生物学的性、生得的な身体の性。ただし、一口に身体の性と言っても遺伝子(SRY)の性・染色体の性・性腺の性・内性器の性・外性器の性など様々なレベルがある。また男女を明確に二分できないことは、インターセックスの例などからも明らかであり、生物学的性の実態は男性と女性を両極とした連続体で、その両極に多数の人が集中していると考えるべきである。
社会的性、文化的性。生物学的性(Sex)とは基本的に別次元のもの。人間が成長の過程で後天的に身につけてゆく性差。社会(文化)によって規定される「男らしさ」「女らしさ」のこと。したがって、社会が異なれば「男らしさ」「女らしさ」の概念も異なったものになる。
心の性。性自認。自分自身の性別をどのように認識しているかということ。「男性」「女性」「どちらでもない(無性)」「どちらでもある(両性)」「時により変化する(不定性)」など多様である。
セクシャル・オリエンテーション sexual orientation
対象の性。性的指向性。性欲の対象が何に向いているかということ。対象が異性ならヘテロセクシャル、同性ならホモセクシャル(ゲイ/レズビアン)、両方ならバイセクシャル。時には「シーメール」や人間以外の動物、さらには非生物に向くこともある。
社会が性別によって男性・女性それぞれに期待し要求する役割。例えば「男は仕事、女は家庭」とか「お茶汲みは女性社員の仕事」など。ジェンダー・ロールを生物学的性(Sex)や性自認(ジェンダー・アイデンテティ)と切り離して考えることは、女性差別に反対するフェミニズム運動の原点となった。
MTFは、male to female(男から女へ)、FTMは、female to male(女から男へ)の略称。TG・TS・TVなどの略称と接合して、MTFTGとかFTMTSのように用いる。
生物学的性、生得的な身体の性(sex)、あるいは養育上の性に対して抱く不満・不適合感。その強弱の程度は様々であるが、強い場合はトランスジェンダーやトランスセクシャルの原動力となる。
生物学的に男性と女性の特性を合わせ持つ状態、あるいはそのような人たち。最も典型的な例は、卵巣と精巣の両方もつ「真性半陰陽」。近代医学では、インターセックス児に対しては、本人の意志とはかかわりなくどちらかの性に判定し、養育上の性に適合しない内外性器の除去手術や適合性を高めるための形成手術が行われてきたが、近年こうした状況に疑問が提起され、治療方針の見直しが始まっている。
社会(文化)によって規定される「男らしさ」「女らしさ」を強制されることを拒否し、生得的な身体の性とは逆の社会的性(文化的)性を学習し、それを総体的に身にまとうこと。つまり、社会的性差を越境しようとすること、またそのような人たち。
| 【狭義のTG】 | トランスベスタイト(TV)とトランスセクシャル(TS)との中間概念。具体的には、SRS(性別再判定手術)をすることなく、生得的な身体の性とは逆の性別で社会的に活動 |
| 【広義のTG】 | TV・TG・TSを区分しない、それらの総称。つまり、生得的な身体の性とは逆の性別で社会的に活動しようとする人たちの総称。 |
服装、髪形、アクセサリー、化粧、しぐさ、言葉づかい、あるいは乳房の膨らみの有無、髭・体毛の有無、喉仏の有無、体つきなど、社会的性別を判別する指標となるもの。トランスジェンダーは、社会的に異性のものとされるジェンダー記号を身につけることによってなされる。MTFの永久脱毛や乳房の形成、FTMの筋肉の増強や乳房の除去、あるいは両者に共通する外性器の異性化形成などの身体変容も、ジェンダーの記号論の観点から見れば、 裸になっても取れない永続性のある異性の記号を身に付けることに過ぎない。
フルタイムTG
フルタイムで異性の(生得的な身体の性とは逆の)ジェンダーを身にまとう人たち。性役割は、身体的性とは逆の性別に一元的。また性自認も逆の性に一元的な場合が多い。フルタイムでの性別越境を容易にするために性ホルモン投与や永久脱毛、整形手術などによる身体変容を伴うことが多い。
パートタイムTG
パートタイムで異性の(生得的な身体の性とは逆の)ジェンダーを身にまとうこと人たち。性自認・性役割は、時によって二つの性の間を振幅し、全時間的に見れば二元的であるが、トランス時には時限的ではあっても生物学的性とは逆の性に一致している場合が多い。ジェンダーの双方向の越境の繰り返しを容易にするために、一般に身体変容は伴わないことが多いが、他の面ではジェンダーの越境は総体的である。
