さよなら S-2B 1
2006年5月21日日曜日
飛行機の着陸で、Flat Tire (パンク)になったらどうなるのか。CessnaのようなNose Gearの飛行機ならば何とか真直ぐに走ることも可能なようですが、Tail Wheelの飛行機だと想像するだけで大変そうです。特にPittsのような飛行機でMain Tireに問題が起きたら...考えただけでも恐ろしくなります。練習飛行の帰りにその現実に直面しました。結論として、PittsのFlat Tireはまだ直進が可能な範囲です。Wheel Landingを行おうとして100MPHで進入、最初の接地はPittsらしくない不思議な柔らかさを感じ、次の接地では前にのめりこむようになり、その後右に左に振られ落ち着きました。偶然前席に乗っていた相棒のAndrewは、「ひどいな、なんて着陸をしているんだ!」と思ったそうですが。私が思うに、Pittsの車輪は5 inch Wheelで小さめのために抵抗の増加が少なく、操縦不能に陥ることがなかったのでしょう。また、装着していたTireはGood Yearの高級品。剛性がとても高いので、空気が抜けてもその形状を保っていたと思います。気をつけることは、Flat Tireになったときにかなり前のめりになる、またRudderを踏みすぎないことでしょう。車輪の径が抵抗の大きさに繋がるとすると、CitabriaやDecathlonなどの6 inch Wheel採用している飛行機では、とても大変なことになると考えられます。この日は飛行機を壊さずに降りることができ、とてもよかったと思います。

左側Main TireがパンクしてしまったS-2B。原因はTire Tubeの切れでした。
2006年6月3日土曜日
快晴。2週間後にはPaso Robles空港での競技会があり、今日はそれに備えて練習飛行を行う計画です。飛行前点検を終え、練習する内容を見直し、Canopyを閉じます。時計を見れば午後2時。いつもと何ら変わることのない空ですが、何となく不思議な違和感を覚え、今回は準備に2時間以上も費やしていました。滑走路25Rを離陸して北の訓練空域に向かいます。
冬の間、私はSnap Rollの練習をしてきて、ようやく左と右のどちらも問題なく行えるようになってきました。気温の低い冬の間は気にはなりませんでしたが、外気温度が高い状況でSnap Rollを連続して行うと、高出力と低速度の組み合わせからOil Temperatureが高くなり、結果Oil Pressureが低くなってしまいます。特に曲技飛行の練習飛行中はいつも以上に気が抜けません。今日も手始めにSnap Rollを数回行いましたが、Oil Temperatureがすぐに200度Fを超え、Oil PressureもGreen Arcの下限近くまで下がってきました。使用しているEngine OilはAeroshell 15W-50。Multi GradeのこのEngine Oilは始動後すぐにOil Pressureが上がり、また低温度でもOil Pressureが高くなりすぎないことが嬉しいのですが、どうも高温度ではSigle GradeのSAE 50よりも粘度が下がってしまうような気がします。Oil Pressureの維持のため、夏の間だけはAeroshell W100などのSingle Gradeに変更をした方がいいかもしれません。

