お父さんの心音
四十本の柿の木が立ってたんだ。
梢が春風と戯れてさやさやと鳴ってた。
葉が初夏の日差しを浴びては蛍光色に輝いてた
真夏の寝苦しい夜も、ベランダから見下ろせばそこにオアシスがあった。
四十本の木のてっぺんが深緑色のカーペットのように
敷き詰められていて
酸素と水蒸気のぎっしり詰まった空気を夜な夜な我が家に
送り込んでくれていた。
お父さんはいつもそこにいた
立ち並ぶ幹の間を縫うようにして
一輪車を押す姿が見え隠れしてた。
汗で背中にぺったりシャツが張り付いてた
褐色に焼けたうなじには深いしわが刻まれていた
木の葉はお父さんに頬ずりしていたのかな、
ほほえみかけていたのかな。
雨風に叩かれた古机が林の真ん中に置かれていた
何かが始まりそうでなんだか優しい景色だった
コンクリートとアスファルトの今日のこの町の中
そこだけは30年前と同じゆっくりとした時が流れてた
なんだか子供の頃にワープできそうな気がしてた
枝の剪定をして、草取りをして、根元を
わらや木くずで覆って、それから・・
お父さんの姿がいっぱい溶け込んだ柿の林
そこは作業場だったよね
今日、業者がぜんぶ切り倒してしまった
今まで見たことの無かった向こう側の家並み・・。
お父さんが亡くなったことを今日初めて知った気がした
私の心のオアシスも消えてしまった
気づかなかったけど、私とお父さんの共有していた
場所だったのかもしれない
真ん中に山積みになった木々の屍(しかばね)
もう夜になっても梢のさやさや鳴る音は聞こえない
もう我が家においしい空気を送ってくれることもない
今夜は辺りの空気は無味乾燥としています。
2000年11月20日に父が亡くなりました。
半年たった今日
父の柿の木が伐採されて初めてそれを実感しました(2001年5月8日)
詩の目次へ・CONTENTS of POEMS
最初のページへ・To The Home Page