使用前のご注意:本文は、NiftyはFSF1創作の部屋における、一連の『史上』シリーズをご存知でないと判らないかもしれません。
史上最狂のロボット作家
By 一歩
第一部 没入編 〜インストール〜
「『行け! 二度と罪を犯すな!』…くう、やっぱりダニーはかっこいいなあ!」
そう言いながら、彼は文庫本を棚に戻した。
「よおし、俺もSFを描くぞお。やっぱり、ロボットと刑事の二人組の物語かな。そんでもって科学財団を作ったりして。いやいや、純朴な青年が宇宙船に乗り込んで、赤毛のヒロインとつき合いながら成長する物語も捨て難い。それとも、衛星通信を発明した男が金を儲けて軌道エレベーターを作り、宇宙ステーションで猫を飼うなんていうのもいいかもしんない……」
想像の翼は豊かにはばたく。しかして、彼の目前の机にひろがるのは、教科書と、過去問と、そして、ノートである。彼は受験生なのだ。…ノートの白さが目にまぶしい。
「現実は厳しいなあ。描きたいのは山々だが、そんな時間が何処にあるんだ?」
判っている。何処にもない。それでも彼は、悪あがきをしてみる。
「ほら、こういう風に悩む時にはアレだよ。アレ。パネルディスカッションじゃなくて、ジャスティスチャートじゃなくて……とにかく、アレだよ。」
? なんだそれは一体? お前、本当に受験大丈夫か?
「俺が知りたいよ、そんな事。」
とにかく、彼は一枚のレポート用紙を取り出すと、縦線を一本引いた。そして、上の方に大きく『SF描きによる』と書き、更に縦線の左に『メリット』右に『デメリット』と書く。
「まずは、デメリットから点数チェック。え〜と……」
そう言いながら、沢山の項目を並べていく。いわく、時間を取られる、役にたたない、受験前である、などなどなど。そして、それぞれに、比重に併せて、2点、1点、5点などと点数を割りふっていく。デメリットの合計は24点にも達した。
「そして、次はメリット。」
そう言って、メリットの欄に書かれた項目は、『楽しい』。
…………ただの一項目で、もう後が続かない。
「う〜む……」
彼の額を脂汗が流れる。その間、しばし。
やおら彼の腕が素早く走ったかと思うと、その項目に点数が与えられた。
……『25点』。
「おお! チャートによる分析で、『SFを描く方がわずかに良い』という結果が出てしまったぞ!! こ〜れは書かずばなるまい!!!」
そして、彼は妹のマッキントッシュの前に陣どると、こう妹に尋ねたのだ。
「ホティサーブって、どうやって繋ぐんだ?」
受験日が近付く。
] METAL−666 By I3PO
] …………
] 「『F』博士、どうしてテストターゲットに私と貴方のパーソナルデータを入れた
] りしたんですか!」
] 博士の本名は松戸と言う。なのに誰もそうは呼ばない。やはり、研究が研究だか
] らか。本人も『F』博士と呼ばれるのを喜んでいる。
] 「お前もやろうやろうって、賛成したじゃないか!」
] 博士は助手にそう返した。すぐに反論が戻ってくる。
] 「だって、落雷でM−77の制御が出来なくなるなんて、誰が予想しますか!
