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ジャストシステム訪問の巻

草莽工房庵主敬白

先日、徳島のジャストシステム本社見学ツアーなるものがあった。大阪からの日帰りで浮川社長の話が聞けるということで、参加することにした。
日本の情報産業系のベンチャーの雄といえばアスキーとジャストシステムだろう。アスキーの西(元)社長とジャストシステムの浮川夫妻はある意味ではこの業界の伝説の人ともいえる。最近はそれにソフトバンクの孫社長を加えるらしいが、西氏や孫氏に比べて浮川夫妻が堅実な印象があるのは、言動が派手でないのと「一太郎」という柱となるしっかりした商品を持っているからだろう。ただ、明日は分からぬこの世界−−新しい挑戦を続けなければすぐに陳腐化するし、かといって手を広げて失敗という例は枚挙にいとまがない。
生き残りを賭けた、今後のジャストシステムの戦略は何なのか? それが私の一番興味のあるところだ。

朝9時に大阪に集合。明石海峡大橋を渡って四国へ向かう。実をいうと、私は明石海峡大橋を渡るのは、はじめてである。垂水ジャンクション・インターチェンジの複雑なこと−−地図をみると、まるで玉ねぎを輪切りにしたような構造である。
トンネルを抜けると何時の間にか明石海峡大橋にのっている。橋自体は5分ほどで渡ってしまうあっけないものだったが、はるか下に海を見下ろす異様な高度感はある。橋を渡ったところにあるサービスエリアで休憩したが、平日だというのにものすごい量の人でごった返していた。
淡路島に入ると、急に緑が多くなり完全に田舎の風景となり驚いた。神戸〜明石のビル・住宅群の密集地帯から橋一つ抜け出ると、これだけ違うものか。ビワやブドウの栽培風景やため池が多く見られ、手つかずの森林も散在して、いい雰囲気である。
淡路島南インターチェンジで降りて鳴門海峡を見ながら昼食。

鳴門海峡からジャストシステム本社まではすぐだった。空港近くの埋立地と聞いていたので、私は大阪南港や千葉幕張のようなところを想像していたのだが全く違った。まるで大潟村であり濃尾平野のド真ん中である。田畑に囲まれ、のどかな景色の中に、巨大なインテリジェントビルがポツンと立っており、それがブレインパーク・トクシマことジャストシステム本社であった。 まわりのレンコン畑が美しく、私は思わず写真をとった。(写真参照)

さて今日の本題、浮川和宣社長のお話である。
明石海峡大橋は、浮川社長の子どものころからの夢だったそうで、やっと夢の架け橋が実現して、嬉しくて、一ヶ月間に5回も往復したそうだ。
そんな話にはじまり、昔の雑談に花が咲く。 最初、日本語ワープロを手掛けた時、当時は和文タイプのレベルであり、その複雑さから「コンピュータで日本語を扱うのはあきらめるべき」とする大学教授の論文が発表されたりして馬鹿にされたとのこと等々。このあたりの話は有名なので私も知っていた。

そして、いよいよ今後の話である。
一太郎の進化により、いまや日本語変換の技術は人間の頭脳へ徐々に近づきつつあること。そして今後は音声入力のシステムが実用化されるとのことで、そのデモンストレーションがあった。男性社員がすらすらと読んだ一連の文章が見事に画面で日本語変換されデジタル化されていく。
「これは、やらせでもなんでもありません。今はもうこのレベルに達しているのです。」という社長の誇らしげな声が響き渡る。IBM、オリンパスと組んでジャストシステムで Voice ATOK として本格的に事業化するそうだ。

もうひとつのテーマは、情報管理の話である。要するにインターネットをはじめとする情報の洪水の中で、いかに必要な情報を検索しマネジメントするかということ。今はその的確なツールがないのでジャストシステムがそれを作っているという話である。
これまでは分類しキーワードでデータベースを構築する必要があった。というより、そうしないと出来ないとマインドコントロールされていた。しかし、そうではなく、自然言語で簡単に、欲しい情報が取り出せるシステムがあるのだそうだ。
カーネギーメロン大学の教授が考え出したこの「概念ベクトル化」というアイデアを買い取り、ジャストシステムは Conncept Base として世界ではじめて実用化したとのこと。このデモンストレーションもあった。

結局、以上の二つの技術を結びつけ、ボイスソリューションを実現していくのが、今後のジャストシステムの生きる道らしい。
最初の音声による文章化システムは、日本語ワープロの第一人者としては当然の道だろう。いいものが出来ればパソコン口述筆記が実現し、新しい創作文化が生まれるかもしれない。もっとも、深夜パソコンに向かって、一人しゃべっている自分を想像すると変な気もするが。
だが、もう一つの Conncept Base のほうは、どうも実感が湧かない。日本の企業が、そんなソフトに金を出すだろうか? それぞれの特化した仕事に、このようなアバウトでファジーなシステムが有効かどうかも疑問が残る。デモを見たが、私にはよくできた検索エンジンとしか思えなかった。
とはいっても、話全体として、全力で未来のソフト産業を創ろうという姿勢は伝わってきた。 語り口も熱心で、情熱も感じられた。

そのあと、社内見学にうつる。まことに清潔で小奇麗な社屋で、全館終日完全禁煙が徹底されているとのこと。コピー機すらやかましいとのことで別室に隔離した、無音無臭のソフト開発室はさすがである。私は、タバコの煙とカップラーメンの山に埋もれたソフトハウスも知っているだけに、この徹底した環境管理は、まるで無菌室のようだ。
そういえば、周囲に田畑しかないこの社屋では、ちょっと居酒屋で一杯とかパチンコというわけにもいくまい。だから、この社屋の中で一応のことが出来るようになっている。キャッシュレス決裁の非常に清潔な食堂や、コンビニ、休憩室、医務室、銀行、図書館、旅行代理店まで社内に完備しており、600人の、隔離された一つの世界である。
無論、会議室はペーパーレスになるようノートパソコン用端末完備の会議机が用意されている。まあ、コンピュータ屋さんなら誰でも夢見る、現時点での理想のインテリジェント・オフィスの姿がここにあるわけだ。

社員がみんな若く、女性職員の割合が大きいような気がした。徳島県の地場産業?としても地域貢献をしているのだろう。
最近の「一太郎」は余り評判がよくない。私自身も重たすぎる「一太郎8」は使っていない。「一太郎 Lite」や「一太郎9」を出すそうだが、単にそれで「WORD」に押され気味な状況を果たして改善できるだろうか?
まだ十分に使いきってもいないうちに次々バーションアップされては、ユーザーとしてはたまらない。あの一太郎7と一太郎8のわずか半年更新というのは最悪だった。
マイクロソフトの世界戦略の中で、Netscape も Lotus もシェアを落としてきている。「一太郎」も、しかりである。だが Adobe Systems のように独自の地位をしっかり確保しているソフト会社もいくつかある。
国内では、マイクロソフトに対抗する、唯一の有力ソフト企業といってもいい、ジャストシステムの今後の頑張りには期待したいものだが、道は平坦ではなさそうだ。 (1998.7.18)



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