同じなはずなんですけど、ちょ
 っと違う。
 基本重視というか、正しい姿勢で思い切りのよい打ちを出さなくてはいけません。
 普段の稽古のようにガチャガチャとした剣道をしてはいけない。
 剣先を利かせて、機会を掴んで打つ。けして無理な技を出してはいけません。
 そして、打つべきところで打たないのもいけない。
 正しい姿勢で攻め、機会とみたら透かさず打つ。これを一言で言いますと、格調
 の高い立ち合いをしなくてはいけない、ということでしょうか。
 試合ではないので、打たれてもいいから、正しい技を出すことです。手先だけの
 中途半端な打ちとか、腹の座らない打ちではいけない。
 雑誌などを読んでみると、この辺が現代剣道の一つの課題になっているようです。
 試合用の剣道と審査用の剣道が、はっきり違ってきているんですね。
 本来なら、普段の稽古も、試合の立ち合いも、審査での剣道も同じもののはずな
 んです。いや、同じでなくてはならないはずです。
 しかし現実にはそうでない。おかしいじゃないか、と。
 おかしいんだけど、実際には試合で格調の高い立ち合いをしていても勝てないよ
 うなんですね。
 極端な言い方をすれば、試合に勝つためにはまず当てなくてはいけません。多少
 姿勢が崩れても、打ち切っていなくても、相手より先に当てなくては勝てません。
 格調の高さよりもスピードとか手数の方が優先される、という事です。
 すると当然、剣道は当てっこではない、あんなのは本当の剣道ではない、という
 批判が出てくるわけです。
 ずいぶん長い間、現代剣道はこんなジレンマを引きずってきたみたいなんですね。
 これは、とても難しい問題だと思います。
 例えば、野球にしろサッカーにしろ、1点というものははっきりしています。
 ホームランでの1点も、スクイズでの1点も、価値はまったく同じ1点ですよね。
 強烈なボレーシュートも、ボテボテのシュートも1点に変わりはない。
 ところが剣道の場合は、当たればそれで1本になるというものではない。
 前にも書きましたが、気剣体の一致した正しい打ちでないとダメなんです。
 基本的には試合もそうなんだけど、競技としてやるのである程度気迫がこもって
 いて正しく当たれば、多少崩れていても打ち切れていなくても一本になります。
 ところが、審査用の立ち合いとなるとさらにシビアというか、厳しい見方をされ
 るということでしょう。
 以前NHKのドキュメンタリーで剣道の八段審査を取り上げていて、その中でそ
 の顕著な例が紹介されていましたが、全日本選手権を制覇した方でも八段審査に
 受からないんです。
 全日本選手権といえば、最高峰の大会ですから、その覇者となれば当然最高峰の
 はずです。
 それなのに八段審査には受からない。
 なぜかと言うと、試合に勝てる剣道と審査に受かる剣道とははっきり違うという
 事です。
 理想を言わせてもらえば、基本どおりの稽古を普段からしていて、それで試合に
 も勝てて審査にも受かれば一番いい。そんな事はみんな分かってはいるのですが、
 現実は違っているということです。
 いろいろ言っていても始まらないので、私も気持ちを切り替えて、審査を受ける
 ために審査用の稽古をする訳です。
 大きく、正しく、思い切った技を出す。言ってみれば格好いい技を出すんですね。
 当たらなくてもいいから、思い切った技を出す。そして、審査の間に1本でもい
 いから綺麗な技を決められればそれで合格です。
 「初段の審査なんてぇものは、基本が出来ていれば受かるんですよ」だそうです。
 普段の稽古がきちんと出来ていて、それを審査員の先生の前で出せればいいわけ
 です。
 簡単なことでは有りませんか。取り立ててどうという事でもないのです。問題な
 のは、その普段の稽古がきちんと出来ているかどうか、ですね。
 さっきも言いましたが、普段の稽古で出来ているはずのモノが、審査用の剣道と
 は別物というのが、最大の問題なんですね。
 結局、頭の切り替えが重要かもしれない。
 言い方は悪いかもしれないけど、要するに、格好良い技を出せればいいんですよ。
 それで綺麗な1本を決められれば合格。初段は私のものです。わはは。
 そんなこんなで、しばらくの間は格好の良い(見栄えの良い、と言ったら怒られ
 るんだろうな〜やっぱり……)稽古に専念してみました。
 それと、日本剣道形の稽古。考えてみれば、この剣道形も格好の良い形が打てれ
 ば合格なわけですね。
 軽く聞こえるかも知れないけど、格好良く見えるというのはとても大切なことで
 はないでしょうか。格好良ければ姿勢も決まっているという事だし、剣も正しい
 という事だし、手も足も正しく決まっているという事なんだよな。
 試行錯誤の結果、私の出した結論はコレでした。
 「格好良ければ審査は受かる!」
 そんな稽古を続けながら、先生や皆さんからいろいろアドバイスをもらいました。
 打たれてもいいから思い切った技を出すこと。
 1本決めればいいから、絶対に中途半端な技は出さないこと。
