《イヴからカウントダウンまで》─オフどきのニューヨーク

                                       Written by 山羊

 昨年末、ニューヨークへ旅行する機会を得ました。ハワイへは2度ほど行
 ったことがあるのですが、米本土への旅行は初めての経験だったので好
 奇心満々。それは、まさに「新大陸発見」とでもいうべき、わが人生におけ
 る一大事件ではありました。

 一昔前のエコノミック・アニマルよろしく、4MBのフラッシュカード2枚を持
 った130万画素のデジタルカメラを肩からぶら下げ(笑)、いや、フトコロ
 にしのばせ、主としてそれから得られる画像を収納する目的でパソコンも
 携行しました。あわよくば祖国のニュースなどもリアルタイムで読めたらと
 いう一縷の望みもあったことはあったのですが……。

 ところが、さすがは情報天国。ぼくが加入しているプロバイダーのニューヨ
 ークにおけるアクセスポイントにはなんなくコネクトできました。かててくわえ
 て、日本にいるときと何ら遜色のない、快適な通信を楽しむことができまし
 た。35字×80行以上のMSGも瞬時に送信できましたし、メーリングリスト
 もまことにスムーズに受信できました。

 以下は初手からのそのときの様子と人工楽園MLへの投稿の「生(なま)」
 のものを公開します。稚拙なニューヨーク・リポートです。

****************************************************************
 

(その1)『うまく送れるかな』【現地発:12月25日】
       
 きのう(昨夕、現地時間24日午後5時過ぎ)ニューヨークに着き
 ました。写真を収納する目的で、パソコンを担いできたのですが、
 さきほどrakuenメールをどうにか読むことに成功しましたので、
 おそるおそる、今度は書き込みを試してみます。         
                               
 じつは、今年の正月にハワイからそれを試して、大失態を演じた
 ことがあります。(笑)こんどはインタネですので、なんとかなりそう
  な気もするんですが……。            
                                
 いま、こちらは25日午前2時30分くらいです。       
  それでは、送りま〜す。(笑)
 

(その2)『落ち着いたムードのイヴ』 【現地発:12月26日】

 なんとかうまくいきそうですね。
 最初はJALで、25日に成田をたって、31日の朝、こちらを後にす
 る計画だったんですが、それじゃ肝心の頭も尻尾もないじゃんとい
 うぼくのクレームを、企画した娘が受け入れてくれて、あちこちあたっ
 たらしいです。で、ほぼ同額の料金で24日発、1月1日帰りの便が
 めっかったってわけなんです。コンチネンタル航空ですよ。なんでも、
 ニューヨーク直行便のラインに初参加ということで、割引料金実施中
 ということのようです。

 東京駅で成田エキスプレスを待つ間、前の席に掛けた若い女性が週
 刊誌らしいものを開いてたんですけど「米国が負うテロの脅威」という
 活字が目に入り、気が重くなりました。イラクの報復ということなんでし
 ょう。
 
 ところが、成田発24日18時25分(日本時間)のボーイング777は、
 ぎっしり満席の状態。8:2くらいの割で邦人多数。新鋭機らしくエコノ
 ミークラスでも個々のシートの前(前席の背中部分)には10インチの
 液晶テレビがはめこんであって、ビデオ、ゲーム、オーディオなど選択
 自由、もちろんイヤホーン付き。それにエアーショウとか銘打ってフラ
 イトの様子が時々刻々読み取れるようになってました。
 乗務員も日本人はほとんどいなくて、アナウンスも英語のあとに、たど
 たどしい日本語が流されるという、メード・インU.S.Aの、開店早早っ
 て感じが強くしました。航空業界のビッグバンってとこなんですかね。
 機内食も日本人むけのメニューもありまして、まあまあ。しかし、こちら
 はダイエット中。(笑)
 
