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茶について考える

草莽工房庵主敬白

お茶との出会い

 言葉どおり「日常茶飯事」として、子どもの頃より意識せずに親しんできた「茶」に、改めて出会うことになったのは、私の田舎での経験だった。
 そう、私が田舎暮らしをしていた頃、たまたま庭に小型のツバキといった風情の茶の木が2本あった。前にその家に住んでいた人が植えたものらしく、私には大変珍しかった。そこで、これはラッキーとばかりに、毎年春になると、その新芽を摘んで自家製の煎茶づくりに挑戦したものである。
 ところが、蒸してつくる煎茶は非常に難しく、なかなかうまく出来ない。結局、フライパンによる簡単な釜炒り茶になってしまい、プロがつくる高級煎茶の偉大さを思い知らされる結果となった。
 そして、中国を旅行した際、本場といわれる杭州などでもすべて緑茶は釜炒り製法でつくられており、元祖中国になぜ蒸製の茶がないのかという、疑問が湧いたのである。
 それがきっかけとなり、私はそれまで無意識に毎日飲んでいた「茶」全般に興味をもつようになり、機会ある度にいろんな茶を飲んだり、本を読んだり、旅のついでに茶の木を探したりするようになった。そして、セーシェルで巨大な大葉種(アッサミカ)の茶樹に出会ったときは本当に感激した。

お茶の世界

 日本のイメージと全然違うしっとりとした台湾の凍頂ウーロン茶、最初はかび臭くて変な感じだが段々癖になる雲南のプーアル茶、ほのかな香りが何ともいえない華北の茉莉花茶、銀の針のような茶葉から淡い色の番茶風の味を出す中国白茶、固形のものを削って煮出して飲む団茶や餅茶、作法の様式美とともに茶筅で攪拌して飲む日本の抹茶、英国の気品ただようアールグレイの紅茶、 インドなどで飲むミルクと砂糖の入ったあまーいチャイ、塩とギイと呼ばれるヤクのバターを入れて飲むチベットのスーユー茶などなど・・・これらが全て一つの茶の木から製造可能とは!! 
 たしかに茶の世界は大変、奥の深いもので、どの茶もそれぞれ独特の美味しさがある。私は、固形茶が手に入ったときなどには、それにインドの安い粉状になった紅茶や、台湾の茎ウーロン茶、日本の玄米茶など、あちこちの旅で買ってきたものや、あり合わせの材料を大きな薬缶にぶち込んで煮出してみる。すると、時折これはという、いい茶が出来ることがある。草莽工房オリジナル・ブレンドと称して客に出すこともあるのだが, その評判はあまり芳しくないようだ。

 ところで、一番好きな茶は?と聞かれると、私はやっぱり新茶の季節に飲む日本の煎茶と答えざるを得ない。 80度くらいで、うまくいれた逸品の煎茶は、ほのかに甘く、苦く、渋く・・・それらが一体となって、まろやかな茶のうまみを生み出し、そのまわりを新茶の香りがふわっと包み込む。これこそ、至福の時である。
 幻の岩茶といわれる「大紅袍」(世界一の茶と称する。私は、残念ながら本物はまだ飲む機会がない)などは、きっとこれより美味いのだろうが、我々庶民が普段飲めるものではない。100グラム1000円から買える日本の高級煎茶は、決して高くないお買い得商品だと思うのだが・・・

茶の分類

 植物学的には、茶は2つの変種(種より小さな単位で相互に交配可能)に分けられる。 ひとつは、熱帯から亜熱帯にかけて分布する高木性で大型の葉のアッサミカ(アッサム種の意)で、これは「発酵」しやすい性質を持ち主に紅茶の製造に適している。 もう一つは、亜熱帯から温帯に分布する低木性で小型の葉のシネンシス(中国種の意)で、これは「発酵」しにくく緑茶の製造に適している。(余談だが、学名上は日本の茶はカメリア・シネンシスで、カメリア・ジャポニカというと藪ツバキ)

 この「発酵」の度合いというのが、製品としての茶の分類の決め手となる。日本では一般に、不発酵茶と半発酵茶と全発酵茶の三つに分類するが、これでは白茶やプーアル茶の行き場がない。 また、中国式の色による6分類は、製法と形態を混同しておりわかりにくい。 そこで、私の考えでは、発酵製造法に厳密に基づいて、次の六つに分類するのがいいと思う。

(1)不発酵茶

  新鮮な茶の葉を発酵させず、熱を加え殺青(酸化酵素の働きを止める)し、その後、捻みながら乾燥させる。いわゆる緑茶類で、殺青法にいろいろあり、それにより種類も多いが、中国では平釜で炒って殺青する龍井茶が有名。
  日本で特に発達し Japanese Teaといえば緑茶のことだが、これは適した気候とともに、新鮮な生ものを好む日本人の気質に合ったからだろう。日本でも嬉野茶など釜炒りの茶が存在するが主流は蒸製である。大きく分けても、玉露・碾茶(抹茶のもと)などの覆茶類、伸茶・玉緑茶などの煎茶類、川柳・焙(ほうじ)茶などの番茶類、緑だん茶の類などがある。