 寒いから上に着るものを忘れないこと。
 先ずはでかい気合いを出して、真っ先に一発ガツんとかませてやれ。
 絶対に下がらない事。逆に前に出て相手の竹刀を殺してしまえ。
 常に先の気で、相手が動いたらそれに技を合わせること。そうすれば悪くても相
 討ちになる。
 もし女性と当たったら、力任せの剣道をしないこと。さばいて打つようなメリハ
 リのある剣道をすること。
 細かなところでは、面紐の長さを揃えること。袴の長さにも気をつける。長すぎ
 ると踏むし、短いとツルツルテンでみっともない。
 ゆとりを持って武道館に着くこと。忘れ物には気をつけること。1級を取った場
 所と日にちを確認しておくこと……などでした。
 あとは〜、学科なんですが、剣連によって違うみたいなんですが、長野県の場合
 は決まっている出題が有りまして、その中から何問か出され、それに回答すると
 いうスタイルを取っています。
 決まっている問題はF君のお父さんのF先生からコピーを頂きまして、それを元
 に本などを見ながら回答をあれこれ模索。一応は自分なりの模範回答を用意して、
 ヒーヒー言いながら暗記しました。
 折角実技や形が合格しても、最後の学科で落ちたりしたら泣くに泣けないですか
 らね〜。
 これで一応は準備が出来ました。あとは本番を待つだけです。
 私の通っている所からは、受けるのは私一人でした。他の高校生や中学生はみん
 な秋に受けてしまっていたんですね。だから、当日は会長先生だけが様子を見に
 くるということでした。これは正直な話、ちょっと心細かったんだけど子供でも
 あるまいし、ってことで一つ。

 そうこうするうちに3月の後半、当日がやってまいりました。
 細かいことはよく覚えていませんが、始まる時間が結構早いんですよ。受け付け
 が確か〜、朝の8時半からだったか? 早めに行くとなれば8時前には着いてい
 なければいけませんね。9時とか10時頃からでもいいのにと思ったのですが、
 行ってみてなぜか分かりました。
 審査を受ける人数が思ったよりずっと多いんです。
 私が会場の××武道館に着くと、すでに駐車場は車でかなり混雑していました。
 防具を担いだ人達がぞろぞろと歩いているんです。この連中みんな審査を受ける
 のか? ちょっとびっくり。
 武道館は木の床の剣道場が学校の小体育館くらいの広さで、その隣が畳み敷きの
 柔道場になっています。柔道場が控え室で、みんな稽古着に着替えたり、軽く柔
 軟体操をしていて、独特な雰囲気でした。
 私は私の剣道をやるだけだけど、本当はあんたの事も少しは気になるんだよね。
 でも、気にしてないふうを装って知らんぷりしてるんだもんね〜〜〜〜〜、って
 な感じがそこここに漂っている。
 仲間と一緒に来ている連中は、一見和気靄々ふうなんだけど、気楽に受けるだけ
 受けてみるんだボクは、ってぇヤツもいれば、ボクだけ落ちたらやだな〜ってな
 雰囲気のヤツもいる。
 誰がいま現在何段で、今日何段を受けるのか分からないからちょっと妙な気分。
 いいオジさんや(私のことか?)オバさんもいれば、条件をやっとこさクリアし
 た中学生もいるわけです。
 元気のいいのはやはり高校生。集団で学校のネーム入りのジャージなんかを着て
 ワイワイと楽しそうです。
 女子高生や女子中学生もけっこういました。中には可愛い娘さんもいて、白い袴
 姿が実に良かったです。
 私は30分くらい早めに着いたので、受け付けを済ませながらふと見ると、剣道
 場で1級の審査が始まっていました。
 前にも書きましたが、初段を取るその日の朝に1級を取って、続けて初段を受け
 てもいいんですよ。
 10人くらいが並んで、級審査を受けていました。
 考えてみれば、この段階では彼らはまだ1級以下なんですね。でも、もし私が初
 段に落ちて彼らが受かれば、その段階で私は1級で彼らは初段になるのか? な
 んか妙? まあいいか。
 ともあれ、私が秋のうちに1級を取っておいたのは正解でした。少しだけど余裕
 が有り、リラックス出来ましたから。1級の審査から続けて受けるというのは慌
 ただしいかもしれません。
 私のところの会長先生は見当らなかったけど、F先生が見えられていて、
 「受け付けはもう済ませた? 落ち着いてやりなさい」と声を掛けてくれたので
 少しほっとしました。
 他に知り合いは一人も見当らなかったので、肩に力が入っていたんだけど、声を
 掛けていただいてだいぶ抜けたかもしれません。
 1級の審査が終わるといよいよ段の審査に移ります。
 上の段から順番に受け付けで垂れにチョークで番号を書かれ、奇数と偶数に別れ
 て座ります。同じ段を受ける人は年令の高い順です。
 私は確か37番でしたか、初段を受ける一般の最後で、高校生の前くらいでした。
 片側に10人ずつが奇数と偶数で一組になり、5列有りましたから……、全部で
 20人×5で100人くらいですか。あれ? 150人くらいいたはずだから、
 5列じゃなくて7列だっけ? ちょっと記憶が……。
