その学院は広大な敷地のなかに、初等部から高等部の校舎が点在している。
所々に緑が配置された構内。
にぎやかな生徒の声が校庭から聞こえる。
…やがて、授業が終わり、部活のない生徒達が帰りだす。
人気のない教室は、昼間とは違い、薄暗く、不気味な感もある。
高等部の校舎は、しいんと静まり返っていた。
時折、部活をしている生徒のかけ声が、やけに大きく響いた。
高等部教頭室の前に人が立っている。
制服についているバッジから、高等部2年の所属だと分かる。
見事な黄金の…魅惑的な瞳をしている、美少女。
均整のとれたプロポーションは、制服に隠されているが、見る者を振り向かせずにはおけない。
かなり短めの制服のスカートから伸びる足はすんなりと細く、しなやかだ。
長い白銀の髪が、中庭側の窓から差し込む光を受け、淡い紅に染まる。
彼女の名はピロテース。
ここ、ファラリス学院の理事の一人、ルゼーブの血縁にあたる。
彼女は、ドアプレートを見て相手の在室を確かめると、軽くノックをした。
何度か入ったことはあるものの、やはり緊張する。
中からの応答を確認して、ノブを回した。
入ると、後ろ手でドアを閉めた。
金属の合わさるカチリ、という音。
明かりのついていない室内は、窓からさす西日で紅に染まっている。
窓に近い所に、机がひとつ。インターフォンを兼ねた電話機が置かれている。
その前には、来客用のソファが一組。二人掛けのものが、小さいテーブルを挟んで向かい合わせに配置さ
れている。
壁際の本棚には、背の厚い書籍がならんでいる。
部屋の隅には、鉢植えの観葉植物が置いてあり、緑を添えていた。
壁には風景画がかけてある。
シンプルだが、重厚な印象に纏められた室内。
校庭が見渡せる窓の傍に立つ長身の男は、一瞬の間を置いてから振り向いた。
きっちりと着込んだ紺の3つ揃えの襟には、学院理事のバッジ。
ゆっくりとした足取りで、彼女の方に歩いてくる。
床には絨毯が敷き詰められているので、足音はしない。
逆光のため、こちらから彼の表情を見る事は出来なかった。
「アシュラム先生…」
目の前で止まった者を彼女は見上げた。
高等部教頭であり、4人の理事の一人。彼らのなかでは一番若い。
…そして、ピロテースの恋人。
白皙の美貌が、彼女に微笑みかける。
「…いつになったらその呼び方を改めてもらえるのだ?」
低く、張りのある声が、耳元に囁く。
ゾクリ、と肌の泡立つような感覚に、彼女は身をすくませた。
思わず後ずさるが、背が壁にあたり、止まってしまった。
アシュラムは、手を壁につき、俯く彼女を見下ろす形となる。
ピロテースは、伏せ目がちに視線を外した。
彼は左手で、彼女の肩にかかる白銀の髪を後ろへと流した。
そのまま、彼女の細い顎をとらえ、グイと上向かせ、唇を重ねる。
ぷっくりと形良い桜色の唇。それを味わうかのように、舌で口唇をなぞる。
はじめは軽く啄ばむようなものであったが、やがて激しい口付けに変わる。
舌で歯列をなぞり、それをこじ開けるように奥にねじ込む。
飲みきれぬ唾液が、ピロテースの浅黒い喉を伝い落ちる。
アシュラムは空いている方の手で、制服のスカーフを外し、床に落とす。
そして、少しずつ紺色の制服の釦を外していく。
「…だめ…足に…力が入らない…」
膝から力が抜けるような感覚。
やっと口唇を解放された彼女は、肩で息を継ぎながら、その場にへたり込もうとした。
すかさず抱え上げられ、ソファに横たえられた。
はだけられた制服から、白いレースの下着に包まれた胸の双丘が覗く。
わずかに赤く染まった肌は、夕日に染まり、さらに赤く見える。
アシュラムは、上着とベストを脱ぎ、空いている方のソファへと投げた。
そして、ネクタイに手をかけ、少し緩めた。
ソファに手をかけると、微かに軋んだ。
横たわる彼女は、自分を見下ろす男の首元のネクタイを外し、そのまま床に落とした。
さらにワイシャツの釦に手をかけ、上から順番に外しはじめた。
彼は、その手を止めさせ、彼女の首筋へと口付る。
わずかだが、ピロテースの身体が竦んだ。
器用に制服の上着を脱がせると、それを近くのテーブルへと放る。
触れられる度に、背筋を走る感覚に脱力感を感じ、潤んだ瞳で、相手の顔を見る。
アシュラムは、彼女の額にかかる銀髪をはらい、もう一度口付けた。
褐色の肌をしたしなやかな腕が、彼の首に回された。
彼は、片手で自分の身体をささえながら、もう一つの空いた手で彼女の身体を撫で回す。
そのままスカートの釦に手をかけ、少しずつ外していった。
身体をずらし、足の方からスカートを抜き、先程の制服に重ねるように置く。
跳ねるようにあげた足先から、彼女の黒い革靴が外れ、壁にコツンとあたって落ちた。
伸ばされた足をつかみ、指定の紺と白のソックスを脱がせる。
白い指が、自分の身体を撫でる度に、声を上げそうになるが、彼女は必死に声を押し殺した。
しかし、外に聞こえぬように押さえた喘ぎが、かえって扇情的な響きを含む。
こういう関係を結ぶのは初めてでないにしろ、校内の、それも教頭室でなど経験がない。