 そうそう、到着した空港はNEWARK(ニューアーク)ってんですよ。成田
 でもボードを見ながら訝ってたんですけど。紛らわしい。ホテルまでタクシ
 ーで30分、40$でした。現地に午後5時過ぎに着いて、タクシー拾った
 のが6時近く。今朝方まで雪が降ってたらしく、道端に止まってる車のサ
 イドドアーのガラス一面に、雪が融けずにそまんまくっついてます。緯度
 が札幌と同じくらいだとかいいますから、さすがに寒い。
 ホテルは5番街に近く「シェラトン・ニューヨーク」の46階。ホテルの軽い
 夕食をとって、さっそくイヴのニューヨークへと繰り出しました。しかし、や
 はり歴史と伝統に裏打ちされたキリスト教王国。喧騒さは微塵も感じられ
 ません。それとは引き換えに、すれ違う日本人のグループが発する嬌声
 に違和感を与えられました。
 このホテルでも何組もの日本人を見かけます。いまや、ツアーの団体さん
 などは数少ないみたいですね。
 ロックフェラー・センター前のスケート場にはとてもしっくりしたデザインの
 大きなツリー。蔦の幹を白くぬった素材で形作られたエンジェルは見事で
 した。デジカメで収めましたが、このMSGと一緒にお送りしたい思いがい
 たします。
 もう朝で、明日は「オペラ座の怪人」を見に行く予定です。
 

(その3)『とにかく寒いんです』【現地発:12月27日】

 日夜を問わず、気温は−2℃から−4℃までの間にあります。さきおとと
 いの雪がいまだに道路のわきに、消雪剤とともにそのまま残っているん
 ですから辟易します。

 マンホールの蓋の隙間からたちのぼる水蒸気を見て、以前に見た「ワン
 ス・アポン・ナ・タイム・オブ・アメリカ」(イン・アメリカだったか)という叙
 情的な映画を思い出したりしています。(笑)

 おととい(25日)は快晴、天気晴朗なれども気温低し、といったところでし
 た。彼女らにはボケじいさん扱いされているんですよ。20$渡されてい
 て、迷子になったら(笑)タクシーを捉まえて「52th通り、7番街、シェラト
 ン・ニューヨーク」といえば、間違いなく帰って来れるからといわれていま
 す。(笑)すべてあちらまかせなので、いっこうに地図をのぞく気になれま
 せん。

 ウォーキングをかねてグランド・セントラル駅までいって、地下鉄を利用
 して「自由の女神像」を見に行こうというわけです。バッテリー公園から
 ハドソン川の向こう岸近くに像が立ってるのが見えました。そのわりに
 観光客の姿が少ないような気がしました。なんのことはない、今日はク
 リスマス、ここの観光船は年に一度の「ジス・イズ・ホリデー」なのでした。
 そういえば、朝から、あちらでもこちらでも「メリー・クリスマス」という声が
 聞かれましたが、地下鉄で背の高い黒人のおじいさんが、孫の手をひき
 ながら片方の手には大きな赤いリボンが結ばれたプレゼントらしき包み
 をさげ、降り際に車内を振り返って「メリ−・クリスマス・ピープル!」とい
 ってたっけ。

 帰りかけると、公園の、夏には豊かな木陰をつくっているであろう落葉樹
 の森も、いまはすっかり丸裸になった木々が、一面に白布をしいたような
 地面の上に寒そうに立ち並んでいて、その間をリス達が飛び回り、あるい
 は枝から枝へダイビングするなどしていました。背後にある高いビル郡の、
 屋上にユニオンジャックをはためかせながら屹立しているのなどが、透け
 て見えるのでありました。
 目的地はエンパイヤ・ステートビルに変更されました。ここは人また人。エ
 レベーターに乗るまで、廊下のU地行列をいくどもいくども繰り返し、80階
 に到達したのは、列に並び始めてからおよそ1時間。それからさらに6階
 分のエレベーターを乗り継いでようやく屋上。逆光のなか遠く眼下に、か
 の STATUE OF LIBERTY が霞んで小さく見えたのが印象的でした。人の
 波を眺めると、東洋系が半分以上はいましたね。