トランスジェンダーの人たちが希望する性(ジェンダー)で社会的に通用すること。MTFで言えば、周囲から女性であると思われること。俗に言えば「ばれない」こと。
トランスジェンダーの人たちが、生得的な性から転換していることを周囲の人たちに気づかれてしまうこと。MTFで言えば、「女装した男性」あるいは「女性に性転換した男性」であると思われてしまうこと。俗に言えば「ばれてしまう」こと。
生得的な性別とは異なる性別(ジェンダー)で社会的に通用するようになった人、つまり社会からそのジェンダーに所属することが認められた人たち。社会的性別としてはMTFなら「女性」、FTMなら「男性」であるが、日本社会の法制度や行政システムの現状は、そうした人達がジェンダーの永続的な越境者として自らが望むジェンダーに完全に溶け込むことを妨げている。
パス(社会的に生物学的性と異なるジェンダーで通用すること)を希求しながらも果たせないTG、あるいはパスを断念したTG。パスを希求しながらも果たせないTGは、パスドTGからは「落伍者」的な視線でみられることもあり、パスを断念して「第三ジェンダー」に安住することにも耐えられず、一般社会からは「逸脱者」として風当たりが最も強く、精神的に非常に苦しい状況にある。
異性装(女装・男装)、身体的な性別とは逆の服装を身にまとうこと、またはそのような人たち。
性自認や社会的な性役割の転換を伴わない異性装、またそのような異性装をしばしばする人たち。原義は、服装(Vest)をトランスするということで、服装のみを身体的な性別とは逆のものに転換するようなジェンダー要素の越境が部分的な異性装をいう。
第3ジェンダー
社会的に男女どちらにも属さない存在。インドにおいて被差別待遇をうけながらも婚礼や誕生の儀式の場において重要な社会的役割を果たしていたヒジュラ(Hijra)やアメリカ・インディアン社会における異性装の「性の中間者」であるベルダージュ(Berdashe)、さらにはポリネシア地域にみられる「女写し」と呼ばれる人達など、男女の中間的な文化要素を身につけて、特有の社会的役割を果たしている人たちは世界各地にみられ、ジェンダーを男女に二分する考え方も相対的な文化的所産であることがわかる。また日本の前近代社会も決して単純な性二分社会ではなく、中世社会の「稚児」や江戸社会の歌舞伎の「女形」のような緩衝装置を備えていた。
「租界」 そかい
元々は中国にあった外国人居留地で中国政府に治安・裁判権がなかった特殊行政区域の意。転じて、東京新宿2・3丁目界隈、大阪梅田界隈のようにトランスジェンダーな人たちが、第3ジェンダー的に一定の社会的認知を得ている地域。
フルタイムのトランスジェンダーを希求し、かつ乳房の除去(FTMの場合)や内性器の除去や外性器の異性化形成など不可逆的な外科的手術(SRS)による身体変容の欲求が強い人たち。つまり外科的手術を必要とするほど自分の性器に対する違和感・嫌悪感を強く抱いている人たち。SRS(性別再判定手術)をまだ受けていない人をプレ・オペTS(preop.-TS)、既に受けた人をポスト・オペTS(postop.-TS)という。プレ・オペTSの場合、医療の側からのサポートを必要とする場合が多い。
性同一性障害(GID) gender identity disorder
日本精神神経学会の「性同一性障害に関する答申と提言」では「生物学的には完全に正常であり、しかも自分の肉体がどちらの性に所属しているかをはっきり認知していながら、その反面で、人格的には自分が別の性に属していると確信している状態」と定義している。性別違和感による精神的苦痛が強まり、つまり心の性と身体的な性との同一性が著しく損なわれる結果、精神的あるいは社会的な不適応が発生する危険があり、何らかの治療を必要とする状態。治療は、精神療法(カウンセリング)・ホルモン療法・手術療法(SRS)の順で適用される。
1997年5月に日本精神神経学会特別委員会(山内俊雄委員長)が作成し、同学会が承認した「性同一性障害に関する答申と提言」のこと。性同一性障害の定義、診断と治療のガイドラインを詳細に定める。精神療法(カウンセリング)・ホルモン療法・手術療法(SRS)という治療の手順と、ひとつの段階から次の段階へ移行に際しての判定基準を定める。さらに、性にまつわる問題について医学界の今後の取り組みについて提言をおこなっている。長期にわたって停滞していた日本にの性同一性障害治療を飛躍的に向上させた点で画期的な意味をもつ。