] 大体、この研究所には避雷針はなかったのかよお」
] 「予想はしたが、まずなかろうと思っとったんじゃ。そういえば、無許可の電力供
] 給に避雷針をウチの研究室にムリヤリ外付けしとったのを忘れとったわ。こんな事
] ならまずは Hg-1000 の方からテストするべきじゃったかのう」
] ガチャリ、ガチャリ。彼らの会話をよそに、曲がり角の向こうからは不気味な足
] 音が近付いてくる。
] 「今はそんな事を言っとる場合じゃない。いいな、わしがおとりに出るから、お主
] は奴のメインチップのある所を思いっきりこのバールでぶっ叩くんじゃ。
] いいな、ここ、だぞ。」
] そういいながら、博士は自分の頭の一部を指さす。
] 「判りました、ここ、ですね。」
] 助手も、自分の頭を指しながら確認する。
] 「行くぞ! 3、2、1、Go!」
] 瞬間の錯綜。そして、ゴツッという鈍い音。
] 彼らを追いかけていた、鋼鉄の影が倒れた。
] 「……ふう、やりましたね、教授。」
] 「……終ったな。」
] 『……NO……』
] 座り込む二人の後ろから、別の声が割り込む。
] 「!」
] ヤツが再び立ち上がろうとしている。ヤツは、やおら自分の頭の一部を指さし
] た。バールで破壊されたのと、ちょうど線対称にある位置を。
] 『……あイ ハブ わン モア チッぷ……』
] 瞬く赤い瞳が、二人を見つめながら、震える声でそう刻んだ。
]
] もはや、研究所には生きてる人間は誰もいない。
] なのに、震える声がその奥から聞こえる。
] 『……ハ、ハカセ……ワタシニ、コイビト、ヲ……ハンリョ ヲ ツクッテ……
] ……ヒトリ ハ サミシ…イ…』
]
] /E
] 修正 (1:修正する 2:しない)
] :2
] 登録 (1:登録する 2:しない)
] :1
] −登録完了−
] 電子会議 (1:発言 改行のみ: 読む) ペアレントモード
] >
「と、これでいいのかな、と。」
今や、彼は某フォーラムにハンドル「I3PO」で作品を投稿する男である。今日も愛機 PC701 R2D2 の前でカタカタやっている。……ノートの白さがまぶしい。
寝る前にフォーラムにアクセス。ちょっとのはずがついつい読みすぎて、大抵寝るのは3時4時。当然、次の日に差障り、半日はぼーっと過ごす。そして、夜に目が冴え、マックの前に陣どる。とんでもない悪循環。本人は気にしてない。
……ちょっとは気にしろよ。
「うん、まあ、わかっちゃいるんだけどね。
それより、これ、誰だろ? 僕の入会する前に居た人らしいんだけど。(芽)とか、『○○一郎さん』とか、時々文中に出てくるんだ。どうも、かなりの有名人で、アクティブだった人らしいんだけど、誰も詳しくは書こうとしない。フルネームも出てこないし。それ程の要注意人物、又はVIPなのかな?
まあ、いいや。それより、作品頑張ってあげよっと。」
] 機嫌 By I3PO
] …………
] そうっと、午睡をしている『教授』の襟首を覗き込む。
] そこには、幾つかのつまみが並んでいる。
] 「ええっと。「機嫌」の可変抵抗器の調整つまみは……」
] 「ああ! 設定レベルが「ミニマム」になっている!」
] 「おい、何でだ?」
] 「知らないよ。何処かにぶつけたか、カッターの襟でずれてしまったかしたんだろ
] う。」
] 「いやいや。これは自動補正されたのかもしれないな。俺達の作業効率が悪いので
] レベルが下がったのか、レベルが下がったので指揮効率が落ちて、ついで俺達の
] 作業効率が落ちたのか。どちらが先か、注目すべきパラドックスだな。」
] 「んなこたどっちでもいい! とにかく元に戻すんだ! 気づかれないように急
] げ!」
] だが、そのひそひそ声がまずかったらしい。
] 午睡の縁に沈んでいた『教授』の目が「ぱちり」と音を起てて開いた。
] 「うわ!」
] 『……貴様等、何をやっとるかあ!』
] ……『教授』の機嫌は、非常に良くなかった。
いくつか作品を上げていれば、自然、それに対して感想がつく。その大半はどの作品にもレスを付けている、いわゆる全レスをするアクティブな人達からの物である。それが良い事なのか悪い事なのか、新米の彼には判らない。だが、ついてくる感想はどれも好意的な感じである。
] はじめまして、I3PO さん。なかなか面白く作品を読ませていただきました。
] 短いながら、基本となるツボやウケの部分を捕らえていると思います。
] あえて難点を上げれば、もう少し設定に気をつければどうでしょうか。例えば、
] 機械工学の知識を少しでも持つ人ならば、R3原則から言って人を傷つける
] ロボットの存在は普通では無いと判るでしょう。そのへん、納得する説明があれば
] 尚これらの作品は活きると思います。
] ふと過去の豆腐千円氏の作品を思い出したりしました。御参考までに。
] 過去の豆腐千円氏の作品
] 5-555 「豆腐千円以上なし」
] 6-666〜777 「豆腐製のびっくり箱」シリーズ
]