(2)微発酵茶(弱発酵茶)

  きわめて軽度の自然発酵をさせながら、陽光や軽い焙りなどで乾かし、茶の新芽の形が針のようになって残るようにした白茶(パイチャ)類である。強い火や湯を使った殺青はせず、またいっさい捻まないので、茶の出は悪く色も薄い特殊な茶だが、中国では珍重される。「白毫銀針」という銘柄が有名。

(3)部分発酵茶

  茶葉の周辺部分だけを発酵させ、中心部の緑色の部分を70%程度残すようにしてつくられた茶。中国で青茶と呼ばれる高級ウーロン茶の仲間で、緑茶に近い青っぽい色で清香がある。包種系ともいわれ、超高級の武夷岩茶や凍頂ウーロン茶、水仙茶、鉄観音茶、文山包種茶などが含まれる。

(4)半発酵茶(本発酵茶)

  真夏の強い日差しで生葉の水分を急速に蒸発させ60〜80%も発酵させる、いわゆる赤いウーロン茶の仲間。欧米や日本にフォーモサ・ウーロンティーやシャンピン・ウーロンティーとして輸出されウーロン茶の代名詞となった。いいものもあるのだが、その香りのない赤い下級品が本物のウーロン茶であると思っている人が多いのは残念である。

(5)全発酵茶(完全発酵茶)

  完全に発酵させ紅色の色素をつくらせた紅茶の仲間。欧米では、以前、緑茶やウーロン茶もよく飲まれていたのだが、現在は、紅茶が主流となった。インドやスリランカの大規模茶園で主につくられ、リプトン、トワイニングといったナシヨナルブランドが世界的に売り出している。世界の生産量は茶の中で最大である。

(6)後発酵茶(再発酵茶)

  いったん製造された釜炒り緑茶などを湿らせて、時間をかけてカビを繁殖させ、酸化発酵させた二次加工茶で、雲南プーアル茶に代表される仲間である。団茶や餅茶・方茶・緊茶などの固形茶の類も、熟成の度合いの違いはあれ、同じようにしてつくられ固められたものである。これらは、現在でも中国奥地やチベット・モンゴルなどで愛飲される。

 以上は、純粋に茶だけの製法による分類で、商品化するまでに他のものを添加したりブレンドしたりしているものも、 ジャスミンティーや玄米茶など数多く、飲み方に至ってはそれこそ限りなくあり、いったい世界中にどれくらいの茶があるのかわからない。

茶の伝播と文化

 さて、全植物の中でカフェインを含有しているというのは、どのくらいあるかご存じだろうか?
 実は、茶の木、コーヒーの木、カカオの木そしてマテの木くらいしかないのである。そして、それらすべてが古来より人類の非常に重要な嗜好品として利用されてきており、それぞれ独特の文化を生んできているのだ。
 特に茶の歴史と地域的な広がりは圧倒的で、中国の伝説の神農の故事から、織田信長の茶道の政治利用、そしてアメリカ独立戦争のきっかけとなったボストン茶会事件に至るまで、人間の歴史に彩りを添えてきたのである。

 もともとは、茶の原産地である中国南部から東南アジアの照葉樹林文化圏の少数民族が、木の芽を食用とする習慣を有しており、茶もそれが利用の始まりであると考えられる。現在でも、タイ北部には、「噛み茶」というかたちが残されている。そのうち、保存のため乾燥して利用する習慣が漢民族に取り入れられ、やがてそれを飲用する方法が生み出されたのだろう。
 そして、その文化はチャ、チャイ、テ、ティーという発音で世界中に広がったのである。
アモイを中心に英国方面へティークリッパーという快速船で運ばれた茶は、福建省南部の方言から、「テ」や「ティー」という発音になり、それ以外の陸路で運ばれたところは「チャ」「チャイ」「シャイ」といった発音になった。このあたりの、茶の世界伝播問題も詳しく研究してみると面白い。

 かくして、世界中に茶は普及したわけだが、中でも特に、日本は茶を哲学的な文化にまで高めた希有の国である。また、茶道や茶器だけでなく、茶と懐石料理、茶と点心・和菓子、茶と漬け物、茶を入れたソバやアイスクリームまで、さらに茶室、座敷、茶屋、喫茶、唄などの建築・風俗・習慣に至るまで、日本の文化は茶を抜きにして語れない。
 最初述べたように、なぜ中国になぜ蒸製の茶がなくなったのか? とか、なぜヨーロッパでは緑茶がすたれ、紅茶になったのか? とか、なぜ、日本にだけ、茶筅でたてる抹茶が残っているのか? とか茶に関する疑問と興味は尽きない。しかし、もう字数がオーバーしている。 また、機会があれば、これらのことについて、考えたいと思う。

Ver 2.01 (1998.10.8更新)

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