いつも訓練を行う、Antiochの南のRoddy Ranch Golf Course上空。
その北にある、東西に走るEmpire Mine Roadと、南側の草地は緊急時に使えるようです。
この辺りで通常のIntermediate Sequenceの練習を行います。Knownは無難に終えることができ、次はFreestyleの練習に入ります。若干低めのOil PressureのためOil Pressure Gaugeから目が離せません。特に、Positive GとNegative Gの切り替わる時の、一瞬Oil Pressureが下がる時は特に緊張します。6番のHalf Loopを行い背面飛行、Oil Pressureが20psiくらいまで落ちて、そしてすぐに60psiまで復活、ほっと一息。7番背面状態でのCompetition Turn、そして続く8番の2 of 4 Point RollとSnap Roll。水平になった直後にEngineの回転数が落ちていきました。音で推測するに約500回転の低下。「High Pitchになった?1Gがかかっているのに?」と思いましたが(このPitts S-2BのMT PropellerはCounter Weight方式を採用しているので、Oil Pressureが下がるとPropellerがHigh Pitchになって回転数が下がる)、見るとOil Pressure Gaugeは0psiを指していました。Engineが焼き付かないよう、Throttle Leverを絞り、速度を95MPHに。目の錯覚かと思い何度もOil Pressure Gaugeを見ますが、針は相変わらず飛行中にはあり得ない位置を指しています。視覚が異常事態を脳に伝え、心臓の鼓動が一瞬大きく打ちます。この練習飛行中、私は競技会の飛行に合わせるため高度を低めに飛んでいて、このSnap Rollを終えた時点で高度は2500ft AGL。一番近いByron空港へは9NM、Livermore空港までは15NM。この高度ではどちらの空港へも戻ることは不可能です。もっとも仮に5000ftで飛行をしていても、滑空性能が最悪の部類に入るPittsではどこの空港へもたどり着けないでしょうが。もし、最後までOil Pressureが復活しなかった場合は、真下の草地か東西に続く道路、どちらかに降りる覚悟をしておけば万全でしょう。

High Performanceの曲技飛行機に使用される、Inverted Oil System。
Engineを取り巻くように配管や部品が通っています。
さて、なぜOil Pressureがなくなってしまったのか。いくつかの可能性が私の頭の中に浮かびました。
1. Engine部品の破壊、Oil Drain Plugの脱落、または激しい運動でEngine Oilを失ってしまった。 CanopyにEngine Oilは付着しておらず、胴体下部の窓にもEngine Oilは見られない。飛行前には10qtsのEngine Oilがあり、Intermediate Categoryの20分程度の飛行で全てを失うとは考えにくい。経験上、Minimumの9qts以下の8qtsでも十分に潤滑する。
2. Oil Pressure Gaugeが故障した。 あり得る話ではあるが、それではEngine回転数の減少を説明できない。
3. Oil Pumpの故障。 可能性大。
4. Gravity Valveが背面飛行の状態などで引っかかってしまい、Oil Pressureがかからなくなってしまっている。 これも可能性大。
5. Oil Pressure Relief Valveが開いてしまい、Oil Pressureが下がってしまっている。 この可能性もあり。

通常飛行時(上)と背面飛行時(下)での、Engine Oilの流れを示しています。
注: この図は、Oil Suction Screenが縦に装備されているAerobatic Engineでの系統図です。
取りあえず、地面に着く前に何らかの行動は起こしておくべきでしょう。もし、Gravity Valveが背面飛行の状態で固着してしまったのであれば、強いLoad Factorをかければ元に戻るとも考えられます。速度が低いためあまりLoad Factorが得られませんが、3G程度のPush/Pullを繰り返してみます。しかし変化はなし。次はOil Pressure Relief Valveの可能性。もし異物を噛んでしまって開いてしまっているのならば、Throttleを吹かせばOilの流れで飛ばされるかもしれません。多少、2-3psiの上昇が見られますが、すぐに落ちてしまいます。やはり、Oil Pumpが故障したということなのでしょう。残念ながらこれ以上は手段がなく、Emergency Landingを決行します。いろいろと時間を費やしたため、すでに高度は2000ftを切っています。高度が低くなってしまう前に無線でMayday Callを行います。Livermore空港の118.1MHzに移すと、土曜日ということもあり忙しい交信がされていました。一瞬途切れたときをねらい送信しましたが、Towerからの返信は山の陰になっているためか途切れ途切れでした。仕方なく121.5MHzで交信をしますが、「ああ?お前は誰だ?どこで飛んでいるって?」という返事しかされず、あまり助けにはなりそうもありません。無線は諦めて着陸に専念することにします。今まで見たことがないような距離で丘が目の前を流れていきます。運のいいことに最初に見つけた草地は着陸が可能なようです。東西に走る道路は片側一車線の細い道で、両側には柵が立ち電柱も見え、とても前方視界の悪いPittsで下りられるような場所には見えません。それでも草地よりはいいだろうと、Engine Shutdownを行い最終進入に入ります。
さよならS-2B 2
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