 上は四段を受ける人から下は初段を受ける人まで、一般が二列弱で残りが高校生
 と中学生の半々くらいでしょうか。
 審査は先ず基本中の基本である「切り返し」から始まります。
 正面に机と椅子が並べられ、七段以上の先生方が7人ほど座っていて、審査を受
 ける我々は下座の半分くらいから並んで正座して待ちます。私の所の先生には残
 念ながら七段以上の方はいないので、審査員には入れません。
 その前で一組ずつ呼ばれ、「切り返し」をやります。
 切り返しは漫画の「龍」でお馴染みの、正面打ちから左右面の連続を出ながら打
 ち、下がりながら打つという基本中の基本で、内藤高治も奨励したものです。
 もちろん段審査でも、重要な項目とされています。
 周りの中学生の話などを聞いていると、この切り返しだけで落とされる事もある
 ようで、「今度こそ切り返しだけでも通過したいよな〜」なんて会話が聞こえた
 りしていました。
 全国のどこの道場でも必ず行なわれているものですが、場所によっても指導者に
 よっても多少の違いはあるみたいです。
 よそのそれを見たことがないので分かりませんが、長野県で行なわれている切り
 返しは、「とにかく大きく振り上げて大きく打つ」というのが特徴だそうです。
 面を付けたままで大きく振り上げるというのは大変なんですが、いつも先生から
 「大きく出来ればそれだけで切り返しの大部分はクリア出来ます」、と言われて
 いました。
 「場所によっては、ほとんど振り上げないような切り返しをしている所もある」
 んだそうです。
 実際、四段を受けた方でも「振りかぶりが小さいな〜」と注意される場面が何度
 か有りました。基本では大きく振りかぶることになっていても、普段の稽古の中
 でついつい楽な方に行ってしまうんでしょうね〜。
 巧い人は4往復くらいで終わり、いまいちの人は7往復とか10往復くらいさせ
 られます。10往復というと、かなりのきつさですよ。
 1列が終わると、その列の人達が一斉に立ち上がって一番後につきます。
 私は2列目の後の方でした。順番が近付いてくると各自で面を着け始めます。
 本当なら自分の番の前に少し身体をほぐしたいところですが、それはいけない事
 なので我慢です。(よく分からないけど、いつどんな場合でもすぐに立ち上がっ
 て動けなくてはいけないとか、みんながみんな勝手に準備運動を始めたら収拾が
 つかなくなる、というような事らしいです)
 私は面を着けるのが下手なので、少し早めに、隣の人が着け始めたら続いてすぐ
 に着け始めました。やはり緊張しますね。
 次の次が私の番、くらいが一番緊張しました。立とうと思ったら足が痺れていて
 焦ったし……くく。
 仕方ないので順番を待つような振りをしてさり気なく列の脇に出て、軽く足を伸
 ばしました。
 そしていよいよ私の番。
 相手は私と同じくらいの歳と思われる女性の方でした。私が37番で相手が38
 番だから、私よりいくつかは若いのかな? 背の高い人で私よりも大柄。
 奇数からだから私がまず切り返しをやります。もちろん、まったく稽古したこと
 のない相手なので呼吸がまったく合いませんでした。タイミングが全然違うんで
 すよね〜。
 大きく正面打ちから体当たりをして、出ながら左右面を4本、下がりながら5本
 打つんだけど、出る方が自然と歩幅が大きくなるので打ち終わったときに最初の
 位置よりもだいぶ前になってしまうんですね。だから、普段の稽古では受ける方
 が歩幅を調整し、出るときは小さく下がってやり、下がるときに大きく出て調整
 してやるんです。しかし、私の相手の方はその調整をしてくれないのでかなり前
 で終わってしまうんです。困ったな〜と思っていたら、やはり注意されました。
 ともあれ、5往復ほどして交替です。
 私はいつものように小さく下がり、大きく出て元の位置まで返らせたんですけど、
 一つムっとする事がありました。
 正面打ちからの体当たりで、拳でこちらの面を突き上げてくるんですよ。これに
 は参りました。両手でモロに面金を突き上げられるものだから、面がズレるんで
 す。
 これは〜、いつもの稽古でそういう事をしているのか、大柄な女性なので偶然私
 の面を突き上げるような形になるのか、分からないけどちょっとな〜。もしかし
 たら、普段背の高い男の人と稽古する機会が多いのかもしれません。当たり負け
 しないように自然と拳を突き出す格好になるのかもしれない。
 私の教わっている体当たりは、左手は臍の高さで右手は胸の高さ。竹刀は中心を
 取って自然に右に傾け、拳は身体に引き付けて腰でぶつかるような感じで当たり
 ます。その後の鍔競り合いは右の拳と相手の右の拳が当たり、鍔と鍔が競り合う
 ような形が理想的。
 それが、相手は空手の諸手突きのように腕を伸ばして私の面を突いてくるものだ
 から、まったく気が合わないんですね。ちょっとカッとしてしまいました。
 わざとあんな体当たりをしているんじゃないだろうな……とカリカリしたんだけ