 お昼抜きだったので、途中「更科」という日本料理店で早い夕食をとること
 にする。お銚子2本に、狐うどん2、鍋焼き1で51$。ホテルに帰ると3人
 ともぐったり。夜8時開演のミュージカル、「The PHANTOM of the OPERA
  」鑑賞にそなえました。予約は今日だったらしい。

 JCBの海外デスクを通じて、これはなんと愚妻がオーダーしたというのに
 は驚いた。現場渡し、額面80$のチケットがプレミア付きで95$。日本の
 そのデスクから7時半まで売り場にいくように言われていたので、7時にホ
 テルをでる。

 ブロードウエイと呼ばれる44th通りの、8番街近くにあるマジェスティック
 劇場まで歩いて10分。ここもまた入場整理のための行列。1800席とい
 われるその劇場、ぎっしり満員。それでも当日券も若干はあったらしく、そ
 の切符売り場は凄い人だかりだったようだ。なんせ1年中で一番楽しいク
 リスマス休暇の最中でしたからね。

 ロンドンの初公演以来12年間にわたるロング・ランを続けているらしい。
 意表を突く舞台装置の転換は息をも継がせぬくらい。大きなシャンデリア
 の落下シーンや、劇中舞台の奈落深くにある湖上を、怪人がランプを手
 にして舟を操るシーンなど……ダイナミックで幻想的でリズミカルで、ヒロ
 インが怪人の横恋慕を包み込む「愛」を披瀝するくだりでは、観客席では
 すすり泣きしている人もいたようだ。けっこう何度も見てる人がいるみたい。
 事実、うちの女性軍も2度目なんだから。舞 台と観客が一体となる見事
 なミュージカルを、気楽にしかも感動的に堪能させてもらいました。

 きのう(26日)は、メトロポリタン美術館。物量の国アメリカがこれほど多
 角的に「芸術」を収集して整理をして、自国民だけではなく多くの観光客
 に開陳する、という懐の深さにあらためて、ぼくは感服。なにせ、ぼくにと
 っては今回の旅行は、まさに「新大陸発見」なのであります。(笑)

 この日もぐったりして、ホテルに帰って午後8時までまどろんだあと、夜食
 は中華街へとタクシーを走らせました。娘が友達から聞いたというニュー
 ヨーク一うまい蟹粉小籠包(しょうろんぽう)を食べに。さすが有名店か、
 チャイナタウンの場末だというのに、ありつくまで30分も待たされちゃい
 ました。紹興酒760mlを1本平らげました。折角のダイエットのリバウン
 ドが心配になってきました。

 いま、27日の午前6時過ぎ。どうやら今日は寒さも和らぐらしく、予報に
 よると10℃くらいまでは上がりそう。きょうこそは女神さんに会いに行こ
 うというわけです。
 

(その4)『ニューヨークを楽しんでいます』 【現地発:12月29日】

 快晴のおとといは、先日振られた腹いせってわけでもありませんでした
 が、天邪鬼ではあるぼくの発案で、ニューヨーク観光の象徴ともなって
 いる「女神像がたっている小島に上陸し、その体内に潜入する」などと
 いう不遜な行為は慎むことにして(笑)、スタッテン・アイランド(別荘など
 が建っているとか)へ通うフェリーに乗ることにしました。3階建て、車も
 積んでくれる巨大な、いわゆる「渡し」で、もちろん無料です。多くの乗
 客を乗せ、女神の前を恭しく静かに通るのでした。片道20分くらいの
 船旅です。

 セスナやヘリが女神様の顔を覗きこむように急旋回をくり返していま
 したが、もう先から視点を明らかにしていらっしゃらないかの人は、ま
 ったく意に介さないかのように優美なお姿を、けっして崩されることは
 ありませんでした。

 スタッテンにはとくに観るべきところもないようでしたので、往きの船で
 そのまま帰ってきました。船から見たマンハッタン島は、その先端の
 ウォール街に位置する摩天楼の数々ですが、ソフトブルーの空を背景
 に見事に水上に浮かんでいました。

