実は世界大戦には続きがあった。
関係は悪化に悪化した。
しかもハザード状態の私の思考。

人はあまりに窮地に追い込まれた場合、
理解不能な行動に出る。
人はそれを「暴走」と呼ぶ。
土曜の夜、ガストの前などで
改造されたバイクに乗って蛇行運転をする集団があるが、
事情は違うがあれの心理に近い。
彼らもあれを通して、
自分をわかってもらいたいのだ。
自分の存在をアピールしているのだ。

自分の立場、能力、状況など無視し、
常軌を逸脱した行動を取るのだ。

無性に不安に駆られ、別に自分は悪くないのに何故か謝ろうと思った。
そしてエマージェンシー状態の私は、心に決めていた。

「告白しよう」

我ながら素晴らしい暴走である。
普通、きまくなったすぐ後に誰が告白するだろう。
私だ。

しかしテレホンカードの残度はもう切れている。
連絡を取る手段を失った私はあろうことか、
メールを送った。

「さっきはごめん。別に怒らせたくてあんなこといったんじゃないねん。」

その後数通のメールを送った。
後半になるにつれて、
内容が謝罪から告白へと変化していった。
残念ながらそのメールは削除してしまったので
詳しく思い出せないが、
つらつらと女がなびきそうな綺麗事を書いて、最後に
「もう一度やり直そう」とはっきり書いたのを覚えている。

しかし、返事が、無い。
わかる人にはわかってもらえるが、
これが一番イライラするのだ。

ネタを振ったのに、
ツッコミも笑いも起こらない。
完全に無視されている状態である。
自己嫌悪に陥りそうになる。

向こうには返事する気さえ無いのだ。
そしてどうにか連絡を取るため、返事をもらうため、
やめておけばよいものを最後にこう書いた。


「今日3分だけ俺にくれ。日本時間の午後10時に、電話かけて。それで、聞かせてくれ。」


約束の時間はドイツ時間の午後2時である。
彼女が電話をかけてくるかかけてこないかはわからない。
しかしかけてこなければ、それがそのまま答えになるだろう。
国際電話三分。
自分が好意を持つ男にだったらそれぐらい惜しくないだろう。
そう思い、私は不安に囲まれながらもようやく眠りについた。

午後1時半頃、私は目覚め、
早速メールのチェックをした。
すると一通のメールが届いていた。


「今○○ちゃんと遊んでるねん。帰ってからかけるわ。」


そっか。まぁもともとこっちの我が儘なことだし、
少しぐらい時間が遅くなったって問題ない。

少し緊張して待つ。
するとまた一通のメールが届いた。



「今日ちょっと遅くなる。今度かけたい。いつかけたらいい?」





正直へこんだ。
僕としてはこちらは昼なわけだし、
心に決めたからにはどうしても今日聞きたかった。
しかし、遅くなるから今度にするというのはどうなのだろう。
遅くなったとしても、好きなら構わず電話できるではないか。

その頃既に結果が見えていたにも関わらず、
私はメールを送った。

「今日が良いねん。今日電話して。別に何時になっても良いから。」



それに対する返事は無かった。

私が要求した時間は、たかが3分である。
忙しいのかもしれないが、3分である。
例えば、友達から電話がかかってきても
3分ぐらいかかることだってよくあるし、
今時、カップラーメンだって3分だ。

その3分を彼女は私に与えることができないのだ。
そう、私は彼女の中で3分以下の存在なのだ。
しかもこれで彼女がこう言い訳した場合もっと悲惨だ。

「忙しいし、明日仕事やから。」

睡眠時間を3分削られたところで何になろう。
しかも忙しい割に今友達と遊んでいるのである。
幸いそうは言われていないが、結果は同じである。

国際電話にせよ、
きっと彼女は好きな人になら料金うんぬん関係無くかけるに決まっている。
実際私がドイツに来て間もない頃、
彼女の方から電話をかけてきてくれたこともよくある。

それから何度か「なんで電話できへんの?」的な内容の暴走メールを送ったが
ことごとく無視された。

ドイツの寮の友達にその経緯を話すと、
「お前の元彼女、マジで阿婆擦れだな。いい加減、お前もそんな最悪な女忘れろよ。」
と言われた。

尤もである。

実際にその時友達といたのかどうかは定かではないが、
もし本当にそうなら、友達と一緒に私のメールを見て二人で笑っているか、
気持ち悪がっているだろう。
ひょっとしたら既に国際ストーカーということににされているかもしれない。

今回の件で彼女の中での、私の価値が明らかになった。
3分以下の暴走族である。

社長の徒然草メインへ
トップページへ