 ど、特に注意もなく終了。
 おいおい、あんな体当たりでいいのか? とか思ったんですけど、先生方が何も
 言わないので仕方ないか、というところです。
 私達だけでなく、たかが切り返しされど切り返しとはよく言ったもので(?)、
 各人の切り返しはそれはもう様々でした。私の目から見てもまったく形が出来て
 いない人、やたら早いけど手がまったく上がっていない人、まるでスローモーショ
 ンのようにぎこちない人、へっぴり腰で手打ちになっている人などなど……。
 特に中学生を見ていると、出来不出来がはっきり分かります。巧い子はやたら巧
 いけど、下手な子はすごく下手。普段の稽古が分からないから何ともいえないん
 だけど、子供の場合は器用とか不器用がそのまま出るのでしょうか。
 これもよく聞かれる事なのですが、器用な子は大して稽古をしなくても上手に出
 来、不器用な子は普段一生懸命稽古していてもなかなか結果が出せないんですよ。
 早い話が、初段を受けられるのは中学の2年生からですが、小さい頃から一生懸
 命稽古している子が落ちて、中学になってから始めた器用な子が受かってしまう
 という事もあるわけです。難しい問題ですね。
 全員が終わるとそこで一応の解散になります。別室で採点となるのかな? 話に
 よると中学生などはこの段階で結構落とされるらしいから、そわそわしていたり
 する。
 ここで居合の審査が挟まりました。
 居合についてはまったく分からないので、見ているだけでしたけど、正面の席に
 先生が二人並び、その前で二人が同時に演舞(でいいのか?)します。
 その先生の一人が、なんとF先生だったからびっくりしました。
 F先生って居合四段じゃなかったのか? 四段の先生が審査するのか? う〜む。
 並んだ二人がまったく同じ形(でいいのか?)を打ちます。持っているあの刀は
 真剣か? 居合用の模擬刀か? 私ももう少し剣道が上達したら、F先生にお願
 いして居合を始めてみようかな、などと思いながら眺めていたら、私のところの
 会長先生がいらしてくれました。
 「どうです、切り返しはうまく出来ましたか?」と聞かれました。
 拳で面金を突かれたのは言いませんでしたけど、
 「腕がいまいち上がりませんでした」と答えると、
 「何往復させられました?」と聞かれたので「5往復くらいです」と言うと、
 「それなら合格でしょう。落とされる人は7回も8回も往復させられます」との
 事でした。
 私が「F先生、居合の審査をなさるんですね」と言うと、
 「ああ、F先生は居合七段ですからね。居合の審査は確か七段以上の先生が二人
 以上でしたか」とのことでした。
 F先生、七段になられていたんだ〜。凄いな〜。
 そうこうしているうちにトントンと審査も終わったようでした。
 しばらくして集合が掛かり、切り返しの合格発表が有りました。
 「何人か腕の上がりの悪い人がいましたが、今回はその点に気をつけるという事
 を条件に全員合格という事にします」
 その瞬間、周りで歓声が上がったのでどうしたんだろうと思って見回すと、窓際
 に陣取っている父兄さん達(母親が多かったですね)でした。
 合格した人は小休止の次に実技です。
 休んでいる間あちこちで、
 「やったやった、この前は切り返しで落ちたけど今度は実技までいける」などと
 いう声が聞こえました。
 「今度は頑張ってよっ」という母親の声も聞かれます。
 確かに、私の目から見てもあれではダメだと思うような子もいたから、喜ぶのも
 分かるといえば分かります。とはいえ、私も受かったので嬉しかったです。
 さて、次はいよいよ実技です。互角稽古ですが、やはりこれが一番の難関と言え
 るでしょう。
 切り返しで全員が合格しているから、同じ相手とやるわけです。となると私の相
 手は……さっきの女性か? なんか嫌な予感……。
 切り返しと同じに並び、四段を受ける人から始まりました。
 考えてみれば私は、いつも稽古を付けてもらっている先生方以外の立合を実際に
 見るのは初めてだったせいか、物珍しさも有ってか、さすがに四段を受ける人は
 一味違うな〜などと感心しながら見ていました。
 そして三段を受ける人。一般の中に女性が何人かいました。それから、大学生が
 いましたね。女性の大学生もいました。
 大柄な男の大学生と小柄な女性の大学生同士の立合は、なかなかに興味深かった
 です。
 手数と当たりでは圧倒的に男の方が押し気味。しかしやりにくそうな感じという
 か、ぎこちなさはあるようでした。彼は普段男同士でガンガンやっていると思う
 のですが、女性相手でいまいち打ち切れていないように見えたのは私の気のせい
 か? 対して女性の方は、押されてはいるけれど時折タイミングの良い応じ技を
 出し、なかなかいい感じでした。
 判官贔屓というわけでもないけれど、男の方の剣道が何だか力任せにゴリゴリと
 押しているだけみたいに見えてしまうんですよね。女性相手だと逆にやりにくい
 というのはこの事なんだな、と実感。それが、もうすぐ我が身か?