 遅い昼食をインド料理にすることになりました。地下鉄で降りた駅は、
 前日タクシーを走らせた中華街のすぐ近くでした。なんのことはない、
 娘はカラーコピーしたグルメ誌の一葉を手にしているのです。

 入口に、午後2時までランチは(夜間の)50%OFFという小さな看板
 が置かれています。ドアを押して中に入ると、床にとどくほどの長さの
 紺色の2枚のベルベットのカーテンで四角く仕切られていました。どう
 も風除けらしいそれを除けると、すぐ奥に薄暗いうなぎの寝床風のお
 店が続いていました。低いテーブルと椅子を並べた客席が、両側の
 壁にそって並んでいました。

 ナン2(人前)とライス1(人前)といったら、1はだめなのだと結局籠に
 入れたナン4枚と銅器のお皿にもったライスが2個運ばれてきました。
 チキンとオクラと海老入りの3種のカレーと一緒に。ぼくはこれは始め
 てだったので、いっこうに箸が進みませんでした。(笑)ぼくらが入って
 からもつぎつぎと来客があって、ほぼ満席近くになったようでした。日
 本人の若いカップルもいましたっけ。

 食後、彼女らはソーホーでウィンドウショッピングをするというので、
 ぼくは一足先にホテルに帰ることにしました。娘が心配してくれまし
 たが、うまいこと地下鉄を乗り継いで、迷わずストレートに帰還しま
 した。途中五番街の角で若者たちがストリートダンスをやってたり、
 インカ風の衣装を纏ったグループがケナーのような音色を出す竹
 笛みたいなもので「コンドルは飛んでいく」に似たメローディーを演
 奏したりして雑踏の中に人だかりが出来ていました。

 ぼくがベッドのカバーの上で2時間ほどまどろんだでしょうか、母娘
 が帰ってきました。3人ともインド料理が胃にもたれて、この日の夕
 食はホテルお決まりの軽食のみですませることにしました.。

 翌28日は、定番コース、アウトレット(Woodburry Common
 Centre)へのお買い物ツアー。次の日のバスの予約をとるつもりだ
 ったのが、その日に空きがあるというので急遽、変更。

 42番通りのバスターミナルから高速バスが、となりの州ニュージャ
 ージーまで1時間あまりを突っ走り、そのセンターへ客を運んでくれ
 る。片道の料金、1名30$たらず。主として衣類と靴なんですが、
 ブランドと呼ばれる著名なメーカーがそれぞれ館(やかた)を構え、
 自社の製品を格安の値段で販売している。

 彼女らにすすめられ、ぼくも例の馬に跨ったホッケー(だっけ)の選
 手を象った登録商標でおなじみの店で、カシミヤ100%という札の
 ついたジャケットとセーターをそれぞれ99$で買っちゃいました。
 (笑)規格はずれとかキズありの品だという説もありますが、ま、よし
 とすることにいたしました。

 なにより驚いたのは、日本人客の多いことです。事実、ものすごく広
 いセンター内にある表示や場内アナウンスでは、イングリッシュの次
 ぎに日本語が書かれあるいは喋られるということです。他の2人は
 お目当ての品を探すのに熱中してたらしく、疲れ果てたぼくは、イン
 フォーメーションセンターで1時間も待たされてしまいました。出発は
 午前10時発の、帰途についたのは同センター発午後 5時06分。
 というもののたそがれて薄暗くなったバス乗り場には長い長い人の
 列。

 結局、2台も増発したようでした。ぼくらは2台目(増発の一台目)だ
 ったんですが、待ってる時の列の前には関西弁の若い女性数人の
 グループ、後ろには東京弁の3人連れ、がいましたよ。お互い意識
 してつるんだ訳でないことはもちろんです。列の中には、まだ多数の
 日本人がいたと思われます。