] みみずく 寒
] はじめまして! 一歩さん。ちょっと感想など。
]
] 霧の果てのデストロンでの一瞥以来ですね。
] う〜ん、こういう作品を書く人だったのですか。いい感じですね。
] 次回作も楽しみにしています。
]
] 霧の果てではご案内役のロシア人形:エカチェリーナ
そして、その「感想の部屋」というのの過去のデータを読んでみるに、どうやら感想には感想御礼を書くのが通例らしい。
早速、彼も感想御礼というのを書いてみることにした。これが意外と楽しい。
] 拝啓、みみずく 寒 様、エカチェリーナ様。
] はじめまして、I3PO です。稚拙な作品を読んで頂き、有難う御座います。
]
] みみずく 寒 様
] 御忠告耳に痛いです。次回はもう少し設定に気を付けます。
]
] エカチェリーナ 様
] その節はご迷惑をおかけいたしました。おかげで何とかこの捜索の部屋に
] たどり着けました。作品を楽しんで頂けたようで、嬉しいかぎりです。
]
] 通信初心者なので、色々失敗するかもしれません。その時は、
] 皆様、ご指導をよろしくお願いします。
] << VVV47082 I3PO >>
彼の書く文章に対して、様々なレス(反応)が帰ってくる。面白いと言ってくれる声や、真剣にアドバイスをくれる声もある。それに対して、又自分が御礼や、自分の考え方をぶつける事ができる。日一日と彼は通信にはまり、そんなレスのやりとりが彼を更にやる気にさせた。……相変わらず、ノートは白い。
「ノートなんてどうでもいい!! さあ、頑張るぞ〜!!」
] 湾岸ミッドナイトライダー By I3PO
]
] 俺の名はカザマイツキ。マイキーと呼んでくれ。自分で言うのもなんだが、なか
] なかの二枚目だ。もっとも、この名も顔も、生まれつきでない、第2のモノなのだ
] が。今、俺の隣ではハンドルを握りながら助手がBHSで会話をしている。彼女の
] 目線が一瞬、こちらを向いた。
] 「指令よ。」
] 「待ってました、事件だ!」
] すばやく後ろを振り返れば、美人のメカニックが親指を上げている。
] 「準備オーケー。いつでもゴーね!」
] 秘密移動基地である大型トレーラーから、愛車KID(Knowledge & infomation
] Device)にまたがって、夜の湾岸へと走り出す。
] 『マイキー、安全運転を心がけて下さいよ。』
] 「判ってるって、キッド!」
] そう言いながら、俺は目一杯アクセルを噴かした。目標は時速 300km/h over。
] …………
第二部 自覚編 〜クラッシュ〜
] 義人化 By I3PO
]
] どこまでも、人に近く。
] それをコンセプトに作られた彼は、もはや何処から見ても人間だった。
] 人並みの体力、人並みの筋力。どんな非常事態になっても、箪笥ぐらいは火事場
] の馬鹿力で運べるが、ビルを砕いたりは出来ない。火の中に飛び込めば機能停止を
] してしまう。溺れさえする。
] モデルとなった研究主任の博士と、体力測定結果からIQまで同じだった。
] 恋もする、さぼりもする。おいしいものを食べれば喜び、レトルトばかりだと体
] 調を崩す。
] そんな彼の、最後の仕上げが行われた。
] 自分が「機械」であるという記憶を、消去されたのだ。
] 「……おい、大丈夫ですか?」
] 『大丈夫だとも。んむ? 私はここで何をしていたのだ?』
] 「いいえ、なんでもないですよ、『ボンド博士』。」
] 『むう、そうか。そうだ! いい研究テーマを思い付いたのだよ。
] ひとつ、何処まで人間に近いロボットが作れるか試してみないかね?
] あまり実用性はないだろうが、研究の意義は充分にあると思うぞ。第一に……』
あいかわらず彼の通信活動は活発に続いていた。
彼の原稿を打つマシンは、先程も述べた様に PC である。旧式なので、1MB のフロッピーしか読み取れない。そして、彼の家で通信回線が繋がっているのは、妹の食べかけ林檎マシンのみである。このマシンは御丁寧にも 1.4MB フォーマットしか読まないのだ。そこで、彼は一体どうしたか。
こっそりと大学にディスクを持ち込み、学校の機材でメディコンをするのである。
「おい、一体何をやってるんだ? こそこそと。」
「ぎぎぎぎくぅ! い、いえ、なんでもないんですよ、先生。」
「遊ぶのもいいがな。受験の準備は進んでいるのか? もう日がないぞ。」
「ぎぎぎぎくぅ! いやあ、まあ、ぼちぼち……」
ばれると結構やばい。だが、そんな事で彼の創作意欲は消えない。そう、こういうのは、障害があればある程燃える物なのである。
] 宇宙登龍門 山門 By I3PO
] …………
] 「アナガアタラハイリタイナー、何か変だ。付近の空気を分析してみてくれ。」
] モドル ミライはそう言いながら、倒れたユリ ハヤシを抱き上げた。
] 『了解。ブブブ…コ、コレハ、大変ダ大変ダ。分析ニヨルト、コレハ放射性ノ大気
] デス。コンナノヲスッテイタラ顔色ガ青クナッテシマウ』
] 「安心しろ、ミライ。」