 やだな〜……。ちょっと嫌な予感がしたんですよね〜。
 上の方の段位の立ち合いが次々に終わり、二段を受ける辺りから高校生が目立ち
 ました。高校生はやはり元気がいいというか、見るからに筋力に頼ったスピード
 のある剣道をしますね。踏み込みも打ちも早いし伸びる。ああいった剣道は私の
 ような体力が下る一方の人にはとても無理でしょう。ただ、荒い気はしました。
 お互いに真っ向からパコーン、ガキーン、てな感じでぶつかり合っているような
 剣道です。
 そして、これまた私が言うのは生意気なんだけど、ほ〜あの程度で初段なんだ、
 と思うような人もいました。元気がいいだけの立ち合いというか、めりはりがな
 い剣道というか。
 そしていよいよ、我々初段を受ける連中の番になりました。
 私の緊張感は、この日この辺りが頂点というか、ドキドキがバックンバッンとい
 うか、嫌だな〜と思う気持ちとか帰りたいという気持ちが最高潮に達していたの
 です。
 で、前に書いたように私は自慢じゃないけど面を着けるのが苦手でして、特に紐
 を縛るのが下手くそなんで人の倍くらい掛かるんですよ。そこで、慌てなくても
 いいように少し工夫をすることにしました。前の前の人が着け始めたら前の人は
 無視して着け始める事にしたんです。すると急かされるように前の人も着け始め
 たのでせっせと並んで着けましたとさ。
 早めに面を着けてしまうと落ち着いていいですね。あとは待つだけ。と思ったら、
 ここでとんでもない事に気付きました。なんと私ったら腕時計をしていたのです。
 こいつは参ったな〜。あはは、どうしよう……。我ながら呆れましたね。太陽電
 池の薄いデジタルだから、切り返しの後ではめたのをすっかり忘れてた……。
 これで心が結構乱れたかもしれない。情けない……。せっかく落ち着き始めたの
 がまたバッンバックンです。
 どうしようかあれこれ思案して、しょうがないから私の番になる前にさり気なく
 立って、それこそさり気なく時計を窓の縁に置いたのでした。これでよし。で、
 あ、もう私の番ではないか。
 てな具合で、実に慌ただしい実技の始まりになったのです。
 相手と向かい合い、礼をして、大きく三歩踏み出して抜刀しながら開始線で蹲踞
 します。相手は例の女性。
 武道館の床はすべすべしていて、なかなかいい感じでした。いい床だなと思いな
 がら、いいぞ、オレって落ち着いているかも、と思いました。
 立ち合いは、切り返しと同じようにまったく気持ちが合わない、ぎくしゃくした
 ものでした。相手とのテンポがまったく合わないんです。
 もともと私も大した事は出来ないから、剣先で中心を取り、機をみて打って出る
 んだけど、相手の人の反応は計ったように同じでした。私の出端に必ず面を合わ
 せてくるんですね。そして切り返しの時のように両手の拳でこちらの面金を突い
 てくる。癖なのか? 作戦なのか?
 何度か様子をみながら面に伸びてみたのですが、相手の反応はまったく同じモノ
 でした。何だかやる気がなくなるというか、あんたはいつもこんな稽古をしてい
 るのか?
