Pitts S-2C Bungee Cords交換作業
他の飛行機に比べ、PittsのLanding Gearはバネの効果が少ないように思えます。Oleo Strut (AirとOilの併用によって緩衝作用を得るもの) を使用している飛行機の場合はその作動が容易に分かりますが、大抵のPittsに装着されているBungee Cords式の場合はその動きがほとんど感じられないほど硬く、まるで自転車に乗っているかのようです。この方式の利点は、車輪の位置が地上でも飛行中もほとんど変わらないため、目測をきちんとしていれば接地の瞬間が手に取るように分かることでしょう。整備に関して言えば、緩衝装置自体が簡素なために整備がほとんど必要ないことは嬉しくなります。しかし、Bungee Cordsはそれがゴム紐の束であるため、時が経てば経年劣化によって張力を失い、3-5年も経つと伸びてしまいます。交換時期の近づいた飛行機は、機体の高さが下がってきて、また着陸装置が左右に開いてしまいます。訓練に使用しているPitts S-2Cも、飛行前点検をしているときに「ずいぶんと背が低くなったな」と分かるようになったので、ここでBungee Cordsを交換をすることになりました。
Landing Gear取り付け部。模様のようにも見えますが、Bungee Cordには色の付いた糸で、その製造年が分かるようになっています。
Maintenance Manualを見ると、Bungee Cordsは4年を限度にするように書かれています。この飛行機のBungee Cordsの場合はまだ4年は経っていないのですが、おそらく使用状況にもよると思います。腕のある操縦士が乗るのなら劣化も遅いでしょうが、この飛行機のように訓練に使われ、また私も含め数々の粗雑な着陸にさらされると痛みも早いのでしょう。もし、着陸の時に切れてしまったら、胴体着陸になるのかと聞かれることがありますが、金属製のCableが予備で取り付けられているので、万が一切れた時でも大抵の衝撃であればこれが支えてくれるはずです。
上側Engine Cowlを外し、飛行機を上から吊るします。それと同時にLanding GearをRachetで締めて閉じます。
さて作業開始。Bungee Cordsの張りをなくすために、飛行機をJack upさせて、両側のLanding Gearを内側に絞ります。飛行機をJack upをするのにどうするかと考え、今回はEngine上部の輪を使うことにしました。ここから飛行機を少しづつ持ち上げ、それに伴いRachetでLanding Gearの両側を締め付けます。PittsでのLanding Gearでの整備で困ることの一つに、指定されたJack Pointがないということです。いつもは胴体の適当な部分を使って持ち上げたりしますが、このEngine部分も意外に使えることが判明しました。
$3で買ったというナイフはなかなかの切れ味です。意外にも日本製でした。
機体を持ち上げて地面から浮かして、限界までLanding Gearを絞り込み、後は地上に降ろしても大丈夫です。古くなったBungee Cordsを切りますが、その前にどう取り付けられていたかを記録しておいて、それから切ることにします。簡単に見える作業でも、いざ行うと「これ、どう付いていたかな?」と迷うことが多くあるのです。切断には同僚の整備士が先日$3で買ってきたというナイフを使いました。のこぎりが必要なのではと思いましたが、意外にも柔らかく、あっという間に切ることができました。
左: Bungee Cordの切断面。まるで平たい麺のようなゴムが何本も入っています。
右: Bungee Cord取り付けに使う特殊工具。
外した後は、Landing Gear周りを検査します。普段はBungee Cordsに隠れて見えない部分もよく見えます。問題がないことを確認し、新しいBungee Cordsの取り付け開始。すべりを良くするためにTalcをまぶしておきます。おおよその取り付け位置にBungee Cordを乗せ、片側を機体側に掛け、もう片方をBungee Cord取り付けの特殊工具に掛けます。工具を締めていくに従い、Bungee Cordが伸びていき、もう片方の取り付け位置まで届くことができます。届いたらBungee Cordを力任せにLanding Gear側に押して、所定の位置まで滑らせます。これで一つ目が取り付け終了です。
左: Talcを塗って片方を機体側に掛けます。所定の位置に置き、締めていくうちにずれないよう、手で押さえます。
右: 二本目はその隙間にくるように取り付けます。確実に行うには二人が必要です。
二つ目のBungee Cordは、一つ目の隣に来るように置いて、同じ要領で行うだけです。取り付け後と取り付け前を見比べると、新しいBungee CordsはどうもきれいにLanding Gearに乗っていませんが、これは使用を繰り返していくうちに、きれいに揃うようです。初めは、「着陸の衝撃で外れたりしないだろうか?」と不安になりましたが、2-3日後にもう一度見ると所定の位置にきれいに乗っていて安心しました。これも多少のならしが必要なようでした。
作業を終えたPitts S-2C。以前の疲れたような雰囲気が消え、まるで若返ったように見えました。
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