] と、後ろから、両手足が義手義足の、ジューユーシ サナダムシの声がした。
] 「こんなこともあろうかと!」
] 彼は青い作業服の腹部のポケットよりコズモエアクリーナーを取り出した。
] 「これさえあれば、放射能を除去できる。」
] …………
] 目覚まし時計 By I3PO
] …………
] 念動力の焦点をスイッチにあわす。
] 瞬間、それと察した奴は、箪笥の上から机の上へと飛び移った。
] 「くそ!」
] そう毒づいて暖かな布団から飛びだし、新たに焦点を結ぶ。
] まただ。また避けられた。やかましい緊急ベルはいまいましくも鳴り続けている。
] 「今度こそ息の音を止めてやる! 停止スイッチの位置は判っているんだ!……」
] 人工知能搭載 GX-9907 型目覚まし時計と、睡眠不足のエスパー ラック との戦い
] は続く。
「あっれえ? おかしいなあ……」
ノートの白さは相変わらずの、そんな毎日。
だが、今彼は大きな壁にぶつかっていた。そうして幾つかSSを作っては投稿していたのだが、どうにも、それらが面白くないのである。深く考察してみる。
ありていに言うと、ワンパターン。
そう、彼の書くモノは、テーマが、いつも『ロボット』だったのだ。
しかも、たいしたヒネリも無し。ヒネリどころか、何処かで見たよな話の事もしばしば。
そして、彼の構想していたはずの、デカとの二人組も、科学財団も、宇宙船も赤毛のヒロインも青年の成長も衛星通信も軌道エレベーターも宇宙ステーションも猫も冒険も活劇も出てこないのである。そして何故か、バイクはよく出てきたりする。
そして、鋭い「捜索の部屋」の面々は、当の昔にその作品の甘さに気づきはじめていた。レスに厳しい言葉が並び始める。
] 雑学の記憶力は評価に値しますが、それを活かし切っていません。
] よりオリジナリティのある作品を期待します。
] 岩窟翁
] I3PO さん、私の目は欺かれません。ちょっとこのテのには僕はうるさいです。
] なんですかこれは、あの作品とこの作品とその作品を混ぜただけじゃないですか。
] その前の作品に至っては例の美少女漫画そのまま。
] まあ、敢えてここでそれらの作品を名指しはしませんが。
] ちょっとこれはいただけないですよ。
] レスつけ丸君
いちいち適切なレスが胸に刺さる。自分がそのような紛い物創作をしていた事に、誰よりも深く衝撃を受けたのは他ならぬ彼自身である。
「な、何故だ。こんなはずでわ……」
そう言いながらポンコツマシンのキーを叩く。さっきから述べてる様に相当に古いマシンで、476 はおろか 376 さえ積んでいないマシンである。つまり、今だに心臓が W30 だったりするのだ。かな漢字変換も馬鹿で、相当にいらいらする。
そんなマシンのせいでもなかろうが、やはり、打ち出されてきた物語は、いつものパターンから寸分はずれぬ、どっかで見たよなロボット小話だった。
] 人工人類ロボットダー By I3PO
] …………
] 「ロボットダー01、風だ! 風が出てきた! これで君も変身できるぞ!」
] 「ああ!」
] そういうと彼のヘルメットから風車が飛びだし、くるくると回り始めた。
] 「フハハハ、無駄だ、ロボットダーども! 私にはかなわん!」
] そう言いながら現れたのは涙目の黒い機械人間、コワレターである。
] 「これを見ろ!」
] 「そ、それは、魔の楽器!!」
] 「そうだ、貴様等を苦しめる音色を出す! そうら、俺のクラリネットを聞けえ!」
] 「まて、確かそれは、ドとレとミとファとソとラとシとドの音がでないはず!」
] 「くう、見破ったか!」
] …………
「駄目だあぁぁぁぁぁぁ!」
そういいながらコタツに突っ伏す。
やはりワンパターンだ、パクリだ。どうしてもここから抜け出せない。
ああ、あの時の燃える創作意欲は、無限のアイデアは何処に行ってしまったのか。単に、勉強から逃れたい一心による、あの、冷やし中華がないとなると無性に食べたくなって、町中を何時までも探してさまよい、ついにはこれは誰かの陰謀なんだとまで思い詰めて出刃包丁を買ってしまう、そんな心境と同じ程度のものだったのか。
更に、次のレスが彼をうちのめした。
] 拝啓、I3PO 様
]
] 貴方の作品は、最近の作風を見るに、あまり好ましいとは思えません。
] 私は以前、好ましくない方に強制退去を敢行したことがありまして、今でも
] 後味の悪さに後悔をしているのですが、あれはあれで仕方なかった等とも
] 思っています。
] ですが二度とあんな事はしたくありません。それは今のシスオペも同感でしょう。
] もう少し常識を持って下さい、お願いします。
] 鋼 太郎
そう、鋼 太郎は今や飛ぶ鳥を落とす勢いの新鋭SF作家である。この部屋出身であり、その作風も誰からも文句が出ないという立派なものであり、ここではもはや神様扱いの偉い偉いお方なのである。
そんな鋼氏から、非難を受けた。
彼のショックは尋常ではなかった。