 こちらの面が決まっても、決まらなくても、バカの一つ覚え(と言ったら言い過
 ぎか?)に面を合わせてきて、条件反射のように両手で私の面金を……突いてく
 るんじゃねえぞっ。相撲やってるんじゃないんだから……。
 大体だな、拳で面金を突き上げてくるなんて失礼ですよね、まったく。
 出ると合わされるので、作戦を変える事にしました。ちょっと待ってみるか。
 とはいえ、私は応じ技は得意ではありません。せいぜいが出端に面を合わせるく
 らいの事しか出来ない。で、逆に出端面を狙ってやることにしました。
 私が待ちに切り替えると、しばらく睨み合いになりました。相手は自分から出て
 こない。
 このとき、何というか、時間が止まったような不思議な感覚に陥りました。
 静かな武道館の中で私と相手か向かい合っていて、ひんやりした床の感触が心地
 よく、木の床にはやはり素足だな、などと思ったのを覚えています。
 そうか、こんなに静かなのは、みんながじっと見ているからなんだ〜、と感心し
 たとたんに相手が面に伸びてきたので私も面を合わせたのですが、ボーっとして
 た分だけ反応が遅れて綺麗に決められてしまいました。
 う〜ん、今のはやられたな〜……。集中力が切れた瞬間に一本取られてしまいま
 した。悔しい……。
 待っていると分が悪い。次はどうするか……。出ると面を合わされて両手で面金
 を突かれるのは見え見え。
 どうしてくれよう……、で、苦肉の策でというかモノは試しというか、右足で大
 きく床を踏んでみました。ドンという音がして、それと同時に相手の手元がふっ
 と上がったので、面ではなく小手に切り込んでみたらこれがいい感じに決まった
 んだけど、残心を取ろうとした瞬間にまたしても両手で面金を突かれて……。
 綺麗に打たれたんだからそういうセコいまねをするなよ……と思ったものです。
 残心というのは文字通り心を残すというか、思い切り良く打ち切って、それでも
 気を抜く事無く油断なく相手に向かって構える、というような事ですが、綺麗に
 打ち込めた相手に体当たりまがいの諸手拳骨突きで構えを崩されるというのは、
 残心を取りきれない私の未熟さゆえか?
 打ち終わった後で体当たりをされないように、身体を左にさばいて残心を取れば
 良かったかな、とか思いながら次はどうすればいいものか、と思案していたら、
 ここで止めが掛かって私の実技審査は終了しました。
 自己採点では、綺麗な一本は私の面が一本に小手が一本、相手の面が一本だと思
 います。ただ、私のはいずれも打ち終わった後に下手くそな体当たりをされて、
 残心が取り切れていないのが気になります。逆に言えば、もしあの体当たりをわ
 ざとやっているのだとすれば大したものかもしれませんね。
 私の後は高校生、中学生と続きます。高校生はともかく、やはり中学生は見劣り
 しますね。元気のいい子は見ていても気持ちいいけど、元気のない子はまったく
 見所がない。よくあれで初段を受けるな〜と思うくらいでした。もっとも、私の
 立ち合いを見てそう思った人もいたかもしれませんが……。
 ともあれ、後半の中学生の実技を見て、中学生が段を取るのは難しいというのが
 分かる気がしました。巧いと思える子が半分もいないんですよね。でも、もしこ
 の子達と試合でもやったらこっちが負けるかも知れません。元気のいい子には確
 実に負けるだろうな、でも剣道はそんな勝ち負けじゃなくて大切なのは……とか
 あれこれ考えているうちに実技も終了しました。
 実技が終わったら急に寒くなってきたのを覚えています。3月だから寒いのは寒
 いんだけど、やはりそれまで緊張していたんでしょうか、あまり感じなかったみ
 たいです。
 会長先生に「どうでした、思うように出来ましたか?」と聞かれたのですが、い
 い返事は出来ませんでした。
 なぜ思うように出来なかったのか考えたのですが、あの相手の諸手突き、あれで
 すね。あれにすっかりペースを乱されてしまったのが敗因でしょう。体当たりで
 両手で面金を突いてくる相手なんて初めてだったから、すっかりやられてしまっ
 たようです。本当は反則なんだぞ、あれって。
 もう8ヵ月も立ったけど、いま考えても悔しくて悔しくて、悔しいよ〜。
 発表までの間もけっこう緊張しました。自分で思うように出来なかったのですか
 ら、いい点数が付くわけはない。ひょっとしたら落ちるかな? なんてちらっと
 思ったのが本音です。
 発表はやはり同じように並んで待ちました。審査員の先生が淡々と合格の番号を
 読み上げます。上の方の段を受けた人はポツポツと番号が飛びました。何人かは
 落ちたようです。初段は、私は受かっていました。私のすぐ後の女子の高校生が
 落ちたようです。その後も高校生はポツポツと番号が飛び、中学生になったらか
 なり番号が飛んでいたので受かったのが半分以下かも知れません。
 落ちた人はそのあと一斉に立って残念そうに退場していきました。なんか可哀相
 ですね。振り向いて見ると、やはり中学生はかなり人数が減っていました。半減
 てとこでしょうか。中学生だけで2列くらいあったのに、1列になっていたもの
