英国首相トニー・ブレア閣下
ロンドン大学公衆衛生・熱帯医学大学院教職員・学生・同窓生一同およびMedact
2003年1月13日(月)
英国首相トニー・ブレア閣下への公開書簡 対イラク戦の公衆衛生上・人道的影響:暴力拡大危機回避にむけての要請
国際紛争と暴力の人道的影響についての3つの重要な報告書が先月発表されましたが、これらはいずれも国際的武力行使が健康に及ぼす短期的・長期的悪影響に
ついての証拠を提供しています。世界保健機関(World Health Organisation)のGlobal Report on Violenceは世界の保健科学者によって3年がかりで編集され
ました。『コラテラル・ダメージ ―イラクで戦争した場合の健康と環境の損失―』 はイギリスの
看護士や医師その他の医療専門家による組織Medactによる研究です。
また、もっとも新しい報告はケンブリッジ大学をベースとする反対イラク制裁キャンペーンCampaign Against Sanctions on Iraq (CASI)によって公表されたイラク戦の
「起こりうる人道のシナリオ」についての国連の報告です。
Medactによれば、もしも対イラク戦が実際に起こった場合「戦争中及びその後3ヶ月におけるの死亡者総数は48,000人から260,000人以上、イラク国内で内戦が起こった 場合さらに2万人、戦後の状況が健康に及ぼすマイナスの影響による死者は20万人に上ることも考えられる。いずれのシナリオにおいても犠牲者の大半は民間人となる」 ということが推定され、報告書はさらに「従来型」の戦争が起こった場合の結末として内戦、飢饉、伝染病、亡命者、難民、そして子供たちの健康と発育に対する大打撃 もありうる」と予測し、さらには国際的な紛争、不均等、対立の深刻化等が引き起こされるであろうと述べています。 国連による最新の報告書もまた戦争を直接的原因とする死傷者数10万人、間接的には40万人というWHOの推計に基づいて、「直接的・間接的傷害によって何らかの治療を 必要とすることになる人々の数は50万人にものぼるだろう」と著しくかつ広範囲にわたる人道的な影響を予想し、現時点においてすでに不足している医療品の場合、戦争 による需要の増加には「現在のストックでは追いつかず」「戦後も恐らくは一次医療システムがうまく機能しないために」事態はさらに深刻化するであろうと指摘してい ます。報告書はまた、イラク国内の約303万人の栄養状態がきわめて悪くなり、治療食が必要となるだるだろう(ユニセフの推計による)」と予想しています。最後に報 告書は「最終的にはおよそ90万人のイラク人避難民が援助を必要とし、そのうち10万人には緊急援助が必要となる(UNHCRの推計による)...約200万人が避難所を含む何ら かの援助を要することとなろう」と推定しています。現在イラクにいる13万人の難民については「UNHCRが初期段階から必要なだけの援助をすることは不可能だろう」と しています。 しかし、イラク内外における武力行使についてもっとも懸念されるのは、それが集団的暴力を拡大させる役割を果たすであろうということです。WHOは(国家や非政府 グループによる)「集団的暴力」を「自身をある集団の...それが一時的なものであれもっと恒久的なものであれ...一員と見なす人々が他の集団または数人の個人に対 して政治的、経済的、または社会的目的を果たすための手段としての暴力の行使」と定義づけています。そして、このような集団的武力行使が安定と社会の福利に長期的 にマイナスの影響を与えることを報告しています。国際的暴力は確実に増加しており、「20世紀において計7200万人の人々が戦争のために命を落とし、さらに520万人の 命が虐殺によって失われたと考えてよい」。集団的暴力が行使されれば暴力がより一般的で合法的な政治的・社会的行為となってしまい、紛争は激化してゆくのです。 戦争被害者の治療は世界中の医療専門家たちの懸念するところであり、私たちはこれを自らの責任として引き受けます。しかし、暴力の防止と紛争の平和的解決のため に声を上げることもまた私たちの責任です。ロンドン大学公衆衛生・熱帯医学大学院教職員と学生たちの出身地および勤務地は120余カ国を超えますが、これらの国々の 多くは紛争を抱えています。私たちがこれまでに得た経験と証拠はWHO、国連、そしてMeactの見解が真実であることを裏づけるものです。 私たちは戦争はイラクのみならず世界の国々に社会と公衆衛生に破壊的な短期的、中期的、長期的影響をもたらすことになると信じます。紛争の根本原因は不均等と不公 正な支配にあります。武装解除のための平和的な方法が数多く残されているにもかかわらずイラクに軍事介入することは集団的暴力を激化させる危険をおかすだけです。 WHOは戦争回避はより均等な発展と正当で道徳的な国際的管理によってのみ可能であると述べています。私たちはこの見解を強く支持するとともに、平和的性格と道徳性 を顕著にそなえた国際的・国内的管理によって さらなる暴力行為を防ぐことができると信じます。 以上の理由から、私たちはイラクへの軍事介入に反対しつづけます。私たちはこの書簡が政府と国民のレベルで確かな情報にもとづいた議論がなされるために資するも のであることを望むとともに、この声明によって政治的・宗教的立場ではなく道徳的・人道的根拠にもとづいて戦闘行為に反対するすべての人々を支えることができれば と思います。 敬具 翻訳:じゅん 署名はこちらからhttp://www.petitiononline.com/medact/petition.html |