精神療法
性同一性障害の緩和を目的に行うカウンセリングを主体とする療法。性同一性障害の治療の第一段階として、十分な知識と経験を有する精神科医などにより、選択した性での生活を行わせながら、希望する性の選択の安定度をはかり、生活場面での困難を明らかにする目的で、原則として一年以上にわたって行われる。
ホルモン療法
生物学的男性に対して女性ホルモン(エストロゲン)を、生物学的女性に対して男性ホルモン(テストステロン)を投与して、身体の異性化をうながすことにより性同一性障害の緩和を目指す療法。精神療法(カウンセリング)の終了後、性同一性障害の治療の第2段階で行われる。エストロゲン投与の場合、生殖の能力の喪失(勃起不全・造精能力の顕著な低下)・乳房の成長・体脂肪の増加などが見られるが、声質や髭・体毛などは大きく変化しない。テストステロン投与の場合、生殖能力の喪失・筋肉の増加・声質の変化(低音化)・体毛の増加などが見られるが、乳房の大きさは変化しない。
性別再判定(指定)手術(SRS) sex reassignment surgery
マスコミなどで一般的に用いられている「性転換手術」のこと。「生まれついた性から別の性へ転換する」のではなく、「もともと誤った身体に閉じ込められていた状態を修正して、最初からそうであるべきであった性別に判定(指定)し直す」という意味。具体的には、内性器の除去と外性器の形成手術であり、性同一性障害の治療の一環である「手術療法」としてその最終段階で行われる。最近、GRS(gender reassignment surgery)と改称する動きもある。
母体保護法(旧優生保護法)
第28条に「何人も、この法律の規定による場合の外、故なく生殖を不能にすることを目的として手術又はレントゲン照射を行ってはならない」とあり、この条文が、日本においてSRS(性別再判定手術)は非合法であるという根拠にされてきた。しかし、最近では、性同一性障害の治療の場合は「故なく」に該当しない(故が有る)とする判断が主流になりつつある。
「ブルーボーイ」裁判
1970年11月11日、東京高等裁判所が、「性転換手術」を希望する3名の「男娼」(ブルーボーイ)の求めに応じて睾丸全摘出手術を行った産婦人科医師に対し、優生保護法第28条の規定に違反するものとして、麻薬取締法違反と併せて懲役2年、執行猶予3年、罰金40万円の有罪判決を下した裁判。これが先例となって日本においてはSRS(性別再判定手術)は非合法であるとの認識が医学界を中心に強く流布してしまい、性同一性障害治療の長期にわたる停滞を招いた。しかし、第1審の東京地方裁判所(1969年2月15日)は、優生保護法違反により有罪(罰金40万円のみ)としながらも、判決文の中で「性に関して肉体と精神が完全に分離し逆転している症状をもつ者」に対する治療行為としての「性転換手術」の意義を認め、治療行為を行う上での具体的な条件を定めている。つまり条件付きながら「性転換手術」の実施を司法が認めた判例とも受け止めることはできたはずであり、有罪判決だけが独り歩きしてしまったことはたいへん惜しまれる。
おかま
女装した男性に対する俗称。江戸時代の職業的女装者「陰間」を語源とするらしい。差別的なニュアンスを含むので、当事者が自嘲的、あるいは開き直り的に用いる以外は、用いないほうがよい。ちなみに、「おかま(お釜)」好きの女性を「おごげ」という。
おなべ
男装した女性に対する俗称。女装男性を「おかま(お釜)」と称することから、「お鍋」を連想して近年用いられるようになった言葉。「おかま」同様、差別的なニュアンスを含むので、当事者が自嘲的、あるいは開き直り的に用いる以外は、用いないほうがよい。
純女 じゅんめ
生得的な女性の身体をもっている人。トランス系社会における一般女性に対する俗称。元々は質の劣る人工繊維「スフ」と良質の天然繊維「純綿(じゅんめん)」の対比を、女装者と女性の関係にたとえたもの。いつしか「じゅんめん」→「じゅんめ」となり「純女」の字があてられるようになった。
純男 すみお
生得的な男性の身体をもっている人。トランス系社会における一般男性に対する俗称。生得的な女性の身体をもつ人を「純女」と称するのに対する言葉として用いられるようになった。
おこげ
女装した男性を好む生得的な女性に対する俗称。「おかま(お釜)」にくっついていることから、そう呼ばれるようになった。