時折、廊下を通る足音に、彼女は固く身を強ばらせた。
「大丈夫、聞こえやしない…」
もっと声を聞きたいのだと、囁くバリトン。
「…や…何を言って…」
ピロテースは頬ばかりか、耳まで赤く染めた。
彼は、その耳朶を軽く噛み、擽るように耳の裏に舌を這わせた。
そして、そのまま鎖骨、胸元、下腹部へとうつっていく。
滑らかな太股の内側を撫で上げると、短い声をあげ、ピロテースは、びくり、と身体を震わせた。
白いレースの入った下着を外され、一糸纏わぬ姿を彼の前にさらした。
年の頃にしては豊満な胸が零れ出る。
思わず、両手でそれを隠そうとするが、手首をつかまれ、外される。
白い手が、それをゆっくりと押し包むように揉み、先端の紅い突起を摘み上げた。
ややのけぞらせた細い喉から、嬌声が上がる。
薄暗い部屋の中に、ぼんやりと浮かぶ裸身。
あどけなさを残した顔ながらも、艶やかな表情を見せる。
ピロテースは無意識に、彼のワイシャツの襟元をつかんだ。
先程、途中まで外された釦を全部外し、はだけた胸元から手を差し入れ、アシュラムの白い陶磁器のよう
な肌を弄った。
首のあたりの、ちょうど隠れて見えない所に、紅い跡を残す。
余分な所のない、引き締まった身体。そのなだらかな曲線を描く、厚い胸元に軽く口付けた。
ピロテースの手は、そのまま背中に回される。そして、目を閉じた。
身体の重さを温かさが心地よい。
慣らされた身体は、その愛撫に反応して、次第に熱くなる。
周りの音は耳に入らなくなり、互いの鼓動と息遣いしか聞こえなくなった。
ソファの上を不規則な模様を描いて流れる白銀の髪。
それを追うように漆黒の髪が新たな流れをつくる。
空調が効いている室内とはいえ、やや汗ばむ。
時折、ソファが二人分の体重に悲鳴を上げるのかのように、軋んだ音を立てる。
こうしている間にも、浅黒い肌の上に、所々、紅い華が散っていく。
…そして、早まる鼓動。
彼の指が下腹部の茂みの奥を嬲るように動く。
十分に潤っていたそこは、大した抵抗もなく指を受け入れる。
初めてではないが、まだ慣れていない行為に、身体が抵抗したのか、背中に回した腕に思わず力がこもる。
固く目を閉じ、その広い肩に顔を埋める。
アシュラムは彼女の細い肩を抱く手に力を込め、涼やかな目元に浮かぶ雫を舐めとる。
切ない喘ぎを漏らす唇から、わずかに歯がのぞく。
ピロテースは、彼の背中に回した手を滑らせて、腰のベルトを掴む。
外して引き抜いたそれは、テーブルの上に置かれた。
ズボンのホックを外し、そのままファスナーを下ろす。
アシュラムは、彼女の腕を自分の肩につかまらせた。
細い腰を抱え、その中心に勃ちきったモノを押し当てた。
一気に身体を進めると、すんなりと彼を受け入れた。
ピロテースは反射的に、爪を立てた。紅い半月型の跡が白い肌に浮かぶ。
突き上げる律動に、彼女は一際高い嬌声をあげる。
首筋にかかる乱れた息遣い。
高まる鼓動が、合わせた肌から伝わる。
白銀の髪が波のように揺れる。
背から滑り落ちた黒髪が、褐色の肌の上を擽るように流れる。
固く閉じた眦から、透明な雫が伝い落ちる。
次第に意識が遠のくのを感じる。
無意識に相手の名を呼び、その身体にしがみつく。
互いの身体が溶けて一体となっていくような快感。
白濁としていく意識の中、のぼりつめた感覚が、弾けるのを感じた。
蕩けるような快楽を貪るように何度か抱き合った。
心地よい脱力感が、身体を支配している。
ぼんやりと目を開けると、いとおしい者の顔がある。
ピロテースは華のような微笑みを浮かべ、両手を伸ばして相手の頭を寄せる。
そして、口付けを交わす。
アシュラムは、そっと彼女の髪を撫でた。
他愛のない会話をしながら、その余韻に浸るように。
既に日は落ち、あたりは闇に支配されている。
所々に灯った街灯が寂しげに佇む。
部活をやっていた生徒も帰宅したのだろう、校庭に人影はない。
机の上の仄かな明かりに照らされた室内に立つ二人には、先程の名残りはない。
ピロテースは、爪先で背伸びして、アシュラムに口付けた。
「…先生、お先に失礼します。」
口唇を離し、優雅にお辞儀をした。
「気を付けて帰るようにな。」
彼は短く返した。
ドアを開け、彼女を送り出すと、入り口を閉めた。
窓際に立っていると、しばらくして校門の所に彼女の姿が見えた。
迎えの車に乗り込み、帰っていくのを確かめると、カーテンをしめた。
「…どうかしている。」
誰に聞かせるでもなく、口をついて出た。
一回りも年下の女性に恋をしているなどとは。
だが、初めて本気になった恋であることは事実だ。
自嘲の笑みが、端正な顔に浮かんで、消えた。
校門の前で、兄が待っていた。
ピロテースは、兄の車の助手席に乗り、シートベルトを締めた。
ふと、校舎の方を振り返る。
明かりがほとんど消されている中、教頭室の明かりが煌々とついていた。
その窓際に立つ人影。
自らの唇にそっと指を添えて、幸せそうな微笑みを浮かべる。
傍らの兄は、一瞥しただけで深くは聞いてこなかった。
そして、その車は闇の中へと消えていった。