 娘は矢継ぎ早にいろんな企てをしてくれるんですが、その日、ジャズ
 クラブのチケットも頼んでたらしく、買い物途中で、午後5時開演の
 最終回の席ならあるというがどうする?ということだったんですが、
 ホテルからそれほど遠くないところでしたので、O.K.しときました。
 予定は未定にしてしばしば変更されることあり、を地でいってます。(笑)

 今回もまた長いことおしゃべりをいたしました。今日はこれにて失礼
 いたします。いま時計は、12月30日午前2時20分過ぎを指してい
 ます。
 

(その5)『あけましておめでとうございます』 【現地発:12月31日】

 こちらはこれからカウントダウンです。いまぼくの時計は、12月31日、
 午後5時31分をしめしています。

 この前の話から1日飛びますが、きのう(30日)はまた寒さがぶり返
 して、空は明るいのですが……ビル風ってんでしょうか……寒風吹き
 すさぶという感じの1日でした。ホテルのすぐ近くにMOMA(The M
 useum of Modern Art)がありまして、(じつは29日までは、 いわ
 ゆるクリスマス休暇で扉を閉じてたようなのですが)朝から凄い人の
 行列が出来ていました。それにつられた訳ではありませんが、JAC
 KSON  POLLOCK の回顧展(特別展)などを観てきました。

 バンク・オブ・アメリカがそのスポンサーのようでしたが、これでもかこ
 れでもかというほど、いろとりどりの単なる網目模様に、絵の具を筆
 からしたたれ落とし、あるいは振り掛けたって感じの絵が並べられて
 いて、ぼくにはさっぱり解かりませんでした。一時はよだれ絵画など
 と揶揄されたこともあったとのことですが、現代絵画に多大な影響を
 及ぼしたとか。晩年の作品は、それが墨の線から墨絵のようになっ
 ていくのが面白かったというのが率直な感想です。常設展示されて
 いるものには、セザンヌ、ピカソのものが結構多くありましたね。
 
 驚いたのはモネの「睡蓮」なんですけど、横幅が大きな部屋の壁面
 いっぱい、おそらく15m(縦1.5m)くらいはあったと思います。両端
 が視界に入りやすいように折り曲げるようにして展示されたのがあり
 ました。10時過ぎに入館して、でてきたのが午後の2時近くでした。

 午後からは「CATS」でもと、尋ねましたがとっくにソールド・アウト。
 なにせ「ライオン・キング」などは、2年先まで予約済みらしい。それ
 ではと、ニューヨークの夜の過ごし方としては上等な方法の一つとか
 で(笑)……、再度(すでに1回は済み(笑))、ジャズクラブのチケット
 を当たってみました。Sweet Basil (由緒あるジャズクラブ) に
  ART FARMER がでてるのでどうかということだったらしい。「CAT
 S」を当たってからとしてたため、電話を入れるのが遅くなって最終
 の午後11時からの分しか残っていませんでした。

 このクラブは中華街の近くにあるので、例の小籠包のうまい店に立ち
 寄って、今度は3人で、お酒はやめてそれを二重ねと焼きそばに野菜
 の油炒めを平らげてから向かいました。クラブの入り口には前の回の
 終わるのを待ってる数人の客がいて、その後ろにならびました。あて
 がわれた座席は、なんと齧り付きも齧り付き、たて込んだ店内のそん
 なに高くはありませんが、ステージにくっついた座席。隣りに5分刈りの
 白髪の頭をした浅黒い顔の老人とその奥さんらしい人がすでに陣取っ
 ていました。後で分かったのですが、なんとそれが ART FARER
 の人だったのです。

 入場料が1人30$、それに加えて1人当たり20$以上の飲食をする
 ことが条件になっていましたが、明31日はカウントダウン・パーティー
 とかでフランス料理のフルコース付きで1人150$で、すでにチケット
 は完売だとか。1月3日まで連続、このメンバーがオン・ステージという
 ことでした。