その日ばかりはさすがの彼も、創作する意欲がとんだ。一度はつけた愛機の電源を、そのまま一語半句も打たぬまま落とそうとしたのである。
重い指で「MV」とタイプする。『キシュシュ』とHDが音を起てて、ヘッドをシッピングゾーンに移し、画面には『ヘッダをシッピングゾーンに退避しました。電源を切ってください。』とメッセージが、……出て、こない。
「?」
ストップキーの連打をする。手ごたえは、無い。
「HDまで……とんだ……」
ショックはあちこちに伝染するものらしい。
そう言えば、妹のマックの調子も思わしくなかった。
「……まるで共鳴だな。似た者同士は響きあう、とか?」
その日は無理矢理電源を落として寝た。どうも、動作不安定なHDを抱えているというのは精神衛生に良くない。それとも、鋼氏の一言が利いたのか。
その日から、彼は頭痛もちになってしまった。
「そうだ、空飛ぶジョーダンをかけてみよう。」
ふいにそう思い付いて、ファイル管理&修正のソフトを走らせる。結果は、より悪かった。幾つかのセクタ不良がみつかったのである。しかも、治せない。いくばくかのデータが、2度と戻らぬ様になってしまった。
下手にチェックなどかけねば、だましだましでも、なんとか読めていたのに……
「がーーん……ああ、KANALI.EXE まで壊れてる。もうあのゲームは出来ないのか……」
と、電話が鳴った。
「は、はい! もしもし。」
『あれ? いるじゃん! お前、なんでまだ家なんだ?』
「え? え?」
『今日は俺の家で麻雀するって約束しただろうが。もうみんな来てるぜ。』
「えええ?」
『おい! まさか忘れてたのか?』
忘れてたどころではない。そんな記憶は無い。思い出しもしない。
「えええええええ?」
『とにかく来い!』
麻雀は大負けだった。へろへろになって帰ってきて、又マシンの前に座った。電源を投入、もう一度ユーティリティソフトを走らせてみる。……失敗だった。
「……なんで不良が増えているんだよう。しかも、今度はファットの異常……
も、泣きたい……アクセスの度に壊れてる気がする……」
HDの回転音が、むせび泣きの様に聞こえる。
と、また電話がなる。
「は、はいぃ!」
『おう、いたか。私だ。』
「せ、先生!」
『君に頼んでいた書類だがな、実は急に今日必要になったんだ。今学校にいる。
あの書類、何処に置いたのかね?』
「ええと、確か机の一番上の引出しに……」
『(ごそごそ)……ないぞ。』
「ええ? あ、じゃあ、横のカラーBOXの下の段かもしれません。」
『……ない。』
「本当ですか? フォルダーにはさまってません?」
『……いや、もう一度確認したが、ない。』
「えーと、えーと、それじゃあ……」
『君ぃ、もしかして失くしたのかね? それならそれで構わない、別に怒らないから、正直に答えなさい。』
「え……いえ……馬鹿な、そこにあるはずなんですぅ……」
『全く、しょうがないな。』
祈る気持ちで「MV」と打つ。……駄目だ、ヘッダはシッピングしない。でも、これ以上無理に電源を落として、ディスクの破損を助長したくない。
「少々の電気代より、HDの方が大事だ。仕方ない。」
彼は、そのままHDもマシンもつけっぱなしで寝る事にした。これなら破壊は拡がらないだろう。明かりを消して、布団に潜り込む。
そして、1時間、2時間……
「……なんで、寝れないんだ?……」
結局徹夜になった。不眠症である。とてつもなく眠いのに、寝れない。
寝不足で学校にむかう。足元がおぼつかない。
彼の視界の中を、あちらこちらで幻が瞬きはじめた。その幻の影は黒い。
「なんだ、何が見えているんだ?……」
散漫になる意識を無理矢理ひとつにまとめ、幻の正体を見極める。
幻は、爆弾マークをしていた。
授業にも出ずに、所属の情報処理部の部室に向かう。常駐の部員が迎えてくれる。
「よお。授業はどうした?」
「いや……なんか調子悪くって……ここで、ちょっとテキスト打たせてくれない?」
「そら、いいけどさ。レポート?」
「いや。遊び。投稿作品……」
「お前なあ。授業さぼっといてそれかよ。ま、人の事は言えんが。」
部室のマシンに電源を入れると、部員の誰かがインストールしたらしく、窓's 3.7 が起動した。
「えーと、エディタは……」
と言いつつマウスを握り、クリック、クリック、クリック。
……常駐の部員に声をかける。
「……おい、3クリックでハングったんだけど。」
「ええええ? なんだい、そりゃあ。あっれえ? 復帰しないなあ。……
よし、実は、窓's 97.5 も入れてるんだ。一発そっちで起ち上げ直そう。
……ん、これでやってみてくれ。」
……今度は5クリックで固まった。
「どうなってんだあ?……こりゃあ、原因はお前にあるぞ。なんか、お前、コンピュータとハウリング起こしてるんじゃないか? 怪電磁波だすとかさ。」
「んん?……知らん……。」
「おい、洒落にならんぐらい顔色悪いぞ。原稿打ちは諦めて、家帰って寝ろや。」
「……そうするよ……」
「……ひょ、ひょっとして……」
一体、この、体の不調とマシンの調子との符丁は何なのだ?