 な〜。
 受かった人はここで昼休みです。のこる審査は日本剣道形と筆記試験。こうして
 みると長いですね。まだ半分か〜……。
 特に場所は用意されていないので、車の中でご飯を食べました。天気が良かった
 のでぽかぽかとして、もう私は受かった気分でいたものです。
 会長先生がいらして、「用事があるのでこれで帰りますが、頑張ってください」
 と言って帰っていかれました。F先生がいるからまだ心強いですけど、ちょっと
 心細いかもしれない私。まあいいか。残り半分だし。

 しっかり休んでいよいよ午後の分ですが、小便がしたくなってトイレに行きまし
 た。
 トイレに行くと、先客が用を足していたのですけど、その後ろ姿をみて思わず絶
 句というか、凍り付いてしまったものです。
 どんな様子かといいますと、袴の片方をすっかりまくり上げ、足をケツの辺りま
 で剥出しにして、まくり上げた袴を抱えるようにして小便をしているのです。そ
 の姿ときたら、絵にも描けない情けなさ……。皆様にもお見せしたいくらいの、
 何とも言えない情けなさすぎる格好なんですね。
 考えてみれば、それまで袴を履いたまま小便をした事はなかったですね。やって
 みると、それはそれは大変なことだというのに気付きました。
 袴を思い切りまくり上げないとポコチンが取り出せないんですよ。参ったな〜。
 でもどうにもならないので、私もそうしました。右側の袴をズリズリっとまくり
 上げ(左側でもいいんだけど……)、小便が掛からないように気をつけてするの
 ですが、着けたままの垂れとまくり上げて抱えた袴がやたらとかさばるものだか
 ら、それが邪魔で己れのポコチンが良く見えないという最悪の状態。
 ほとんど手探りで狙いを付け、いたしました。致し終わってポコチンを仕舞い、
 袴をなおす。雫が掛かっていないかチェックしたらば、ちょっと掛かってしまっ
 ていました。汚ねぇな〜もう。でも、掛かった場所が袴の内側だし、ちょっとだ
 けだからいいとしましょう。
 午後はまず日本剣道形の審査です。ほとんどの人は仲間と一緒にきているので、
 適当に打ち太刀と仕太刀に別れて練習していました。
 仲間のいない人は、一人で何となく練習しています。
 私も木刀を取って、少し動いてみたり、人の形を見てイメージトレーニングなん
 かをしてみたりしました。
 F先生がいらしたのでしばし雑談。
 「先生、居合の審査をなさったんですね」
 「ああ、さっきの審査ね」
 「凄いですね、居合七段なんですか」
 「いや〜、大したことないよ」
 って、居合七段が大したことないはずがないぞ〜。謙虚に大したことないという
 のがやたら格好いいじゃないか。
 「どうだい、カメ山さんも居合をやってみないか」と誘われたのですが、自分で
 はまだ剣道がまったくモノになっていないので、
 「もう少し剣道が上達したら、その時にお願いします」とお願いしておきました。
 「そうだね、剣道はまだ余裕がないかい?」
 「ええ、まだまったく余裕なんてないですね」
 「そうかそうか、そうだね」
 などと話しているうちに形の審査が始まりました。
 実技で結構落ちたから、人数が減っていました。30人の4列くらいだったでしょ
 うか。25人の4列くらいかも知れません。(150人が100人くらいになっ
 ていたような覚えがあるのですが、さて〜……)
 二列ずつ木刀を持って向かい合わせに立ちます。上の方の人も何人か落ちていた
 ので、私の相手は例の女性ではなく、もう少し小柄な女性に変わっていました。
 やはり上の方の人から一組みずつ順番に打つのですが、本来なら私は打ち太刀の
 はずが順番がズレたお陰で仕太刀になりました。これは有り難かったです。どち
 らも打てなくてはいけないのですが、どちらかというと相手の動きに合わせて動
 く仕太刀の方がよく練習しているから楽かもしれない。
 形は、これまた私の教わっている先生方の形以外を見るのは初めてでした。見慣
 れないせいか、なんか違うんですね。各自が勝手に打っているとは思えないから、
 教えてもらっている先生の形に対する解釈の違いというか、理合いに関する解釈
 の差が有るのでしょう。同じ形を打っているのに、動きがまったく違う人がいる
 んです。面白いものですね。
 同じ道場から来ているらしい人とか、同じ学校の人は同じような動きをしていま
 した。当たり前ですが。
 それにしても、私の目から見てもヘタな人はいるんですよ。ろくに練習していな
 いような、実に適当な形を打つ人ってのが。そんな、だれが見てもヘタな人はや
 はり審査員の先生に注意されて、打ち直しとかをさせられていました。
 打ち太刀が小手に切り込んでくるのを下に抜いて小手に切り返すなんて動きを、
 ちゃんと抜きもせずに振りかぶったら小手を切られてしまいますよね。相手が木
 刀を止めてくれるから打たれないで済むんだけど、そんな形はやはり注意されて
 当たり前でしょう。
 呆れるほど下手な人は三回くらい打ち直しをさせられてましたけど、あれで受かっ
 たのか落ちたのか?
