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草莽工房庵主敬白
やがて、西仲商店街がもう尽きるという直前、右側に小綺麗な店を見つけた。「つきしま小町」という店で、「はじめての方でもどうぞ」と小さく書いてある(写真参照)。そこで、勇気を出してドアを開けた。
「何が、おすすめですか?」
「これは、美味しいですね。」
味もいいし、てきぱきした奥さんの人柄もいいし、私は大満足だった。金儲けを考えると、「お一人様お断り」や、酒が売れる夜のみ営業というのもわからないでもないが、本当にもんじゃが好きな人を大切にするこの「つきしま小町」のような店がいつまでも続いてほしいものである。駅からは一番遠いところにあるが、それだけにかえって好きな人が集まるのではないだろうか。(ちなみに、予約もOKだそうなのでオフ会などで利用してあげてほしい。)
2月下旬、かすかに早春の息吹が感じられる季節。私は久しぶりに異世界東京を訪れ、とうとう月島に上陸を果たした。もちろん、この上陸作戦の最大の目的は、もんじゃ焼きである。
残念ながらこれまで食べる機会がなく、やっと夢がかなうかと思うと胸が高鳴る。インターネットで調べておいた西仲商店街を歩くと、確かにもんじゃ焼きの看板が並んでいる。ところがである。ほとんどの店は、休日以外は昼間やっていないのだ! 大阪のお好み焼きは、昼食として食べられるケースの方が多いと思うのだが、もんじゃ焼きは夕食専用なのか? 今は、まだ明るい。 やばいぞ。 さらに、悪いことに、やっと営業中の店を見つけると「お一人様お断り」と書いてあるではないか。ガーン! 客は入っていないのに、意地悪じゃのう。 もんじゃ焼きは、カップル専用なのか? こりゃあ困ったわい。私は仕方なく、食べられる店を探して、下町の雰囲気漂う西仲商店街をずっと下って行った。
「スイマセン。一人でも食べられますか?」
すると、小粋な奥さんがいて、
「ええ、いいですよ。」
「あの、はじめてなもんで、よろしくお願いします。」
「それなら、こっちの席へどうぞ。」
というわけで、一番奥の、調理場近くの席へ案内される。
他に客はいない。奥さんは調理場でとんとんキャベツを切りながら、
いろいろ説明してくれる。感じのいい店である
「そうね、一番人気は、めんたいもんじゃ、それから女性にはチーズもんじゃ、辛いのが好きな人にはキムチもんじゃも人気がありますよ。」
「そこに書いてある、そばやもちのもんじゃもあるんですね?」
「ええ、でもその両方は一緒にしないほうがいいよ。同じような食感だから。」
「へえ・・・じゃ、やっぱり一番人気のめんたいもんじゃにしようかな。」
奥さんは、用意をしながら、いろいろ話をしてくれる。
昔、月島は陸の孤島と言われて、不便だったこと。地下鉄が開通してから、夜もにぎわうようになり、仕事帰りのOLやサラリーマンがよく来ること。この店はできて日が浅いこと。そして、この店には、本当にもんじゃが好きな人がくるので、あまり突飛なメニューはなくてオーソドックスな味で勝負しているそうだ。だから、一人のお客さんも多く、常連客も多いそうである。また、奥さんが一人で全てやっているそうで、小さな店だが大変だなあと思う。
いよいよ準備ができて、全部奥さんにやってもらった。
鉄板の上に、まず上の具でドーナツ状の土手を作り、そこに3度に分けて汁を流し込み、後は全部を混ぜ合わせ、火が通ったら、ハガシという小さなステンレス製のへらでこすり取って食べる。
鉄板にいっぱい広がり、一人前とはいえ結構なボリュームである(写真参照)。この店は、量も多い方なのだそうだ。
フーフーしながら一口食べて、「これはいける」と思った。明太子のダシも効いているのか、うまみのある味だ。また、どういうわけか、いつまで経っても固まらない生地も、焦げた部分と絡みあって不思議な食感で、実に美味い。これは、忘れられない味になりそうだ。関西人はお好み焼きと比較し、「もんじゃはいまいち」という人も多いそうだが、私ははっきり言って、もんじゃの方が気に入った。
「気に入られたようですね。もんじゃは好きになる人と、ダメという人に分かれるようですよ。」
「私は、病みつきになりそうです。もっと、いろいろ食べてみたくなったなあ。」
「それなら今度来たときは、ちょっと高いですが、海鮮のイカやエビのたっぷり入った、小町もんじゃを食べてください。材料からダシが出て美味しいですよ。」
「ええ、わかりました。また来ます。」
同じ粉食文化圏のせいか、特に大阪や広島からは、わざわざ食べに来る人も多いそうで(私もその一人)、最近は月島の代名詞となり、月島もんじゃ振興会というのも出来て、まだまだ店も増えつつあるとのことである。こうして、客が私一人だったこともあって、楽しくいろいろ話が弾んでいるうちに、あれだけあったもんじゃをぺろりと食べてしまった。そんなに胃にもたれないのである。
奥さんに、持参したデジカメで私が食べている写真まで撮ってもらい(奥さんの写真も撮りたかったのだが、すっぴんですのでと、それは断られた)、名刺もいただいたので、インターネットで宣伝しておきますと約束して、店を出た。
こうして、私はやっと念願のもんじゃ初体験を心地よく済ませ、東京を楽しんだのであった。
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