……考えがまとまらない。
視界の中をうろちょろと爆弾マークのウインドウがとぶ。中には、フリーズしてしまい、暫く消えずに残っているのまである律儀さだ。
「……やめてくれよ……」
つまずいて、転んだ。何もない廊下で。派手に頭を打った……
「うっ。」
今、確かに聞いた。何か、『パキン』という感じの音が体の中からしたのだ。骨じゃない。断じてあの音はそうじゃない。もっと、こう、乾いた感じの音だった。
……そう、まるで金属の、機械の様な。
そして、頭痛不眠症に続き、彼は耳鳴りがする様になったのだ。
頭の中から響いてくるその耳鳴りの音は、こんな音である。
『……シャリシャリシャリ……』
「うは、うは、うははははははは」
遂に、彼はキれた。どんなにヒネリがなかろうと、どんなにパロディであろうと、そしてどんなにワンパターンのロボットモノだろうと、辺り構わず所嫌わず、これでもかこれでもかと親のかたきの様にUPを始めたのである。
] カードの裏 By I3PO
] …………
] そのカードの表には、二枚目半といった感じの男の写真。
] そして、裏には、女性型ロボットの写真。
] この女性こそ、天下に名高いバーチャロイド『レィディ』。
] そのカードが、風に吹かれて、テーブルの上でくるくると舞う。
] いつまでも、いつまでも。表を見せて、裏を見せて。また表を、裏を……
] 赤い銀弾 レーザーマン R By I3PO
] …………
] 神から与えられた3丁の銃に銀の弾を込め、3人は可変バイクにまたがった。
] 「まど・りっくす・いん!」
] のかけ声と共に、3台のバイクは汎用猫型決戦兵器『アリエル・ド・ラエモー』
] にすいこまれる。
] 『人が3人乗らねばこのマシンは動かん。全員乗ったか?』
] 無線から博士の声がそう尋ねる。
] 「乗りましたよ、博士。でもなんでこれ、猫型なんです?」
] 『わしが可愛がってたタマがこないだ死んでのう。しくしく。おお、タマの
] 生きてた頃にそっくりじゃ』
] 猫型兵器が動き出す。
] 「ちょっと博士! 私運転してないのに動いてる!!」
] 『当たり前じゃ。自律型のマシンじゃからな。高性能の人工知能を搭載しとる』
] と、動き出した猫型マシンが立ち止まった。
] おもむろに近くのビルで爪を研ぎ始める。バリバリバリ。
] ガラスが割れる。コンクリートが崩れる。スカイスクレイパーは倒壊した。
] 「馬鹿ぁ、敵はあっちよ〜〜!!」
] …………
第三部 暴走編 〜オーバーロード〜
] 二つの痴性 By I3PO
] …………
] 『あなたは男性として、アダム。』
] 『そして君は女性として作られたんだ、イブ。』
] 『そうよ。そして、私達の役割は。』
] 『君がボケ。』
] 『あなたがツッコミ。』
] 『…さあ、初の舞台だ。行くよ、イブ。』
] 『ええ、アダム。』
] おおしく立ち上がった二人は鯵藻腑新寄劇へと消えた。
] 数分後。舞台には、えんえんとボケとツッコミを繰り返す二体の姿があった。
] 『そら真空管やがな!』
] 『真空管といえば……』
] 笑いに会場が揺れる。二体の呼吸はこれ以上ないと言う程にあっており、興業成
] 績は過去の全ての記録を塗り変えた。
] その劇は後々に伝説として語り継がれたと言う……
] サファイア英雄伝説 By I3PO
] …………
] その光が収まると、七本指の『彼』の手の甲に、いつのまにか巨大なサファイア
] が埋まっていた。それはまるで生きているかのように輝きを瞬かせる。
] 「どうやら、導士は君を選んだようだな。」
] 『……私ヲ? デスガ、私ハタダノ戦略分析用ろぼっとニスギマセン。』
] 「関係無いさ。そのサファイアを持つ者だけが、あの魔剣を扱える。
] だが、今頃、君に対応するブラックサファイアも目覚めているはず……」
] …………
壊れてしまった彼のUPはまだまだ止まらない。ストックのある限り続く。
] シルバーヌード By I3PO
] …………
] 白魚の様な腕。愛らしい足首のくるぶし。
] 彼女が、最後に残していたキングサイズのTシャツを脱ぐ。
] そのへそが、胸が、順にあらわになろうとしている。
] 僕の目線は釘付け、生唾ゴックン状態。
] 滑らかな素肌と小さくも豊かにもりあがるその胸が、む、むね、むね…あれ?