 グラウコンさんを前にして下手なことは言えませんので端折りますが(笑)、
 とにかく生の音とクインテットの意気の合ったリズム、彼のトランペット
 の繊細にいたるまでの即興性を堪能しました。もちろん満席の聴衆の
 なりやまぬ拍手で、終演したのが零時20分頃。愚妻はプロにサインを
 して貰う始末。ぼくのカメラで彼を交えたスナップをウエートレスに撮って
 貰いました。(笑)

 そうそう、ステージのすぐ目の前においてあった彼のラッパ、あれは確か
 に純金製でしたね。鈍い金色に輝いていました。また指で押す栓のキ
 ャップの下には、彼が指に嵌めていた指輪の大きなトルコ石と同様の
 ものがパッキングしてあったように見受けました。やはり世界の現ジャ
 ズ界の重鎮なのだろう、と思ったりする。(笑)

 きょうもまた、晴天に寒風、ときおり小雪が舞ってました。午前中はデ
 パートめぐり。小生もエトロ(イタリヤ製)のコートを買っちゃいました。
 バーゲンで50%オフの500$あまり。2日前にいった「寿し清」で、も
 う一度昼食をとろうと出向いたら、1月3日まで休業とのこと。カウンタ
 ーの中にいた威勢のいいお兄さんたちも、お江戸に帰って日本の正月
 を過ごすのだろう。

 ニューヨーク市内は、ものものしい警官の警邏が始まったようです。タ
 イムズスケアーのカウントダウンに向かってとめどもなく押し寄せる、
 人の波を整理しようというのでしょう。それを遠めに見てきた後、帰る
 準備を始めます。明朝、空港まではリムジンを予約してあります。(笑)
 イエロー・キャブに乗るのと大差ないからです。ぼくたちの旅も、そろそ
 ろ終わりです。今年もよろしくお願いたします。
 

(その5)『カウントダウンの仕掛け』 【現地1月1日】

 午後9時半ころ(ニューヨーク、12月31日)46階の部屋から、通りを見下ろ
 すと、もう人の流れが止まり始めていました。急いで身支度をして……
 防寒対策です、ぼくは厚手の靴下とダッフルコートの下にはいつもより
 1枚多く着こむし、ほかの2人も更に日本から持ってきた靴の中敷用の
 ホッカイロをセットするなどして……部屋を出ました。

 JCBのデスクにいるお姉さんも、出かける前はできるだけ水分を控え
 るように、人ごみを掻き分けてトイレにいくのは至難の業ですから、わ
 たしは何年この方、これはテレビの生中継で見るものと決めてますが
 ……、という忠告も頂いていましたので、その辺の覚悟もきめながら。

 なんとロビーの正面出口には武装した警官が2名立っていて、すでに
 封鎖されています。ホテルの真ん前の52th通りが、タイムズスクェア
 ーへの通り道に設定されているようです。裏口も出るのはいいんです
 が、入ってくるときは、部屋のカードキーを見せないと通れないように
 してました。ところが、52th通りに出る道は、すでにどこも遮断されて
 いました。どの角も10人近くの警官がガードしていて、26番街までも
 どれというのです。かなりの距離を歩かねばなりません。で、娘が機転
 を利かして筋向いにある同系列のホテル、シェラトン・マンハッタンに
 いくのだといってキーを見せて通してもらいました。

 しかし1丁も歩かないうちにストップをくらいました。無理をして前に出
 れば出るほど人の密度は高くなり、まったく進めなくなってしまいました。
 周りはぼくよらり首一つ高い外人さんの林の中。(笑)人込の中には、
 前進をあきらめて地べたに腰をおろして、トランプに興じているのや
 車座になって酒のビンを回し飲みしながら、ときどき喚声をあげてる
 のなど、どうも高校生らしいグループもいくつかいました。

 横に動いて人垣の切れるところに辿りつくと、そこには青いペンキを
 塗った平均台のような木柵に白地で DON’T  CROSS と書かれた
 のが、歩道から数メートル隔てて置かれていました。そこにも警官が
 立ってます。後方を見るとずっと人の海。そこにも木柵があって、どう
 も人海は牧場の牛か馬のようにどこにも行けないように包囲されてし
 まっているのでした。(笑)そして、このようなブロックが後ろにもずっ
 と続いている様子。