 みんなが見ている前で、審査員の先生に形の理合いを一から教えられるというの
 も、考えてみればずいぶんと情けない状況ではありますね。
 私の相手は、私より少し年上くらいのオバさんでした。小柄なのもあるけど、間
 合いとかテンポが合っていたので打ちやすかったです。
 やたらと早い人とか、テンポがまったく違う人もいたので、合わなかったら嫌だ
 なと思っていたのですが、いつも私が教わっている形と良く似ていて、いつもの
 ように打てて一回で終わりました。
 中には、見るからにまったく違うタイプの形を打つ同士もいて、打ち太刀が打ち
 切っていないのに仕太刀が抜いて切り返したりして、メチャクチャな人もおりま
 した。あんなのはついてないといえるでしょう。私はついていたかもしれない。
 その後小休止で合格者発表。ここで落ちた人はいたのかな? 未確認ですけど私
 は無事に合格。
 いよいよ残るは学科です。気持ち的には、実技が受かればまあ合格かな、ってぇ
 ところなんですが、気を抜いて落ちては何にもならないですよね。
 学科は前に書いたように場所によって様々ですが、長野県の場合はプリント二枚
 くらいの問題があって、当日その中から任意で何問か出題されるという方式です。
 問題は何年かは知らないけれど、しばらくは同じ問題から出題されているという
 ことで、事前にF先生から頂いていました。それを元に、雑誌とか本とかを読ん
 で研究し、私なりの回答を書いてみて何日も何日も模範回答を練り込んでみまし
 た。どの問題が出されるかは当日の先生方の気分次第?
 参考までに、どんな問題かちょっと書いてみますか?
 「剣道修業の目的を書きなさい」これはどう書いても正解みたいです。
 「構えをあげなさい」これは中段とか上段の構えとか、八相とか脇構えとかです。
 「打突の機会をあげよ」これは、出端とか、居着いたところとかです。
 「残心についてのべよ」これはさっき書いたとおりですね。
 「仕太刀の注意点」これは、間合いとか機をみて動くとか先の気で行なうとかで
 す。
 あとは〜、切り返しの注意点とか、中段の構えの注意点とか、その他諸々です。
 こんな感じの問題から、当日出されたのは「剣道修業の目的」と「打突の機会」
 と「構え」の三問でした。
 何日も掛けて回答を用意していたから、まあまあの答えが書けたと思います。
 書くだけ書いたら、これでやっと全ての審査が終わりました。
 隣の柔道場で和んでいると、F先生がやってきて、
 「みんなもう私服に着替えていいから、着替えたら集合しなさい」とのこと。
 で、私のところにやってきて、「学科はどうでしたカメ山さん」と声をかけてく
 れて、またまたホっとしまくりました。
 審査が終わったのでみんなリラックスしていて、それぞれに談笑しながら道着や
 防具を片着けています。私も片着けて、着替え、いよいよ最終の合格発表です。
 私は問題なく合格でした。おめでとう。ありがとう。
 疲れがどっと出たような気がしました。それに寒いんですよね。
 入会金と登録料を払い(合わせて1万とちょいくらいだったか?)、終了です。
 剣道形のときの相手の女性がいたので「どうもありがとうございました。間合い
 が合っていてとても打ちやすかったです」とお礼を言うと、
 「こちらこそ、とても打ちやすくてよかったです」とのこと。
 それから、F先生を探してお礼をいいました。
 時刻はもう夕方の4時近くにはなっていたか……。けっこうな長丁場でした。
 こんな一日が終わって、私も無事に剣道の初段となったのです。
 剣道の場合は柔道や空手とちがい、段を取ったからといって帯の色が黒くなるよ
 うな事はないから、見た目はそれまでとまったく違いません。気持ちの問題だけ
 のような気もします。これからの修業次第でしょうか。
 いま現在でまだ始めて1年と10ヵ月? 本当にまだ始めたばかりですね。
 いつまで続くか、どこまでやれるのか、が問題なんだろうな〜。

 さてさて、長々と書いてきた40男の剣道入門話しもひとまずこれで終わりとし
 ます。
 もう少し上達し、居合でも始めることがあったら、またその時には書いてみるか
 もしれません。50男の居合入門講座とか?
                                カメ山カメ吉
 

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