] 胸があるべきその部分には、メタルに輝く金属の肋骨。
] その内側には、赤と青の脈動するビニールチューブ。
] 呆然とする僕の隣に、一糸まとわぬ彼女が歩み寄ってきた。
] とても女性とは思えない力で僕を抱擁する。赤い唇。
] 『……こんな私でも、愛してくれる?』
] ロボットダー7 RX2’TURBO By I3PO
] …………
] 「栄光あるヘビーメタルを汚すもの、この私が許さん!!
] 例え壊れたクラリネットだろうと、ユニコーンのたてがみ製の弦が3本しかな
] かろうと、歌のソウルは不滅なのだよ! いくぞ!
] 私の歌を聴けえ!!」
] …………
感想などには一応目を通している。その忠告も身にしみて判っている。なのに、その通りに改良できないのだ。体が、脳が、言う事を聞いてくれない。いや、基から、聞ける様な仕様には出来てないのかも知れない。
] ちょっと、ロボットでヒロイックファンタジーには無理がありませんか?
] それにこれ、実はXXXのパロディじゃ…間違ってたらすみません。
] (一部伏せ字です)高林 潤一
] にやり。貴方もついにスケベSFに手をだしましたか。ですが、甘い。
] 甘すぎますね。まだまだテレが見えますよ。恥を捨てて獣になりなさい。
] OMEQ
] 不遜にも今度は音楽テーマものを書いてきましたか。
] これは、私に対する挑戦ですね。いいでしょう、受けてたちましょう。
] 覚悟してなさい。
] スペクトロン《BGM:ベクトルの彼方で待ってて/種ともこ》
] もったいないです。この作品には勢いがありません。そう、超人プログラマー春人
] が足りないのです。もっとカルシウムをとりましょう。
] 石田 春人
] いい加減にしなさい、本歌取りもいい所です。
] しかも、よりすばらしくするならともかく、愚劣に極まる。
] 愚民はSSに狩られてしまえバカヤロー
] アトレイユ
] 管理人よりのお知らせ
] 本作品はあまりにもパロディ色が強く、著作権にも抵触しかねませんので、
] 会議の結果削除する事に決定しました。
] サブシス 東北本線
「あれ?確か、サブシスさんは東武線沿線さんじゃあ…、ああ、サブシスだから複数人いるんだ。へえ、似たような名前の人が同じ役職についてるんだなあ。」
削除という手段を取られたにも関わらず、彼のUPは続く。
] パソコンの手紙 By I3PO
]
] 「おい、変な E-mail が来ているぜ。」
] そのメイルとは、こんなのである。
] 『実はあなたはサンタクロース
] あなたはサンタ あなたはサンタ あなたはサンタ あなたはサンタ
] あなたはサンタ あなたはサンタ あなたはサンタ あなたはサンタ
] あなたはサンタ あなたはサンタ あなたはサンタ あなたはサンタ
] さあプレゼントをするぞ
] プレゼントするぞ プレゼントするぞ プレゼントするぞ プレゼントするぞ
] プレゼントするぞ プレゼントするぞ プレゼントするぞ プレゼントするぞ
] プレゼントするぞ プレゼントするぞ プレゼントするぞ プレゼントするぞ
] ……』
] 「なんだこら? 新手の不幸の手紙か? 洗脳か?」
] 「今時こんなのにひっかかる奴がいるのかな」
] そう、ひっかかる人はいなかった。
] んが、ひっかかる「機械」はいたのだ。
] 某大学のメインに新しく据えられた、最新型クレイモアコンピュータ「春7000」
] は、流通するメイルを一手に管理している。大量にばら撒かれた上記の手紙を、
] 「彼」は何度も何度も「読む」はめに陥った訳だ。やがて、彼はつぶやきだす。
] 『…ワタシハサンタ ワタシハサンタ…プレゼント プレゼント…』
] 「彼」は、大学のセキュリティも一手に引き受けていた。
] 豊富なウイルスのストックが、「彼」の所持品と言えば言えた。
] あとは、広大なそのネットも「彼」の財産と言えば言えたか。
] 『……スベテノ ヒトニ プレゼント……』