 つまり、何丁か先にあるタイムズスクェアーはすでに溢れてしまい、
 収容しきれなくなった人々をこうやって路上で捕獲するという作戦に
 でているわけだ。真正面から吹きつけるビル風がほほに痛く感ずる
 ほどでした。で、またすこしずつ動いて、林の中に戻ることにしました。
 (笑)そこに子供さんを連れた2人の中年の日本人女性がいて、いろ
 いろとお話を聞くことができました。なんでも彼女らは、23日に日本
 を発って1月5日までニューヨークに滞在するのだという。何度か見
 に来ているらしく、彼女らの説明でようやく、このニューヨークっ子た
 ちが熱狂する行事の仕掛けがわかってきました。

 前方の高いビルにはネオンやら照明を当てた大きな看板が掲げら
 れていますが、その一番奥まった辺に大きなオーロラビジョンを付
 けたのがあって、その屋上の尖塔の天辺に王冠のようなものが輝
 きながら回っていましたが、それがカウントダウンのシンボルだとい
 うのです。そこはタイムズスクェアーの一角に接する交差点らしく、
 この格子点で直角にクロスする2本の大通りの、4方向から何十万
 人という人が見物できるようになっているらしい。

 時計塔の針はやっと11時を過ぎたところ。まだ1時間近くもある。
 寒さはますますつのってきて、すぐ横では女子高生のグループが
 「おしくら饅頭」を始めている。(笑)ぼくたちもいつのまにか小刻み
 に、足踏みをやってました。
 
 前方から強いライトが照らされ、またもや喚声が上がり人々は飛び
 上がりながら手を振って応えている。人垣の向うにテレビの中継車
 がいて、ぼくたちのブロックの先頭を照らしているようなのだ。と、
 先ほど車座になっていた若者たちも立ち上がり、何人かの少女た
 ちがボーイフレンドの肩車にのって、なにか叫んだりカメラのシャッ
 ターを押したりしている。どの子も目鼻立ちの整った美少女ばかり。
 じつに陽気だ。まことに微笑ましい光景であった。

 少女を担いだ男の子が大声で「ファイブ・ミニッツ・アット・ラースト」
 とかいったような気がした。ここからが結構長いんだよ、という話し
 声も聞こえてくる。前方のオーロラビジョンに30、20、……と大き
 な数字が現われ始めた。いよいよである。セブン・シックス・ファイ
 ブ・フォー……、あとはもう喚声。
 
 尖塔の王冠ともおぼしき薬玉(くすだま)が割れ紙ふぶきが舞い、
 花火が打ち上げられる。遥かかなたからもどよめき。あちこちで
 「ハピー・ニュー・イヤー」を言い交わしている。ビルの谷間には紙
 吹雪が舞って、まるで雪が降ってるようだ。

 史上2番目だかの長期にわたる、好景気に沸くアメリカを象徴す
 る光景でもあるようだ。

 さ〜あて、これから、こちとらは帰国の準備だ。「みるべきほどの
 ものはみつ……、みるべきほどのものはみつ」……というわけで
 もありませんが。(笑)

   **************************************************

 現地で1月1日午前8時に、ホテルの前に予約のリムジンがやっ
 てきました。(笑)あんな大きなというか図体の長いやつではあり
 ませんでした。(笑)運転手はとても日本語の上手な韓国人で、
 三光汽船に10年あまり勤めて(乗組員)いたとかいってました。

 NEWARK 空港11時発のコンチネンタルC6便で、日本時間1月2日
 午後3時15分頃成田に着きました。地球の自転と同じ方向に
 飛んだので夜はありませんでした。

 今ごろになって、どうやら時差ボケだけは解消したようです。
 
 

 【付録 その他の写真】
 インカ風の衣装を纏った奏者
 のみの市
 摩天楼の中の教会
 似顔絵書き
 胡桃割人形

 

Copyright (C) 1999 by 山羊 
 


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