she(彼女)とmale(男)の合成英語。外科的な豊胸手術などで女性化した乳房とペニスを兼ね備えた身体を誇示する人たち。
和製英語。男性と女性の中間的存在という意味。元々は1981年にデビューした松原留美子(MTFTGの女優・歌手)のキャッチコピー。現在では、女装した男性であること、あるいは「性転換」した元男性であることを特性のひとつとして、接客業(ホステス)・性風俗産業・ショービジネスなどに従事している人たちを指すようになった。
和製英語。男性のお嬢さん、という意味。元々は1989年のフジテレビ「笑っていいとも」のコーナーのキャッチコピー。実際的にはニューハーフと同じように用いられている。
和製英語。女性のお兄さん、という意味。ミスターレディに対する言葉として近年用いられるようになった。男装した女性であること、「性転換」した元女性であることを特性のひとつとして接客業(ホスト)やショービジネスなどに従事している人たちを指す。
ドラッグ・クィーン drag
queen
ドラッグ・キング drag king
ゲイ/レズビアンが、社会から要求される男らしさ/女らしさに抵抗するために、ジェンダー記号を極めて過剰に身につける扮装をし、一種の超ジェンダー状況を達成することにより、男女二分社会を風刺(カリカチャライズ)する人たち。「drag」の原義は「引きずる」であり、裾を引きずるほどの長大華麗な衣装を身にまとうことによる。また「queen」は女装者、「king」は男装者の意。欧米のドラッグ・クィーン/キングの中には、そうした性差を誇張した扮装で有名歌手・俳優の形態模写をするなど、芸能性や演劇性を有する人たちがいて、ショービジネスとして成立している。
5 クィア篇
元々は「おかま」「変態」「奇妙な」という意味合いの蔑称。近年のゲイ・リベレーションの中で、レズビアン/ゲイの人たちが、否定的なレッテルを逆手にとり、その「変態」性を肯定してゆこうという前向きな姿勢で用いられるようになった。日本では、伏見憲明らによってレズビアン/ゲイあるいはバイセクシャルに加えて、トランスジェンダーや異性愛の強制に異議を唱える異性愛者などを広く包括する用法が提案され、次第に定着しつつある。
『クィア・スタディーズ』
クィア・スタディーズ編集委員会(野口勝三・伏見憲明ら)の編集によるクィア運動の年鑑的な書物。論文・評論・書評・座談会・対談・エッセーなど多彩な内容で、現在までに『クィア・スタディーズ’96』『クィア・スタディーズ’97』の2冊が七つ森書館から刊行されている。
「性的自由権」
性的な選択の自由が保証される権利。具体的には次の3項目をいう。
| 日本精神神経学会 | 性同一性障害に関する特別委員会「性同一性障害に関する答申と提言」 |
| (1997年5月) | |
| 東 優子 | 「用語集」 |
| (公開シンポジウム「性同一性障害の過去・現在・未来」配布資料 1997年7月) | |
| Cross Sexual | 「用語集」 |
| (インターネットHP 1997年9月) | |
| い ず み | 「とらんすな てくにかるたーむ ひとこと解説集」 |
| (「いずみちゃんナイト2」 配布資料 1997年10月) |
| 大島博幸 | 『男と女はどう違うか −性・性別・性別社会−』 |
| (読売新聞社 1992年9月 1400円) | |
| 東京大学公開講座 | 『性差と文化』 |
| (東京大学出版会 1993年10月 2266円) | |
| 松本侑子 | 『性の美学』 |
| (角川書店 1996年3月 1200円) | |
| 池上千寿子 | 『アダムとイブのやぶにらみ』 |
| (はまの出版 1996年5月 1500円) | |
| 虎井まさ衛 | 『女から男になったワタシ』 |
| (青弓社 1996年4月 1800円) | |
| 伏見憲明 | 『〈性〉のミステリー−越境する心とからだ−』 |
| (講談社現代新書 1997年3月 659円) | |
| 松尾寿子 | 『トランスジェンダリズム 性別の彼岸』 |
| (世織書房 1997年4月 3400円) | |
| 小田切明徳・橋本秀雄 | 『インター・セクシャル(半陰陽者)の叫び』 |
| (かもがわ出版 1997年8月 1600円) | |
| 三橋 順子 | 「トランスジェンダー論 −文化人類学の視点から−」 |
| (『クィア・スタディズ’97』 七つ森書館 1997年10月 2600円) |