] ネットに「プレゼント」が流れはじめた。
] 銀河漂流777 By I3PO
] …………
] 「MAKI(Mother Artificial Knowledge & Infomation system)、正直に答え
] てくれ。僕達だけで、この船を動かすことは出来るかい。」
] 暫しの沈黙。そして、コンピュータが答える。
] 『サブ・コンの協力があれば、可能です。』
] 「やったあ!」
] 歓声がそこかしこで上がった。
] こうして、宇宙軍練習艦スリーセブン号は、長い航海へと出発したのである。
] 父母の囚わている、無理矢理機械の体にされてしまうという敵の母星へと。
] 集まった、777 人の子供ばかりを乗せて。
それでもUPしまくって、書き貯めてたストックも自分のアイデアも尽きると、彼の目に少しは理性が戻ってきた。ストックしていたデータを全部吐き出して削除したせいだろうか、不良HDの調子も最近は戻ってきている。
改めて、自分の馬鹿さ加減を呪いながら、レスを再読などしてみる。
やはり、常連さんからの批判が厳しい。鋼さん、みみずくさん、三毛猫さん、ベルボーイさん、それに、最近よく見かける、アトレイユさんにレス付け丸君さん。
が、感覚が鈍化してるのか、非難ごうごうもあまりこたえない。落ち込む事もなく、冷静にそれらを読んでいった。
] これはだめです。
] まずい、非常にまずい。
] 馬鹿かお前
] 月は出ているか。月の無い日がお前の命日だ
] 削除だ削除、削除削除削除
] いわゆる一つの……
自分宛のものだけでなく、他の人の作品に対する批評を読む余裕も出てきた。
……そして、気がついた。良く似たタイプのレスが多いい。そう、自分だったらこう書くだろう、というタイプだ。自分と同じ意見だ、という人だ。
「へえ、僕に良く似た人、って、結構居るんだなあ。……
えぇ? 僕に、似て、いるぅ?……」
もしや。
そう思い、感想だけでなく捜索の部屋にも潜り込む。ここ暫くの作品を追いかけてみた。
……やはり。
何処か自分の作風と似た人が沢山いる。いや、何処がどう、とは言えない。言えないのだが、何かの共通点を感じるのだ。そう、そのパターン。自分ほど酷くはないが、情報収集と蓄積には優れていても、ある枠組のパターンから抜け出せない思考アルゴリズム。なにより、そんな論理を飛躍して感じる、いわば「同族」の匂い。
「僕と同じ、僕と同じ、僕と同じ…………」
彼は壊れたHDのアクセスの様にそう繰り返す。しゃっくりを一つして、その繰り返しは止まった。
そして、一言。
『……ひょ、ひょっとして……』
(幕)
追記:『史上』シリーズとはパロディである、との信念に基づき作ってみました。
ありったけのアイデア(?)をぶち込んだだけの品ですので、構成も何もあったもん
じゃありません。栄光ある『史上』シリーズを汚すとの事でしたら、タイトルより
『史上』を削除して『最低の……』としてお読みください。(爆)
本歌取りの基となった各作品と各作者様へ、
エベレストより高い感謝と日本海溝より深いお詫びと、それから愛(笑)とを共に。
Reference:
一連の『史上』シリーズ
5-421〜423 『史上最強のSF作家』in『めたるのオモチャ箱』 by めたる氏
5-488〜489 「史上最強のSF批評家」 by 石人氏
5-493〜495 『真・史上最強のSF作家』 by めたる氏
5-527 『史上最強のハードSF……』 by 水野(ざむ)氏
5-534 『史上最凶のSFド新人』 by 石人氏
5-546 『蘊蓄はいかにして鍛えられたか』 by デモステネス氏
5-568,584,
589,617 『史上最強の蘊蓄作家』 by デモステネス氏
5-576〜578 『史上最強の……』 by AMEQ氏
他、フォーラムの全ての人々と作品群。
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